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『永久に壊れない洗濯物干しハンガーを入手する』のこと。




 あれやこれやで、かき氷も食べず花火も観ず、神社の裏の暗がりで、あのこの浴衣の隙間から指先をすべり込ませてフリルに触れて着物なのにブラしてるんだ当たり前でしょもうっ、みたいなこともなく夏が終わり。それでも夏はあったのだという証拠に、洗濯物干しハンガーがこのような状態に。

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 外干し、していましたので。
 そしてなぜかそういう製品なのに、プラスチックで、できているもので。それは紫外線でボロボロになります。あのこの肌のように、新陳代謝して元にもどったりはしない一方通行。
 いわゆる、劣化。

 ……気に入りません。
 ものに寿命はあるものだとしても。

 幼いころ誕生日に、トラックのタイヤが欲しいとねだったことがある。布でくるんで椅子にしようと思ったのだ。幼いころの私なら、椅子というよりもハンモックとして、トラックのタイヤの穴にぴんと張った布の上で昼寝ができると思ったのだ。タイヤはもらえなかったので、叶わぬ夢だったわけですが。

 そういう性分なのです。大きな丸い椅子や、ハンモックが欲しかったのではなく、それを作る材料が欲しかった。

 だから、プラスチックのハンガーが腹立たしい。洗濯バサミが取れても、チェーンでつないでしまう。骨組みが折れたら、補強材を入れてパテで直してしまう。そうせずにいられない。そういうことをもうこれ以上は直しても使えないというまで続けたら、実のところ、補修にかかった費用で洗濯物干しハンガーがいくつも買い直せてしまうのである。

 今度は、壊れない洗濯物干しハンガーを買う。
 そう決意して、オールステンレスの製品などを見つめる。

IRIS OHYAMA

 ステンレスはいいけれど、細っ。大の大人の厚地なジーンズなんてぶら下げたら曲がってしまいそうな風情が漂っている。

 中途半端にステンレスのものなんて買ったがために、プラスチック製品のように修復不能限界が訪れず、折れ曲がっても千切れたりはしないそれを直し続けて暮らす羽目になりかねないと想像して背筋が寒くなる。値段は倍でもいいから、倍の太さの骨組みにして欲しい。そう願っても、そういう製品はない。追加情報として書き加えておくが、私は洗濯物干しハンガーも売っている店で毎日働いている。日々、様々な「こんな製品はないのか」というお客様の声をメーカーへ橋渡しし、この世に存在するものならば仕入れるということをしているのだが。

「壊れない洗濯物干しハンガーはないの?」

 という相談を受けたことは、いちどたりともない。つまり、世間の一般常識として、洗濯物干しハンガーとは劣化して壊れるものであり、だからしょっちゅう新聞折り込みチラシに安売りしていますと載るわけで、作る人も売る人も儲かるのだからそれでいいわけで、客が望みもしないのに超人ハルクが踏んでも壊れない洗濯物干しハンガーを一万二千円で売り出したりはしないという道理。おそらくは、多くの人々はステンレスの製品も、折れ曲がったりしたら捨てて新しいのを買うのだろう。

 私が欲しいのは、長寿命な製品ではなく、恒久不変な不死の洗濯物干しハンガーなのだけれども。

 売っている私が言うのだから間違いない。
 そういう製品はないんだよ、私。
 あきらめなさい。

 あきらめた。

 そして、コロッケを想う。

 たとえば、だれも望まないからどこにも売っていない、イチゴ大福入りコロッケを食べたくなってしまったら。それを食べないと、世をはかなんでしまうような精神状態になってしまったとしたら。

 総菜屋に行って、売ってくださいと問うべきか?
 いや、行くべきは和菓子屋だろう。
 その帰りにスーパーマ-ケットに寄って、ジャガイモとパン粉を買うべきだ。たぶんまだ卵と揚げ油は家にあるから。

 それで作れる。

 自分でコロッケを作ることのできるひとは世に多い。ならば、総菜屋さんでコロッケが売っているのだって、製作の手間を買っているといえばそういうことなのだ。逆に言えば、売っていないものでも、欲しいものがなにかを明確にわかっていれば、材料はそろえられるはずだ。なにせいまの私は、両親にねだらなくても自分でトラックのタイヤを買ってくることだってできる(いまはもう、大きくてぴんと張った丸い布の中心で眠りたいという欲求は枯れてしまったが)。

 考えてみる。
 一秒だけで済む。
 欲しいのは、不死。
 単純に言い換えれば、

「永久に壊れない洗濯物干しハンガー」

 とすればやはり、ステンレススチールか。極太のステンレス針金を買ってきて、ラジオペンチで……いやでも、そうすると細かい部分の作業が手間だ。なにもオールステンレスにこだわらなくても、要はすぐに壊れるプラスチックフレームの部分が強固でさえあれば、洗濯ばさみはプラスチックでかまわない。いちばん上の、洗濯ロープに引っかけたり、物干し竿を掴んだりするアーム部分は、オールステンレスの製品よりも、プラスチック製品のほうが便利そうでもある。

 あれ?
 強くなってほしいのは、つまり四角い土台の部分だけか。

 だったら金属のメッシュネットを買ってくればいいのでは。
 こういうの。

IRIS OHYAMA

 これを地面と並行にぶら下げて、そこから洗濯ばさみを垂らす。洗濯ばさみを垂らすのは細いチェーンでもいいし、100均やホームセンターで、取替用のこういうのも売っているじゃない。

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 これ使えば、極論、曲がらないで、そこそこ軽さがあるものであれば、なんでも洗濯ハンガーになれるということだ。
 と、思索して思い出す。

 物置に、転勤前の家から外してきた網戸があったはず。前の家には入居時、網戸が入っていなくて、仕方なく自分で揃えて、自分で買ったものだから、次の引っ越しのときに持って出たのだけれど、もちろん次の家では窓のサイズが違うから使えない。だから物置にある。そんなものをなんのために置いているかといえば、こういうときのためではないか!

 網戸のサッシはアルミニウムである。なぜ彼らは空き缶を拾うのか。屑鉄屋で高額買い取り実施中だからだ。錆びずに軽いアルミニウム。物干し竿だって、ステンレス製よりもアルミ製のほうが高い。同じ錆びにくい金属でありながら、圧倒的にアルミのほうが軽いからである。ランドリー用品において軽さは重要。しかしてアルミニウムは地上のどこの番地においても高額買い取り中の稀少金属。

(いちおう追記しておくと、吉秒氏の「錆びにくい」という発言は誤りだ。アルミニウムは非常に酸化しやすい=錆びやすい、のだが、それがあまりにも著しいので空気に触れた表面すべてが酸化皮膜となり、結果的に内部が保護されて「すべてが朽ちてはしまわない」というのが正確。けれどもまあ、それを「錆びにくい」と言い切ってしまうのが販売員という職業ではあるので責めるのはやめよう)

 そんな高級品が、物置に何枚も。
 さっそく分解。

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 金鋸で長さを揃え、命みぢかし多ヶ所骨折中の我が家のプラスチック洗濯物干しハンガーと同じサイズにする。
 そして接続できるように穴を開ける。
 ドリルは穴を開けるために。

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『ドリルは穴を開けるために』の話。

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 数ヶ月遅れで読んでいる週刊少年ジャンプが、こんなときには頼りになる。BL雑誌の多くはB5サイズなので固定土台とするには面積が狭すぎるし、大判サイズのマンガ雑誌を出している某社様のものは、こんな作業に使うのは畏れ多い。数ヶ月遅れで読むなら単行本でよさそうなものを、なぜに少年誌は雑誌を買っておくかといえば、捨てることに気兼ねを感じないからだ。

 我が家の近所には人の住む家がなく、目の前が駅なので、人通りは多い。車やバイクどころか救急車やパトカーもすぐそこを行き来する。日曜日には街宣車がガナる。赤ん坊が泣こうが、ドリルでアルミニウムに何個も穴を開けようが、気にする人はいない。

 できた。
 仮組みしてみよう。

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 ……強そうだ。プラスチックのハンガーには折りたたみ機能がついているが、それを再現すると強度が落ちるので、このまま行こう。収納場所には困っていない。困っているのは寿命。欲しいのは不死。ゆえに強度に特化。これこそ、イチゴ大福コロッケを提供できるのは総菜屋ではなく、自分自身の料理の腕であるという真実。こんな強そうな洗濯ハンガー、見たことないわあ。うっとり。

 カドが危なそうなので、ドリルにヤスリをつけて少し磨いてみる。そうそう。家にドリルがあれば、先端をヤスリに替えて、刃物を研いだり、まな板の表面を削ったりするのにも便利です。吹き付けるとゴムになるスプレーというのも手元にあるのだけれど、見た目が美しくないことになりそうなので使わなかった。以前にどこかで書いたことがありましたが、この塗料のおかげで、ひとりの美人コントラバス奏者さんが涙を流して私に感謝してくれたことがありました。見た目は不格好になるが、彼女の座高の高さにぴったりくる両切りボルトと、吹き付けたり塗ったりすればゴムになるその塗料は、ステージに傷をつけず演奏中にズレることもない滑り止めとして活躍したのでした。そういうもの。欲しいものはひとそれぞれで、ぴったりくるものがなければ、作ればいい。いまやたいていの材料は、手に入る。店員さんに相談してみてください。

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 上部のぶら下げるアーム部品はプラスチックのほうが便利かなあと最初は思っていたのですが、我が家の劣化洗濯物干しハンガーは、その部分も滞りなく壊れているので、新しいものをどこで調達すればいいのか考えているうちに面倒くさくなってきた。結果、手近のクローゼットにあったステンレス製スラックスハンガーを腕力で折り曲げて整形。

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 腕力といっても二本のペンチに万力、ハンマーまで使ったから、これを外に干したからといって巨大台風ごときで元の形にもどることはありえない。そもそも、台風が来たら外には干しませんし。猫が飛びついてぶら下がるくらいでは平気だと思う。

 やっと洗濯物干しハンガーらしくなってきたので、最終工程として、洗濯バサミを取り付けます。

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 道具箱にあったカーテンレール用のリングと、チェーン、前述した取替用ピンチの三種を、まんべんなく配置してみる。チェーンで取りつけるとシャリシャリ音がするし、カーテンレールのリングはスルスル動き回る。第一印象としては、やっぱりそれ用に作られた角形ハンガー用汎用取替ピンチが素晴らしい。

 これで、いちおうの完成。
 この道具の不死、という定義は、つまりは私よりも長生きするということであり、世のアルミニウム製網戸が古民家でも壊れず嵌まっていたりするのを見るかぎり、けっこうな説得力のある不死が描けのではなかろうかと自賛する。少なくとも、直す私の指先と思考が絶望的に衰えるまでは、我が家で洗濯物をぶら下げ続けてくれるだろうと期待しつつ。

 壊れない洗濯物干しハンガーを入手した顛末。
 以上。

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