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『ひとのタイヤ見てわがタイヤを交換する』の話。




・転んで乗る機会が減ったから、なおのことヒビ割れたタイヤを履き替えずいたが、MotoGPフランス、ル・マン決勝。最終周ですべって転んだバレンティーノ・ロッシを観てタイヤ交換を決意する。あの生き神をして転ぶのだ。たまに乗るやつがすべるタイヤを履き続けるなんて、死にに行くのと同じだ。

twitter / Yoshinogi

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 バレンティーノ・ロッシが、どれくらいの生きた伝説かというと、昨年の『MotoGP16』というゲームのパッケージを見ればわかる。

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 『MotoGP16 : Valentino Rossi The GAME』である。

 2015年版は『MotoGP15』
 今年は『MotoGP17』で、副題はない。

 なぜ、昨年だけ『バレンティーノ・ロッシ ザ・ゲーム』などというタイトルになっているかといえば、バレンティーノ・ロッシのデビュー二十周年だったからだ。どうせバイクレースのゲームを買う層は限られているのになぜ? いや、そこがである。ロッシは四輪にも乗る。F1のテストを受けてシューマッハにコメントさせ、ラリーのレースにも出て話題を振りまいた。バイクレースの絶対王者でありながら、あっちやらこっちやらでニュースになるひとなのである。

 冷静に考えれば、他のスポーツならともかく、オートバイ。選手はヘルメットをかぶっていて、しかもテレビゲームなのだから後ろ姿で、マシンを操縦するのはプレイヤー自身。バイクレース同様に毎年出るプロレスゲームのように、選手に花道入場シーンやトップロープからの決め技があるわけではない。ヘルメットの中身を推されても、それがどうした。と、なりそうなところを「ロッシ!? んじゃ買う!!」と冷静さをなくさせるだけのものを、持っているからこその生き神。誇張でなく、彼が、この二十年で増やしたモータースポーツファンの数は、ものすごいはずだ。

 そのひとが、二十周年を越えて、今年もぶっちぎっていた。二十年も勝ち続けているとなると、観ているほうも安心感さえ抱く。最近は、MotoGPの下のクラス、Moto2や3で日本人が多数活躍しているので、テレビ中継もこの国ではそちらが盛り上がり気味である。一時間弱で終わるレース。Moto2(排気量600cc)やMoto3(排気量250cc)は、私自身が乗っているサイズのバイクでもあるので、そのトップ争いに日本人がいるとなれば感情移入もしやすくて、二レース二時間ほどを観たあとではじまるMotoGP(排気量1000cc)のレースは、ああ大きいねえ速いねえスゴいねえ、という風景のようになってしまうときがある。

 その日のレースはそうだった。

 Moto3も2も大盛り上がり。雨降り続く週だったのに決勝は天気も良くて、会場はお祭りムード高まっている。そんななか、さあGPクラススタート。抜きつ抜かれつの好レース。しかし終盤になっても、バレンティーノ・ロッシが三位だった。

 とはいえ、ここが安心感である。
 ロッシなら最終周で抜くし。最後の最後にまくるために、あえて後方から狙ってプレッシャーかけているのさ若造どもに。という缶ビール片手の観客勢。もちろん私もだ。

 果たして、残り六周という終盤に入ったところで、ロッシは二位に浮上。トップをがっつんがっつん後ろから小突く走りで、ついに残り三周というところで、隙を突いた加速でトップに立つ。ほらな。ロッシだよ、いつもの。

 そのまま、最終周になった。

 ロッシが逃げ切るのだろうなあ、と、だれもが思っていたし、本人も思っていたのかも知れない。あのロッシに、油断とか、ないとは思うが、まさかの最終ラップでのドラマ。あきらかに、ロッシがミスをした。コースを取り損なって、わずかな隙間が……

 二位の選手が、その隙間を、するんと抜けていったのだ。一周二分かからない最終周に入ってからのロッシ二位転落。焦ったのだろう。生き神といえども。生き神であるがゆえにか。残りの数十秒で、トップに返り咲こうとした天才の走りは、ふわふわとしていた。あれ、あのロッシが、と缶ビールを口に運ぶのも忘れて観客が魅入るなか、最後の最後、コーナーでバレンティーノ・ロッシが転倒。大クラッシュではない。つるんとすべったようになって、静かにコースの外まで流れていった。

 テレビ画面には、大泣きしはじめるフランスの幼児が映っていた。二十年である。両親がモータースポーツを観始めたときからトップ選手だったロッシが、生まれたときから教会に通うかわりにル・マンのレース場へ通っているロッシファンの子供の前で、まさかの転倒。

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rossi crash 2017 - Google 検索

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 結局、ロッシはマシンが動かなくなってコースにもどれずリタイアした。アナウンサーが「こんなロッシ見たことないですね」と言ったのは、転んだ事実を指してのことではなくて、転んでリタイアした事実を受け止めきれず、呆然としているロッシの姿のことだった。

 抜かれても、無理をしなければ二位で、年間通じての点数争いであるグランプリレースのなかでは、さほど痛い敗北ではない。しかしトップ選手が一レースでもリタイアになってしまうというのは、痛恨の出来事だ。それも、あきらかに焦ってスベった。

 そう、スベった。
 その日、天気はピーカンで、アスファルトは四十とか五十度とかいう焼肉ができるレベルで、レーサーたちはドライ用のタイヤを履いていた。カラカラの路面を、ネチャネチャとタイヤのゴムを溶かして走るのである。公道を走るタイヤのように溝はない。一レースで使い切る、熱でネチャネチャタイヤだ。それが焼肉の鉄板レベルの路面で、最終周……溶けてなくなった?

 いや、試合後、ロッシは「後輪が浮いた」と語っていた。とすれば、むしろ前輪がしっかりグリップしていたがゆえに、ドライバーがバイクを暴れさせすぎた結果、バイク全体が前のめりに浮いた、という感じだったのだろうか。

 二十年、やって来たからこそ、オレなら行けると鞭を振るったら、鉄馬が、つまずいて転んだ。直前までデッドヒートを繰りひろげ勝ってきて、タイヤの状態が悪いわけがない、そこでリタイアするほどのクラッシュ。生ける伝説でさえ。

 クラッシュの直後に、どこか遠くを見つめていたバレンティーノ・ロッシの姿には、人生を考えずにはいられなかった。私は翌日、このレースをディスクに焼き、電車や重機のDVDが並べられている二歳の息子のライブラリーへ、ロッシとそのマシンの姿を印刷したケースに入れて並べておくことにした。一時間弱のレースを、わからないままに観て、ロッシの転倒に涙する人々の姿を、どこかの国の賛美歌のように聴いて、なにごとかを感じてくれたらいい。

 積み上げた時間が、次の刹那を生かしてくれるわけではない。時間のなかで積み重ねた経験を駆使して、絶えず次の刹那を生き延びなければならないのが人生だ。

 神でさえも。

 だがしかし、だからこそ、たのしいゲーム。

 数年前に私は、バイク人生でたぶんいちばんのケガを負った。小雨のなか、行けるだろうと走り出し、行けずに転んだ。後ろにはダンプカーが来ていた。穿いていたジーンズはスカートのようになった。

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『道路のギザギザ金属に親指を持って行かれる』の話。

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 ゴムに亀裂走っているしタイヤが怖いですねえ、というような話をバイク屋でしていたところで転げ回って、そこから一年半である。

 やっと、冷静さをとりもどす。
 転がってからでも遅くない、ていうか転がったのだから当たり前にそうするべき。

 タイヤ交換。

 交換前。

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 交換後。

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 バイク屋から去るとき「新品のタイヤはコケやすいんでスベらないように気をつけてくださいね」と念を押される。スベってコケたから交換しているのに、そんなことを言われても困る。

 でも確かに新品タイヤ、金属に乗ると、きゅっきゅと鳴く。いちレースで使い切るレーサーの溶けるネチャネチャタイヤとは違うので、月に何度も走らない街乗りアメリカン野郎では、このきゅっきゅ言う「新品のタイヤはコケやすい」状態が、どこで終わるのか悩ましいところだ。前のも、溝はまったくすり切れないまま、経年劣化でヒビの交換だったわけで、今回は前のとメーカーは同じですが、走行耐久性は重視せず、お値段抑えめ。それでも国産アメリカンなどというと存在自体がおかしくて、奇妙で太いタイヤなため選択肢は少ない。特殊なタイヤをミルクセーキみたいにごくごく消費するレーサーたちが、いかに札束とひきかえに命を守っているかを思い知る。万全を尽くそうと思えば、トレーラーにいっぱいのタイヤを持ってワールドツアーに臨まねばならない。こっちはそんなわけにはいかないから、でも命は同じように大事だから、せめて大丈夫と過信することはやめよう。

 新しいタイヤを買ったので、まとめて数年分払えばお安くなる保険。三年分、振り込んでやりました。廃車寸前とか言いつつ、まだまだつきあう。いや、タンク凹みもしたけれど、タイヤ交換してみたら、ぜんぜんいまだ美人さんなんだもの。別れる気はない。どこかで別れが来るのだとしても、そのときにきれいな姿であってなにが悪い。愛すために愛せるように互いに緊張感を保ち続けるべき。なにかにつけてあてはまる、愛の基礎講座である。

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