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『もしも三千大千全宇宙世界がプロレスならば』の話。



 2019年新日本プロレスG1クライマックス日本武道館三連戦を、いま観終わったところ。

 とりあえず、ちょっと前の記事にリンクを貼りたくなったので貼る。

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『ラリアートとキス』の話。

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 自己引用。

「メジャーデビューは果たしているけれど、まだインディの香りただよう推しているアイドルの晴れ舞台」

 だから、プロレスを知らないけれど、そのアイドルがプロレスに絡むということで会場を訪れたひとたちが多いと感じた、某団体の両国国技館大会について書いたのだった。

 その大会ではBiSだったし、たとえばもう少し前の全日本プロレスに、ももいろクローバーZが参戦したときなど、彼女たちがインディのときから追っていた私はプロレスファンの側からの視点もあって二倍、胸に来るものがあった。

 飯伏幸太も。

 なんだかものすごく長いこと、あースゴいところに来ちゃったねえ、と、いろいろな団体のいろいろな興行に出ているのを見ては、うれしくなっていたのだけれど、それというのは私のなかで、やっぱり「インディから観ている飯伏幸太がメジャーのあのリングで暴れてる」という感慨だった。

 その彼が、日本の最大団体である新日本プロレスの所属になって、歴史ある真夏の祭典を制して、バックルームで仕事中のインタビュアーに乾杯しましょうとビールを配りながら、持ちネタになった「ジンジャーエール飲みましょう」(よくわからないが彼は瓶ビールをかたくなにジンジャーエールだと言うことで仕事中の他人にも自分にも飲んでもいいものだとカメラが回っている前で主張したがる癖がある)と言って自分だけが飲み、そう続けた。

「プロレスには可能性があるんです」

 世界で興行を打つ日本最大の団体のトップに立って、過去のひとたちがよく言ったこと。

 おれについてこい。おれがこの団体をおもしろくしてやるから。

 実際、リング上では飯伏も言っていた。

 新日本プロレスをもっと大きくしましょう。

 外からやって来て最近やっと所属になったばかりのぼくが言うことじゃないけれど、今日はトップに立ったのだから言う権利があると思うので、ということを照れまじりに継ぎながらではあったが。

 しかし、足を引きずりながら、ビールをあおって、むせて、記者たちを睨め回しながら、言ったのは。

 ぼくが、でもなく、新日本を、でもなく。

 プロレス界を、だった。
 ヒーローが宇宙の平和を真顔で語るみたいだった。

 控えめに書くが、私は号泣していた。
 実際は大号泣ということだし、その私の頭によぎった、新日本は変わる、プロレスにはまだまだ可能性があるんです、それを魅せてもっと多くの人にプロレスを観てもらいたい、という飯伏の言葉で連想できたものは、どうしたってラリアートにキスを返して試合を成り立たせた、あの光景だったし、なんだったらジョッキでビールをあおりながら肛門に花火を刺して爆発させていたり空気人形とまぐわったりしていた、あの日のことだったりした。

 トランプ大統領がアメリカ最大のプロレス団体に参戦していたのを、私は観ていた。いま彼は、あのときのキャラのままで、本気でノーベル平和賞を狙っていたりする。

 善かれ悪しかれ、それもいわば、プロレスというリングの拡張された世界線での出来事。いや、大統領に関しては、同系列のプロレス団体のドウェイン・ジョンソンことロック様が出演すれば興行収入を上塗りする映画ができあがるハリウッドの国で、シャレにならないプロレスファン層の意向が作用していることは容易に想像がつく。

 飯伏幸太の目が、ガチで言っていた。
 なんだってプロレスでどうにかなる。

 全日本プロレスの祖、ジャイアント馬場が、プロレスのリングの上でおこなわれることはすべてプロレスだ、と言ったが、プロレスというリングの拡張された世界線がこの地上や宇宙までもをすでに覆っているのだとしたら。もしくは、覆うことができるのだとしたら。

 たったいま観た大会でも親友を裏切って泣かせた男がいたが、私はそれを見つめて握りこぶしを固めて、その男の別の意味での親友が「新日本に埋もれるな」と彼に言っていたのを思い出していた。G1クライマックスに参戦しながら飯伏幸太に優勝を持っていかれたどころか不甲斐ない結果でもあった彼が、親友を蹴って泣かせるというパフォーマンスで、一転、飯伏同様、あしたからの新日本プロレスの集客を支える存在であり続けることになった。

 みんな、ひどい男だと怒っているけれど、でもまあプロレスの真骨頂。それができるからKENTAはスーパースターなのである。新日本プロレスの真夏の祭典の決勝戦で、リング上の飯伏幸太に絡む裏切り者KENTAを観て、私はプロレスリングNOAHの丸藤直道を想い、うらはらにプロレスって素晴らしいと世界が覆われていく感覚を得る。

 関心を得るためには魅せなくてはならないし、心を惹きつければ通じあうことだってできる。人類みな兄弟などと言うと、兄弟だって仲良いばかりじゃないだろうということになるけれど、もしも三千大千全宇宙世界がプロレスならば。

 親友に裏切られたから泣く側の心情もあれば、親友だから泣かせておれがここに居られる理由付けになってくれという甘えもあったり。命をかけてはいけないが、命をかける意気込みは技にやどると美しいし。心もカラダも鍛えていなければ、脱いだだけですぐわかるから、やるしかないんだし。

 飯伏幸太が、立てなくなるまで戦ったジェイ・ホワイトについて訊かれて。

「一回ヤっただけでは、わからない」

 と答えたのは、象徴的だ。現時点でふたりともが使える駒をすべて出し切って、そのうえでもうなんどか絡んだところで、やっと見えてくるのはたぶん、その相手と、どういうプロレス世界を構築できる可能性があるか、なのだと思う。単純な話、一回ヤったら、裏でぶちぶち陰湿なことを言ってくるような相手とはプロレスが成り立たない、という飯伏のナーバスさでもある気がする。インディでやって来て、まわりは、ガチの裏切りと金の亡者であふれているなか、二年参戦すれば一生暮らせるというファイトマネーを提示した新団体のオファーも蹴って、子供のころから観ていた日本のメジャー団体のトップ選手になった。

 彼が、やりたいことをやれると信じて、やりたいことをやったら、そこには笑顔しかないと知っている。ただ、そういう飯伏幸太のプロレス幸福感が、インディ時代に培われたものであるのが明白なのは、無神論者な私でも考えさせられるところではある。

 飯伏幸太少年は、中学卒業時に新日本プロレスの入団テストを受けようとしたが、親に止められてやめている。それでもプロレス愛を持ち続けた挙げ句の果てに、両国国技館でアナルにキスをするプロレスにまで至る。

 至っていなかったら。反対した父親もプロレス好きではあるから、推していたら高校へ行かずヤングライオンという道もあり得たろうし、でもそうしていたら、正統派なトップレスラーにはなったのかもしれないが、今夜の私の流した涙は違うものだったはず。

 それにきっと飯伏幸太も、中学卒業と同時からの新日本レスラーだったらなら、G1を制覇したうえで、まだまだプロレスには可能性があるのです、などと言ったりはしなかった……できなかったのではないか。

 1ミリ違っていたら、今夜、世界で観ているだれもが、違うものを受けとっていた。そう考えると、ビールをジンジャーエールだと言い張って「うれしいですっ」を連呼する飯伏幸太というレスラーを思い出して、私がまだ泣き笑っているなんていうのは奇跡だ。

 奇跡、はマレなことでなくて、全宇宙世界のすべてが奇跡。それを奇跡だと感じられて、奇跡を見たとはしゃげる瞬間に出逢えることこそが、真に奇跡。

 好きは奇跡。間違いない。

B01N2XXSGO

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