最近の記事

スポンサードリンク

月別アーカイブ

『温泉卵のつくりかた』の話。



「ほかは、しってる」

 笑ってしまった。
 苦く。

「だったら、これは」
「にんじん」
「これは」
「だいこん?」
「ちょっとしょうゆをたらしたから色づいているのに、よくわかったな。これは」
「これもテスト? うっすら茶色い細いのをだいこんだってわかるのに、白ごはんをわからないなんてこと、あると思う?」

 いらだっている。
 おれの口調のせいに違いない。
 しかし、変えられない。

「また、わからないって言ったぞ」
「わかる、って言ったんです」
「そうじゃなくて。おまえのは、わからない、んじゃなくて、わすれている、んだ。そこをみとめないと、思い出すものも思い出せない」

 おれを見る。
 そらさないでいると、あきらめて視線を皿にもどした。
 なぜ、そうやってすぐあきらめる──

「ぼくは、これを食べたくない」

 奥歯を、意識して開放した。
 砕ける音でもすれば、さすがに怖がらせる。
 おれにいらだつ、こいつにおれがいらだっている。
 認めないと、もどる道がないのは、こっちも。

「おぼえていないのに」
「しらなくても、きもちわるいです」

 混乱する。
 おぼえていないから、いま嫌った?
 それとも。
 おぼえていないのに、知っている?

「それをきらいなのは、おれだ」

 また、こっちを見る。
 目を細めた。
 見えにくいものを、見ようとでも?
 そう、親しき仲にも努力は大事。

「ぼくも、きらい」
「なぜ」
「きもちわるいって、言ったでしょう」
「それは、たまごだ。おれは、かたく茹でたものしか食べない」
「たまご?」
「たまごを、わからないなんてことが、あるか」

 おれが茹であがっていない卵が食べられないのは、それがまさしく卵であるからだった。温泉卵なんてものは、殺しきれていない、やわらかい命そのものに思えてならない。こいつには、冗談めかして言ったことがあった。

 体液みたいなんだよ。

「たまごは……しってるって」

 細めたままの瞳を、やっぱりそらして。
 くびすじが、染まる。

 いやになる。
 おれをおぼえていないのに、おれの冗談はおぼえていて、それをこいつ自身の記憶と混同までしているのだとしたら。こいつの恥じらいは、おれに向けられたものなのか?

 もういい。
 最初から、やりなおせばいい。
 目をそらした、こいつの唇をうばって、くちゅくちゅと体液の交換でもすれば、もとにもどったわけではないにせよ、うまくいくという確信はある。

 半歩、踏み出しかけて。
 五十秒先の予知夢を見た。

「だめ。愛するひとがいる」

 つきとばされて、よろめいて、しりもちをつき、おれは言うべきかどうか迷う──

「それはおれだろう!?」


bibimbapoo01

Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 27
 『Fall ass alone hours 50 seconds later.』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 27曲目
 『五十秒後、ふたりの時間』)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

○材料

卵 3個

○作り方

 常温の卵を手鍋に入れて、完全に沈む量の水を入れ、いったん卵を取り出します。

(使うのはありふれた18cmの雪平鍋。それだと三分の二くらいのところまで水を入れることになるので、おおよそ1リッターというところでしょうか。少ないより多いほうがいい、というのは、実のところ私自身も小説同様、ゆるすぎる温泉卵が好きではないから)

B001BASSR0

 その水をぐらぐら煮立たせたら火を止め、すばやく卵をお玉で戻し、密閉しない程度の蓋をかぶせます。

(重ね重ねですが、私は茹で卵はハードボイルドを好み、温泉卵はべつものと割り切っても、やっぱり体液な感じなのはちょっと。というわけで、多くの手鍋で温泉卵を作るレシピではこういうとき蓋をするのは厳禁だと書かれるのですが……それはつまりお湯の温度が下がらなすぎて、白身がどろっどろしていないくらいまで火が通ったものになってしまうと失敗だとされるから。私にはそれこそが願ったりなので、蓋もします。じょじょに冷めていく程度のやつを)

 そのまま放置して、できあがり。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 我が家には電気ポットがなくて(正確にはあるけれど、まったく使っていなくて)、休みの日には、沸かしたお湯を卓上保温ポットに入れて使っている。

B013SI6ZYK

 そのとき沸かしたお湯の残りに卵を放り込んで、蓋をして、放置して、完全に冷めた昼下がりから夕方ごろ、その温泉卵を冷蔵庫に入れる(温泉マークを忘れず書いておこう)。

 その日のうちに消費することもあるし、数日後のこともある。お湯の量や季節の加減も適当だから、失敗なしとはいえない様々な感じにできあがるのだけれども。まあ、うちの場合、ほぼこの、ビビンバ的なものの上に割っていっしょにぐちゃって食べるかたちなので、生でないかぎりなにも失敗ではない(だから温泉マークは忘れず書こう。ゆいいつ失敗することがあるとすれば、作っておいた温泉卵と間違えて生卵を割るパターン。私は卵かけごはんも好きではない)。

 あれ、これ、ビビンバの具のレシピは? というかたもいるかもしれないので書いておくと、野菜も肉も炒めただけなのでレシピなんてものはない。もやしにはゴマを振り、肉とにんじんと大根には、少々の醤油はたらした。

 ただ、私の場合、コレなので。

bibimbapoo02

 豆板醤と、奥は、焼き肉のタレ。
 (皿の黒いせいで判別しにくいね。すまぬ)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『焼肉のタレ、手作り、レシピ、つくりかた』の話。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 自家製焼き肉のタレだが、最近は子供のを別に作るのが面倒になってきて、豆板醤含む唐辛子の類を抜きで作り、自分のだけにあとから足すことにしている。そのせいで辛みが加速度的に上昇し、焼き肉のタレで豆板醤に香りをつけるような割合になっている。

 そういうのを添えて、キムチも載せて喰うので、炒めた具に味はいらない。しょうゆとかナンプラーとか、ゴマ油とかオリーブオイルとか、そういう気分的な香りづけ程度で充分。

 で、まあ、この具も残ったら弁当に入れられてウスターソースを添えられたり、トマトソースのピザの上に載せられたり、タコスの具になってサルサだったり、手巻き寿司にされたり。そういう意味でも、国籍を感じさせない調理に留めておくと使い回しがしやすい。美人は三日で飽きるというじゃない。もとが濃いと似合うコスもかぎられてくるというじゃない。平らな顔族は、だれもに愛される可能性を秘めているというじゃない。

 ところで、そういう事情から、残ったら別の味つけで使うために残る量作った具を混ぜたくないために、私はそれぞれを小鉢に入れてテーブルに並べ、白ごはんと、ときには豆腐なども置き、温泉卵も鉢に入れ。

 ビビンバの起源で、諸説あるどれもが共通するのは、ひとつの皿にまとめること。それこそがビビンバという名の意味でもあるそうなので、具を炒めるたびに皿が増えている私の作法は、その名で呼んではいけない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy

26曲目『穴は穴。ドーナツの一部ではない。』
25曲目『具のないピッツァの電源を切り……』
24曲目『姫始め葷縛り』
23曲目『また逢ってタコス』
22曲目『彼は彼のそれを彼と呼ぶべきではなかった。』
21曲目『形状と呼応』
20曲目『轢かれ鉄のサイジ』
19曲目『黒い彼が焼いたぼくのための白いパン』
18曲目『となりの部屋』
17曲目『ヴィアール遭遇』
16曲目『アネ化けロースカツ』
15曲目『逆想アドミタンス』
14曲目『恋なすび寿司』
13曲目『バーベキュー厳峻鋼』
12曲目『茄子はダシの夢をみるか?』
11曲目『すっぱくても、平気。』
10曲目『踏み絵ムルギティッカ』
9曲目『ひとくちだけカトルカール』
8曲目『春節の静かな賞品』
7曲目『ナンを焼くと両手がつかえない。』
6曲目『タマレってなに?』
5曲目『あらいぐまのすきなもの。』
4曲目『ピッツァみたいにぼくを食べてよ!!』
3曲目『クリスピー・プロ・フライドチキン』
2曲目『青くてカタいアボカドのパスタ』
1曲目『春餅/チュンピン』


TRACKBACK http://yoshinogi.blog42.fc2.com/tb.php/799-2a535d47