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『悪魔の双子とブラックホールダイヤモンド』のこと。

2019年11月14日16:10  未分類



「もうここに、蜥蜴はいないから」
 金星が言った。

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嬉野 君 『金星特急』

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 前回、徒然ていて、金星のことを想った。

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『ベビーパウダーの危険性』の話。

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 かつて広い海があったが、すべて蒸発し、多量の二酸化炭素と温室効果ガスに満ち満ちた結果、温暖化の果て、灼熱の惑星と化した。

 年々、暑くなっていつか、

「この調子だと正月には暑すぎて外歩けなくなるねえ」

 という落語が現実化しそうな地球の未来予想図ではない。

 金星。

 地球と同じ大きさの、たぶんむかしには水が豊富で、もしかするとちょっとした生き物、そこまで生物らしい生物だったかは定かではないにしても、トカゲくらいは、いてもおかしくはない惑星だったはずの金星。

 地球の悪魔の双子と呼ばれている。

 いや、いた。
 いま、こうなってみれば、その灼熱地獄の様相は、まぎれもなくこの惑星の未来。だとしたら家系図の悪なる異端ではなく、たんに早く生まれただけのお兄ちゃんだ。というか、金星がああなってしまったのは、地球よりも熱い太陽に近い位置に浮かんでいたからだという説が濃厚なので、棲んでいる動物風情がじゃんじゃか温室効果ガスでみずからの星を覆ったあげくの温暖化を招いているどっちが悪魔だという話である。

 金星にいちゃんは不幸だった。
 ぼくらは自業自得。

 そんななか、近ごろ各国が、あいついで金星探査計画を発表している。この先十年は、金星における新発見パレードになるというくらい、次々に船が行く。

 かの有名なアメリカ航空宇宙局にいたっては、すでに気温500度で地球における水深1000メートル相当の大気圧なうえ金属も溶かす毒が漂うとされる金星で、二ヶ月以上も動き続けられる探査ロボを開発済みだそうだ。

(そんな煉獄でどうやってコンピュータが耐えられるのか謎だが、開発者いわく、珪素で回路が組まれているという。珪素マイコン。謎は解明されないが、ともかくすでに完成しているのだ。地球の温暖化が極まっても想像もつかないテクノロジーによって人類はこの場所に生き続けられるのではないかという夢まで見てしまう)

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『珪素弁当』のこと。

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 月と火星に人類が行って、あわよくば棲もうというのは、もはや既定路線。その先の話として、移住ということを検討しはじめたとき、大きな問題がある。

 月は近いが狭い。火星は遠いうえにこれも狭い。

 どちらも地球の半分ほどの大きさである。そこでいくと、金星は双子。そして、太陽系における隣の惑星。

 皮算用的に発言してみれば、もしも金星のテラフォーミングが叶ったならば、地球二倍。それもただ土地が二倍の広さになるだけではなく、まったく手つかずの土地である。アダムとイブになりたくないかと問えば、移住希望者は山といるだろう。金星特急満員御礼。さっそくジャガイモを植えてセックスをしよう。きれいな土地さえあれば、人類はなんどでも繁殖する。

 というような想像をたのしんでいるうち、いくつかの単語が不穏に頭の隅でまたたくことに気づく。

 超高温。超高圧力。
 その惑星をヒトの棲めるように温度を下げて圧を抜いて……

 ダイヤモンド。

 いや、正確ではない。ダイヤモンドは、地球の奥深くで熱と圧力によって生まれるとはいえ、地球標準での話だ。宇宙標準は違う。

 地球で生まれる宝石類は、地球のマグマが生み出せる範囲で、それはルビーだ、それはエメラルドだと名がつけられているわけだが。

 灼熱圧の地獄の双子を、地球の歴史上ありえなかった人為的急速冷却テラフォーム。

 移住した人々が、洞窟を掘ろうと試みたら、ゴロゴロとキラキラした石が出てくるに違いない。地球に報告もするだろう。おっそろしく硬い透明な岩が邪魔で、開拓作業が遅々として……その報告に、気づく者は気づく。

「ダイヤモンドの……岩壁?」

 いやきっと地球のそれよりも透明度が高く結晶の揃った、どころか。きっと掘り進めれば、地球では誕生しえない高圧縮からの開放によるブラックホールじみてまわりの色彩を吸収する黒いダイヤだって出てくる。

 金星特急の乗務員に、現地人から石を回収してくるよう、金封をそっとわたす連中が現れるだろう。

 金星人にとっては、地球の貨幣も、どんなにきれいな宝石も、食べられないので意味がない。だが、ビスコ缶と硬くて透明だったりカラフルだったりする石を、なんども金星特急乗務員と交換する。

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 性善説を信じたいけれど、金星でのワイルドライフを選択したヒトのなかにも、そういうのはたぶん、いる。

「おいこらテメ、この石、地球に帰ってビスコ缶何個と交換する」

 冷めたとはいえ岩の惑星で子だくさんの世話をしながら穴を掘る新人類に、金星特急乗務員の締められる首は折れかける。

 ビスコ缶換算では天文学的数字になり、実のところ小指の先ほどのブラックホールダイヤモンド(という名称で地球では流通しはじめた)で、ビルが建つほどの価値があるのだと知る。

 知れたら、ビスコ缶と交換する金星人はいなくなる。

 地球へ帰還しない金星特急が現れる。

 囚われた金星特急乗務員からの通信。

「次の便でヒトではなく、金星にない物資を送れ」

 それに見あった金星宝石をわたすと確約。

 二倍の地球。二倍の資源。二倍の文明と、二倍の兵器と、二倍どころではない冷戦が幕を開ける。

 地球では生まれない宝石を満載する惑星へ、地球人は攻め込まずに、どれだけのあいだ耐えられるだろう。

 えーでもそれって、もとをただせば同じ地球人同士が、となりあった星で戦争をはじめるってこと? そんなバカな。なかよくして市場開放すれば、金星宝石も適正価格に落ちついて、金星のひとたちも豊かになって、だれもが幸せじゃない。そうしない理由がある?

 理由はよくわからないけど、地球でもみんな平等にしようっていうムーブメントはなんども起こったんだけど、反対するひとのほうが多いんだよね。まあ、だって、みんなが同じだけの宝石を持ってるなら、宝石はその時点で宝石とは呼べなくなるとも言えるし。となりのひとも持っている石を首に飾るなんて重いだけだし。



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