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『すだちドレッシングをしくじる』のこと。



○材料

オリーブオイル 50cc
米酢 50cc
塩 小さじ1/2
あらびきブラックペッパー 少々

すだち果汁 ?

○作り方

 ぜんぶぶっこんでまぜればできあがるはず。

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 おばあちゃんが、すだちをくれた。
 庭になったのをもいだやつ。
 こんなの。

sudachi1.jpg

 うーん。
 わびさびは感じるが、美麗ではない。
 たくさんの子供たちと孫たちのなかで、私にあえてこれを与えたのは、おばあちゃんのなかで、私にこれをどうにかできる資質があると踏んでのことか、たんに「タクミくんはかわっとるけん」こういうものをよろこぶかもしれんと考えてのことか。だとしたら、すだちと聞いて「食せ」ということかと早合点してしまったけれど、おばあちゃんのなかでは、私はクレヨンで畳やふすまを台無しにする、その後、美大に通うようになった絵の好きな子で、むしろ「この風情を愛でんけえ」というあえて割れた茶碗を客に差し出して微笑む茶会のあなどれぬ主人のごとき問いかけ、謎かけなのか。

 しばらく眺めていた。

 このまま、朽ちるのを眺めるというのも、たしかに悪くはない。ただ私は、かつてレモンを腐らせたことがある。小学生のころ、授業で野菜版画を作ったのだが、あまりにもよくできたので、教室うしろの個人ロッカーへ、その野菜版画の版果……すなわち輪切りにした野菜や果物そのものたちをしまい込み、あろうことかしまったことを忘れて、そのまま長期休暇に突入したのだった。

 新学期、教室に漂う異臭がなにごとかと騒ぐみなをよそに、私にはわかっていた。腐っているのだ。私のロッカーで。なぜなら、レモンが香る。

 腐った柑橘類の匂いは独特である。
 甘く、鼻孔に絡みつく。

 あれは、思わず鼻をつまんで顔をそむけたくなる、ほかの野菜のそれとは違っていて、なんというか、甘美な部分を含んでいて……つまり、生々しい。

 嗅いでいると、もっと嗅ぎたくなる。そして、思ってしまいそうになる。なにか、肉でも、こういう匂いを発するものはあるのではないか。柑橘類のような、オレンジのような、もっとすっぱいレモンのような、そういう、たとえば、だれか、とか。

 ぶんぶんと首を振る。
 腐乱に魅せられてはならない。
 それは危ない遊戯だ。
 腐乱レモンやすだちに、私は触れたくない。
 自制する自信がない。

 観賞すべきではない。

 これは、喰らうべきだ。
 私はおばあちゃんに、試されている。

 ……とはいえ。
 すだちをもらったらまっさきに思いつく、皮を削って豆腐に散らすとか、輪切りにして焼酎のロックに浮かべてみるとか、そういう皮の部分を使った調理方法に、どうしても躊躇が浮かぶ見た目である。あばたもえくぼにするには恋の魔法が必要で、私はすだちのあばたをあばただとしか捉えられないことによって、人間と果実との禁断の恋には適性がないことを知る。

 知ったので、嫌いな部分は削除。
 デリート。
 皮を排除。

sudachi2.jpg

 うむ。すがすがしい見た目になった。
 そして思ったよりも、すだちの皮は厚いのだと知る。
 これでは、すだちそのものを主体にした料理を作るには、量が足りないのではなかろうかと懸念。

 では、無難に、ドレッシングにするか。
 すだち入りドレッシングって、ふつうに売っているし。
 和風ではなくて、オリーブオイルのがいい。

 そこで描いた、冒頭のレシピ。
 これくらいの量だろう、と思った。
 まあ、だいたいカップに三分の二くらいのできあがりを予測。それだけあれば、マリネするには少ないけれど、大皿のチキンもまじえたサラダに回しかけて、パンとクラッカーと赤ワインを添えれば、充分に今夜のメインになる。

 すだちの果汁は香りづけ。
 私は、ドレッシングを作るときには決まって穀物酢なのだけれど、今回は米酢にしてみる。すっぱさはすだち果汁の担当で。常備ピクルスを米酢で作るようにシフトしてから、台所には大瓶の米酢が置いてあるようになった。いっぱいあるものは気軽に使える。そんなわけで、ピクルス以外でも、なんだかあれ以来、米酢を使う機会は多くて、使えば慣れて、もっと使うようになったりするものなのだった。

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『ピクルスのレシピ』のこと。

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 では、絞ってみるか、すだち。
 クエスチョンマークを埋めるフェーズ。

sudachi3.jpg

 クラッシュ!!
 そして、果汁抽出!!

sudachi4.jpg

 この時点で、しくじったことに気付く。
 ……少なっ……
 すだち、というか、おばあちゃんのすだち、繊維だけで果汁無っ!!
 皮果肉主体の料理に足りないどころか、香りづけるだけにしても、力不足感。
 ありゃーせん、これ、たぶんオリーブオイルの匂いのほうが勝つわあ。
 冷蔵庫に瓶レモンあるから足しちゃう?
 そうえばよくお菓子やドリンクで「シトラスレモン」とかいうのがあるけれど、こういうことなんだな。柑橘類をオンリーで味にパンチが出るほど調達するよりも、レモンの酸味で整えたほうが、まとまる気がする昼下がり。

 いや、でも、しかし。
 おばあちゃんに試されているのに!?
 妥協だと自覚しながらの妥協など己に許してなるものか。
 はんっ、舐められたものだ、おばあちゃん、あなたの孫のタクミが、こんなびっくりするくらい果汁の少ないすだちを与えられてオロオロと荒野をさまようとでも?

 ふんっ、すだちが足りぬなら、この繊維の部分をも砕くまで。砕くまで! 大事なことなので二回言いました(Copyright(C)森嶋猛)。我が家にはおばあちゃんの知らない我が嫁の姉の結婚式の引き出物のカタログギフトで選んだフードプロセッサーがあるのだ。

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(余談ですがこの時期、フードプロセッサーの稼働率は、大根おろしの製造によってたいへん上昇します。水炊きにも、焼肉にも、もみじおろしいっぱいと、ポン酢。すばらしい装置)

 なにもかもを砕く!!

 面倒くさいので当初のドレッシングの材料もすべてダイブ!!

 できた。

sudachi5.jpg

 量的には、妄想レシピ通りのカップ一杯弱くらい。
 ただ、あの、これ。
 スムージー……
 繊維が大半のものを、電気の力で撹拌した結果、粘度的には生クリーム。ドレッシングと呼ぶのは、はばかられる、すだちホイップ。これなんていうか私、知ってる。

 乳化。

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『アボカド追記』のこと。

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 本来は結ばれるはずのない水と油を、それでも執拗にこねくり回していると、あるラインを越えた時点で、乳化がはじまる(結合式的には乳化剤が必要。マヨネーズの場合は卵黄。今回水と油を乳化させた張本人がだれなのかはよくわからない)。ありえないはずの、永遠の結びつきが起こってほどけないことに。

 つまりこのすだちホイップは、晩ご飯の時間まで待っていても、ビールの泡が消えるように、さらりとしたドレッシング様のものに還元したりはしない。

 永遠にホイップ。
 これはドレッシングではない。

 しくじった。

 それがどうした。
 切り替える。
 サラダやめ。
 でもパンとクラッカーと赤ワインはあきらめない。
 舐めてもらっては困るよ、おばあちゃん。
 我が家には、鉄フライパンもある!!

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『おすすめのフライパン』の話。

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 最終結果。

sudachi6.jpg

 鉄板焼きニンニクとチキンとコンニャクとポテトのすだちホイップがけ!!
 焦げ目と乳化の白が綺麗!!
 でも野菜が少ない!!
 本棚の大先生の作からレシピ拝借!!

kinounanitabeta

 よしながふみ
 『きのう何食べた?』
 第4巻に出てくる、
 「長ねぎのコンソメ煮」。

sudachi7.jpg

 読んで作ってみたひとの評判も良いようなので、私もいちどと思ってはいたものの、なにせ辛いのとすっぱいのののの(のが多い)リミッターがはずれた私の舌には、そのレシピのまままままま(まがすごく多い)ではぜったいに甘いという自信があったから。こういう機会を待っていた。

 しくじったすだちドレッシングを、たっぷりつけて食しました。
 みごと相殺。
 これをみごとと呼んでいいものかはさておき。
   
 それくらい、味が破綻しています。
 すだちホイップ。
 陵辱的にすっぱい。殺人的と比べてどっちがどうなのかはひとによる。私にとっては、ずいぶんと魅惑的な割合も大きい表現。これが、おばあちゃんの私に向けた挑戦的なすだちだからなのか、すだちの皮の内側や薄皮をシェイクするともれなくこうなってしまうのか、とにかくすっぱくて大満足。肉もコンニャクもにんにくの丸焼きの味さえもなくなり、コンソメ煮込みのネギが甘いのかどうなのかもあいまいになるほどに。なぜだか、すだち果汁そのものよりもすっぱい。空気を含んだから? 酸化? そしてほろ苦い。これは完全に皮の内側の白いところが作用している。二度と作れない感じではある、そして二度と作らない感じでもある、しくじった先の、ひと夜のちぎり。

 赤ワインは一杯でやめて、テキーラのソーダ割りに変更。
 気分は赤道直下。
 スウィート・チン・ミュージック(Copyright(C)Shawn Michaels)の効いたゆずディナーでした。
 
 おばあちゃん。
 庭のすだち、孫の胃袋のなか。
 テキーラのつまみにしてやったけえ。
 まだ口のなかにすっぱさと苦さが残ってる。
 忘れられへん味になったわ。

 そんなには遠くない時間軸のどこかで想い出すことを、想う。

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