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『芸術保険制度』の話。


 前回の話の続きのようになるのだけれども。
 現在公開中の、ももいろクローバーZ主演映画『幕が上がる』の原作者である、平田オリザ。

幕が上がる

 そのひとを撮ったドキュメンタリー映画『演劇』1、2を立て続けに観た。

演劇

 そのなかで平田オリザ(って本名なんですって。父自身は漢字名なのに子にはカタカナでオリザとつけたという。思いきった父だ)が、演劇や映画も健康保険のようにしろと吠えている。

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 いま休職するかたの最大の要因はメンタルな面です。いまどき、肺炎で、結核で半年休みますなんてひとは、ほとんどいないわけです。でも、医療制度や保険制度は、従来の疾病疾患を中心に想定されて、すべてできていますよね。健康診断でもそうですよね。予防なんていうのもまさにそうです。


 映画『演劇2』

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 聞きながら、平田オリザともあろうものが菅直人元首相と同じく「疾病」を「しつびょう」と発音していたのもおもしろかったのだけれど(正しい読みは「しっぺい」)、まあつまり、どういう話かといえば、いまこの国で、カラダよりもココロを病んでままならなくなってしまうひとの多さを認識しているのかと。国民皆保険でカラダの病気を三割負担で治すことの有意性を理解しているのならば、数百円で映画や演劇が見られるようにすれば、国民のココロも潤ってみなが哲学をもち、自殺者も減って健全な毎日が送れるようになり、結果的に国力は上向くことも理解できるはずだと。

 それが現代の予防医学ではないのか。
 芸術保険制度を定めるべし。

 そういうようなことを言っていて、ああなるほどなあと感心したりもする一方で、彼の劇団は劇団員に給料未払いである。詰め寄られ、平田オリザは言う。

「助成金を削られたのが大きかった」

 で、土地を売ろうかと思っているのだとか、そういうことを劇団員に語り出す。つまりそれは今月も給料は出ないということである。

 その同じ口でさらに、平田オリザは練習に穴を開けた劇団員を叱責する。役者として今後もやっていくのならば、それはまずいよキミ、考えなくちゃいかんよ、だいたい、休みだと勘違いしたとかいうそれもさあ。

「舞台が決まったら練習は休めないものなんだよ」

 練習は休めないが給料は出ず、あまつさえ平田オリザが借金のために売ろうとしている土地は稽古場なのだった。冷静に考えて、劇団員たちに明日はない。未来が想像できない、そういうひとたちがヒトの心に訴えかけるなにかを演じたりできるのか。だれかの心を潤したりできるのか。まずは自分たちが潤わなくては……せめてつつましくも明日は明日の風が吹くさとささやかで幸せな夢のようなものくらいは見られるようでなければ、ささくれた心の演者が心を病もうとする者を救ったりできるのか。

 一周まわって、つまり彼らは税金がないと演劇ができないのであり、その劇団の長が心の病がどうとか三割負担だとか言っていても、つまりもっと税金がうちに流れる方法を考えろと吠えているようにしか聞こえない。

 非常に生々しいドキュメンタリーで、五時間ほどをまったく退屈することなく、いったいなにがおもしろいのかといえば、「演劇はたのしくなくちゃ演劇じゃないんだよ!!」とワークショップで生徒たちに語るそのひとが、映画の全編通して金の問題で頭を抱えている姿。

 土地を売る話までしているのだから、小説『幕が上がる』のヒットも、ももクロでの映画化でCS放送では特集が組まれたりといったようなことも、収益はすべてまた自転車操業の狭間に消えていくのであろう。そういう図式は、つい先日、別の業界で見た。

 ここが前回の話にかぶってしまうのだが、プロレス。

 あれも一種の演劇だ。観客の心を潤すことが役割なエンターテインメント。豊かな人生や多様な価値観を人々に持ってもらうことが現代の予防医学であるのならば、プロレスだって一翼をになえる。けれどプロレスに税金での補助なんてありえないので、スポンサーになってくれる個人や企業が不可欠。そのあたりがうまく回らないと、いくらカラダが資本のエンタメだとはいえ、会場が借りられないのでは客を呼びようがない。

 そうして、プロレスを休んで、トークショーをおこない、ファンとの交流会をおこない、他団体に参戦し、女子レスラーは着用済み衣装を売る。

 演劇が記事になることが減っている。その理由を平田オリザは「映画に食われている」のではないかと分析している。ところで昨日の夕刊では一般紙のスポーツ面でスポーツと見なされず記事にされることのないプロレスが、社会面でプ女子現象を巻き起こしているとまた記事にされていた。でも、きっと平田オリザはプロレスをライバル視することはないのだ。一方、プロレスの側は、演劇を意識している。大日本プロレスが数年にわたりシェイクスピア劇を演じて成功を収めたのは象徴的な出来事であった。

 よくよく考えてみると、ドキュメンタリー映画『演劇』1、2を観て、なにがいちばん私の心に引っかかり、記憶として残ったかといえば、それ。平田オリザが「芸術保険」という表現を使っていることでもわかる通り「芸術」なるものを特別視している、その感覚。

 どこの国でも、心のケアは教育ではなく芸術と宗教がになってきた。しかしこの国では政教分離がはっきりしているから、宗教に直接支出するわけにはいかない。だったら必然的に芸術、文化に教育なみの高水準な支援があってしかるべきなのに、そうなってはいない。

 そういう話の先で、税金ばかりでなく企業も金を出す保険制度が理想だと思うのです、という論法なのだけれども。

 平田オリザの口から出るのは「芸術保険制度」。
 あれ、さっきは芸術、文化に金を使えという話だったよね。文化どこいった。

 観客の心を潤す。それが現代の予防医学である、という主張には全面的に共感するのだけれど、しかし私は金銭的な補助をもって国民の心に潤いを与えるその保険の名に「芸術」などと狭いくくりを冠したくはない。むしろ「文化」=「カルチャー」をサブカルチャー含めて支援するのが予防するにはもう遅い、すでに毎年三万人が自殺してまだ増える勢いのこの国への即効性のある処方ではなかろうかと強く、強く、思う。

 プロレス劇なるものに男性のみならず女性が癒される近ごろ。
 もしかして最近のこの国が病んできたのは、地上波テレビ放送のゴールデンタイムでプロレスが放送されなくなったからではないのか。助成すべきだ。

 ギャルゲーとボーイズラブがどれだけの男女の心のささくれを治療しているか、その効能をきちんとクールジャパン大臣閣下が無視せず直視しているならば、弱小ゲームメーカーと出版社に助成すべきだし、いっそ公共図書館での一括買い上げを検討してもいい。

 さらにはサブカルの定義を大胆に広くとるべきだ。

 各地の地下アイドル、メイドカフェにも助成金を与えるべき。三割負担でオムライスにケチャップのハートを描いてご主人様が幸せになる魔法をかけてもらえたら幸せなご主人様も増えるし、アイドルやメイドという雇用も創出する。

 そこをカルチャーだと認めれば、自然と古来から人民を癒してきた風俗だって文化だろう。

 お気に入りのホステスやホストがひとりいれば、それだけで人生バラ色。ホストに貢ぐためにバリバリ働くのだって人生だ。橋下さんがアメリカ軍に風俗を活用してくれと進言したのは叩かれたけれど、三割負担で毎週ソープで抜いてもらえたら、自殺者は確実に減る。確実に減るということがあきらかなのに、なぜ国の施策として国営ソープランドを運営しない?

 思えば、助成金もなしに人々の心を癒して一世紀以上続いているプロレスという劇のなんと偉大なことよ。自然発生的に人々を癒すために生まれ滅びぬアイドルやホストクラブや風俗嬢たちの、なんと神々しいことよ。

 平田オリザ先生の熱弁を聞いて、失礼ながら、感じたのはそういうこと。
 助成金を得るために芸術だ文化だと認めさせる実績を作らなくちゃならない。そのために奔走している、それが「芸術家」だという。芸術保険制度で自殺者も休職者も減る? それはそうかもしれない。でも、私の実感としては。

 両親や祖父の世代が年間に三万人も自分で死ぬ国で、生活水準が低く、狭い世界に生きざるをえない児童たちが真に出逢えないのは、高尚な芸術なるものなどではなく、私が子供だったころにはテレビでだれもが観ていたプロレスや、川原で拾ったのをクラスみんなで回し読みしていたエロ本のような、そういう文化。

 次世代に、もっと即効性のある萌えを投与すべきだと考えます。

 シェイクスピア劇を大ホールで観て人生救われる子だっているだろうけれど、プロレスマニアになったり、アニオタになったり、腐女子になったり、アイドルに恋したり、それだけで、生きていけるようになるはずの子のほうが、たぶんずっと多い。

 なのに、そういう機会にさえ恵まれなくて、人生ってなんて無意味なんだと絶望させてしまうのは、国の怠慢だ。日本が誇るべきクールジャパンでしょう。芸術なんかに負けないよ。クールさの定義がぬるいんだよ。萌えを知らないがゆえに癒されない者へと、押しつけるくらいの政策が必要だ。

 自殺の名所にクーポン冊子を置いてみる。死ぬ前に、公営ホストクラブ無料会員登録、公営ソープランド無料会員登録、BL本とギャルゲーのオススメはネット図書館で、プロレス格闘技専門チャンネルをすべての家庭へ。
 真剣に、この施策で自殺者は半減すると私は確信している。

 ごめんなさい平田オリザ先生。
 芸術保険制度のお話をうかがって、それじゃ自殺者減るの数十年かかるだろうと思ってしまった。舞台や映画が三割負担で摂取できたら、私はすごくうれしいが。自殺者への予防医学という観点で語るならば、ニュースを見て、中学生が自殺したときに、私は嘆く。なんで引きこもってネトゲーやらなかったんだよと。私は毎晩プレイしているのに、きみともヤりたかったよと。きっと、そういう世界があることも、そこに充分生きるに足るだけの悦びがあることも、知らないで逝かせたんだと思ったら、どうにかしてサブな「文化」にでも、触れさせてあげられる国ではなかったのだろうかと、悔しくなる。

 カラダ以上にココロは大事。
 潤すために、限られた金をどこに使うべきか。
 私は、その子に数千万かけた壮大な劇を観せる前に、ベリーキューティーなお人形のひとつも買ってあげたほうが「効く」と信じている。
 とあるドキュメンタリー映画を観ての、感想。 

ももいろクローバーZ


 

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