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『離乳食としてのヨーグルト』の話。




 離乳食としてのヨーグルト、などというたいそうな書きかたをしているが、それはつまりふつうのプレーンヨーグルトである。

 ちなみに私の息子は、生後九ヶ月で、離乳食を一日三食にしたところ。しかし、これまで、ヨーグルトを食べさせたことはなかった。

 それが先日、ひどく便がゆるくなりはじめ、数日続くという状態の果て、いわゆるおむつかぶれになって、私のいないあいだに、妻が病院に連れて行った。私の住んでいる自治体では、乳幼児にかぎらず子供たるもの、どこの病院に行ってもタダ(そういうパスポートが発行される)なので、同じ地区で市販薬を売っている私にとっては、ありがたいんだか商売の邪魔をするなというべきなのか複雑な心もちではあるのだけれど、もちろんタダだというのに薬屋の息子だから薬屋で薬を買って経済を回せ、などと言う気はさらさらなく、苦しい家計が助かるのならば近所の先生に看てもらいなさいというところにブレはない。

 結果、処方されたのが。

 ラクトミン散。
 それに、
 コンベック軟膏。

 ゆるーーーーい、お薬。というか薬と呼ぶのもあれな気がする、市販薬のほうがずっと強い成分のものがあるというたぐいの、気休めに出しておきましょう的な。いや、先生もお仕事なので、放っておいたらゆるい下痢なんて治るし、あんたこんなかぶれくらいでキャーキャー言っていたら、これからの真夏、おむつのなかなんて地獄だぜ。と言いたいところをぐっとこらえて、間違っても毒にはならない気休め薬を、診療点数乗っけておこうという面もありましょう。先生にしてみれば私が払おうが税金で払われようが関係ないどころか、いらん薬で金むしりやがってヤブ医者メと言われるおそれがないわけだから、お子様無料パスポート保持者には、あたりさわりないものを出血しないで大サービス精神なのかもしれない。

 それはともかく。

 コンベック軟膏。
 これはもう炎症を抑える、それだけのもの。効き目的には、薬草に詳しいおばあちゃんがいるなら、彼女に庭で見つくろってきてもらった葉っぱをすりおろして塗ったほうがたぶん効くんじゃないかなというくらい。余談ですが、そういうゆるい塗り薬でも、決まって取扱説明書には、目のまわりの皮膚に使ってはならないということが書いてある。確かどこかの勉強会で講師の先生が目に入って危ないからではなく、目のまわりの皮膚が薄いから弱い薬でも吸収しすぎる可能性があるのでそう書いてあるのだと言っていた気がするのだけれど……息子の肛門まわりにその軟膏を塗り込めながら、これぜったい全身でもっとも吸収するだろう直腸にいくばくか入っていっているだろうし、それがなくても肛門まわりの皮膚は目のまわりに負けず劣らず薄い気がするがなあ、などと疑問に思いましたとさ。でも、おむつかぶれは適用なのである。たぶん、目のまわりに使ってはいけないというのも、別の理由があってのことではないかと邪推する。うっすら聞いたことがあるが、戦後の美人さんは、ステロイド薬を多用すると皮膚が薄くなり肌の色が白くなるという副作用を、化粧として流用していたらしい。そういうのをやめとけよっていう意図もあり、コンベック軟膏はステロイドを含んでいませんが、軟膏のたぐいには、目のまわりに塗るなよ条項が、いまも生きているのではなかろうかとか。

 話がそれた。
 主題はコンベック軟膏ではない。

 ラクトミン散。
 見るだに怪しい、いかにもな白い粉。
 そういえば先日保釈されたひとは、白い粉をまぶした指で全身でもっとも吸収するだろう直腸にいくばくかどころか塗り込めてトリップされていたそうですが、ラクトミン散は口から飲むものです。とはいえ、相手は離乳食もぶっぶぶ吐き出すようなやからだから、舐めさせると言ったほうが適切。

 別に苦くもなんともないし、トリップもしない。乳酸菌。市販薬でいうと、ヒトにはヒトの乳酸菌(深く読むと、よくわからなくなるフレーズだが)でおなじみ、ビオフェルミンと同じようなもの(市販では医薬部外品であり、実は薬屋でなくても売れる)。ビオフェルミンも生後三ヶ月から飲める(錠剤ではなく細粒をだ。お気をつけあれ)とうたっているけれど、その後に続く効能は、首をかしげるような文面になっている。

 ・軟便
 ・便秘

 真逆やないか。

 おしりがかぶれても死にはしないが、お子様の下痢は腸内に死にもつながりかねない悪い菌が繁殖しているのを洗い流す自浄作用という面も強いので、下痢止めを安易に出さないという掟がある(けれど商売人は売ってしまうバカだから、市販薬で三歳以下に使える下痢止め薬は存在しない)。

 そこで選ばれる乳酸菌。

 下っていれば止まり、止まっていれば出る。
 魔法か!?
 万能薬か!?

 文面上は控えめに、整腸作用と表現される。

 でもさあ冷静に考えて、医薬品でもなく、ゼロ歳児から飲めるようなやさしい乳酸菌が、口から入って、本当に腸まで届いてそこで繁殖したりするものだろうか。胃酸どころか、唾液にだって殺菌作用はある。難関が多すぎる気がする。いっそ先日保釈されたひとのように直接塗り込むのなら納得もできようが……

 調べてみると実際、近年の論文で七組の一卵性双生児で実験してみたがヨーグルトを食べても食べなくても有意な差は発現しなかったというものがある。うーん私もそっちに一票入れたい程度の期待しか乳酸菌には持てない。

 結局、数日で息子の下痢は治まった。
 ラクトミン散は劇的には効かなかったが、治ったということ、さらには私がいらんことにそんなの薬じゃなくてヨーグルトみたいなものだと発言したのをなぜか逆手に受け取って、それ以来、妻は冷蔵庫にプレーンヨーグルトを常備するようになった。

 最初は、幼児用ヨーグルトなどを買ってきたので、まだ卒乳もしていないのに砂糖なんて百害あって一利なし、やつらは商売人でバカだから、ヨーグルトから酸っぱさを抜いて砂糖も加えて「あらプレーンヨーグルトは食べなかったのにこのメーカーさんのは食べるわ」というリピーター狙いなんだよ食わせるならプレーンヨーグルトすっぱくて食わないならそれこそビオフェルミンでいいしすっぱくて顔しかめていたものを食べられるようになったとすればそれが味覚の広がりというものだ……と、なぜかプレーンヨーグルト推進派のようになってしまった私のあおりかたも熱すぎたのか。

 むろん、離乳食に使うのなんてほんの少しで、冷蔵庫に常備されていると、なんとなく手を伸ばしてみたり、これまで晩ご飯のサラダにヨーグルトなんか使ったことがないのに、そういうものを作ってみたり。

 つまり私も、いまやヨーグルターだ。

 酒飲みだし、玄米食だし、キシリトールガム中毒だし、便秘で悩んだことは大人になってから記憶にない私には、乳酸菌は、どう働くのか。本当に働くのか。一ヶ月ほどヨーグルトを定期的に食べ続けているが、いまのところなんの変化も感じられない。

 思い込みが肉体に作用する、プラシーボ効果なのでは? と逆に疑いを深める始末。

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ここ何十年もの間
健康にまつわる説が
次々と変わっていく中で
常に健康に良い食品として
不動の地位を守り続けた
ヨーグルト様ですよ!?

kinounanitabeta

よしながふみ 『きのう何食べた?』

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 全世界の集団催眠が解けないのか。
 これこそ真逆の効能が並列表記される整腸作用の秘術なのかも。ヨーグルトを食べてもなにも起こらない。なにも起こらないということは健康ということで、多くのひとが望んでいるのは、まさにそれ。

 息子の下痢は勝手に治ったんだと思うがなあ。ヨーグルト食べてもなんにも起きないし、好きでも嫌いでもない味だなあ。そう言いつつ、我が家にもヨーグルトはこの先、常備されるようだという事実。

 まだ言葉も知らないゼロ歳児が、これで治るわよと舐めさせられるが劇的には効かないし効いたかどうかも判別できない乳酸菌の奇跡。信じられるものをそばに置いておくと安心、という意味で、ヨーグルト様信仰は、過去もいまも未来も世界を席巻する一大宗教なのかもしれない。けっしてこれで万病が治り、全人類が救われるわけではないが、心安らぐヨーグルト様の教え。

 食して、信じよ。

 教義がシンプルゆえに国も言語も飛び越えて、布教が進む。
 うちの冷蔵庫にも。
 私は無神論者なのに。

TKSM-016

 最近こういうヨーグルトメーカーが売れるから、世のひとは買うどころか増やしてリッター単位でヨーグルトを補給しているみたい。そうなってくるとヨーグルトだけでおなかいっぱいになってしまうので、自然とコーンフレークにヨーグルトがけとか、サラダにヨーグルトがけとか……それが主食になったらば、そんなもん、腸の調子は良いでしょうさ。というわけでヨーグルトヘビーユーザーの乳酸菌のおかげという言葉は信用ならない。コレステロール満点の食事でカラダの不調をうったえる肥満気味のひとが、食事の半分をヨーグルトに置き換えれば、もちろん痩せる。だがそれは奇跡ではなく、一種の置き換えダイエットにすぎぬ。過剰に信奉してはいけない……と言いながら私はヨーグルトを食べることに抵抗がない。信じていないものにも拒否されない宗教観を確立したヨーグルト様は、他に類を見ない御神菌。やはり偉大と呼ぶべき存在ではある。









 

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