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『エチレングリコールと蟻』の話。


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最初にそれを言ったのは彼女だった。
たぶん一年も経っていないはず。
ツーリングして泊まって、翌朝。
「あたしの席がアリさんにっ」
見れば、タンデムシートに小アリの群れ。
ムッとする私。
だってそんなの、なにかこぼしたに決まっている。
私は加糖飲料をいっさい口にしない。
ツーリング中も飲んだのは無糖の炭酸水。
いっぽう彼女はカフェイン抜きだが砂糖は平気。
ファンタとか、甘いミルクティーとか。
見ただけで、うっ、となるようなのを飲む種族。
本革のシートにやめて欲しい。
こぼしたでないにしろ、指についていたのだろう。
……ということがあったのを記憶しているから。
困惑している。
ふと気づくと、バイクにアリがいる。
んー、と思いながら払い退け、走り出す。
写真は、小一時間走って熱くなった自動二輪車の横腹。
まだアリがいて、焼かれてお亡くなりになっている模様。
……なんなのか。
庭に隣接したガレージに駐めている。
しかもひと月になんども乗らない。
単純にバイクがアリの通行路になっているのか。
しかしそこで、くだんの出来事がひっかかる。
最初にアリに気づいた朝は、家ではなかったのだ。
その地の小アリが、ひと晩で通行路を開拓?
そんなことはまずないだろう。
ということは、結論づけるしかない。
私のマシンがアリを惹きつけている。
甘いの?
調べてみると、車にアリが巣を作ることはあるらしい。
しかしバイクは車体通気性の高い乗り物。
基本、雨に降られても下に抜ける構造。
そういう場所で重力に逆らって巣作るメリットがない。
もっとシンプルに、砂糖に群がるように……
そういえば、最初はタンデムシート。
私はシートを磨くのにミンクオイルを使ったりもする。
動物の脂肪分だし、これが原因か?
でもアリって、巣にエサ持ち帰るのが目的でしょう。
シートに塗られたオイルを持って帰るなんて無理。
あとは、クーラント(冷却液)が甘いらしいが。
点検しても漏れてはいない。
アリが入れるような隙間があったら、それこそ問題。
で、けっきょく、いまだに断定はできず。
アリそのものはともかく……
車体のどこかに、小動物の屍体とか。
そういう想像もしながら、さっきも走ってきた。
うち、家のなかでアリを見たことないんですけれど。
なぜにバイクにたかるのか。
アリにしてみれば、町がひとつ高速で動き出し、
焼け焦げるほどの高温を発するのです。
なんでそんなところにフェロモン撒くよ。
逝きたくて寄ってきているのだろうか。
だとしたらそれもイヤな話だ。
単純な生き物だから。
単純な理由があるはずだと思うのだけれど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 と、いうような話をバイク屋でもしていたら、いやあ、それはクーラントとかのせいではないですねえ、と一蹴されてしまった。その説は私もバイク屋を訪れて、改めて捨てた。甘い不凍液や植物性オイルなどに蟻が群がるのならば、バイク屋なんてそこらじゅうフェロモン撒き散らす蟻だらけになるはずだもの。

 でも、道路のなにもないところに蟻が群がっているのは見たことありますよ、と彼は言った。で、へへっと笑って、ぼくも車弱くて、窓から吐いたことありますし。と。

 ぼくも、というのは、私も車にはめっぽう弱いという話をその前にしていたからである。オートバイのほうが、ずっと揺れる不安定な乗り物なのだけれど、なぜだか、バイクで酔うことはない。でも、車はダメだ。小さい頃からそうだった。大人になったいまでも、他人の運転する車などもってのほかだし、ともすれば自分で運転していても気分が悪くなる。マイクロバスで全国を巡業する、プロレスラーに私はなれない。小学生のころ習っていた剣道をやめたのも、合宿のたびに、練習よりも行き帰りのバスでひっきりなしに吐くのでヘトヘトになるのがイヤになったから。

 しかし、言われてみれば、それもそう。
 道路には、投げ捨てられた甘いドリンクの染み以上に、人間の吐瀉物なども染みているはずで、それらは雨に洗い流され人間の目には見えなくなっても、アスファルトの凸凹には残留していて、蟻のごちそうになったりするのかもしれない。甘いもの好きで、今日は苦手な車でお出かけだとわかっていたのに朝からイチゴとたっぷりの甘い生クリームののっかったショートケーキなどを頬ばり、それをリバースさせた可憐な少女の吐瀉物など、蟻にはたまらんものであろう。いや別に蟻にとっては吐瀉したのが可憐な少女かどうかは重要ではないだろうが。

 というわけで、蟻の件の原因究明をあきらめた。

 この世はあらゆる汚物と死骸でできている。『流転する紅い螺旋の欠片たち「我らが父よ」』というのが私の卒業制作作品のタイトルだったことを想い出す。流転だ。我らが父というのは、すなわち流転するそれそのもの。偶像などではない。断じて、ない。小動物が日々タイヤに轢き潰されている道路を、我が愛車も走っているのであるのだからして、なにが飛び散っているのか、そのなにが蟻を呼びよせるほどにかぐわしいのか、想像を深くすると鬱になる。

 そんなこんなで、バイク屋で話をそらす。

「クーラントって、わざとレッドとかグリーンとか色つけてあるんだよねえ? 誤飲を防ぐためらしいけど。だったら味も、甘いと子供が飲んだりして危険だから、加工するべきじゃない?」

 私も、クーラントを売る側でもあるので、お客さまにはよく訊かれます。

「この、赤いのと緑の、違いはなに?」

 違いなんてないのです。クーラント=冷却液の色は、飲んではいけませんよを伝えるために、ただつけてあるだけ。だったら統一すればいいものを、自動車メーカーによって色が違う。純正品の色が違うので、注ぎ足すための市販品も二色ある。同じテレビゲームをわざわざ二機種で出すような話です。中身が同じものを、コストをかけて二種類販売している。

LLC

LLC

 テレビゲームと違うのは、クーラントは他機種に入れてもまったく問題ないというところ。もともとは緑の冷却液だったのを赤に変えてもいいし、赤と緑を混ぜたってちゃんと動く。ただし、純正ディーラーに持っていくと、撃たれます。

「これなんですか? ライバル社の象徴たる赤いクーラントを、我が社がお売りしたこの車に注ぎ込むなんて!?」 

 冗談のようですが、実際のところ、それくらい愛社精神を持ち、ライバル社を蹴落とさんとする気持ちがなければ、まったく同じ補充品が全世界で二色に色分けされている理由が説明できない。物理的な問題はなにもないのだから、そこにあるのは感情的な問題だけ。

 人間は、やっかいな生き物です。
 甘いものに群がる蟻のようには、単純にいかない。
 その仕事で食った飯はうまいかよ?
 そういう問いが成り立つ文明世界。

 それにしても、バイクって鉄でできている。その一部品であるラジエーター内を冷却液が循環している。クーラントを原液で使うのは、バナナで釘が打てるような国の人たちだけです。ふつうは、薄めて使う。なにでって、水で。

 不思議じゃないですか。

 鉄のパイプ内を水が循環しているのに、錆びない。最近主流のクーラントはLLCと呼ばれている。ロングライフクーラントの略です。十年入れっぱなしで大丈夫。十年、水に浸されている金属が錆びずにいるって、おかしくないですか?

 クーラントの主成分は、エチレングリコール。甘いアルコール。もちろん、アルコールに防錆効果などないから、クーラントが金属を腐食しないのは、他に加えられている防錆成分のおかげである。詳しくはよく知らない。ただ、似た事例を知っている。

 エチレングリコールはポリエステルの原料である。
 そして。

 ポリエステルは、ペチコートの原料である。

 ペチコートとは、こういうものだ。

petticoat

 それそのものの映像を見ると、なんだか野暮ったい衣服であるが、これをひとたび可憐な少女(再登場)が身に着ければ……

 こうなる。

meat

 ノンフィクションでそんなものを身に着けている少女に出逢ったことはないが、フィクションの制服美少女は、ほとんどもれなくスカートの下にペチコートを着けている。

 フィクションでは当然のように描かれるが、現実ではお目にかからないものの大半がそうであるように、嗜好性としての需要がありながら、それを現実のものとするには不都合ななにかが、ペチコートには存在するのだと断定できる。

 たぶんそれは、静電気ではなかろうか。
 言い換えるならば。

 エチレングリコールを主成分とするペチコートは、素脚にまとわりつく。

 だから、乳繰りあう相手の獲得競争が盛んなこの文明社会であるにもかかわらず、アニメ美少女といえばペチコート必須というくらい男受けするアイテムが、近所の駅の階段で目の前を歩く彼女の太もものまわりで、はらりと舞ったりはしないのである。残念だ。

 なにが論じたいのか。

 いや、つまり、鉄を錆びさせる水とエチレングリコールに、ほんのちょっと防錆剤を添加するだけで、水分と金属とのあいだに皮膜を形成してほぼ永遠のごとくに錆びない状態を作り出せる科学技術がありながら、同じくエチレングリコール主成分なペチコートがぴちぴち水分たっぷりなその太ももにまとわりつくのを防ぐには、こういう手段しかないという。

Eleguard

 エレガードは1979年から続くロングセラー商品。しかしそれは逆説的には、四十年近く、エチレングリコールと美脚と視線との関係性が、まるで進歩していないということである。しかもどうでもいいが、エレガードの主成分はエチレングリコールのポリエーテル体であるポリエチレングリコールと水だ。ほとんどクーラントだ。もうなにがなんだかわからない!!

 なにが論じたいのか(再登場)。

 どうして蟻が私のバイクに群がるのかということを考えるよりも、なぜ現実の女子はペチコートを身に着けないのかということを考えるほうが、有意義だということである。ペチコートをコットン100パーセントにするというのはどうだ。いや、いま一瞬想像して萎えた。あれは化学繊維でこそ、良いものだ。ちくしょうエチレングリコールめ。化学繊維はぴたっとしても良いものだけれど、ひらひらも良いものだ。かといってパニエのようにボリュームを持たせてしまっては味わいが出ない。ペチコートの良さは、あくまでそよぐ風に舞う軽やかさにある。自然のものではない、人類文明の到達点としての、アルコールでできた衣服。だから酔える。

 静電気の起こらないように湿度の調整された閉鎖空間でしか、本来の美しさを身に着けられない衣装だとしたら、それはペチコート自体がまったく進化が足りていないということではないのか。クーラントなんて毎年交換してもいいから、脚にまとわりつかないポリエステル生地こそを早急に開発しろよ科学者たちは!! エレガードに四十年もまかせっきりで、しかもあれはあんまり効果的ではないようだぞ? 私は現実に、もっとよく効く製品はないのかと訊かれる。そんなものはないと答える私の気持ちが!! あれはアニメとギャルゲーのなかだけに存在する魅惑の衣装なのだと認める私の気持ちが!!

 人類の敗北が!!

 エチレングリコールに勝利しなければ、人類は真に進化したとは言えない。

 私が言いたのはそれだけだ。
 ほかは忘れてくれていい。
 ああ、ムカムカする。
 じゃあ、また。

(余談になりますけれど、夢の国ディズニーランドの敷地内を流れる人造の河川。あれも、コンクリートやレンガの水路を何十年と流れ続けているのに、コケむしたり、虫が湧いたりしないのって、変。クーラントと同種の魔法が使われていると推察。ディズニーランドで遭難しても、けっして川の水は飲まないようお勧めしたい)




  

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