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『2018年06月18日午前07時58分、大阪』のこと。



 大阪在住です。
 地震でした。
 一週間程度は同程度の揺れに警戒ということで、高いところから落ちてきたものや大皿酒瓶の類は床に下ろしたまま生活していたのですけれども、そろそろ恐さよりも邪魔さが勝ってきてもとの場所にもどしつつ、これを書いているようなところ。

 写真を使うと身バレてしまうので載せませんが、電車に乗っていて線路に降りて駅まで歩いて運賃を払って外に出て、歩いて帰ってきたという状況でした。ええ、いつもの路線ならば定期券なのに、その日は別の場所に出勤だった。月イチであるかないかの朝八時くらいの満員電車に乗らざるをえない日で、その日に揺らされるという。

 郊外型の店を主戦場としているので、ふだんは通勤ラッシュと逆方向。そういうことで満員電車に耐性がないため後方車両の弱冷車に乗っていた。いくらか混雑がゆるいのです。それに、おかしな話に聞こえますが、弱冷車に乗っている男性は良い匂いがする。ガンガンにクーラー効いた車両でこそ、発酵臭がしているのに自身の汗になんの対策もしていないおっちゃんが吊革を握っていたりする。

 そういう乗客層のせいでしょうか。

 がたこーん!
 もっかいがたこーん!!

 となったあげく電車が止まったときにも、その車両には悲鳴をあげる女性もいなければ、舌打ちをする男性もいなかった。私は絞った音量でバンもんを聴いていた。

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 カナルイヤホンの奥、私の鼓膜前では『結構なお点前で』が、たゆたうようにかかっていた。万が一にも音漏れしない音量なので、遠く遠くで少女は教えてよわびさびと歌っている。

 緊急停止しました、というアナウンスはイヤホンを取らないでも聞こえている。風の強い日で、外の道路標識が揺れていた。いま思えば、風に加えて地面が揺れていたのだけれど。

 そう、電車に乗っていた私は。たぶん、私のまわりにいたひとたちも、地震だと思えなかった。置き石かなにかだと思った。脱線した、と感じた。死ぬかもな、と思った。思いながらも『結構なお点前で』を聴き続けていたので、私はきっと実際にいつか逝くときになっても、馴染みの本を読みながらとか、映画を観ながらとか、『Halo』は対戦ゲームなので相手に迷惑がかかるからやめておきたいが、バンもんを聴きながらとかで、あーあ、と諦めるのだろうと知る。死をシミュレートするくらいに、揺れた。いや揺れたというか、二度ほどの突き上げる衝撃として認知していた。

 ポケットのなかで携帯が震えた。
 Skypeの着信だった。ひとから請われる頻度は昨今圧倒的にLINEだが、私の側で選べるものならば古くからのユーザーなのでSkypeでつながっておきたい。結果、つながっているのはほぼ外人と家族。このタイミングでSkypeが入るということは、間違いなく家族だ。

 そうだった。
 モノが割れたりはしたけれどひとはみんな無事というメッセージだった。

 返信を書いた。

「地震なのか?」

 それではじめて、地震なのだと理解する。怖い。それは置き石よりも怖い。電車の車輪に線路のレールが食い込んでいる厚みなんてたかが知れている。さっきみたいに上下に揺れたら、きっと脱線している。

 やがて、その通りのアナウンスが流れた。

 脱線を確認しています。
 これにはしばらくかかります。

 文句をいうひとも、ため息を吐くひともいなかった。弱冷車だからだろうか。満員なのに。さいわいと言おうか、私は立っていたが背中は壁で、三方にはいずれも良い匂いのするおっさんだったから、三十分経ち一時間経ち、もぞっと動いて手が当たったりしても会釈で済んだ。密着しているのが女性だったら、倍は気をつかったし疲労困憊しただろう。

 実際、一時間が過ぎたあたりで、先頭車両のドアが開放されたこと、駅はすぐ近くにあり、そこでは水が出ていてトイレを使えること、がアナウンスされると、しだいに先頭車両へ向かうひとの流れができたが、私の体勢は変わらなかった。男ばっかりゾーンでは、まだまだ気持ち的には余裕があったのだ。メジャーデビューアルバムが終わってしまい、インディー時代の名盤を再生しはじめていた。

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 私自身のは試してみなかったが、まわりの状況を見るに電話はつながらないようだった。みんなLINEだ。Skypeでの会話も滞ることはない。スゴいぞインターネット。おかげで(妻が休みで家にいたから)、自宅でもグラスが割れるくらいには揺れたことを知り、ということは書斎のタワーPCも倒れた可能性があるなと知ってしまい、苦悩せざるをえなくなる。

 ケースが新品なのだ。触れただけですべるくらい、まだ置き場所に馴染んでいないのだ。

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『BTOを選択する』のこと。

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 データは自由の国インターネット網に随時アップしてあるから心配ないが、ハードなくして書きかけの原稿は進められない。買ったばかりなのにまたPC買い換えとか凹むなあ……と、どんよりする。生きていたから、どんよりできるのだ。そう、その時点で二時間に達しようとする缶詰状態。今日の出勤はないな、という諦めに達し、いかに自宅へ帰るかを考えはじめていた。

 そして、事態が動く二時間すぎ。

 脱線の確認から、線路の確認、全線の確認と推移してゆき、これにはまだしばらくの時間がかかる模様ですと伝聞アナウンスがなされていた、それが。

「少なくとも数時間かかります」

 になり、またしばらくして。

「復旧のめどは立っておりません」

 言い切った……

 それでも動かないまわりのおっさんたち。あくまでこの電車が動くまでいるつもりか。ごめんよ私は帰るよ。耳の奥では『ショコラ・ラブ』が流れている。ふだん白衣を着て仕事をしているので、あなたの白衣をチョコで汚したいというその曲は聴くたびに現実に割り込んでくるサイケデリックなイメージを想起させるのだけれど、さすがに先頭車両に向かって歩きはじめたとき、イヤホンを耳から抜いた。

 現実に帰ろう。
 列車を降りて、トイレへ行こう。
 ぼくは生きている。

 ホームにたどり着いても、やっぱり電話は通じなかった。通じないと通じたとき実は私の勤務先が超絶ブラックで「地震なんか知るか来い」という可能性もあるからホームで小一時間ほど座っていた。なんどめかのトライで、ようやくつながる。帰ってよし。そりゃ当然。処理上は有給休暇にしておきますとまで言われる。こんな休暇があるか。この時点で、六時起きで出て昼前なのだ。数時間弱冷車(電車が止まったあとは冷房が強めになった気がした。寒いと文句を言われることくらい熱中症で乗客が倒れることに比べれば、という判断なのだろうか)で着衣おっさん密着タイムをすごす有給。ホームで起きる混乱を警戒してか、改札の外でお待ちくださいという放送が流れているのに、改札へ行ったら閉まっていた。冒頭で書いたが、目的地に着いていないのに精算しないと出られない設定。理不尽な。

 出てみれば、ひとの流れがふたつ。
 いや、正確には、みっつ。
 動いていない流れがまず目についた。来てもいないバスやタクシーを待つ列である。呼びつけた知人の車を待っているひともいるようだ。しかしどう見ても道路の車列自体が動いていない。あとのふたつはもちろん、上りと下りのそれぞれに、歩き出すひとの群れ。

 ざっと計算する。
 地図では帰るまで十キロ強も歩けばいい。
 自宅からちょうど一キロほどのところにディスカウントスーパーがあって、よく行くのだが。歩いていくと、行って帰って三十分くらい。買い物時間を抜くと、十分一キロというあたりか。だとすると十キロ歩くには、百分。休憩を入れて、一時間半も歩けば届く。

 来もしないタクシーを待つより、たぶん早い。

 震源地を確認していないが、自宅の被害のほうがこっちよりも軽いようだから、近づくにつれて道路も空いて動いているかもしれない。

 梅雨とはいえ日差しが強烈だが、なんと今日は会議室をなんどか抜けてトイレで悪態を吐きながら顔を洗うことを繰り返すことになるだろうと経験上予測して、ふかふか吸水性抜群タオルを持って来ていた。首に巻いたら、うなじが日焼けして今夜枕が痛くて眠れないなんてことにはならないだろう。

 というわけで歩き出す。

 その後のツイート。

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Jun 18, 2018

・ ふだん乗らない満員電車で二時間缶詰になりホームに出て一時間、復旧のめどは立たずタクシーもつかまらないので十キロほど歩きと動きはじめたバスで帰ってきた昼下がり大阪。モニタ歪んでいるし外付け床に落ちていたがPC起動したよかった。ガスが止まっているが昨日の残り湯で汗も流せた。無事です。

・ 湯船の水、十キロ歩きで浸かってしまったから飲めないし、もういちど溜めなおしてくる。さっきまた揺れた。

twitter / Yoshinogi

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 その後の一週間で、数十回の余震。
 思えば、二十世紀末の阪神・淡路大震災のとき、早朝の揺れはじめで目が醒めて頭上に手をのばして生き延びた。あのとき眠ったままだったならば、眠る頭上に自分で設置したオーディオセットで頭蓋骨を割られて逝っていた。いまでは、落ちてきたら死ぬようなものが頭上に見えるところでは眠れない(そのせいで寝室と子供が入る部屋以外の壁は追いやられた本で埋まっているから起きているときに揺れればそれはそれで危険なのだが……眠りながら気づかず頭を割られて逝くのだけはイヤだ)。

 これはもう完全に人生の一部だ。
 揺れるところに棲んでいる。
 ここに生き続けるなら、またある。
 寝ているかも、列車に乗っているかも。
 今日かも明日かも。

 心底怖がるなら、揺れない場所というのは地上にはあるが、そういうところへこの国から移住すると、まったく揺れることを想定していない耐震性能皆無な街の作りに、かえって眠れなくなるかもしれない。隕石や核実験で地面が揺れることは地上のどこでもありうるのだし。

 怖がるのも大切だが。
 あらがえないところもある。
 そこそこ備えて、死ぬまで生きているあいだは、享楽にわれを忘れる時間が多くていいのではなかろうか。たまに乗った満員列車で見知らぬおっさんと圧死だミンチだがありえた世界線だと思ったら、わがままにむさぼって生きるんだと決意を新たにせざるをえない六月十八日の望まない有給休暇だった。

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