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『冷凍にんにくの芽カット500g』のこと。


 ひとりになった祖母が野菜を食べなくなって、買うと余るからと言うので冷凍食品だって野菜だと買ってきて冷凍庫に詰めたことを想い出すことがあるが。私は安いから使う。あれこれ買いたいものがネット上では見つけられても、通販で買うと冷凍ブツは送料がベラボウにかかってしまう。安くないなら買わない。

 たとえば、ニンニクの芽。
 こんな記事の写真に、ちらほら写り込んでいる。

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『ピザ六景』の話。

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 なにかというと使う。接客業なので、特に翌朝早い日などは、ニンニクを控える。代用としてのニンニクの芽。味はまったく違うものだけれど、栄養成分は当たり前だが同じ植物の部分なので似通っている。栄養というよりは、それでも好きなニンニクを食べるんだ私は翌日の仕事になんて支配されていないっ、という気分的な開放の意味あいも実は強い。

 数年前まで、業務スーパーブランドで、500gの冷凍カットニンニクの芽というのが売っていて、冷凍庫に欠かしたことがなかったのが、あるとき発売中止に。中国産で、他社のニンニクの芽から危うい水準のブツが検出されたという話もあったから、先手を打って店頭からなくしてしまったのかも。

 その後、ネット検索してみても、そういう冷凍ニンニクの芽のパックを製造しているメーカーさんがちらほらいらっしゃるのは確認できるし、冒頭で書いたように通販ならば見つけられるものの、実店舗での販売に出逢えず、やむなく生のニンニクの芽を手作業でカットして冷凍してストックするという日常に移行。

 しかしこれ、おかしな話で。近所のスーパーに行くと、バラ牛肉とニンニクの芽をタレで和えた、恐れ戦慄くほど安い味付け焼肉なんていうものが売っている。タレで和えないと売ることができない端切れの肉であったとしても、その安さは、どうやらパック表記のグラム数の三分の一ほどを占めているニンニクの芽が牛耳っているとしか思えず、だとすると同じスーパーの野菜売り場で売っている生のニンニクの芽を流用していては計算が合わない。

 都会に暮らしているので、近所に牛丼屋が何軒もある。某有名牛丼屋は、毎年夏になると、ニンニクの芽がてんこ盛りされた牛丼を売り出して、飛ぶように売れている。あんなのが生のニンニクの芽を仕入れているわけもない。

 かように、近所を散歩しただけで、安いスタミナ食の定番をうたってそこらじゅうでニンニクの芽と食肉を炒めたり煮たりしたものを売っていて、それらは価格的にも物量的にも、どう考えても冷凍カットニンニクの芽で、ということは日本中に膨大な量の冷凍ニンニクの芽が流通していることは確定的。

 そのニンニクの芽を、500gとか、1000gとか、まとまった量で定期的に買おうと申し出ている私が、数年にわたって、生のニンニクの芽を包丁でカットしているとはこれいかに。

 いかに、などと言っていてもどうなるわけでもないので、知らない店を見かけると、とりあえず冷凍野菜売場はチェックする。

 猛烈な暑さも、いよいよ去ったと確信できるような秋の休日。もうずいぶんとオートバイを走らせておらぬことよ、と気づいたときなど、グーグルマップを開いて、まだ行ったことのないスーパーマーケットの類を目的地に設定する。大阪在住で、往復一時間くらいまでならばニンニクの芽その他の冷凍ブツを定期購入のために通ってもいいと考えているから、探索する店は尽きようはずもない。

 今日も。まったく知らない土地に向かった。

 まったく知らない列車の通過する線路の高架下を抜ける道路を走った直後、ダバダバダバダバダバダ。

「あれ、この音……追いかけてくる」

 背後からダバダバダと音が聞こえる。変な音だ。アホなことに、アクセルをひねる。エンジンの回転数を上げるほうに。ダバダバダ! 音は大きくなるが、速度は落ちた。

「ひっ」

 と、なって、六速から二速に落とし、バックミラーを見て、近づいてくる後続車を先に行かせるべく端に寄って、時速二十キロほどで走りながら、振り返る。

 後輪が、ぺちゃんこであった。

 ダバダバダ、は、空気の抜けたゴムのかたまりを、後輪のホイールにまとわりつかせて走っているために発生する異音だった。アスファルトをゴムで無限にくり返し叩く。そりゃ聞いたことのない音である。

 私を入れて250kg以上はある車体が、新品のタイヤをぺちゃんこにしている。

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『ひとのタイヤ見てわがタイヤを交換する』の話。

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 二年前で、なにが新品か、と言われそうだが、新品の証にタイヤ表面のヒゲもまだ生えそろっている見た目。それくらい走っていない。モノとしては経年劣化以外の摩耗はない。それを我がホイールで切り裂くかのようにし走らざるをえない苦痛。

 チューブレスなんですけど?

 さっきの列車高架下の暗がりで、釘のようなものを踏んだとして。穴が開いても、分厚いゴムのチューブなしに、小さな穴。こんな、見る間にダバダバダ言いはじめるか? 自転車競技を題材にした小説を書いたことがあるので、エンジンバイクと同じ構造の自転車用チューブレスタイヤの資料などを読み込んだことがあるが、チューブレスの利点として、パンクしても空気がすぐに抜けたりはしない、という記述を読んだ。バイクのタイヤ、それも私のはアメリカンで、後輪だけ異様に太い。ゴムも自転車とは比べものにならないくらいに厚い。それなのに、これはいかに……

 いかに、などと言っていてもどうなるわけでもないので、見知らぬ町のバイク屋を検索するために停車しようとしたそのとき。

 彼と目があった。

 つなぎ姿だ。

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 シャッターの前に立っておられる。

 私を指さす。バイクを指さす。
 唇だけで、三文字を私に伝える。

「ぱ・ん・く」

 わかってますよ! ダバダバダ言ってんでしょ……ていうか、あれ、いや、もしかして。でもだとしたら、あまりにタイミングがよすぎる。あの薄暗い高架下で、なにか尖ったものを踏んだのだとしたら、因果関係を疑ってしまうくらいに。

 思いながらも、そのシャッター前に停車する。自分で言うのもなんだが、黒ずくめな男が凹みも傷もある黒い年代物の国産アメリカンで走っている。話しかけてくるひとはまずいないし、むしろ目をそらされる。好きでそういう風体で走ってはいるが、そんな自分にパンクしてるよ、とわざわざ声をかけてくれるヒトが敵であろうはずもないという地上の清廉さを期待する自分もいる。

「……お店、ですか」

 降りたシャッターの上に掲げられた文字列を見上げながら、私は言った。アルファベットで十三文字。なんの店かわからないが、その前に、つなぎのひとが立っていて、そのアルファベットの列から連想するのは、某バイクで有名な映画。

 いや、ここが仮にバイク関連のなにかの店だったとして、こんな道路脇で看板を掲げるなら、店名よりもまず、販売とか修理とか、電話番号などを書くべきではないか。言ってしまえば、もしもバイク屋なのだとしたら、その英単語もカタカナにしておかないと、原付の近所のおばちゃんなどが近づきがたいのではないか。

 そんないらぬお節介を思いつつ、そのひとを見る。

「おう」

 言って、シャッターを開ける。
 おう。

(まごうことなきバイク屋さんだ……)

 個人で所有しているはずもない多種多様な数十台のバイク。整備台が中央にあって、天井からはクレーン。ということであるならば、これが罠であっても言わずんば。

「今日は、お休みなのでしょうか」
「いや、なんちゅうか」

 あいまいである。ニュアンスを汲み取るに、休みではないがシャッターは閉めていたということか。いちげんさんおことわり? にしてもバイクの整備をガレージ内でするなら、シャッターは開けておかないと排ガスやらシンナー臭やら、充満してしまいそうだが。休みではないが作業もしていない? しかし、つなぎをお召しになられている。バイクに触らないときでもそういう格好のひとということなのか。

「バイク屋やけどなあ……カワサキの、こんなタイヤは置いてないわ」

 言葉をさがす私に向こうから話しかけてくれるやさしい。バイク屋なのか……でもカワサキどころか、どこの純正店であることもうかがわせるロゴはない。カスタムバイクなどのお店か? しかしてシャッター内に置いてある客からの預かりものらしきバイクのなかには、ビッグスクーターが多いものの、ごくごくノーマルな原付オートバイもあった。

「そうですか……すぐそこで、タイヤが逝ってしまって」
「釘でも踏んだんかい」

 と、近づいてきて身をかがめた彼が、怪訝な声を漏らす。

「これ、チューブレスやん」
「そうですけど」
「いやいや、ちょう見せてもらってええか」

 許可を求められた。バイク屋である。つまりそこには金銭の受け渡しが発生するが仕事に入ってもいいかということである。ちなみに私の車両保険にはレッカー移動が入っているので、無料でレッカー車を呼びつけることは可能。

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『私のバイクがレッカー移動されていく』のこと。

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 実際に呼んだこともあるので、知っている。めっちゃ待つし、バイクを持っていかれて運転手は立ち往生する。ヘルメットを提げて、さっきの高架の上を走っていた線路をたどって、最寄りの駅まで歩くのか。それとも彼に、頼るか。

「おねがいします」

 バイクを降りる。
 グローブとヘルメットを脱ぐ。
 キーを渡す。

 で、見てもらってすぐに、これが仕組まれた詐欺などではなく、単純な整備不良であることが発覚する。

「これ、前輪がスナップインで、後輪がクランプインバルブなんやけど。改造したんやなくて?」
「純正です」
「後輪が太いからか。カワサキおもろいなあ」

 ええ。カワサキ純正パーツを扱っているお店でも、ほぼすべてがお取り寄せになる。バイクごとにこだわる結果、変態的なことを平気でする。私の愛車は、ドラッグスタイルのアメリカンだけれどVツインエンジンでスポーティーに走れますという、おかしな謳い文句で売られていたいまは絶版のバイク。重心が低くて胴が長いから曲がれないアメリカンがスポーティーって。加速するけど曲がれない。実際、街なかで乗りやすいバイクではない。だがしかし変態的であるからこそ、そういうものに惚れてしまう私のような層がいる。

「こんなとこ、でもゆるまんよふつう」
「お恥ずかしい」
「タイヤ新しいやん。自分で?」
「いえ。お店で」
「せやったら、増し締め忘れたんかなあ」

 増し締めというのは、ネジを締めてから機械を動作させて、もういちどゆるみがないか見る工程。忘れたんかなあ、という表現が、そっと私のかかりつけバイクショップを非難してくださっている。だが、ヒゲも生える新品にしか見えないそのタイヤを交換してもらったのは、実のところ二年前だ。二年前に締めたネジがゆるいやないかいとカチ込んだら、私のほうが「自分で整備できないなら年に一回は点検受けてくださいよ」と怒られるだけだろう。

 クランプインバルブというのは、こういうの。

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 黒いゴムの部分で、タイヤホイールの内側と外側を挟んで、ナットで固定してある。それだけ。書いてみておそろしいことにそれだけ。

 つまりナットがゆるむと、空気が漏れる。

「こんな急激に抜けるものですか?」

 バルブがゆるんで空気が抜けたということは、締めれば直るということだけれど、私もナットを締める工具くらいはバイクに内蔵してあるが、直したところで空気を入れられなければ走れない。さすがにエアーポンプを収納するスペースはスポーティーを謳うバイクに存在しない。

 彼がここで、閉まったシャッターの前で通りがかった私を見つけてくれなければ、それこそレッカー待ちになるしかなかった。それを嫌がる私が、道路沿いに街のバイク屋を探して、二年経つにせよ新品同然のタイヤをズタボロにしてしまったかもしれない。

「せやけど穴もないしな」

 言いながら、石けん液をタイヤに塗りたくる。締め直したバルブのまわりは入念に。まるで泡は出ない。穴もなければ、ホイールとナットにも隙間はない。

 ただ、ゆるんだだけ。
 ゆるんだからダバダバダっと、空気が漏れた。
 ぜんぶ漏れた。
 たぶん、ちゃんと点検していたら気づくこと。
 恥ずかしい。

「ほんとうに助かりました」

 財布を出す。
 彼は、ちょっと考えて言った。

「じゃあ。千円」

 払った。帰ってきた。いま、タイヤ交換してもらった店に行こうか、いっそ点検に預けてしまおうかと考えながら、あばれるバイクを制御したせいで両腕が痛くて、緊張のせいか胃も痛むことに気づいたところ。

 次の休みにするか。
 ダバダバ音立てて走ったせいでタイヤのフチが破れたり、ホイールが歪んだということは充分に考えられる。数日で空気が抜けるかどうかも確認したいしな……

 ……そんなことがありました。

 怪談めいているのは、帰ってきて検索をかけても、そのバイク屋はまったくヒットしないということ。グーグルアースで確認すると、アルファベット十三文字の看板は見つけられたが、やはりシャッターは閉まっていて、どこにもバイク関連の表記やロゴもない。ただの民家のように表示されている。

 あまりにもタイミングよく現れた彼は、実在する人物だったのか。けれども私は、その彼に直してもらった愛車で家まで無事帰ることができたのだ。

 ニンニクの芽が売っているかどうか確認しに、見知らぬスーパーへ行くのは断念して帰ってきた。

 大阪界隈で、冷凍にんにくの芽カット500g、もしくはそれに類した商品を購入できる実店舗について情報をおもちのあなたさま。ちょろっとメッセージの一通も入れてくださったり、なんらかのご自身の媒体を使ってネット上にアップしてくださったりねがえませんでしょうか。検索しても通販情報しかヒットしなくなった世界。それでも現実世界でさえわかりにくい看板しかあげないそういうバイク屋や、ホームページを持たない私の妻の実家の花屋なども営業中。ネットで世界はつながったのでしょう? だったら教えて。こっちから買いに行くから。

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