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『酸素粒子とマーメイド』の話。


 勝手にヴァンパイアやマーメイドになれば?
 という見出しを検索で引っかけて、こういう記事を読んだ。

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Scientists Invented An Injectable Oxygen Particle That Lets You Survive Without Breathing | Geekosystem

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 まさにSEO対策のたまもの。
 人魚はともかく吸血鬼はあんまりぴんとこない感じなのですが、その単語に引っかけられて読んだ私がまた拡散するわけで、このニュースを書いたかたの文章作法は、ある意味(ウェブ文法的に)正しい。

 ともあれ、こんな内容。

「科学者たちは、あなたが呼吸なしで生きられるための注射できる酸素粒子を発明した」

 ……酸素が粒子って。
 その時点でなに言ってんだって話だけれど、読み進めると、こういうことらしい。

「酸素ガスの小さな気泡を取りかこむ脂肪でできた小さなカプセル」

 つまり、酸素を閉じ込めたカプセルを粒子と表現している。これを注射器で血液中に送りこめば、ぷちぷち溶けて、なかの酸素が血液に送りこまれ、もうあなたに呼吸は必要ないって話です。

 すでにウサギでは実験が成功して、そのピョン子ちゃんは水中で15分間生きたという。検索してみると、確かに2012年にそういうニュースがあった。ピョン子ちゃんが、15分がんばったからもういいよと助けられたのか、15分1秒で永遠にノックアウトだったのかは論文まで調べていないので不明ですが、ピョン子か、もしくはピョン衛門氏が、みずから「がんばって」水中にとどまったわけでないのはあきらかなので、現実に「酸素粒子」は呼吸なしで哺乳類が生存することに貢献できる素敵アイテムなのです。

 ということは、14分59秒で、さらなる酸素粒子注射をほどこせば、さらに15分生きていられるということですね……うわあ、いま、いやな想像をしてしまった。

 それって、『凪のあすから』的な水中世界で『スタートレック』の機械生命体ボーグのドローン的な「細胞が急速に死ぬから再生させるテクノロジーがないと死んじゃう」いま放送しているアニメだと『極黒のブリュンヒルデ』の鎮死剤(しかしあれ、製薬会社の製造番号が入っていて工場が特定できるってヒール側のツメが甘すぎやしませんか。マイバッハ谷口のパイプイスで殴っているように見せかける作法がお粗末すぎて「え、なんでいま相手選手の足じゃなくて鉄柱を殴りつけたの?」と見えてしまうくらいに)的に、酸素がない環境で人間を奴隷とするためにうってつけではないですか。

NAGI
BORG
KYOKUKOKU

 空気の薄い超高地の収容所で酸素粒子の充填された注射器を求めて働かされていた奴隷のなかから、夢を抱き死を覚悟して逃げ出した若者たちが現れる。すると実は収容所を出て山を下りれば酸素濃度の高い世界が広がっていて注射器なんて必要なかった、というプロットで深夜アニメが一本作れますね。第四話くらいまで、雪山をひたすら下りるストーリーで引っぱって、主人公とヒロインと、もうひとり良き友で恋敵でもあるようなないようなキャラを殺せば、五話以降で話がダレてきたところで回想シーンを入れれば持ち直せるでしょう。もちろん、収容所からは次々に追っ手が派遣されて主人公とヒロインは毎週逃げ回るのです。なにせ強制的に生まれたときから高地トレーニングを積んできたようなものですから、ふたりとも心肺能力が人並み外れている。さらにそこへ、追っ手から奪った酸素粒子を注射したとき、主人公は人類を越えた超人類へと……

 私が書くと、そこからヴァンパイアものになってヒトなのにヒトじゃないとか、あんまり一般視聴者が共感できないであろう主人公の苦悩と欲求の物語になってしまう予感なので、プロットにとどめておきますが。

 まあ、それくらい酸素粒子、夢が広がります。

 でもこれ、ウサギで実用化できているということはSFな話ではなく、すでに高値で取り引きされている可能性だってありますよ。技術的には画期的だけれど、モノは酸素と脂肪なわけで。

 ドーピング検査に引っかかるはずがない。

 数年前でしたか、日本高校野球連盟が、高圧酸素カプセルの使用自粛を通告した、という件がありました。そのときに知ったのですけれど、すでに世界的にはドーピング検査で血液の酸素濃度を調べる方向で進んでいるとか……とか書きながらニュースを検索してみたら、まさにいま2014年の5月の頭、シカゴ・マラソンで三連覇した女子マラソンのリリア・ショブホワ(Liliya Shobukhova、ロシア、36歳)が、血液ドーピングで二年間の大会出場停止処分、だそう。

 生体パスポートの血液データから血液ドーピングの可能性が強く疑われた。ということだそうです。血液ドーピングとは、事前に取っておいた酸素たっぷり赤血球入り血液を、競技直前に輸血して体内に戻す技。自分の血液を自分に戻すのだからバレないとされてきたが、こうやってがっつり処分が出たりするようになったということは、検査手法も確立されてきたのでしょう。

 とはいえ、これはマラソンとか、オリンピック競技のトップ選手だからこそ念入りに調べられての結果ということもあるはずです。私、日々、格闘技の試合を観ておりますが、賞金のかかった大会でも、たぶん酸素なんて調べていない。だから思ってしまう。おいおいこの選手、第3ラウンド終盤まで動きっぱなしなのにまだ息切れていないよバケモノか……いや、酸素か?

 ボクサーが高地トレーニングをするのは、ドーピングではない。
 でも、酸素カプセル(高野連が自粛要請したそれ。酸素濃度の高い密室にこもって、血液に酸素を取りこませる技)を使うと、ちょっとマズい。
 酸素粒子を注射器で血液にぶっこむとか、完全にクロ。

 ……どうなんでしょう。
 私、格闘技だけでなくプロレスも大好きなのですけれど。その世界でも数年前、アメリカのメジャーリーグで筋肉増強剤の使用が蔓延していると告発されたとき、アメリカ最大のプロレス団体が「うちも筋肉増強剤禁止です」と言い出した。その団体って、みずからをエンターテインメントスポーツ組織と称しています。脚本があって、演じられるショーだということは周知されている団体。でも、そこでのドーピング検査はガチでおこなわれ、クビになった選手もいる。

 ロバート・デ・ニーロが髪や歯を抜くのと、筋肉増強剤で筋肉を肥大させることの、なにが違うのだろう、と思いました。

 血液ドーピングは腎臓や肝臓に害を与える。筋肉増強剤はホルモンバランスをくずし躁鬱病を誘発する。なんてことが禁止の理由にされているけれど、選手の健康なんてことを理由にするのなら、ほとんどのスポーツは、そもそも健康を害するものですし。重量挙げの選手に「腰を悪くするから重いものを持ち上げるのは控えなさい」というのはバカげている。ましてプロレスにいたってはドーピングという概念が、その世界でなんの意味があるのかとさえ感じる。ボクサーが卵の白身だけのサラダを食べて一滴の水も飲まずそれでも計量をパスできなくて、全身の毛を剃り数百グラムの血液を注射器で抜いてパスすれば、それは美談。生理食塩水を頭皮下に注射して背をのばし新弟子検査を通過するのはどうなのさ?

 健康を害する、というところが問題であるならば、血液に酸素を強制的にかつ過剰に取りこませるという行為は、確かに人体の老化を促進させるだろう。しかし、水中で呼吸器から酸素を取りこめない状態では、酸素粒子の注射は単にプラスマイナスゼロだ。酸素カプセルはカラダに悪いが、酸素粒子注射を酸欠状態の選手に施すことは、むしろ命を救う行為である。

 マラソンの補給地点では、よく選手が独自のドリンクを用意させている。糖分とか、アミノ酸とか、バナナとか、ドーピング規定に引っかからないものならば、なにを競技の途中で摂取してもOKだ。ちょっと意外だが、カフェインはドーピングにはならない。試合前に摂取すると利尿作用があるので数時間かかる競技向きではないが、エネルギーよりも心が折れるの、というへなちょこランナーなら、カフェインの興奮作用でリタイヤを防ぐこともできるかもしれない。

 ということを考えれば。マラソンって、補給地点で酸素ボンベも配っていますよね。インスリンの自己注射をしているランナーだって多いですよね。それらがOKならば、原材料が脂肪と酸素の酸素粒子を自己注射するのが、なぜいけないのですか。これ、カラダに悪くない。ドーピング成分も使っていない。酸素ボンベはよくて注射はダメだなんて、おかしくないですか、ねえおかしくないデスかっ!!

 ほぼあらゆるスポーツ競技において、いまだに記録というのは伸び続けています。人類の進化は行きついたと言われて久しいのに、去年の記録が破られる。私が生まれる前に100メートル走は10秒を切るようになっていましたけれど、いまや9秒台は世界大会ならば当たり前です。それをもって人類にはまだ進化の余地があるのだというのは、正しくもあり間違ってもいる。

 10秒の壁が、壁でなくなったのは、靴が軽くなったから。布地はメッシュになり、昔は金属だったスパイクが樹脂製になったり。スパイクの形状だって研究されている。素材の変化という点では、近ごろの競技場には土がない。いろんな色に染め抜かれたトラックはウレタン製です。走りやすい摩擦係数と、弾力を計算して作ってある。

 すべては記録をのばすために。
 人間の足にはカギ爪なんてないのに、スパイクつけたシューズで地面を捉えて、それが人類最速ですか? 最速ですよ。言わずもがな。ウレタンの地面で速く走れたからって動物としてどうなんだ、なんて議論は起こりません。みんな夢が見たいのだもの。人類の進化は終わってなんかいないと信じられるからオリンピックは必要なのだもの。

 シューズのスパイク形状を、あれやこれやと考えている職人さんは、人類をどう進化させるかを考えている科学者です。縫い目のない水着が超速いので、それで全身を覆ってしまえばという名案は、やりすぎだったので禁止されてしまいましたが、あれから数年経って、男子が乳首を出さないで泳ぐのは違反になったにもかかわらず、全身をウレタンで締めつけていた頃の記録はふつうに破られています。それってどういうことですか。速すぎるから禁止されたはずなのに、だったらその当時の記録は破られちゃおかしいでしょう。人類が進化したからですか? でも禁止されたその年から記録更新されているんですけれど。

 職人科学者の暗躍があるのはあきらかです。
 なにか新しい魔法が使われているのです。でも別にいいです。違反でないならば、すべては認められ、やりすぎたときにまた禁止すればいいのです。正直、レーザーレーサーが禁止されたのは、全身黒ずくめのアメリカ勢がアホみたいな記録を出しすぎたからですし、それに追随して世界中の選手が締めつけ全身タイツを着けはじめたから、そこが問題だったと思うのですよ。だってあれ禁止するのに、ゴムはダメ編んだ布で、というのはわかるけれど、乳首隠しちゃダメ、は明記しておく必要ありますか? 肌の露出が落ちて観客動員数が減ったのです。乳首大事だったのです。たぶんそう。

 だったらさあ。
 酸素粒子。
 そういうのは認めるどころか積極的に使っていくべきではないでしょうか。いやもうたぶん使われているのですが。昔、いたそうじゃないですか。オリンピックマラソンではだしで走って金メダル獲ったひと。私はまだ生まれていなかったですけれど、見たかったです。めっちゃプロレス的だ。酸素粒子でもなんでもいいので、科学の粋を集めて、乳首どころかケツまで丸見えな、手をのばしてドル札挟み込みたくなるようなブーメランパンツの男が、女々しく膝丈水着なヘタレ野郎どもをぶっちぎって勝つとか、そういうの見せてください。

 こっそりがんばれ職人科学者たち、という派です、私は。

 以下は蛇足。
 酸素粒子で人魚になればとかいうSFチックな見出しで思ったことをついでに。

 上でちょっと触れましたが、『凪のあすから』の世界で暮らす水中人間たちは、エナという膜で全身を覆って、それによって水中の酸素を取りこんでいるという設定。地上で暮らす人間は、遠い昔、そのエナを破って生まれるようになった種族ということになっている。漢字で書くと「胞衣(えな)」=羊膜ですね。羊膜は風船みたいなもので、風船の状態だと羊膜嚢。そのなかに羊水が満たされ、胎児が浮いています。まれに羊膜嚢が破れないまま生まれてくることもあり、そうすると、それが破れるまで胎児は羊水風船のなかで呼吸し続ける。なんら問題はない。それはそうでしょう。ずっとお母さんのお腹のなかでそういう状態だったのだから、お腹から出たって羊水に浮かんでいるかぎりは問題ない。

 その画って、エヴァンゲリオンを連想します。エヴァに乗り込んだ彼ら彼女らは、LCLという液体に沈められる。コクピットを満たすLCLは彼らの肺のなかまで入り、彼らは「液体呼吸」をはじめる。あれもまんま羊水の描写です。エヴァの羊膜嚢に収まることで、彼らはエヴァと同調する……母親と胎児のように。

 そういった作品群で描かれる、液体のなかで液体の酸素を取りこんで呼吸する、という図式を、古くからの人魚像は拒絶している気がします。見た目、上半身がヒトですから。魚と人間をキメラするなら、どう考えても上半身が魚のほうが都合がいい。エラがありますからね、呼吸さえできれば、下半身がヒトみたいでバタ足しかできなくても、泳ぐのが遅いってだけ。でもあえて、上半身がヒトにしてある。てことは肺呼吸なのです。

 要は、クジラ。
 あの巨大哺乳類は、肺呼吸で生きている。水のなかで。なんら困ってはいなさそう。いったいなぜなのかといえば、単純です。赤血球の数が多いから。ひとり酸素粒子ドーピング状態なのです。ときどき海面に現れて、大きく深呼吸するだけで、血液中に酸素を溜めこみまくれるカラダ。

 進化の答えはすでに出ている。エラ呼吸のほうが生きやすいならば、クジラはとっくにそう進化しているでしょう。人魚は上半身がヒトで正解なのです。深海で暮らしたら人間を誘惑できないので、どのみち海面近くでたゆたうわけで、だったらエラ呼吸なんて面倒くさい進化ではなく、ちょっと赤血球を増やせばそれでいい。

 母なる海。そりゃ、海水にも酸素は溶けこんでいるのですけれど、肺にそれを取りこんで液体呼吸とか、羊膜嚢を破らないように生きていくとか、そういうアニメのようなのは、かえって面倒くさい。

 かといって、マジで人魚になりたいですか? 下半身がウオとか生臭いし。現行人類が、赤血球を増やす進化ができるほど、真剣に海での暮らしに憧れることは難しい。だったら、赤血球のかわりに、脂肪で人為的に造った粒子に酸素を運ばせるっていうのはどうでしょうか……

 たまに人魚になれたらたのしいかも。
 そういうユルい願望で、進化するのがいまの人類。
 お注射で三十分潜っていられまーす。
 ほら、ラブホテルに水中部屋とかできるかもですよ。たのしそうじゃないですか。水球なんて競技は、水中サッカーにとってかわられるかもしれません。
 でもまあ、そんな程度で。

 勝手に酸素粒子で人魚になればいい。
 ちょっとした技術の進歩であって、生と死の戦いとか、旧種族と新種族の枝分かれとか、そんな大仰なことではない。そういうニュアンスが、なんか良いなと感じました。息を長く止めていられるってことは人魚になるということではないけれど、うん、求めている「人魚になりたい」って、そのくらいの感じ。納得できたのでした。
 いまさら、本気の進化なんて、面倒くさい。

 予想しにくいのは、酸素粒子注射の普及で劇団四季のミュージカル『リトルマーメイド』は水中でおこなわれるようになるだろうかというところ。見せ物として巨大水槽演劇がボンベなしで演じられるようになるのは観客動員数を上げそうですが、その場合、歌がどうしても口パクになりますよねえ。ミュージカルファンはなにそれってなるでしょうし……やっぱり近未来でも、水中劇はアニメ以外では失笑要素が残ってしまうのかしらん。

MERMAID
 

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