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『機械偏愛』の話。


Dbj704

ジャノメ DB-J704
工業用ミシンと呼ばれるもの。
ミシン区分的には、
家庭用ミシン=ボタンもつけられる。
職業用ミシン=厚物も縫える。
工業用ミシン=直線のみ。
だいたい、こういう感じ。
母はブティックで服を縫って私を育てた。
私は小学校から、その店に帰る。
たいていは裏の空き地のブロック塀に、
ロウ石で宇宙船のコックピットを描いて、
宇宙怪獣にビームを発射していたが、
細い階段をのぼってブティックの二階、
縫製室でおやつを食べながら、
母の仕事を見ていることもあった。
その当時の私の色彩感覚はめちゃくちゃで、
右袖がピンクで左袖が赤、首まわりは青、
おなかにドラえもんのポケット。
そんな服を自宅で母に縫ってもらって、
実際に着て街を歩いていた。おそろしい。
そんなだったから、
宇宙好きでヒーロー好きだったけれど、
ウルトラマンTシャツとか、パジャマとか、
欲しがった記憶がない。だって。
自分の言うままにできあがってくる服がある。
それに勝るおもしろいものなんてない。
どんどん作ってもらった。
自宅ではいつもミシンの音がしていた。
でも、それは家庭用ミシン。
母の仕事場のそれは、別ものだった。
まっすぐしか縫えない。曲がれない。
モーターの出力が大きいから。
「たくみくんの指だって縫えちゃうわよ」
母の同僚によく言われた。事実、
私は、音が連なってひとつに聴こえる速度で、
小柄な母の全身を引っぱるように動く、
回転と振動の機械に、指をつっこみたかった。
縫われたかった。顔に出ていたのだろう。
さいわいにして現実にそういった事故はなく、
やがて母は、自分の店を持った。
コンクリート打ちっぱなしの倉庫みたいな店。
そこに置かれているジャノメのミシンは、
あのころ、私が見ていたそれそのものである。
ほぼ私と同い年で、その間、私は脚を折ったり、
病気で寝込んだこともあったのだけれど、
工業用ミシンは止まったことがない。
私は当時の反動からか、いまは黒い服が好きだ。
そして、家を出て、いまになって。
バイクに乗ってガラス張りの母の店の前に停め、
ミシンの音で聞こえていない母に手をあげながら、
見て、思う。
乗っているバイクもいまどきマニュアル車。
これの回転と振動が好きなのって、
あのミシンのせいじゃないのか。
絶えず小刻みに揺れてうるさかった縫製室。
けれど、安らかだった。小さな王国だった。
カラフルな服を着なくなったのも反動ではなくて、
実は、まっすぐしか縫えないミシンへのあこがれかも。
単純明快であるがゆえに壊れない。
工業用ミシンだけで服は縫えないが。でも。
ボタンホールは別の機械に頼めばいい。
刺繍なんて別の世界の話。
縫製室の王は、壊れず単純に動き続ける。
むかしむかし教習所で、初めてバイクに乗ったとき。
左に曲がることができない私に、教官が言った。
「それじゃどこにも行けないよ」
ミシンも、エンジンも。
ただひたすらに上下しているだけ。
あやつるのは、ヒトの側の技術の問題。
……好きなのは、そこかも。
細かいことはこっちでやるから。
おまえはまっすぐ進むだけでいい。
機械にいろいろさせない。いっしょに。
私がブロック塀に描いた宇宙船のコックピットには、
たくさんのボタンがあった。メーターだらけだった。
未来も、そうであって欲しい。
自動運転で火星にたどり着くなんてさ。
すごいけど、なんだか、つまんねえの。

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 ひさしぶりにミシンを出して縫い物しようとしたら、針が左右に動かなくて。
 分解してみた。

Mishin

 どうもグリスが固着している模様。
 パーツクリーナーで古いグリスを洗い落とし、グリススプレーをしゅー。
 Xbox360を直したときと同様、私の道具箱はひとつしかないので、バイクもパソコンもミシンもゲーム機も、同じ箱から出した道具でメンテナンス。

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『XBOX360 RRoDを自己修理する』の話。

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 油を拭うのはパーツクリーナー。

AZ

 潤滑オイルは、めったに開けない場所に使うなら、粘度の高いグリース系のものがよろしいかと。

CRC

 直りました。

 ミシンって、専用のミシンオイルなんてものがあるくらい潤滑油頼みで動作している機械。オイルが切れると動かなくなる。まあそんなのは車だってバイクだってそうだけれども。そう考えてみると、人間の関節ってすごいです。骨同士がゴリゴリ当たって摩耗しないように、絶えず自然と潤滑液が補充されているのですから。機械として見れば、夢のような機構。ミシンも朝ご飯食べさせてやれば、自分でオイル成分生み出して濡れてくれたらいいのに、何十年経ってもそんなことはできるようにならず。

 ていうか、ジャノメの工業用ミシンが、すでに完成形とされ、そこから進化するきざしがまるでない。家庭用のミシンには、コンピュータ制御とかそういう物も出てきたけれど、それは針を動かす方面の話であって、いま現在の最新型のミシンにも、付属品としてついてくるのは、明治時代と変わらない薄茶色のミシンオイル。定期的に手で注さなくちゃならない。変わらなさすぎです。ミシン。

 私、ミシンも売っているのですけれど。
 万札一枚で買えるくらいの、単純な電動ミシンを買っていかれるかたには、意外とおっさんが多い。ジャノメさんの安くてシンプルなミシンは、キティ様コラボ品だったりするのですが、値段だけを見て、おっさんたちもそれを買っていったりする。

JANOME

 正確には、おっさんというか、も少し上か。妻を亡くした、という話を、やたら聞く。そして、彼らは、縫い物をするにはミシンが必要だと思い込んでいる。

 おかしな話だ。
 それまでちょっとした縫い物はやってくれていた奥さんがいなくなって、男やもめがミシンを買いに店に来る。その時点で、齟齬がある。だって買いに来るということは、家にミシンはないということでしょう。奥さんがしていた縫い仕事は、ミシンなんて必要ないものだったということではないのか。

 思い込んでいるのです。
 その証拠に、そういうおっさんは、高確率で数日後にサービスカウンターへやって来ます。

「中国製クズやな、ぜんぜん縫われへん」

 またかよ、と私は思います。
 機械に弱いひとの特徴ですよ、それ。
 無機物に腹を立てている。
 あんまり最近評判のよろしくない国の工場で作られたと言ってもですね。ミシンですよ。完成された機械です。そうそう不良品なんて出ないのです。
 不良品でないのなら、あなたがなにかを間違えている。
 マシンは間違えません。
 絵が下手なのは道具のせいではないのです。
 アナログだろうと、デジタルだろうと。
 日本製でも中国製でも、変わらない。
 だいたいそれ、タイ製ですし。

「どういった状態でしょうか」
「ほれ」

 話すのも嫌なのでしょう。
 高確率で腹を立ててやって来るおっさんのさらにまた高確率で、不具合を箇条書きにしたメモが用意されている。
 ま、ありがたいことですが。
 話がわかりやすいのは助かります。
 それを読んでみる。
 いろいろ書いてある。
 で、たいていの場合、私は、そのときどきに応じていろいろですが、なにかにぴんと来る。

「これ……下糸が強すぎる可能性がありますね」

 あなたはミシンを触りますか?
 家庭科で習いますよね。
 私は中学校でミシンの授業がありました。
 おっさんの中学時代には、なかったんだろうなと思う。
 要は、上の糸が引っぱっても下の糸の張りが強すぎて出てこないために、針は上下するものの、糸は上下できずに、ただ布に穴が開くだけで縫えない。とか。そういう現象はミシンにはよくあります。ボビンケースを取り出して、マイナスドライバーで下糸をゆるくしてやるといい。付属品として小さなマイナスドライバーも入っていたはずです。

 でも、もちろん。

「取扱説明書に書いてあることは全部やった。でも縫われへん。もう限界や、見たくもないねん」

 ご返金、デスね。
 私が、ちょっと腹立たしさをにじませて、彼らをおっさんと呼ぶ理由がわかっていただけるでしょうか。モーターが動く電動ミシンは、まず間違いなく不良品ではありません。そんな高度な機械ではなく、歴史上、こなれたマシンなのです。縫えないとしたら、それおっさんの手腕の問題。

 けれど現代の小売業。
 基本、求められれば返品を受けつけます。
 壊れていないマシンを、開封されて戻される。
 いろいろと、うっとうしい。

 でも、おっさんがちゃんとミシンが使えるようになるまで、付きっきりで教えていたら、私の人件費のほうが大幅にもったいないですので、とっとと帰っていただきます。ギャラいただいているあいだは役者です、笑顔たやさず。おっさん好みの店員を演じます。演じているあいだは本気なので、おっさんに心底同情しているし、求められればチューだってできるくらいのものです。

 しかし巣にもどって素にもどって、ふと思い返して鼻で笑ってみたりすることはままある。ピアノを取扱説明書の通りに弾いたけれど、音は出るが曲にならない。そういう話ですが、おっさんたちは、ミシンをそういうものと思っていない。縫い物をするためにはミシンが必要で、ミシンがあれば、縫い物などやったことのない自分でも縫い物ができるはずだと信じている。
 
 確かに、インスタントコーヒーを煎れる機械が大ヒットするような近ごろですしね。次はヌードルメーカーが新発売。おいしいコーヒーが煎れたいから、自家製のパスタが食べたいから、メーカーさんに機械を作ってくださいとお願いする時代ではあるのかもしれませんが。

HR2369-01

 未来人たるおっさんたちは、ミシンというのは好きな色の糸をぶっこんだらオートマチックに縫ってくれるものだと思っている、事実、多くの機械がそういう方向性で進化している。でも、ミシンは昔ながら。そのギャップが彼らを戸惑わせる。

 ミシンという英語はありません。
 これ、日本訛りです。
 元来は、machine。
 それそのもの「マシン」「機械」。
 お裁縫マシーン。
 転じてミシン。

 日本で初めてミシンを操ったのは篤姫ちゃん。ペリー氏からおみやでもらったらしい。ペルリ海軍提督といえば、日本に蒸気機関や、モールス電信機を伝えた、いわばこの国における超文明惑星のエイリアン。彼がいなければピラミッドも建造できなかったことでしょう。ペルリ氏が日本にやってきてから、大奥が解散終了となるまでには十年くらいありますので、贅の限りを尽くした十二単などもマシン縫いだったかもしれません(大河ドラマでそんな場面を見たことはないので、もらったけれど篤姫ちゃんはミシンを使いこなせなかったという可能性もあります。それとも真実の大奥はミシンのがっちゃんがっちゃん唸る大縫製ファッション工場だったけれど、NHK的に雰囲気重視で黙殺しているとか。時代劇に出てくる馬はサラブレッドみたいにすらりとしているけれど、現実の戦国武将が乗っていた日本種の馬は短足で小柄なポニーみたいな体型だったと聞きます。ドラマなんて、所詮は夢見ごと。なにごとも売れるように美しく描いているだけのことですからね)。

 黒煙吐く機械の船でやって来た、超文明人から贈られた機械文明の象徴。
 それがマシン。訛って、ミシン。

 この国の現代が始まる象徴でもあります。
 それ以後の、この国のひとたちの気質って、基本、新しい機械に飛びついて絶賛するの繰り返しだった。和洋折衷の妙な格好で、妙なもの食って、意味もわからない歌を真似て歌ったりしているうちに、エライものでそれがこなれてきて。

 船も車もバイクも、エンジン積んだマシンすべて、電気で動く家電や、電車とか新幹線とかリニアモーターカーとか。いまや世界中のそれを日本が造っている。ミシンなんて、ほとんどこの国の専売特許な情勢です。あのオシャレな国のブランド服も、あの軍国主義な大国の軍服も、日本メーカーのミシンで縫われている。

 みんながマシン好きだったから、いまのこの国の姿があるといっていい。

 そういうことを考えるとですね。
 おっさんがミシンを買って全自動じゃないのかよと返品してくる、その息子が車やバイクに興味は持たず、鉄ヲタでもなく、ファミコンが廃れてから生まれたので家庭用ゲーム機なんてものやパソコンにも興味はなく、スマホでさえ操作がよくわからないと投げだし、近未来はサイボーグが闊歩するよりもクローン培養した美少女メイドが各家庭に普及していれば天国だなとか、のほほんと夢見ながら夢は実現せずに寿命を迎える。だってだれも本気で開発しないから。
 そんな国で、落日の自動車メーカーがうたい、日本政府が後押しする……

「全自動な自動車が日本の若者の車離れを解消する」

 とかいうの。アホかと思う。
 自動運転。
 ええ、便利ですけれど。
 技術的にはすごいんでしょうけれど。
 断言します。車離れは解消しない。
 だって、なにがおもしろいの、それ。
 勝手に動く車がつまらなくて趣味の車乗りがなお減るという以上に、無人のトラックが荷物運ぶからトラック野郎も消える、その要素も大きいと思う。仕事として機械を操る大人が減るということは、機械を偏愛する大人が減るということ。無人のショベルカーに幼子はときめくかい? ときめくとしても、それを操るひとは存在しないなら、なにに憧れたらいいのだろうかい? 無人で自動運転される電車を、それでも鉄ヲタは追っているのかい? 公道を自動運転の車しか走っていないのに、カーレースのなにに胸を焦がせばいいのだい?

 おっさんたちもさ。
 ミシンがうまく動かない。
 そこ、わくわくするとこ。
 てめえオレサマがねじふせてやるさと、マシンと格闘はじめるところなのにさ。あのひとたち、もう一生、ミシンなるマシンに触れず、扱えないまま逝くんだ。あの、うまく巾着袋が縫えた感動を、味わわずに逝くんだ。

 鼻で笑いながら同時に、ふと、物悲しくもなる。
 マシンはひとに愛されるために生まれてきた。
 その関係がうまくいかないとき、原因はだいたいにして、ひとのほうにある。
 マシンは、ちゃんと愛せば応えてくれる、だれもに平等で可愛い子なのに、と。

(もしも知りあいに車だとかバイクだとか、そういうものの整備をするための道具箱を持っている人種がいるならば「大掃除手伝ってくれない」と甘えてみると良い。彼ら彼女らは、シリコンスプレーでタンスの引き出しをするする動かしたり、撥水ワックスで便器がまったく汚れないようにコーティングしたり、粉をふいて艶のなくなったあらゆる樹脂製品を新品同様に回復させる方法も知っています。機械をメンテナンスすることのよろこびと実際を知る者は、大掃除を整えるべき相手との勝負と見なして己の叡知をかけて挑むはず。マシンヲタ、一家に一匹飼っておくと大変便利)

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