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『人工知能は意味がわからない』のこと。



 もう何年も薬屋さん。
 で、お店に立つひとは、法律で年に十二時間ほど授業を受けなくてはならない。まとめて一日で十二時間とか辛すぎるので、何日かにわけて、なんやかやと受講したことになる講義に参加するわけですが。

 そんなね、毎年、ころころ法律が変わったり、画期的な新商品が出たりはしないわけで。そのうえ私は店舗管理者でもあるので、十二時間の講習とは別に法律のお話は、よそで聞かされるのです、これも毎年。

 もう何年も、という年数になるとですね、いやはやどこ行っても同じ話が繰り返されるわけで……まさにその基礎を忘れないようにの復習授業ではあるのですけれど、これはもうね、眠いですよ。苦行ですよ。学校の授業というものも、退屈なものではありますけれど、それでも学ぶ悦び、そういった救いがある。しかし、同じ内容の授業を繰り返し聞くというのは、その時点で苦行の要素満点なのに、講演する側も学校の先生みたいには熱がないものだから……そりゃそうですよ、もとが暗記試験なのですから。勝手に言葉を変えたりできないので、聞いている私たちよりも、講師の方々はお給金のためとはいえ、何億回、同じ話をするのだという。

 会場の空気がよどむ。

 こりゃいかんと、なんとか違う感じの講義内容を絞りだそうと、みなさん考えるのです。必然的に、その年の時事ネタが、お題になることが多い。

 私、今日、半日ほどの授業を受けてきたのですが。
 眠くなかった。
 たぶん、どこの講義でも同じ傾向になっていると思われます。

 ドーピング。

 いや、流行に乗って私が眠くならないケミカルアプリを我が身にインストールしたということではなくて、市井ではそういう事件が起こっておるらしいねオリンピック、というような語尾で。

 本来、街の薬屋さんで、お客さんが近々、競技大会に出るかどうかなど判別のしようがない(顔を知っている、もしくは、浴衣着たお相撲さんだとかいう以外は)。よって、そのお薬を飲むとドーピング検査に引っかかりますよなどと、アドバイスする場面というものは、ない。実際、私も、長年の薬屋さんですが「大会が近いのですが、この咳止めを飲んでも出場停止になりませんか?」なんて訊かれたことは一回もない。

 しかしまあ、テーマとしては面白いし、医薬品のどういう成分がどういう働きでどう分解されるのかという内容は、医薬品を売るものにとっては紛れもなく復習すべきことなので、授業は成り立つ。

 あんまり業務の役には立ちそうもないですが、私、格闘技をよく観るので、しょっちゅう風邪薬を飲んで失格とか、サプリに男性ホルモンが含まれて出場停止とか、そういうニュースは目にしている。なので、おおあの選手が引っかかったアレじゃないか、などと興味深く聞いているうちに、本日の授業は眠くもならず終了したのでした。

 なにげにロシアの国家方針が私の一日にも影響する蝶の羽ばたき効果。いやその寓話は、か弱い蝶の羽ばたきの果てに嵐が起こるということだから、よほどあちらのほうが嵐の様相なので、逆バタフライ。か弱い蝶は私です。

 さておき、そういう現場なものでして、覇気のない講師の先生がたは、今年のはじめの、あのニュースに絡めてもいまだ話をしたがる傾向にあります。一年は同じ話題を引っぱるのが通例なのです。

 人工知能が、囲碁で人間のトップ棋士に勝ったという。
 ここでも話題に、いたしましたが。

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『ゼンデギ』のこと。

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 同じ話を何億回も繰りかえして、お給金をいただく、その日々の営みのなかで、自嘲気味な笑いが漏れることもあるのでしょうか。

 将来、AIに仕事を奪われる職種といえば、私みたいな講師とか、司会とか、筆頭ですよ。みなさんも、症状聞いて薬選ぶだけとか、禁忌を棒読みで注意するだけとか、そういうのだと仕事を奪われる可能性があるのでして。そこで大事なのは、人間力。薬屋のあのお兄ちゃんに話聞いてもらいたくておばあちゃんがやってくる、そういう存在にならなければですね、いかんと思うわけですよ。

 なんて話をしたがるのですけれども。こちとらガチのヲタなので、聞きながら、それこそ初音ミクのライブがひとを集める世紀に、感じのいい萌え店員だって立体投影で充分だろう、などと思ったりするのでした。

 強制的に毎年復習授業を何時間も受けさせられるという時点で、人間は資格試験で合格点をとったところで、一年もすれば忘れはじめるとだれもが知っているから。その点でいけば、人工知能がスポーツ選手にうっかりドーピング検査で引っかかる成分を含む商品を売ったりなんてのは、絶対にない。そのうえ、その人工知能がネット接続されているならば、目の前に現れた人物が、来週のマラソン大会の招待選手だということも即座に突き止めて、訊かれもしないのに注意しはじめるはず。

 人間に勝ち目なんてない。
 店員なんて、みんな失業です。

 困るなあ。
 というのは、働いている私たちの側だけではなくて。働いている民の納める税金で国を回している方々も、懸念はあるようで。

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 そのあたりの第一人者たる新井紀子先生は、国立情報学研究所の教授。かの「東ロボくん」の創造主でもあらせられる。

 東ロボくん。知らないひとに説明するのも簡単なロボ。日本東京都文京区本郷7-3-1東京大学の入学試験を受けて合格する人工知能を造ってしまおうプロジェクトによって生み出されしロボ。

 そいつが、いまや模試でラクラク東大に受かる成績を叩き出しているらしい。

 将来、人類はロボに仕事を奪われるぜと書いている張本人が、民から集めた税金を投入し、人類の多くが滑って落ちる試験に合格するシャレにならないロボを造っている。造ってみろやとは言ったものの、国も、あせる。

 そこで興味深い調査が、今年の二月におこなわれた。

 教授の主張では、将来的にAIに仕事を奪われるのは、決まったことを決まったようにやる職種や、暗記能力を売りにする職種。一方、人工知能はいまだネットの自動翻訳がダメダメなことを見てもわかるとおり、最先端の技術をもってしても「意味」を理解することが苦手。つまり私もここで、コルタナが人間の友人のかわりになる日だってくるかもというようなことを書いたが、現実には、AIコンシェルジュが一晩中スジの通ったおしゃべりの相手になれる日は来そうもないので、ガールズバーの従業員は近未来で仕事を失う危険性はない……年齢的な劣化で首を切られるという事態は、また別の問題としてあるにしても。

 軽く文章の内容は変えておくが、人工知能と人間の能力の違いについて調べるためにおこなわれたテストの問題は、こういうの。

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● タクミという男は生味噌屋の娘であるキヨミを通じて知りあった三十六歳のユウジに片想いをしているが、同じキヨミの友人でユウジとはイトコだから顔が似ているとまわりに言われるうえに若くてスタイルだって悪くないサエコのことは、まるで相手にしようとはしない。


● 問題: サエコは(  )に似ている。

 A キヨミ
 B ユウジ
 C タクミ
 D 生味噌


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 その正答率が、驚愕である。

 公立の中学に通う生徒の群で約10%。
 高校のそれも進学校の生徒の群で約30%。

 重ね重ね、上記の設問は筆者によって改変されている。生徒たちは、この問題を解いたわけではなく、このような問題を何問か解いた、という話半分で読み進めてください。

 それにしても。
 いや、これがわからないか?
 さすがに、あなたはわかっていますよね。というのも、この短文の内容が読解できないひとたちは、私の書くブログの文章なんてちんぷんかんぷんだと思うから、寄りつかないと確信できるので。
 これがわからなければ、ちょっとした恋愛小説も意味不明になってしまうはずで、そういったひとたちに向けて届けと日々執筆しているのではないと、心の底から思いたいです。

 こんな結果になったのは、教授の推論がもとにあるテストだったから。

 人工知能は文章の意味を読み解くのが苦手なはずなのに、模試の結果では多くの人間の上を行く成績をとってしまう。それっておかしくね? 人工知能は問題をパッと見て意味もわからないまま正解を導き出しているだけなのに、問題をちゃんと読んで解いているはずの生徒たちに圧勝してしまうのはなぜ?

 そこで進学校の生徒にテストを受けさせたというのがキモ。彼らは、入学試験に受かったから進学校に通っているのである。きっとお高いお月謝をお払ってお進学校にお受かるためのお塾通いもしたのだろう。お結果、高校入試をお突破した。

 その彼らが、ちょっとした恋愛相談をされても、人間関係がまったく理解できない。上の設問に正答した三人に一人ぐらいは理解できているのだと思いたいが、答えが四択で生味噌含みの30%正答率では、理解して解いたと考えるのは夢を見すぎであろう。

 東大の模試も、同じなのだ。

 人間も、直感で解いている。だから人工知能に負ける。なぜならすでに現代の人工知能は、悩み抜くことにかけて人類の頂点にある棋士を、盤面を見て直感で次の手を導き出すという方法で打ち負かしているのだから。

 私は薬屋で、勤務シフトも組む。そこで、薬屋は有資格者が出勤していないと開店してはならないという縛りがあるので、自分が休むためにも、大事な仕事がある。今年も、資格試験に新人を送り出して、合格させることである。

 思えば、私自身そうだったし、だから訊かれれば、口癖のようにそう言っている。

「過去問やっとけば受かるから」

 事実、そういうものなのだ。
 国だって薬屋を減らして得になることなどなにもないのだから、奇をてらった出題などしない。二、三年分の過去問題集を解いたあとでは、テストは早押しイントロドン! な感じになる。見た瞬間に、「あ、Bが正解」とわかる。問題を読む必要はない。薬屋の試験も、四択ほどの選択式である。選択肢を見れば、いかにも引っかけなものが混ぜてあったりするけれど、それも毎年同じように出題されているわけだから、過去問を解いたあとでは、むしろあからさまな引っかけ選択肢などは、正解を絞り込む役に立ってしまう。ますます問題は読まなくても解ける。誇張でもなんでもなく、問題が隠してあったとしても、選択肢だけを見て「あ、Bが正解」と、わかるようになるのである。

 マークシート方式のテストは、なんだってそういう側面がある。私は縁遠いので知らなかったが、名門高校や、東大の入試でさえ、そういうものなのだという。

 タクミに関するサエコ視点の悩めるつぶやきに似た出題などが突然にされたりすれば、正答率は三人に一人となってしまうが、現実には、そんな問題が混じっていたら新聞沙汰になって取り消し全員加点の処置だろう。つまり、そんなイレギュラーな状況は想定する必要がない。過去問やっておけばいいのである。お高いお塾では、続けて三問Bが正解になる確率がいかに低いかを教えてさえいるかもしれない。

 だからロボに負ける。
 文章を読まないでも正解が導き出せるのは超天才みたいに思えるけれど。もはや本当に、超早押しイントロドン! みたいなものだ。多くの曲を聴いたから、最初の一音で「きっとこういう出題だろう」と予測して曲名が答えられてしまう。本気を出した人工知能に暗記力でも判断力で圧倒的に敗北する人類が、ロボクイズ王と争うようなもの。百科事典が内蔵されているロボが勝つとわかりきっているクイズ番組で、ロボに人間が負けて泣くのを見る視聴者はいない。

 ゆえに。
 百科事典に載っているようなことを早押しで答えるだけのクイズ王もまた、職を失う。

 高校生も、大学生も職を失う。
 職を失うという表現はおかしいが、ロボのほうが高得点を叩き出して入れる学校ならば、そういう学校からの卒業者が就くことになっている職業でも、ロボのほうが有能に決まっている道理である。

 さて、そうして職を失った男たちが、ガールズバーへ行く。

「んー。サエコがユウジに似ているからって、タクミさんにとっては関係ないと思うのね。ていうか、たぶんタクミさんはユウジのカラダが好きなんじゃないかな」

 手練れのオネエがよく言うが「口とお尻は女も男も関係ないんだから要はテクニックよ。やっちゃえばノンケが転ぶってのはよくあるの。電気は消してね」という格言。たとえばアメリカのB級ホラーモノによく出てくるが、ビデオを観ながら壁の穴にイチモツを突っ込んで、向こうにいる性産業ではスクラップ年齢に達したおばちゃんが口や手でイかせてくれるという安サービス(ホラーでは毒々モンスターに噛みちぎられるのが定番)。だがそういう発想だと、人工性器や粘膜に特化したシリコンAIに仕事どころか恋人までもを奪われる可能性は高い。シリコンだと好き勝手に内部構造を造れてしまうので、それこそAI棋士の打つ手は人類の想像も及ばないから対処のしようがない、というのと同じ理屈で、異次元の射精へと導かれてしまう。

 そんなのと人類では勝負にならない。

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「んー。だから電気を消して、口でやってあげたらタクミさんも転ぶんじゃないかなあ。ロボにできない感じで、エロい声も出して、くちゅくちゅいわすのね」

 というような、きわどいトークで慰めたりできるガールズバーの従業員だけが、人工知能が政治をまつりおこなうようになった近未来で、仕事を失わない筆頭人類になっていることだろう。ていうか、なんでキヨミはガールズバーに行っているのか。ボーイズバーだろ。うん、真剣な話、性風俗だけでなく、ホストやホステスでさえも、アニメ声の人工知能のほうが勝るのではないかと、私は予想する。人間とみわけのつかないロボが、ただただなんの偏見もなく愛さえも語って酌してくれるなら、どこの男や女が、ややこしい人間になんて金を払う?

 人工知能に、うかつさや、おろかさはない。
 それを売れるのは人類だけで、もっとも含有量の高いのは、だらだら中身のないおしゃべりを脈絡なく延々と続けることができる、カウンターの向こうからこっちには来ない、生身のバカな娘。あははははーと、笑ってビールの相手をしてくれて、落とす気もなく口説いては、はぐらかされる、決して頭は良くないけれど、愛らしい、薄暗い照明のなかの天使。

 あとのことは、ぜんぶAIがやってくれるはずだから、これからの人類は、愛らしく無垢でいっそバカで好き嫌いがなくて思い悩まないしすぐ目の前のひとに共感して喜怒哀楽をあらわしてしまう程度におろかで、ときに、うかつな。そういう次世代を育てることに注力したほうがいい。

 彼らは、人工知能の統治するパラダイスで、互いにビールを注ぎあいながら愚痴り泣き笑い、そこそこに慰めあう、それそのものを仕事とプライベートのすべてにして、やがて無事に滅びるでしょう。

 しあわせに、ほほえんで。

 めでたしめでたし。

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