
仮面ライダーに逢ってきた。
昭和ライダーの末期、改造人間の悲哀の極みを描いた雨宮ライダーからハマった私は、ハマったときには昭和が終わり。さかのぼって1号にまで至り、自分もバイクを乗りまわしていたら平成ライダーが生まれるという。変則的ながらもそうであるがゆえ、途切れず人生に仮面ライダー。
大ファンです。
しかしそういうみちすじなので、ライダー人形で遊んだ記憶はない。
そんな私が。
生後14ヶ月の息子を連れ、仮面ライダーショーへ行く。
撮影会もあるという。
生まれて初めての生ライダーだ。
触れたら興奮で失禁必至だ。
むしろ息子を横に置いて撮りたい。
そういう精神状態でおもむく。
しかして観はじめてすぐに。
……ねえあれ、どうにかならんの?
ショーに集中できない。
興奮の極みなのにライダーではなく。
いや、ライダーなのだが。
なかのひとに目が行く。
私と同年代だろうか。私よりもぽっちゃりしたかたで。黒縁のメガネをかけている。声は素敵だ。素敵だけれども。まわりの小学生くらいの子たちさえ、気にしていないようすですけれども、テレビに出ていたなかのひと、平成ライダー美少年俳優とは似ても似つかぬ声である。
ステージのすぐ横で緑の布で、顔の半分だけ隠している。
いや、まるで隠す気はない。
カメラ使えばいいじゃない。
二階からもこのステージ見えるよ?
そんな間近で演じる必要ある?
……ついに口もと見えているし。
隠す気ならば方法があるのに、隠さないのは必要がないから。
私の幻滅なんてどうでもいいんだ。
バックステージを覗いてもいない。
行儀よく興奮して観に行っても。
背中のチャックを見せられる。
大人だからなのかー。
子供がよかった。
仮面ライダーの居る人生は悦び。
だが享受できなかったものもある。
声の違いなんて気にせず、
あのひとなにしてんのとも思わず。
息子よ、きみは、味わうといい。
心底、うらやましい。
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ウィルスを倒すゲームバトルにドクターたちが参戦!!
様々なゲームジャンルのちからを身にまとう!!
すべてのゲームをクリアし、そして。
すべての患者を救い出せ!!
『仮面ライダーエグゼイド』公式告知
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最終目的は、人類すべてを救うスーパードクターになること。
うん。平成ライダーのモチベーションって、ライダーになったのでやむなくとか、自分が生き返るためにとか、けっこう利己的な方向性なことが多いし。守るにしても、近所の町や、愛するだれか。そういう個人的なところではなく、職業人として患者を救うために変身し、果ては全人類を救うだなんて、今回の主人公はカッコいい。
ドクターたちが仮面ライダーに変身し、ゲームという仮想世界をモチーフに、ウィルスと戦うという設定を最初に目にしたとき、私の脳裏に浮かんだのは、とある舞台劇だった。
『白血球ライダー』
全日本プロレスの元専務取締役でもある諏訪魔の映画デビュー作として歴史に残る映画『アキハバラ@DEEP』を、私は原作未読のひとは「水槽のブルマ少女を馬面から救い出す」映画と捉えてしまうのではないかと、いつか書いたが。
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『アキハバラ@DEEPとAI人権宣言』の話。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
水槽にブルマを飼っている名優、佐々木蔵之介を輩出した劇団こそ、惑星ピスタチオであり『白血球ライダー』は、惑星ピスタチオの代表作である。
今回、唐突に名の出た感のある脚本担当の高橋悠也は演劇畑のひと。彼は東京を主戦場にしているものの、関西の世紀末狂馬と謳われし惑星ピスタチオの『白血球ライダー』を知らないということは考えにくい。
ところで私は、初めて『白血球ライダー』を観たとき、最後の最後まで、ガーン将軍が、ガン細胞であるということに気づかなかった。ガーン将軍という名前で、最強白血球なライダーに倒されるというのにである。私のうっかり具合も相当だが、それくらい、白血球ライダーが戦う、その姿を追うだけで最後まで観ることができてしまったということでもある。
もちろん、白血球ライダーは、仮面ライダーのパロディだ。だが、パロディであるからこそ、観ていると立ちあらわれてくる、オリジナルである仮面ライダーというテレビドラマシリーズの構造美学があった。
高橋悠也脚本のテレビドラマ『エンジェル・ハート』を私は観た。

『LUPIN THE THIRD 次元大介の墓標』を。

舞台脚本も、小説も、設定こそ遊び心があるが、高橋悠也タッチとはシリアスであると断言していい文体である。
ふむ。仮面ライダーエグゼイド。
某バラエティ番組に、レベル1(エグゼイドはゲームモチーフなのでレベルアップ変身をする)のSDキャラ着ぐるみで登場していたのを私も観た。
歴代仮面ライダーのなかでも、最高級にこっぱずかしい語りで実質最終回を締めた、仮面ライダーゴースト。
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愛は命を生み出す奇跡のチカラだ!
おれは想いのチカラを信じる!
愛のチカラこそ、
人間の無限大の可能性そのものだ!
人間の想いのチカラを知らないおまえに、
本当の想いを!
愛のチカラを教えてやる!

『仮面ライダーゴースト』
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その実質最終回に、お披露目として仮面ライダーエグゼイドが登場した。
自転車だった。
お。そういえば。二輪だが、バイクではなく自転車って。それも、変身してからのメイン乗り物としてチャリンコって。いなかった気が。
ゲーム好きで、チャリ乗りの、医者。
そういう仮面ライダー。
また、逆説的に白血球ライダーを思い出す。
パロディとしてではあるが、人体を侵す「悪」と戦って人類を救うライダーの先輩である。仮面ライダー風であるということによって、ただの免疫機能を正義として描くことが正当化され、描いてみれば、気づいた。
正義も悪も、どうでもいい。
観客が引き込まれるのは、その場の雰囲気であり、ノリだ。仮面ライダー風であるということの破壊力たるや。ガーン将軍がガン細胞だと最後まで気づかなかった……つまり物語をまったく理解していなかった私が観ていたのは、白血球を超える抗体というよくわからん設定なのに白血球ライダーという題名な劇の雰囲気が魅せるかっこよさであり、いまのかっこよさであり、次の瞬間への期待だった。
格闘技に善も悪もない。
青コーナーの選手の身内は青コーナーの選手に感情移入し、赤コーナーの選手の身内は赤コーナーの選手に魅入る。
大事なのは、それぞれが吠えることだ。
見せ場を作ってさえくれれば、物語は添え物でもいい。
いや。
仮面ライダーゴーストを観たか。
最初から死んでいて、生き返れるのに他人を救うことを選び、最後もまたうやむやに生き返りながら、死んだ母を想い出して吠える。
愛を教えてやる!!!
正直に言おう。私は今回も、物語をちゃんと追えていたとは言いがたい。一年、一話一話の、提示される見せ場を吟味して、酔いどころを追っているという、仮面ライダー観戦者だった。
愛を教えてやれ!!!
けっきょく、ぶっ叩いて決着させただけだけれど。
愛だのなんだの叫んでいたのは、よかった。
近年、高橋悠也が深く関わっている新生ルパン三世のシリーズについて、むかしからのファンが苦言を呈している。いわく、スタイリッシュだが、ルパンをわかっているようでわかっていない。浅い、とか。
私は、新しいルパン三世が、とても好きだ。
浅く、雰囲気でカッコいい。
カッコいいのに、魅入らないで、なんか違うところをさがすという観戦を、私は好まない。
自転車でウィルスをなぎ倒す、妙にカラフルな仮面ライダーは、あまりに浅く、子供だましに、カッコよかった。
プロレスを「バカでもわかる」から偉大だと言ったひとがいる。子供でもわかる熱狂の図式を描きながら、舞台裏まで含めて深読みして唸る玄人まで生む。
人口減で滅びようとする国の日曜朝で、愛は命を生み出す奇跡のチカラ、だとか叫んでいる死んだ仮面ライダー。それはなんという哲学だろうか。
仮面ライダーエグゼイドは、その見た目で、医者で、命を救うために戦う。テレビゲームで、自転車で? 飽きさせないための仕掛けは多いに越したことはない。そういうものは物語の本質とは無関係なのである。
ウィルスを倒すゲームバトルにドクターたちが参戦!!
「たち」だ。そして敵は、ウィルスなのだ。戦国時代ではない。仮面ライダー同士の、個と個の潰しあいではなく、救われるのは患者だ。
シリアスな脚本家を据えるのは、良い。
仮面ライダーらしくない見た目の仮面ライダーに、仮面ライダーらしさを与えるために、仮面ライダー育ちのモノ書きを連れてこなかったのは正解だと思う。
浅くて軽い、ゲームや自転車、その見た目。
だけど医者。
戦いの目的は、命を救うこと。
ギャップ。
毎回、吠える要素はいくらでも思いつく。
ああもうダメだ、すでに泣きそうだ。
『エンジェル・ハート』よ。
最後には、冴羽獠が勝つ。
さっきまで軽かったからこそ、憂いが映える。
語る想いが、臭いほど染みる。
それ、できるホン書きだと、知っているので。
いっそ仮面ライダーを意識しないで欲しい。
白血球ライダーで、いい。
舞台劇での、パロディ。
仮面ライダーエグゼイドは、すでに仮面ライダーと公式に銘打たれているのだから、仮面ライダー臭いことはなにもやらなくたって、まごうことなき仮面ライダーだ。だったら、引き続き、愛がどうの死がどうの、命がどうのと私を酔わせろ。
というわけで注目は、いわゆる悪のライダー、仮面ライダースナイプでしょうか。患者を救うためではなく、戦いたいから戦う、手段を選ばない、医者免許を剥奪された闇ドクター。もちろん、改心するに決まっているのです。しかしこれが医者という設定であるがゆえに、ドクターキリコ的なものを期待せずにはいられない。日曜朝に安楽死は扱えないでしょうけれど、彼も、彼なりの号泣必至な理由をもって闇医者を続けているはずなのです。だって、免許まで失っても、なにがなんでも医者を続けなければならない理由なんて、彼を彼たらしめている根幹の部分で譲れない想いがあるのです、絶対。さあもう初回から叫べ仮面ライダースナイプ!!
私、昭和からの仮面ライダー好きで、雨宮ライダー派なので、ゴーストの黒くてでっかいオレンジの目デザインは大好きだった。だけれども、一歳になった息子がですね。まあもうゴーストを正義の味方と認識しない。というか認識そのものをしない。実質最終回で、はっと振り向いて画面に魅入ったのは、独特なしゃべりとカラフルな見た目でお馴染み画材眼魔キュビちゃん登場シーンと……もちろん、カラフルさならキュビちゃんに負けない仮面ライダーエグゼイドの自転車バトルだった。
これ、仮面ライダーの名を冠する意味ある? そう、電車に乗ったり車に乗ったり、死んだり、もはや仮面ライダーとはかけ離れた見た目のアメコミ風になったりするたびに彼らは、わめくが。
昭和からプロレスも好きな私は、いつもジャイアント馬場御大の名言を唱えることにしている。
プロレスのリングでおこなわれることはすべてプロレスである。
仮面ライダーの枠でおこなわれることはすべて仮面ライダーである。
で、あるのならば。
これまでにないホンを書く血が参戦するのは、純粋なたのしみでしかない。見たことのない仮面ライダーの枠が広がるのならば、来週を待ち望む理由にしかならない。テレビゲームと聞いていたのに、自転車なんてワザがしょっぱなだったのも、やるやんええやんと薄笑いながら観てしまいましたともさ。
期待しかしていない。
応えてくれないと困る。
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仮面ライダーエグゼイド | 東映・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ただし、カラフルなライダーベルトは息子に与える気はない。ゲーム機がモチーフで、カセットって。意味わからん。昭和からのゲーマーだが、あえて言おう。意味わからん。

我が家におけるゲーム機とはXbox。