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『脳内麻薬雛人形水族館』のこと。


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水族館に行った。
ヒナ祭りをやっていた。
すごく直接的に。
巨大水槽の前に壇飾りが置いてあった。
邪魔だ。
ヒナドールフェスのなんたるかを知りえぬ子らがジャングルジムかと、ヒナ壇の後ろで隠れん坊。
ぶら下がったり。
崩れないかと不安で、目が離せない。
魚どころではない。
やむなく、子にヒナを見せる。解説する。

「ヒナだ」
「モモのセックだ」
「ハルがキた」

……いやいやいや。
三月三日に咲きほこる?
そんなの沖縄。
京も都も四月に入ってから。
いわゆるあれ。
旧暦、陰暦という。
全体的に一ヶ月ズレている。
一年の分割方法が、季節から太陽の向きへ。
でもまあ太陽の傾きは、すなわち四季なので、そんなには大きく狂わない。
それがかえってやっかい。
節句なのに微妙なズレ。
暦のうえで春が来ても、まだぜんぜん寒い本番。
アジアのほかの国々は、かたくなにいまだって、旧暦で正月を祝っている。
水族館でヒナドール。
そういえば魚こそ、まさにこの国では四季。
モモのセックはズレても、タイの旬は三月だ。
薄く切った白身の寿司。
それ喰って春だねえと。
……ないね。
一年中売っているよ鯛。
養殖と交通の発達で、寿司屋からも旬が消える。
回転寿司では旬を謳うが、それこそフェスティバル。
仕入れは年中できるくせに。
いまが旬とかおかしいの。
啓蟄をすぎても虫がいない。
都会だけではないらしい。
蛍が光らない国になった。
エアコン効いた水族館で、ヒナドール。
そのズレた感じ。
正しい現状認識なのかも。

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 心臓の機能を向上させ高血圧を予防し、同時にストレスホルモンの血中濃度を減らし、痛みに対する耐性が増し、学習効率を高め、女子力を高め、子宮を収縮させ、社交性と好奇心を高め、母性本能を高め、寿命も延ばし、親子間の絆を深め、パートナーの浮気を阻止する。

 つまり。

 しあわせ、になる。

 それがオキシトシン。
 科学、怖い。しあわせの原因を突き止めてしまった。まるでSF小説のタイトルのように。

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 男はたまたま、ロイエンケファリンを自在に分泌できるようになったのだが、その自覚がないために、自分の幸福感には神聖な由来があると理屈づけたのだ。ぼくは恐怖と同情に胸を締めつけられた。少なくともかつてのぼくは、自分の幸福感が腫瘍と関係あるのを知っていた。路地でラリっている少年にしても、自分がシンナーを吸っているだけだとわかっている。

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グレッグ・イーガン 『しあわせの理由』

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 脳腫瘍のせいで快楽物質ロイエンケファリンがダダ漏れになっていた少年は、抗ガン剤で腫瘍を叩いた結果、ロイエンケファリンが今度はまったく分泌されなくなり、しあわせを感じることができなくなってしまった。彼は思う。恍惚とした伝道師よりも、シンナーでラリる少年や、音楽やアルコールやセックスにみずから耽溺して、しあわせを摂取している人々のほうが健全なのではないかと。ならばロイエンケファリンを、自分で摂取量を決めて自分の脳に射つのも、大差ないのではないかと。

 もともと、オキシトシンは女性のしあわせ脳内ホルモンとして知られていたが、近年では男性にも作用するし、犬に注射しても効くということが判明して、まったくもってオキシトシンがSF作家の描いたロイエンケファリン(現実の作用は少し違うので但し書きを添えておく)のような働きをしている線が濃厚になってきている。

 一方、女性作家は、そんなの前から知ってたと説く。

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 今はしあわせすぎて、何も考えられないのだった。腹の中にコドモがいることが、多幸感の原因なのである。それはもうはっきりしていた。アカシのせいでしあわせになってしまった。しあわせの実体はないのに。
 コドモがいるからしあわせなのではなく、しあわせだからしあわせなのだった。
 洗脳されてるみたい。
 ときどきそう気づいて、びくっとした。

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 川上弘美 『なめらかで熱くて甘苦しくて』

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 オキシトシンは子宮を収縮させて胎児を外界へと追い出し、オキシトシンのせいで痛みに耐性ができて、気を失ったりはしない。そんなことを考えて妊婦が自らの脳内操作でオキシトシンをダダ漏れ状態にするのは不可能なので、洗脳という表現は、文学表現でもなんでもなく、かなり事実に近い。

 胎児が、彼女の脳を操作してオキシトシンを分泌させている。

 そして、それがまさに、しあわせ、だ。

 やっかいなのは、シンナーやアルコールには毒性もあるという点である。オナニーやセックスや落ちものパズルゲームに、四六時中耽溺していては、廃人になってしまう。

 そこでオキシトシンが、近ごろ注目されている。

 前述のように、良いことずくめであり、毒性も副作用もない。しかも四六時中ダダ漏れでも、日常生活が送れる。送れるどころか、バラ色レインボーでワンダホーな世界で暮らし続けられる。

 ほとんど太古といっていい昔から知られていたオキシトシンを、いまになって分泌ブームというのは、人類が一種の境地に至ったということだろう。地球は宇宙に浮かんでいる岩であり、ニンゲンは動物で、脳は操作可能な機械だ。

 良いガソリンを入れるとエンジンが良く吠えるように、気持ち良くなるように肉体を操れば、当たり前に気持ち良くなるし、しあわせになる。SF作家の書くロイエンケファリンやエンドルフィン、ドーパミンといったアッパー系の脳内麻薬と違い、オキシトシンは、ハイになるのとは違う、というところも良い点だ。ほんわかしあわせ気分になる。

 どうすれば、そんな夢の脳内ホルモン物質オキシトシンの分泌量は増やせるのか。

 肉体の接触。別に恋人同士でなくてもいい。猿の毛づくろい的な。友人同士、もしくは嫌悪感を抱かずに済む他人とのハグでも可。まあ、想像はつく方策。できればセックス抜きのセックスフレンドでも持つといいのかもしれない。そのあたりは『クズの本懐』に詳しい。

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(あえてセックス抜き、とするのは、オキシトシンが「あなた色に染まる」原因でもあるから。プロレス会場でプ女子のテンションがすごい理由のひとつに、脳内ホルモン・セロトニンの分泌が女性は少ないというのがある。セロトニンは自己抑制物質。暴走しようとする脳にブレーキをかけるホルモンなのだが、これが男性よりも女性のほうが分泌されにくいため、イベント会場でタガを外して盛り上がれる才能が女子にはある。それはよりしあわせになるということでもある(もともとオキシトシンが女性にしか働かないと思われていたのは、たぶんこのせい)が、抱かれた相手に「オキシトシンを分泌させてくれた」という執着を持ちやすいということでもある。言い換えれば、女性はセックスのあとでストーカー化しやすいが、男性はアッパー系脳内麻薬のほうが作用が大きいので、特に肉体的接触がなくてもひとりで盛り上がれてしまう。どっちが良いとも悪いとも思いませんが、女性のほうがフレンズとセックスを交えると問題になりやすい傾向ではあるので気をつけたい)

 アニメ、マンガはもちろん、恋愛小説やゲーム、映画の類も効果がある。感動すれば、オキシトシンは分泌されるのである。感動というのは心が動くことであって、かならずしも爆泣きしましたとかいう作品をより好む必要はない。ぼおっときれいな映画芸術を眺めたりするだけでもいい。ということになると、ぼおっと散る桜を見るのも、車窓からの風景でも、ひとによっては天井の木目だっていいのかもしれない。

 だが、恋愛感情を発現させるのが、もっとも手っとり早い手段であることは、あきらかなようである。いや、なにも生身の恋愛対象は用意しなくてもいい。

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 ジョン・シナのポスターを壁に貼ればいい。
 私の妻は、菅田将暉を眺めているとオキシトシンがダダ漏れている様子だ。
 
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 動物とのスキンシップも効果がある。
 動物の映像を見るだけでもいい。写真集でも。

 我が敬愛するディーン・クーンツ師が代筆したオキシトシン分泌を犬から学ぶ本があるが……

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 文字ばかりなのが残念。トリクシー・クーンツ嬢のグラビア満載にしたほうが、よほど読むものにオキシトシンを分泌させたのではないかという気もする(まあ、愛娘犬の代筆をしているよボク、と書いている本人は恍惚とした結果の文章量なのだろうが)。

 ぬいぐるみでもいい。

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 テディ・ベアや、萌え抱き枕で、ひとはしあわせになってしまうのである。自宅なのだし、毒にもならないのだから、ぬいぐるみ好きはぬいぐるみに埋もれ、萌え好きは美少女抱き枕に埋もれて、毎日しあわせになったほうが得だ(ダニの心配はしたほうがいいが)。

 そう思うと、ヒナドールも、そういうものなのではないか。

 娘に買い与えるというよりは、娘とヒナ壇の組みあわせに、親族が目を細めてオキシトシンを分泌させる。おじいちゃんありがとうっ、抱きついてくる孫娘の頭を撫でる。ダダ漏れであろう。

 心臓の機能を向上させ高血圧を予防し、同時にストレスホルモンの血中濃度を減らし、痛みに対する耐性が増し、学習効率を高め、女子力を高め、子宮を収縮させ、社交性と好奇心を高め、母性本能を高め、寿命も延ばし、親子間の絆を深め、パートナーの浮気を阻止する。

 水族館にひな人形があれば、みんな、しあわせ。

 人形ごときで、しあわせになれてしまうと、ご先祖さまの時代からわかっている。ひな祭りに、どんなかたちであれ、ひな人形を見ないのはもったいない。だれでもいくばくかの情動は起こり、オキシトシンは分泌される。

 ひとなど、その程度のものだ。
 だからこそ。

 抱き枕を抱いて寝ないし、恋愛小説も読まず、散る桜を愛でる散歩には出ないし、近所の水族館にだって行かない。

 その程度のことで、ひとは、しあわせを逃す。
 逃すことばかりだと、毒にも手がのびる。

 マッチョが好きならマッチョのポスターを壁に貼り、おっぱいが好きならおっぱいのポスターを壁に貼り、それを眺めてハーブティーでも飲む。

 しあわせとはそういうもの。

 ちなみに、私自身のためには、チョウ・ユンファのポスターが貼ってある。毎日、しあわせだ。

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(そういえば、母が広島県三次(みよし)の生まれで、私の生家には三次人形の雛人形が年中飾ってあった。いまもだ。幼い私が、顔をさわって雛の眉を曇らせてしまった。そんな年齢の子供がさわれるところに陶器の人形など飾るほうが悪いという気がするが、汚されようが割れようが飾りたいものを飾ってしあわせでいる、という両親の信念は、オキシトシンを分泌するために購入したフィギュアたちが二歳児から避難してクローゼットにしまい込まれている私からすると、なかなかに肝の据わったひとたちだったのだなあという感想もある)

三次人形 - Google 画像検索



 

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