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『クサネム』の話。




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「おばあちゃん、
なんかこの米黄色くない?」
新米なのに。
「できがよくないんよ」
「なんか黒いの入ってるけど」
「雑草、とらんのやもん」
言えばいいのに。
そう思うけれど、
祖父が逝って、
祖母だけで田んぼの維持はできず。
しかし田んぼで米を作らないと、
土が死んでしまう。
やむなくひとに貸す。
そんなこんなで、
そこで育っているのは、
正真正銘のコシヒカリなのだが。
特に祖母がため息をつくのが、
クサネムの実。
雑草である。
抜かないと、黒い実が米に混じる。
これが米とほぼ同じ大きさのため、
機械で選別することができない。
それゆえ、クサネム混入、
もれなく米の等級が落ちる。
味とは直接関係ないようなものだが、
雑草さえ抜かない田んぼだ。
総じて手を抜いて育てている。
祖父は几帳面なひとだったから、
できあがる米もきれいだった。
それが。
「強くは言われへんのよ」
作っていただいているわけだから。
炊いても黄色いコシヒカリを、
賃料の替わりにもらって。
殺さないように続ける田んぼ。
もちろんと言ってはなんだが、
私を含め、
子も孫も、だれひとりこの先、
農業を継ぐ予定はない。
おばあちゃんは、
想い出の田んぼで、
クサネム入りの米を育てられ、
ため息を食べている。 
かといって、やめてしまうと、
まわりの田んぼに迷惑をかける。
牛飼って、米作って、
それで生きてきた。
土地を離れようとせず、
黄色い米を嘆きつつも作る。
こっちで暮らしなよと、
強く言うべきなのか。
でも、それでいいのか。
言っている間に、だらだらと。
今年ももらった米を、私も食べる。
クサネムの実を、
研ぐ前に取り除くのも、
手慣れたもので。

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 昨今の薬屋では、ちょいちょい起こることが今月も起こって、メーカーさんから私宛の文章も届いたのだけれど。要は、在庫がなくて発注数送れません、というやつ。

 先週のは、発注数どころか一個たりとも納品できないということだったのだが。それはまあそういうこともあるでしょうと読み進めると、この事態の原因がわざわざ書いてあった。書かなくていいのに、自慢げにさえ読める表現で。

「テレビで紹介されたこともあり……」

 知ってるつーねん! 先月の終わりにテレビでやっていた『その原因、腸にあり!』という番組を私は録画していなかったし、リアルタイムな放送時間には、まだ店にいた。けれど、翌日から、あれないのあれないのって。あなた観なかったのなんで仕入れておかないの。

 もち麦。



 痩せるらしい。ていうかテレビでだれか痩せたんでしょ。私は知らないけれども。いや、なんでないのって言われても、もち麦なんてマニアックなもの、ふだんから山積みにしているわけないでしょ。ねえこれ、責められるの私なの?

 健康食品とかあつかうメーカーさんとか問屋さんとかはさ、一ヶ月先くらいのテレビ番組の内容に自社製品に関連するものがないか検索かけるべきだと思うんだけど、いつも。放送されてから、痩せるためにあれが、とか、頑固な汚れのお掃除にあれが、とか言われたってこっちは知らんうえに、そこから発注したらモノがないとか。あげく自慢げに、いやあテレビのおかげでバカ売れでしてねえ、って。そこで倍あったら倍売れて、売るほうも買うほうも至極幸せなのに。店の棚広げてくださいよとか言う前に、テレビ番組表を精査すべきではなかろうかと、かなり真剣に思う。ためして、の取れた某番組に至っては公共放送(なんだそれ)などと自ら名乗って金まで取っているのだから、放送前にせめてオオヤケにキョウする態度として、この先一ヶ月で紹介する商品群を番組で使ったメーカーだけでなく、業界で共有させるべき。

 で、もち麦ですよ。
 いまさらながらに、ああこれ痩せるの、そればっかりだな、と思いつつ、どう痩せるのか調べてみたら。出たよ。

 繊維質を多く含むため。

 バナナ食べなよ。ファイブミニでも良いんじゃないかな。穀物をあえて食ってということならば、リーズナブルな玄米食でいいのでは。あえてもち麦をセレクトするのってなに? ああ、もち麦なだけに粘りけがあって。水溶性食物繊維だから腸の状態を良くすると。へえ。

 へえ。

 へえ。

 番組を観ていないからなのか、あまり感銘を受けない。たぶん、だれかが劇的に「食べながら痩せた」のだろう。みなさまが感銘を受けているのは、そのドキュメンタリーにであって、もち麦は、押し麦でも、豆ごはんでも良かったのだと推察。そういうのは売れ残っているのである。穀物類の棚から、もち麦だけピンポイントでなくなるテレビの力。言い換えると脚本の力。演劇とか、プロレスとか言ってしまってもいい。エンタメだ。食物繊維を摂れというフレーズで思い出されたのか、グラノーラの売り上げもちょっと上がった。

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 どこに帰結するかといえば。
 クサネムの実の話。

 手慣れた指先の動きで、流通させられない三流米からクサネムを取り除くも、その米を詰めた弁当箱を開いて、黒い点が残っていることは、ままある。しかしまあ、私は、そもそも玄米食で、それも米農家の孫で、買ってきたものではなく穫れた玄米が主食なため、けっこう荒い。モミ殻とか残っていても、気にしない。それも繊維質でしょう。で、クサネムの成分も調べてみた。毒はない。ただの無害な豆科植物。つまりクサネムの実は、豆だ。豆といえば水溶性食物繊維含有食品の筆頭である。

 モミ殻食べるのに、無毒な豆を避ける理由がない。

 もちろんそのまま食べる。味もしない。ふと思う。農家で忌み嫌われ、農協で一粒混じっていれば買いたたかれるクサネムだが、これもっとひとめでわかるレベルで米に混入していたら、雑穀米というカテゴリーで販売できるのではなかろうか。そういう商品というのは、あとからいろいろな穀物を混ぜて作るのだけれど、最終的に雑穀米で売るためだけの田んぼならば、はなからいろんなもの並列で植えてしまえばいいのでは。その田んぼでは、クサネムの繁殖は問題にならない。というか、商品パッケージに胸を張って「クサネムの実2パーセント」とか書ける。そう書いてみると、一頭の牛から一本しか取れない牛タンのような希少価値で、ぽつぽつ混じる黒い豆科植物が、宝石のように見えはしまいか。間違いなく繊維質なんだし。どう見ても消化しにくそうだから、たぶん痩せるはず。

 いや、太らないものはすべて痩せるとして、脚本は書けるはず。

 テレビの時代を超え、電脳網に拡散する作られた情報に踊ることをエンタメと定義できる時代。

 無害だし味もしないけれど、米に混じっていたら見た目がよくないので悪とされるクサネム。描きようによっては、コアラのマーチに混じっている宇宙人コアラを見つけたらハッピー、みたいな存在にできるのではないか。

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 それは話半分にしても。
 クサネムが混じっているから安い米。つまり私が食べているような米。これは流通させたら売れるのではないだろうかと、本当に思う。謎な「国内産ブレンド米」みたいな商品よりも「クサネム混入コシヒカリ」のほうが安いのだが、もちろん店頭にそういう商品はない。

 クサネム食べ慣れている私としては、そういうのが売っていれば、断然、クサネム米をセレクトするがなあ、などと。

 末端価格だけを見ている店頭の人間だからこそ、そう思うのであって、おばあちゃんは、そりゃ「クサネムは雑草で、雑草は抜くもので、クサネムが混じっていなければ高い米なんだから、しのごの言わず仕事しな」って。亡くなった祖父の田んぼで売れない米を作る若者たちに腹を立て続けるのだろうが。

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・東京で暮らしていた叔父と叔母が、五月にも新譜を出す息子を残し、広島の奥地で田んぼを守るひとり暮らしの祖母と同居することに。私の母が長女で、叔父は弟。いっしょに暮らそうと皆が言ってきたが、まさか広島に帰る決断をされるとは…私はまだ息子を祖母に見せてもいない。逢いに行かないと。

twitter / Yoshinogi

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 そんな祖母と、息子夫婦が同居することに。叔母は、けっこう気が強いひとだから。強くは言えない祖母の代わりに、言ってしまうかもしれないと。祖母がひとり暮らしでなくなることは安堵しているのだけれども、田んぼ問題では一波乱どころか大荒れもありうるなあと、気を揉んでいる我が一族の近況です。

 

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