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『浮力無常』の話。




FerrySunflower

大きな船。
船だ!
と彼に言うも、
どれ?
あれだよ。
あれ、船。
大きすぎて、知識上の船と合致しないらしい。
動いていないし。
そう思って見ると、大きな鉄のかたまりたる、飛行機が空に浮くのは、膨大な燃料による推進力で、ちからわざであるがゆえに、かえって得心がいくが。大きな鉄のかたまりたる、あんな船が静かにただ浮かぶ。
巨大な建物に見えなくもない。
浮かんでいる、と言われても、お風呂のアヒルチャンみたいに、揺れてもいないし。
浮力とは。
モノが押しのけた水のぶん、上に押し上げられるチカラ。
つまり、大きいほど浮く。
あの船の底には水溜まりがある。
底を重くしておかないと、浮きすぎて転覆する。
ヒトや荷物が乗ったら、そのぶん水を吐き出して、いい感じに半分沈む。外からは見えない、その機構なくして船は静止しない。
彼の感じる違和感は正しいのだ。
本来、あの見た目だと、鉄のかたまりは横倒しになり、浮力のバランスが崩れて沈む。
あれ、船。
その光景に違和感をおぼえない。
私はしかし。
船のメカニズムを知らないでも、違和感を感じないだろう。
知らないことで世界は回っている。
そうなるからそうなる。
ゾウの背中に地球が乗っていても、別に生活には困らない。
電車が走るのはコビトの魔法かも。
それでも困らない。
むしろ知りたくない。
大きな船。
浮かぶから浮かぶ。
それが船。
生きるから生きている。
根本的にそれだけ。
驚嘆すべき巨大船に、彼はあまり興味を示さなかった。
動いていないし。
きみの人生にいまのところ、なんの作用もしない存在だし。
仕方ない。
知らないことをぜんぶ知る。
そんな時間は人生にはないもんな。

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 きみの人生にというか、私の人生にも浮力がどういうチカラであるかなどということが実際的に作用したことは、思い返しても見当たらない。

 泳ぐのは得意だ。物心ついたころには、背泳ぎというか、仰向けになって水に浮かぶことはできていた。水のなかで目を開けるのを怖いと思ったこともないし、そこそこ鈍感な子供だったことの良い面である。

 だから、泳げない子が「どうして重い人間が水に浮かぶのかわからない」と泣くのを、不思議な思いで見ていた。だってヒトは泳げるし。みんな浮くのにオレだけ浮かないってほうが気持ち悪い。という気持ちと同時に「なぜ浮かぶのかわからない」から本当にその子は水に浮かばないのだということが、おもしろくもあった。

 巨大な鉄の船が、どうして水にぷかぷか浮くのか、わかったような顔でいるが正確には説明できない。いや、公式で根拠を示せと言われればそれはできるけれど、それは単に風船屋さんがゴム風船にどれだけのヘリウムガスを注入すれば20キロの子供を吊して飛ばして成層圏まで上昇させうるかを数値計算できるのと同じことで、現象としてヘリウムガスがなぜ子供を吊して空に飛ばすことができるのかを説明できているとはいえない。

 熱気球は、わかりやすい。

 神社で、お札を焼く焚き火に当たったことがある。お札が焼け、白い灰となって、空へとふわふわ舞い上がっていた。火によって熱せられた空気が上昇する気流に乗ってのことだ。エアコンのルーバーが暖房だと下を向く理由だ。かきまわしてやらないと、暖かい空気は上へ溜まって寝ている床が冷たい空気の層のなかということになる。

 熱気球は開放型の風船で、バーナーで風船のなかの空気を熱すると膨張する。風船は下方向に開放されているので、膨張してあふれた空気が逃げていく。外も空気でなかも空気なのに、なかのほうが体積が小さくなるわけで、それすなわち軽いということ。空気よりも軽いのだから、空気に囲まれている環境では、浮力が生じて浮かぶ。

 と、いうことを考えていると、頭がこんがらかってくる。

 まず、水のなか、海底に、強靱な風船をワームホールを通して突如として出現させてみる。アルキメデスの原理により、突如現れた風船の体積が海の水を押し退けただけの浮力が生じ、風船は水圧から逃れるために海面へと向かう。猛スピードになるだろう。高速で浮上する強靱な風船である。

 やがて海面に到達する。そのころには、さしもの強靱な風船も、水圧から解放されたことによって超巨大に膨らんでいる。鉄でできた潜水艦ならば水面で浮力と釣りあって浮かんで終わるが、ぷっくぷくに膨らんだ風船は、空気よりも軽くなって、水面から浮かび上がるかもしれない。なにせワームホールが使えるので、風船の中身をより軽いものに充填しなおすことだってできる。風船の浮上が止まる理由はない。水面を離れ、ヘリウムガスの詰まった風船のごとくに、なおも風船は上昇を続けることにしよう。

 実際、宇宙を撮影するためにカメラをつけた風船を飛ばすという試みは何度もされていて、その結果では、ゴム風船は成層圏で粉々になる。

 だが私の風船はとても強靱なので粉々にならない。という状態のままで成層圏に達するとどうなるのか。引力と浮力が釣りあえば、風船はそこでとどまるはずだ。大気圏と宇宙空間のあいだで、浮かび続ける強靱な風船である。

 引力とは、モノとモノが引っぱりあうチカラ。地球から脱出できないのは、風船の引っぱるチカラが地球のそれに比べて小さいから。だったらハンディキャップマッチにすればいい。風船を宇宙方向に引っぱるデカい惑星あたりをワームホールで出現させる。タッグマッチだ。風船&デカい惑星の引力が、地球のそれに勝れば、地球の支配圏から逃れて風船はなおも上昇することになる。

 ……と書いてみて。
 上昇?
 『エンダーのゲーム』の名台詞。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして、敵のゲートは下だった。
 エンダーはにやりとし、そしてさとった。

4150106444

オースン・スコット・カード
『エンダーのゲーム』
(『無伴奏ソナタ』収録短編版)

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『エンダーのゲーム』の話。

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 敵は地球の固定観念で、こっちが前にいると思っているが、こっちはやつらを下に見ている。宇宙では、上も下もない。それに気づき、宇宙の法則で戦える者が勝利するのである。

 地球の支配圏を離れたデカい惑星と強靱な風船のタッグにとって、地球を下に見る理由はもうない。ふたりは、なにかに引かれていく。どこかの、より大きな引力に。そうでなければ、宇宙は絶えず静止したままのはずだが、星々は動き続け、デブリは漂い続けている。デカい惑星と強靱な風船も、最寄りの強引力に向かって動く。もう上昇ではない。右も左もなく、ただただ高速移動する。

 引力の先は、きっと惑星だろう。火星か、太陽かも。太陽ならデカい惑星が燃え尽きることもあるが、火星のような岩の星になら、激突するだろう。こっぱみじん。そしてこっぱみじんの破片たちが、それぞれ次なる引力に引かれて暴走しはじめる。

 地球の引力に引かれてもどってくるものもあるかもしれない。なにしろ、太陽系というのは、太陽のまわりをぐるぐるっている星々の集まりなのだから。ぐるっとまわって、地球に再最接近したとき、ミサイルの速さで破片たちが降り注ぐこともあろう。

 地球もこっぱみじんだ。

 と、そんなようなことを、眠れず天井を見つめながら思うとき、私の横たわっている、この地球が、いまも太陽のまわりをまわっていることが、厭になる。

 静止しているなら気持ちがいい。
 水面に浮かぶ鉄の船だ。
 どうであれ、浮かんでいる。
 それを納得できるような気がする。

 しかし、上昇し続けるとか、まわり続けるとか。
 狂気の沙汰ではないか。私が海底に強靱な風船を出現させただけで宇宙、少なくとも太陽系の一角が壊滅する。一角が壊滅した太陽系はバランスが崩れてすべて崩壊するはずだし、太陽系が崩壊すれば、ほかの銀河のバランスだって崩れて宇宙総崩れにならないとおかしい。

 いま、崩壊していないのはなぜだ。
 小惑星ごとき、そこらをぶんぶん飛んでいる。
 ブラックホールなどという奇天烈なものも実在するらしい。
 そんな宇宙が、バランスをたもって動き続けながら存続するなんて、ふつうに考えて、おかしい。

 眠れるわけがない。
 
 すべてを納得するだけの時間は人生にはない。
 それはだれだってそうなので。
 たんに解明されないだけで、宇宙がバランスをたもって存続している明確な答えというものは、あるはずだ。

 あるのだが、私は知りえない。
 だから眠るしかない。
 まわっている星のうえで、上昇もせず、こっぱみじんにもならないので、それをああありがたいことですね運がいいんですねと納得して生涯を終えるしかない。

 無常だ。

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