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『天王寺動物園入園無料日』の話。



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ドーナツの穴。

ない。

ということが、そこに在る。

西暦2019年、日本大阪府下の、どこにもゾウはいない。最後にいたのがここである。

いた。

だから、いまは、

いない。

ことを説明している。
この動物園の方針では、新しいゾウは買わない。めっちゃ食うから。エサ代がかかるから、動物を飼わないことにする。猫を飼おうかどうしようかという、家族会議のようだ。世話するからあぁ。と子供がゴネても、親に金の話をされては、返せる言葉はない。

大阪府民のなかにも、吠えているひとたちはいる。しかし動物園からは、金の話しか返ってこない。

現に、ここに。

ゾウはいません。

という看板の前に私。
ゾウがいないから動物園に行かない、というひとは少ないだろう。かといって、ゾウがいるから動物園へ行く、というひともいまや少なく。

ゾウがいない動物園は寂しい。

そんな地元の感傷は収益にならない。

『ジュラシック・パーク』を想う。
恐竜なら儲かる。

レオポン、という生きた獣を、私は兵庫県の動物園で見た。現在では倫理的に禁止された、造られた獣だった。新種を造るの禁止。収益に見あう、ありふれた種を多数陳列。いまの動物園の向かう先は、博物館なのかも。

「ここにこんなのがいました」

蘇らせるのは禁止なので、本物と見紛うばかりの、精巧なアニマロイドを展示。ゾウのロボは電気を食うので1/60スケールで製作しました。

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 事前に、つぶやく。

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・即位礼正殿の儀で天王寺動物園が無料だというから検索かけて、ゾウに続きコアラもいなくなったのだと知る。ヒョウもオウサマペンギンもいずれ去り、外国人観光客に向けて日本のキツネとタヌキを飼育するそうだ。という方針ならまず公式の園内紹介にいまだゾウもコアラも見られると書いてあるのは直そ?

twitter / Yoshinogi

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『天王寺動物園』公式

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 それでも行った。ゾウもコアラもいないのだが。つまりゾウもコアラもいなくたって来る客は来る。まあ、その日に行ったのはタダだったからではあるが、一歳のあいだに動物園に行くと特殊な免疫がつくという、まことしやかな嘘くさい育児情報にのっかって金を払ったこともある。

 嘘くさいことではあるが、成人してから白衣を着るようになって、日々、コンコンゴホゴホやっているひとたちと触れあうようになってから、あきらかに私は風邪をひきにくくなっている。という事実もあるので、薄く広く様々な病気のみなもとに近づいておくと、肉体の防御機構が鍛えられるというところはあるかもしれない。

 ヒトはなんにでも慣れる生き物。

 それも嘘くさい話ではあるけれど、インドでは、乳幼児のお食い初めから唐辛子が入っているとか。遺伝子ではなく鍛錬。慣れていかないと、インド生まれでも大人になって辛いカレーを食って寝こむなんて成長もありうる。

 という意味では、大人になってはじめてカバに遭ってその匂いで寝こむというケースだってないことはない気もするから、成長過程でカバに近づいておくことも、具体的になにがどうとは解明できないにしても、意味があるような気もする。ヒトでも動物でも、臭いやつはめっちゃ臭いし。まわりがいい匂いのヒトばかりな狭い世界で育つと、匂いが特別にスペシャルなものになりすぎて、寝こむかわりにフェチに振れて、ヒトではなくヒトの体臭に執着してしまうような大人にもなりかねない。

 そんなこんなで、令和がはじまるのとなにが関係あるのか不明ながら無料になっていた大阪天王寺動物園は、ベビーカーもいっぱい。シロクマの柵の前で、私も怒られた(ベビーカーの子がクマに近づけないでしょうという。まったく大人は下がりなさいよ、と大阪のヤンママは実際に口に出して言う。でも別にそこかしこでケンカが起こったりはしない。人混みがあればみんな滑舌よくぶつくさ言っている。大阪人の慣れである)。

 一方、息子はカバも見なければトラも見なかった。私が、いつも銀のトカゲの指輪をはめているので、お父さんはトカゲが好きなんでしょう、と爬虫類館には、つきあってくれた。

 行ったら行ったで、恐竜とゾイドにハマり中だから、ワニの骨格標本の前から動かなくなったりするものの。

 爬虫類館を出たら、もういい? せっかく偉いひとが祝えと開放した動物園に、まったく興味なし。乳幼児のときから、ふれあい動物園などに免疫つけに行った弊害といえるのか、彼は異常にヤギ嫌いだ。メエと鳴くから。ツノが生えているから。ツノの生えた動物型ロボットは大好きだが、生きているのはダメ。ヤギにエサをあげるために行列ができている開放された天王寺動物園の、その日の空気さえもが気に入らないらしい。

 いや確かに、天王寺動物園のヤギたちは、奇妙な感じではある。

 見た目の異様さで人だかりができていた長老ヤギ。

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(昨日のニュースで皇族のかたも、先述のワニの骨格標本に食いついたあと、ヤギの写真を撮ったと報じられていた。たぶんこのヤギだろう)

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『天王寺動物園』ニュース検索

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 展示はこんなふう。

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 ごくふつうのヤギを、遠くから。ところでこの写真を撮った私の背後では大工事がおこなわれていたのだが。それはゾウやコアラがいなくなったかわりに新しいゾーンを作る工事だった。

 里山ゾーン。

 日本固有のキツネやタヌキを魅せるという。しろうとでも容易に想像がつく、ゾウやコアラのようなエサ代がかからないという理由がまっさきにあっての選択のように思えるが、公式の発表によると、外国人観光客が見たがっているのは日本であって、だから里山なのだそうだ。

 そう。息子は天王寺動物園になんどか来たことがあって、慣れてしまって、それで動物園に身が入らない。ここを一歩出れば、目の前に通天閣。外国人だらけで、大阪のキッチュさを全開にした土産物屋が並び、スマートボールに興じる大人たちと、壁一面の得体の知れないガチャガチャ群。

 外国人が観に来るカオス。
 慣れた日本の子供にも人気。

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 そのうえ、通天閣を行きすぎれば、日本橋の電気屋街へと続く。私がいまこれを書いているパソコンは自作。そういうひとたちがふらふらと歩く街だったのが、いまではメイド喫茶と、外国人向け、日本の玩具を売る巨大おもちゃ屋街という側面を持つ。

 マザーボードに興味のない幼児も、見たことがないトランスフォーマーの超合金が並んでいたりするので、日本橋の大ファン。そっちに慣れたら、動物園など、トカゲも見たんだからもういいでしょうとなってしまうもの。

 ふとまわりを見ると、日本の、自分の足で興味があるほうに歩くようになったくらいの子供がたどる道を、よそから来た観光客もたどっていることに気づく。ビリケンさんのピンクのTシャツを着ていた肌の黒いひとは、たしか動物園でも遭ったのに、電気屋街で、また遭う。

 つまり、トカゲ見たからもういいでしょう、カバもトラも見なくていいよ、通天閣の地下で猿回し観て、日本橋行ってキティちゃん新幹線のプラレールまとめ買いする時間がなくなっちゃうやん、的な回遊を、彼らもしている。

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 まさにそれを後押しするエリアパスポートなるものが配られはじめた。

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Osaka South Gate Abeno and Tennoji PASSPORT

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 阿倍野、天王寺の二十七施設をまわろう! という割引券つき外国人観光客向けエリアガイド。

 二十七施設……むろん、日本一の超高層ビルあべのハルカス展望台などが含まれる。天王寺動物園も名を連ねてはいるが、こちらからして周遊してくれとうながすくらいだ。じっくり動物園で一日つぶそうなんて観光客は、まずいない。

 ゾウも、コアラも。

 いなくなるなんて! もどして! と叫んでいるのは地元民のそれもごく一部のひとたちだけ。ゾウがキツネになり、コアラがタヌキになって、この先はヒョウがイタチになって、オウサマペンギンはスズメにでもなるだろうか。

 ヤギの展示を想う。

 『スズメ』と看板に書いて、立てておくといい。柵のなかにエサをまいておけば、阿倍野と天王寺のスズメが、向こうから入ってくる。

「すごいねえ、あんな可愛らしい小鳥が、都会に棲んでいる」

 微笑ましく眺める観光客たち。
 入園料変わらず。

 ゾウやコアラがいたころと、入場者数は変わらないでいけそうな気もする。なんていう未来を想像すると、いやだからだったら動物園てのがそもそもさ。ガンダムとザクを戦わせたほうが、それ目当ての外国人が来るんじゃね。

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 なんてことになりはしないかと。なったらいけないのかというと、なにも困らないような気もするし、困らないけれど寂しいという、近所の少数の叫んでいるひとたちの気持ちが、ちょっとわかるような気もするようなという……

 は!? これか。まんまと令和のはじめに無料の動物園を無料だからさらっと通りすぎて、日本の未来予想などはじめてしまった。

 おめでとう令和。
 来たれ観光客。
 金をよこせ。
 ロボットと里山を魅せてやる。
 それが私たちの生きていく道。

 ここは日本です。
 伝えたいのは、それだけ。

 だったらそうね。
 ゾウもコアラも、いらないか。

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 頭はライオンでカラダはヒョウ。レオポンを造るのはもう許されないけれど、その種は動物園なくして生まれなかったのだと考えたら、動物園が在る意味は、あのころ確かに、そこにあったのだった。動物と人間の関係性を模索する施設。だとすれば「赤ん坊に免疫つけさせる施設」だとか「人間にカワイイと思われるアニマロイドを造る施設」なんていう方向性で深化していってもいいではないか。はじめてペットロボットに触れたのが天王寺動物園でさあ、気に入って買っちゃって、いまもいっしょにいるんだ。おおげさでなく、あたしの人生、あれなかったら違ってた。だってこの子を知らずに生きてたってことだよ? みたいな。

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