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『奥歯を抜く』の話。



 あれは、どれほど前のことだったろうかな。
 そんなとき、ブロガーは時間軸を遡ることができる。

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『奥歯を捻挫』の話。

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 九年前。

 自己引用による、まとめ。

「どうも、右上の最奥の歯で肉を噛むと、ずん、とくる。しかしこの痛みはなんだろうね……」

 そこからはじまって……

「口動かすたびに感じる気持ちの悪さに、指突っこんで、その奥歯を引っこ抜きたくなる。」

「うるせえよおまえの頭痛なんか知るかよおれの奥歯がなあっ、とおばちゃんの胸ぐら掴んで会社クビになってやろうかとなかば本気で夢想」

「鎮痛剤つかうと、もっと気持ち悪くなる気配がする。いまや、じんじんという感じを越えまくって脈動しているのです。奥歯の下からなにかが生まれそう」

 で、初見の歯医者に行ったら、キャラの強い女医さんで。

「ヨシノギさん、奥まで30本の歯が、びっしり生えているの。親知らずまで」

「もともと、下が2本少なかったから、親知らずがきれいに生えちゃったのね」

「あごの奥まで歯があるから、このまっすぐに生えた親知らずが、噛み合わせで、どうしても最初に上下で合わさるのね」

「ちから出すときに、ものすごい負荷が、この親知らずにかかっているの」

「細かいヒビが無数に入っているわ。拡大するとよくわかる」

「親知らず抜くのが、一番簡単な解決方法」

「もしくは、神経を抜くか。でも、ヨシノギさん、奥まで歯が生えそろっているから、そこ作業しようとすると、ものすごく大きな口開けてもらうことになっちゃうわ」

「仕事ならがんばっているわねと言うし、スポーツならよく練習しているのね、というところだけど、歯医者からすると、歯がかわいそうなことになっているの。毎日のようにヒビが入るほど噛みしめられて、もちろん、その下の歯茎やあごの骨にも、ものすごい荷重がかかっているのよ。それが、痛み出したのはおとといから? バーベルを上げたりしたのかしら」

 キーボードをいくつか割ったことがある。そういうタッチでモノを書く。書くための時間を作るために生活全般がおかしなことになる。ひとことで言えば。

 多くの病はストレスが原因。

 歯が痛むのも。

 あのときどうしたのかを、いま読み返したのは、先日、歯医者に行ってきたから。しかして今回は、どこも痛んではいなかった。飛び込みではなく予約を入れた。たんなる清掃のための歯医者の予約というのは時間に余裕のあるときにするもので。

 奇しくもなんともない。
 必然として、書き終えた直後だった。

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2月14日
・脱稿して決算のめどもつき、やっと正月、とダレてビール飲みながら恋愛映画をたくさん観た。ヒトって死ぬから同じことをくり返す。不死の吸血鬼が主役というのもあるけれど、作ってるヒトが死ぬからそういう価値観。岩が岩に恋するとかいう切り口で描けないものか。というあたりでよくわからなくなる。

twitter / Yoshinogi

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 優雅な気分。いつものことで年末からそこまでにかけてのストレス過多な生活が、あちこちの古傷を泣かせてはいたものの。口腔内は異常なし。

 予約を入れたのは、またも初めての歯医者さん。九年前から住むところが変わっているので、いくつかの歯医者を開拓しようと試すも、定住できず。今回は……というか、いつもなのですが、女医さん。わざわざ紹介文にスタッフもぜんいん女性だと記載されていたところをチョイス。もしかすると、だから女性が安心していい、というようなニュアンスなのかなと一抹の不安はありつつ、いいさ院内ぜんいん女性のうたい文句にふつうに釣られてきたノンケの男ですという威風堂々さをあえて醸し出しながら行く。

 オッサンも子供も待合室にはいたので安堵する。男が来たら、うち女性だけだって書いてるじゃない、なんなのこいつパンツでも脱ぎ出すんじゃないの、などと白い目で見られるようなことはないらしい。そりゃない。自意識過剰である。歯医者は歯医者。歯を見てもらうところ。

 着衣で見てもらう。

 で、なぜ気づかなかったのかと自分で思ったのだが。院長先生が、あの九年前の大先生よりも、若い女性なのですけれども。なんだかキャラがかぶっている。そういえば、あそこもスタッフまでぜんいん女性だった。性差について論じるというわけではなく、単純な話、自分が女性だということに輪をかけてスタッフも女性でそろえて、そのことを大々的にアピールした結果、前述のように、釣られる私のような男と、同時にもちろん女性層も釣っている。

 商売上手。性格判断的な書きかたをすると、野心家。

 行く前に気づいてしかるべき。楚々とした押しの弱い女性がふわんと出てくると思っていたわけではないが、思っている以上に押されてしまう覚悟はしてゆくべきだった。

 初診だったので、アンケートに記入した。最低限のことだけでなく、なにかあれば言ってください、という方向で返答した。

 そして初診で、まずはざっと掃除したあと。

「あのねヨシノギさん」

 レントゲンを撮りましょう、という。
 撮られた。

 見せられた。

 指さされた。

 右の上の奥歯。

「これ痛くない? 神経抜いたの?」

 思い出そうとしたが思い出せず、帰ってきて九年前に遡ったら、神経は抜いていない様子で会話した旨、ブロガーが書いている。そのブロガーは私。私の奥歯。神経は抜いていないようだが痛くもない。

「上も下も、きれいにならんでる。状態もいいし、半年にいっかい来てくれたらそれでいいくらいの感じ」

 そこで間を置いて。

「この右の上の奥が例外。見て」

 あごの奥の奥できれいに生えている。そのために鼻に近い。

「蓄膿症のケとかない? 鼻が詰まるとか」

 ない。言わんとするところが、わかる。
 九年前に聞いた。
 あれ、これ、たぶん私、ここに通うな、と思う。
 九年間、ほかで指摘されなかった。
 それはだって、見ればわかるから。

 九年前に私は、拒否した。

「削っても、またいつか痛むと思う。この先、歳をとってから、この歯がなにか悪さをする可能性はすごく高い」

 九年前に、かぶったキャラのずけずけ言う女医さんは、しかしこんなに強く私に勧めなかった。九年分、私が若かったからだろう。九年、老いたから。置いたから。これなんで置いてあるのと、ずけずけ訊いてくるひとにまた出逢う。

 痛むから、ヒビ割れていたから、下の歯と当たらないように大きく削った。それはつまり、モノを噛む歯として機能しないように処置した。だったらその歯は、いらない。同じことは、九年前も言われた。

「この奥の歯になにか起こってもいらない歯だからどうでもいいけど、この大きな親知らずに引っぱられている前の歯がかわいそうだし、こっちの歯に悪影響を及ぼすことを考えたら」

 親知らずを抜けばいい。
 なぜ削った。
 だって削ったら痛いのはなくなるってことだったし。
 実際、治ったし。
 でも、いらない歯が残っている。
 老人になってから、なにか起こした、いらない歯をどうにかするのはスゴく大変。死ぬまで、このいらない歯は飼っておくつもり?

 彼女たちは、可愛そうだとか飼っておくだとか、ヒトの歯をいっこの生命としてあつかっているようである。そのくせ、ヒトの歯だと思って、そういうことを言う。

 抜かない理由ってなに?

 痛いから?

 怖いから?

「抜きましょう」

 もはや疑問型でもない。

 はい。

 と、私は答えた。
 イヤですと言えない。
 言う理由がない。
 理由をつけるとしたら、それこそ怖いからだと説明するしかない。
 親知らずを抜歯する予約を入れた。

 どんな関係性においても。
 相性というものは、ある。

 そんな言いかたをされたら、またいつか奥歯が痛み出したとき、あのとき抜いておけばよかったと後悔する。抜きますよ、それもさっさと抜きますよ、なんならいまやってもらって大丈夫です。威風堂々と。

 はい、と答えた私に、はい、と彼女は返して笑った。

B07VL8B3Y9

 削ったせいでさらにみがきにくいかたちになった奥の奥の奥歯の裏を、デンタルタフトでていねいにみがき続けた九年のおこないも、きれいにしているけれどもっと早くに抜いてしまえばよかったのに、と一蹴された一日でした。


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