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『想い出のドーナツ』の話。




 こわいものはない?
 訊かれて、答えてしまった。

「あなたが無限であったらと」

 あなたが有限なのがこわい。
 消えてしまってはいやです。
 ふれているけれども伝わってはいない気がして。
 そう言いたかったのに、口から出た言葉が、あのひとを無限にしてしまう。

「いかないで」

 無限なあのひとのひとりを掴まえて膝に抱く。
 これでは無限でなく無数だ。
 ぼくはいつも物事をうまく言葉にできない。しかしこぼれてしまった言葉は現実になってもどせない。口を閉ざせばいいのに、それでもぼくは、いつだって口をすべらせる。無限になったせいなのか、あのひとに似たそれは小さく、とてもあばれて。あなたと呼ぶのはおかしい気がして、きみと呼んだ。

「きみ。すきなものはある?」

 きみが、おまえだと答えてくれるかもと、思わなかったと言えば嘘になるが、無限になったあのひとの一部は、あのひとのやっぱりそのままに自分のことばかりを、すなおに口にした。

「どうなつ」

 ドーナツ?
 あのひとと、そんなものを食べた記憶がなかった。
 けれど、きみがそれを好きだと言うならば、あのひとだってそうなのだろう。知らないあのひとのいたことに泣くと、きみは、おとなしくなった。
 そういうものだ。
 あのひとに振り回されているようでいて、あのひとはいつもぼくの心の揺らぎを映し出していた。無限になれどもそれは変わらなくて、ぼくの腕のなかで静かになる、きみに映ったぼくの静けさを、ぼくは知る。

「どんなドーナツが好きなの」
「あなあいてる」

 愛してる、と聞き間違えようとした。聞き間違えてはいないまま、きみを抱く腕の力を強くした。

「ドーナツは、みんなそうだよ」

 いや、そうだろうか。
 ドーナツはぜんぶドーナツだというのは、これもまたぼくの言葉が言いあらわし損ねているだけのことではないか。穴の虚いていないドーナツもあるし、ドーナツに似ていないドーナツだってある……そう考えて、似ていないドーナツをドーナツと認めれば、なんでもドーナツになると気づいてしまったので、ぼくはぼくの知る、もっともまっとうなド-ナツを作って、きみと食べた。

「そういうことだったんです」

 ぼくは、まだ食べ続けてもぞもぞ動く腕のなかのきみを強く抱き続けながら、あのひとに言う。

「ぼくは、あなたを抱いているようなものなのですから」

 だからまったくぜんぜん。
 こわいものなどないのです、と。

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Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 26
 『Hole is Hole. not Hole of Donut.』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 26曲目
 『穴は穴。ドーナツの一部ではない。』)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

○材料

強力粉 200g
ベーキングパウダー 5g
砂糖 30g
塩 少々
無塩バター 30g
卵 一個
バニラエッセンス 適宜

○作り方

こねて、

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のばして、型抜きして、

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揚げる。

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 薄力粉でもよし。薄力粉と強力粉を混ぜてもよし。砂糖はだいぶ少ない。倍量入っているレシピも散見されます。私は息子にねだられて揚げたので、つきあって自分も食べるので砂糖を減らし、息子にはメープルシロップを与えました。どぼどぼかけて食べていた。

 写り込んでいる息子の手が豚足のようですが、保育園で先生に指の力が弱いですね鍛えてと言われたので、筋トレの一環として生地をこねさせてみると、握れというのにすぐ指を丸めてふにゃふにゃ押してしまう。オールドファッション調ドーナツの生地は牛乳や水が入らずに硬いものですが、それにしたってこねようという気概が感じられぬ。なげかわしい。エジソンの箸というやつで好んで食事していたのだけれども。

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 握力向上のためにはフォークを握らせてなんでもガスガス突き立てる食事のほうがいいらしいです。パンチだエルボーだ言う前に体幹だスクワット1000回! みたいなものですねと強く納得する。小分けした肉を焼いて食うアジアの焼肉文化が華咲いたのも、実は箸文化のおかげでは。意外に細かい焼肉の作業も箸だと疲れない。あれをナイフとフォークでやれと言われたら疲労困憊する。そうしてあちらのバーベキュー文化は、串刺して食うだの骨付きを手で持って、などと豪快なことになっていったのではないかしらん。

 肉の話になってしまった。
 ドーナツにもどす。

 母と、幼い頃に、よく作ったが。家にドーナツの抜き型なんていうものはなかった。

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 代用品は、ステンレスの計量カップと、ウイスキー瓶のキャップだった。その組みあわせが、ちょうどよく市販のドーナツよりもひとまわり小さいお子様サイズにできあがる。

 計量カップには、液体を注ぐための口があって、それでドーナツを抜くと、小鬼の角みたいなのができて、私はよろこんだ。作ったドーナツの味は、あれほどしょっちゅう作って食べていたのにまったくおぼえていない。ただ、型抜きしたときには確かにあった計量カップの小鬼の角が、いつも揚げたらなくなっていたことをおぼえている。生地のデコボコに埋もれてしまうだけのことなのだけれど。私は、小さな突起を、こんどこそ見つけるために、またドーナツを揚げてと頼むほどだった。

 凝視した、茶色いドーナツの表面を強く記憶する。

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 これはフッ素加工アルミホイルで輪っかを作って焼いたホットケーキのドーナツ。ただの穴なのだけれど、覗きたくなるし、覗くと笑みが消えて神妙な面持ちになってしまったりする。合わせ鏡の無限の鏡像の奥に、見たくないのに見たくてたまらないものが見えるようで目をこらしてしまうように。

 ドーナツの穴は、ただの穴だと言いわけしたくなる時点で、なにかある。

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Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy

25曲目『具のないピッツァの電源を切り……』
24曲目『姫始め葷縛り』
23曲目『また逢ってタコス』
22曲目『彼は彼のそれを彼と呼ぶべきではなかった。』
21曲目『形状と呼応』
20曲目『轢かれ鉄のサイジ』
19曲目『黒い彼が焼いたぼくのための白いパン』
18曲目『となりの部屋』
17曲目『ヴィアール遭遇』
16曲目『アネ化けロースカツ』
15曲目『逆想アドミタンス』
14曲目『恋なすび寿司』
13曲目『バーベキュー厳峻鋼』
12曲目『茄子はダシの夢をみるか?』
11曲目『すっぱくても、平気。』
10曲目『踏み絵ムルギティッカ』
9曲目『ひとくちだけカトルカール』
8曲目『春節の静かな賞品』
7曲目『ナンを焼くと両手がつかえない。』
6曲目『タマレってなに?』
5曲目『あらいぐまのすきなもの。』
4曲目『ピッツァみたいにぼくを食べてよ!!』
3曲目『クリスピー・プロ・フライドチキン』
2曲目『青くてカタいアボカドのパスタ』
1曲目『春餅/チュンピン』

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