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『本当は切ないヨシノギ童話/タコ焼きとイカ焼き』の話。



 昔々、イカとタコが男夫婦になって、所帯をきりもりして、ずいぶんとながいあいだ仲もむつまじく暮らしていた。イカの仕事はイカ焼きを売ること。タコの仕事はタコ焼きを売ること。そう決まっていた。
 タコは、その日も自分の足をちぎっては小麦粉と卵の衣をつけて鉄板で丸め焼きソースをかけて客に振る舞っていたのだが、あんまり幸せがすぎるもので、客に向かってノロケはじめてしまった。ところが客は、ああタコよおまえはなんて可哀想なんだと同情しはじめたのでどういうことかと耳をかたむけたら、おまえは毎日、こんな妙なかたちの鉄板を背負って市場までやってきて、自分の身をちぎっては焼いているが、客がよろこんでいるのはなんだい? おまえのちぎった足なんてすっかり隠れてしまって、粉と卵とソースの味に金を払っているのさ。なんならおまえの足なんか入っていなくても売れるよ。それにひきかえ、おまえの愛しい愛しいと言っているイカはどうだい? あれは毎日、手ぶらで出かけては、自分の足をちぎっているのはおまえと同じだが、ちょいとしょうゆをたらして火であぶるだけさ。でもどうかっていうとみんなは、タコ焼きよりもイカ焼きのほうが高級だって思っているね。なにせ、イカ焼きはイカの身がそのまま焼けているのが見えるからね。おまえが焼いている、それをごらんよ。おまえがイカと暮らしたいってために必死でちぎった足も、見えやしない。損な役目だね、おまえは。
 言われてみれば毎日、イカはタコよりもずっと稼いでいるのに、いつだって早くに帰ってきているのだった。鉄板も粉も卵もソースも背負っちゃあいないのだし、自分の足を焼く手間だってずっとラクなのだから、それはそうに決まっている。なんだかむしょうに自分ばっかり損しているような心もちになったタコは、夜のいとなみのあとで、ピロートークみたいに甘くなく、むくれて言ってみた。

「おいらタコ焼きを作って売るのがバカらしくなっちまった。あしたからは、仕事をとりかえてみたいものだが、どうだい」

 イカは、なにを突然にそんなことをと思ったけれど、タコがあんまりにも顔を赤くしてふくれっつらなので、かわいいやらおかしいやら、やすうけあいしてしまった。そうして次の日、イカは慣れない妙なかたちの鉄板を背負って出かけ、タコは手ぶらで出かけた。たどたどしい手つきで、イカは自分の足をちぎっては小麦粉と卵の衣をつけ、鉄板で丸め焼きソースをかけて客に振る舞いはじめたが、客はイカの容姿がすぐれていることもあって、仕事がおそいのも、おしゃべりできる時間ができたとよろこび、タコ焼きをうまく丸められないイカのことを愛らしい愛らしいと言っては次々と客が集まって、大にぎわいだった。かたちは悪いし焦げてもいたが、客たちは、だあれもタコ焼きの具がイカの足になったところで気にしたりはしなかったし、一生懸命タコ焼きを作るイカを眺めるのに夢中で、具がイカなのかタコなのか気がついてもいない客だって多かったのさ。
 いっぽうのタコは、なんの道具もなしに、自分の足をちぎって焼くだけだなんてラクな仕事だと、よゆうをぶっこいてイカ焼きを焼きはじめたのだったが、もちろん客たちはイカ焼きだと看板が出ているから買ったのに、食べてみるまもなく見るからに焼いたタコの足だったから、ぶち切れて暴れ出した。タコはあわてて、いや違うのですこれは実はタコ焼きでと言ったら、これのどこがタコ焼きだ、タコ焼きってのは丸くてソースがかかったのだろうがと、客たちの怒りの炎に油を注ぐだけで、ついには暴動が起こって、タコはタコ焼きでもイカ焼きでもなく、酒蒸しにされて、足どころか身のぜんぶを食べられてしまった。うまかったらしいよ。
 イカは、慣れないタコ焼き作りと営業トークと鉄板を背負って帰るのでくたくたのしおしおになって、こんなになったのもタコが仕事をとりかえようなんて言いだしたからだ帰ってきたらお仕置きプレイがはかどりますなと張り切っていたのだが、タコが帰ってくることはなく、そのまんま数日がたって、風の噂でイカは真実を知ったんだって。


吉秒匠 『タコ焼きとイカ焼き』

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IkaTako.jpg

タコ殴りにする、という表現がある。
ボッコボコにするという意味だが。
これ、調理法からきているらしい。
タコをやわらかく煮るために、
彼は大根でタコを殴った。
何度も、何度も。
洋食でも、肉叩きという道具があるが。
物理的に素材の細胞を破壊して、
ほらやわらかくなった、というのは、
単純な理屈ゆえに、世界中で古代から、
実践されてきた方法なのだろう。
で、それはそれとして。
写真のそれは、イカである。
紅ショウガと和えてある。
なんのためにかといえば。
「タコ焼き」
を作るためだ。
近ごろでこそ食品偽装の問題もあり、
縁日のタコ焼きも「大タコ入り」などと、
はっきり書いて本当に入れているけれど。
私が幼いころには、けっこうイカだった。
タコよりもイカのほうが安いから?
まあそれもある。
だが、試してみて欲しい。
ボイルしたイカを、見えないところで、
タコ焼きの具にして、ソースをかけて。
「はい食べて」
と出したら、まずバレない。
そうだとすれば、牛肉の銘柄を偽って、
刑務所に入れられる職業なわけでもなく、
ただの自宅のタコ焼きパーティー。
タコをタコ殴りにして、さばくよりも、
半解凍したロールイカを、さばくほうが簡単。
四角いから、整然と欲しい数に切れるし。
殴らなくても、そこそこぷりぷりやわらかい。
業務スーパーで買える冷凍タコのぶつ切りとか、
完全にゴムです。あんなのよりずっといい。
欠点は、ホットプレートだと目撃されること。
そこでボイルのあとで、紅ショウガ和え。
ほんのりピンクに染まる。
乳白色不透明の生地に沈めると、タコに見える。
ぜんぜん、タコにこだわりはないのです。
なんならニンニクとかアボガドとかチキンとか、
そんなのまでタコ焼きに入れているくらい。
だから、タコに似せる必要はないのです。
でもなんだか、こうしたい。
幼いころ、それタコちゃうやん、と言ったら、
「イカ焼きって書いたら紛らわしいやろ」
と答えた、テキ屋のおっちゃんを思い出す。
これはタコ焼きという料理で間違いない。
似せるけれど、ニセではなくて、亜流。
二十世紀は、おおらかな時代だった。
美味ければよかった。
そしてそれこそが真実なのに。
タコ焼きのタコにこだわって、
縁日でゴムみたいな大タコが噛みきれず、
涙目の二十一世紀人はなんてアイロニカル。
イカにすればいいのに。
それを、許せばいいのに。

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IkaTako2.jpg

 ↑焼いているところ。紅ショウガでの色づけによって、実にタコっぽい。白いのは、ニンニク。タコ焼きの具としてのニンニクが大好きなのだが、この調理法はニンニクをホクホクにすることとひきかえに翌日の臭い醸し出し感が半端なく、出かけない休日の前にしか許されざる特別な晩餐である。

 ふつうに考えて、太古のタコ焼きが具材をタコに限定していたわけはない。小麦粉と卵とダシ汁の球。大阪ではいまでも、ほっぺ焼きという名称で、具なしのタコ焼きが駄菓子の一種として売られている。中学生の帰り道の買い食いスポットとしてなら、タコが入って三百円は高すぎるので、具なしで百円。中学生の特に男子とかはアホなので、原価十円もしないだろう、ほっぺ焼きを何皿も食ったりする。家は目の前なのだから帰ってほっぺ焼きパーティーをしろよというところだが、買い食いというところが重要な気分はよくわかる。高校を舞台とした某バスケットボールマンガで、イケメン先輩が某集客の落ち込みに悩むハンバーガーチェーンを彷彿とさせる店においてトレイに山盛りのハンバーガーを毎日食べているかのような描写が出てくるが、それに憧れて実際の高校生バスケットマンが集客に悩む某店でハンバーガーを山積みにしているのを私は見たことがない。百円でも高すぎるのだと思う。ハンバーグはいらないから、バンズにケチャップとマスタードを塗って五十円で売ればいい。ハンバーグを挟まないで半額ならば利益率的には上昇しているはずだし、高校生の特に男子はバカだから、五十円バーガー(と呼んでいいものかは微妙になるにせよ)ならばトレイにピラミッドを作るかもしれず、某集客に悩むハンバーガーチェーンの起死回生の策になるかもしれない。事実、私の通っていた高校の食堂では、男子生徒の強い要望によって、わかめスープ三十円なるメニューができた。食堂でダベりたい。けれどもっとも安いメニューでも素うどんで、実のところうどんを食いたいわけでもなく、時間を潰したいだけなのである。おばちゃん頼むよ、校則でなにも頼まず食堂にいると出て行けって言われるんだ、もっと安いメニューをさあ。そうしてできたのが、寸胴で常時沸いているラーメン用の鶏ガラスープにわかめをぶっ込んだだけという代物。しかしこれが売れた。何杯もそれだけで粘るやつ続出で、男子に追随して女子も中華わかめスープをすすりながら談笑するという習慣ができあがり、ついには職員会議で塩分の摂り過ぎが問題視されるようにまでなってしまった。その後、私の在学中には、わかめスープ用の薄いスープが別途沸かされるようになり、おばちゃん大迷惑なことになっていたが、いまでもあのメニューはあるのだろうか。

 まあ、つまり。
 イカでもタコでもいいじゃないか。
 鉄板を囲む空気がおいしいものなのだ、こういう料理は。


tako

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※関連記事

『たこ焼きの配合』のこと。

『ルンペルシュティルツヒェン』の話。


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