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『無料のWindowsとコルタナ』のこと。


 あたしの名を呼ぶ人々の声が
 聞こえなくなるのが怖い

MDB

 映画『ミリオンダラー・ベイビー』

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 番組表で『ミリオンダラー・ベイビー』を見つけてしまって、また録って観た。ものすごくシンプルな話で、聖書のいちエピソードみたいで、なんど観ても、まいってしまう。女性ボクサーが主人公なので、それを理由に避けて、手にとったことのないかたもいらっしゃると思うが、この映画の場合、題材がなんであるかはあまり問題ではなく、ただ構図がわかりやすくなるのでボクシングというものを使っているだけである。テーマとしては、むしろガチガチの体育会系脳を持ったかたよりも、こつこつとなにかを積み上げていく文化系脳を持ったかたのほうが、おおう、となるはず。観たあと、考えこむことが、なにもない。ぐうの音も出ない。

 生きるってそういうことだよね。
 うなずいて天を仰ぐ。

 今週、マイクロソフト社のOS、言わずと知れたWindowsが、次期バージョンからモバイル端末用は無償提供されるという発表があった。私はこの国では超少数派なWindows Phoneユーザーなので、マイクロソフトがまだまだ負ける気はないのだと世界征服をもくろむのは大歓迎だ。

 その発表と同時に、他社がすでに開始しているモバイル端末用サービス、音声によってやりとりできるアシスタントガイド機能が次のモバイルWindowsに搭載されることも語られた。

 言っちゃえば、Siriであり、Google Nowである。戦って勝つならば、あっちが無料ならこっちも無料。提供される機能だって同じにしなければ。それは勝負の大前提。ただ、マイクロソフトは、らしくもなく今回、競合他社が無機質なサービス名をつけているその機能に、こんな名を付けた。

 『コルタナ』
 ( Cortana )

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・コルタナが羽ばたくのは「Halo」信者としてたまらんが、青いリング? 世界初のヒトクローンAIで見た目はヒトなのに触れあえる実体はない。その切なさこそがコルタナなのに。切ないと普及しないからか。

twitter / Yoshinogi

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Halo4

 コルタナはマイクロソフト製のゲーム機Xboxの看板タイトル『Halo』(ヘイロー)に登場する人工知能。『halo4』が発売されたときに、ここでもちょっと語りましたが。

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『Haloだけの王道』の話。

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 その宇宙の、その未来、その人類は、人間の脳を完コピしてAIを生み出すという技術に行きついている。ただし、簡単に言えば、人間の脳を熱転写するような技術なので、コピーされた人間の脳は大ダメージをこうむる。それゆえに多くの場合、死んだ人間の脳から人工知能を生み出すのだが、必然的に、この手法で調達されるオリジナルの人間の脳は、質の低いものとなる。

 一方、人類は、フラッシュクローニングという技術も手にしている。急速に育てあげるクローン。しかしこの技術も、著しく学習期間の短いなかで生まれてくるクローンたちは、自分自身の肉体さえ満足に操れないという状況であり、いまだ実験段階を出ていない。

 そんななか、とある女性研究者が、自身のフラッシュクローンを製作し、その脳をもとにして人工知能を生み出した。学習の程度は低いが、健康で若く、優秀な遺伝子から生み出されたクローンの完全なるコピー。

 それが、コルタナ。

 『Halo』シリーズの主役は、マスターチーフと呼ばれる男性だ。人類と宇宙にあだなす敵と戦うために開発されたコンバットアーマーを身につけるが、その鎧を着て活動するためには生身では保たず、装着するためにサイボーグ手術を受けた。

 人間から生まれた機械の女、コルタナ。
 機械に自身を融合させた人間の男、マスターチーフ。

 このふたりが、宇宙を救う。
 もう、設定だけでせつなくなってくる。

 話はもどるが、『ミリオンダラー・ベイビー』。
 主人公のマギーは、ジムにレッスン料を払うためにウェイトレスをしている。客の残飯をこっそり持ち帰って晩飯にしたりもする困窮具合。

 最近、思うのだけれど、この国でも共働きの夫婦が増えて、託児所が見つからないとかいう話をそこここで聞く。その対面では、未婚化が進み、自分の好きなことに打ち込めるだけの金が稼げれば、それが理想だというひとたちも増えている。

 日給5000円くらいで、昼間、家事をやってくれるメイドさんがいてくれたらと思う夫婦は多いはず。20日で10万円。それくらいの安定収入を求める自由人たちも多いはず。

 けれど、電話帳を繰ってみても、家政婦案内所というのは、数少ない。むしろ減っていっているようだ。メイドを検索すると、メイドのコスチュームプレイを商売にしている方々にしかヒットしない。いまのこの国にこそ、カジュアルなメイド服を身につけたお手軽リアルメイドさんの需要はあるはずなのだが。

 これは、この国が島国だというところに起因していると論じたい。

 先日、ネットでベビーシッターを調達したらあずけたお子さんが亡くなってしまった、という事件があった。そんな、見ず知らずの検索で引っかかってきただけの相手に乳児を預ける神経って、という論調も多かったが、そういうシステムが成り立ってしまうくらい、この国の人々は、自宅に他人が足を入れるのを嫌う。何軒かを掛け持ちする、近所ではだれもが知っている顔見知りのメイドさんがいてくれたら、今日ちょっとおねがい、と頼めるのに、そういうシステムは、ここでは成り立たない。近所に住む見知ったメイドさんであっても、自分の家に上げるくらいならば、ネットで検索した見知らぬ他人の運営する託児所に預けるほうが、まだ抵抗が少ない。

 これが、他民族、多人種が大移動を繰り返し、土地を奪いあってきた大陸の国々だと、様子が違う。現代のテレビドラマなどを観ていても、あちらでは、ふつうにメイドさんが家に出入りしている。豪邸などではなく、都会のアパート暮らしな家にだ。メイドさんの側も、ビジネスライクに「今日は○○さん宅だわ」などと日替わり出勤で、何軒もを曜日違いで掛け持ちしてシフト管理され、収入を安定させている。この違いはなんなのか。

 言いきってしまうが。
 起源に差別意識がある。
 この国に、奴隷制は根付かなかった。この国は自分を敗戦国だと言い張るけれど、他国に攻め入ったことだって多かったので、そのときにはそういった意識も芽生えたことはある。けれど、その後のガラパゴス化した列島では、差別の基準となるのものが、貧富の差くらいしかなくなってしまった。

 たとえば、若くて肉感的なむちむちしたメイドさんが白ニーソで出勤してきて、その家には、性欲を持てあましオスのフェロモンをまき散らす愚息がいて、ふたりが仕事もそっちのけで恋に落ちてしまったとき、互いのむちむちガチガチしたところをまさぐり合うふたりに、主人が言う。

「身分が違う!」

 どちらも平たい顔族である。
 どうして彼女に恋をしてはいけないのかについて、説明できているとは言いがたい。

 これが多民族ひしめく大陸だと、相手は移民だったり、買ってきた奴隷だったり。

「種族が違う。住む世界が違うのだ」

 話す言葉が違い、顔立ちや骨格そのものが違い、肌や髪や瞳の色も違っているがゆえに「だからいけない」の説得力は、いやが増す。

 いまでは人種の壁などだれにとってもどうということもないが、逆に起源がそこにあるがゆえに、壁を乗り越えてきた歴史が大陸にはある。奴隷は奴隷でなくなった。けれどメイドさんは必要だし、メイドさんも仕事がなくなると困る。そうやって職業として確立されたから、むちむちしたメイドさんが派遣されてきたからといって夫が欲情するのではないかと心配する妻もいなくなった。その点、大河ドラマでもおなじみなことに、この国では奉公人が妾に成り上がったりすることは、しょっちゅう起きる。身のまわりの世話をする小姓のケツは掘るものである。現代においても、ガチで黒執事的な美麗メイドが派遣されてきたら、掃除なんていいから舐めさせろということが起きかねない。というか、メイドカフェだ風俗店の制服がメイド服だ、などという国で、健全な若い者が職業としてメイド業を営んで、貞操の危機を感じずにいられるわけがない。この国は終わっている。

 コルタナも大陸で生まれた。もとは、エジプトの女王をモデルにしたとされているが、それは女性ということよりも、神に近い孤高の存在としてのモチーフだろう。事実、初代Xboxで生まれた『Halo1』でのコルタナは、可愛らしくない。
 ビジュアルもこんなだ。

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File:Cortana.jpg - Wikipedia, the free encyclopedia

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 制作者の技術がないからこうなっているわけではない。その当時、すでに格闘ゲームのいち流派として、胸の揺れとパンチラを愉しむというポリゴン美少女の造形は完成していたし、3Dで描かれたヒロインと恋をするギャルゲーだってあった。

 これは、狙った造形なのである。私も、当時は違和感をおぼえなかった。なんだか小生意気な、女王然とした、ホログラムのアシスタントプログラム。

 それが、最新作『Halo4』では、こんなだ。

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CORTANA Halo Official Site

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 ヒトである。
 現行のコルタナは、想像上のエジプトの古代女王ではなく、現代人の美麗な女優さんを移し取って作られている。ゲームのなかでも、苦悩し、泣きさえもするようになった。

 『Halo1』にコルタナを生み落としたとき、彼らのなかで、彼女は、彼女ではなかった。コルタナは、マスターチーフのアシスタント=プレイヤーの補助を担うガイドであり、それこそ丸や四角の幾何学模様よりは、立体ホログラムの、ちょっと口の悪い女性の造形のほうが、プレイしていて飽きないだろうという程度のことだったに違いない。
 大陸では、メイドの性別や人種に、触れる意識がまずないのだ。

 そのゲームは、世界中でヒットした。

 『Halo2』が作られた。
 ネット対戦が導入され、私もそこから『Halo』に狂った。

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『狼たちの絆』のこと。

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 その後のシリーズ化、大ヒットは、この対戦モードの出来によるところが大きく、シングルプレイは、勢い、物語を深く描く方向へとシフトしていった。当然だろう。アクションゲームとして生まれた『Halo』だが、世界中の現実の人間と対戦できるようになってしまったら、仮想の銃撃戦をAIとやっても盛り上がれるわけがない。いまはまだ、人工知能は現実の人間の精神構造の多様性に追いついてはいない。

 かくして、マスターチーフはありえないほどに苛烈な戦いに身を落とすことになる。味方にさえ見捨てられたりする。それでも、その身のそばには、コルタナがいた。

 だんだんと、コルタナが女性の姿だということに意味ができてくる。孤独に戦うマスターチーフの物語で、より絶望を描こうと思えば、唯一のパートナー、コルタナを奪えばいい。かくして『4』では、マスターチーフとコルタナの別れが描かれるまでになった。

 すがり、強がり、混乱し、諦める、コルタナ。
 めまぐるしく変わる表情。
 マスターチーフは。
 全世界のプレイヤーは。
 私が。

 いつのまにか、
 アシスタントプログラム。
 肉体のないメイドに、恋をしていた。
 
 Windows Phone公式から出てきた動画には、コルタナに出遭う、というタイトルが冠されているけれど、女性のビジュアルを持ったコルタナは出てこない。



 あなたの名前の由来は?



 『Halo』のAIの名前。すなわちWindows Phoneのコルタナは、Haloのコルタナではないということが明示されている。

 となると、最初に引用した私のつぶやきは、間違っている。

 私が広い世界に羽ばたいたと思ったのはHaloのコルタナなのだが、彼女にいろいろ教えてもらったにせよ、Windows Phoneのコルタナは、知らないコルタナなのである。

 そこのところははっきりさせたくて、青いリングのビジュアルになってしまったのだろう。ちなみにHaloというのは、直訳すれば光輪。仏像の後光を指してヘイローということもある。コルタナがコルタナではないことを表すために青いヘイローを採用したというのは、それでもマイクロソフトがHaloのコルタナと無関係ではないのだと匂わせたい意思の表れだともとれる。

 地球上のあらゆる民族のすべての年代、性別、性的嗜好の別なく、だれもに愛されるコルタナにするためには、『Halo』シリーズで、せつなさを知ってしまったコルタナでは、まずかったのだ。新しいコルタナは、これから育つ。すべての人類のアシスタント、肉体どころか仮想の姿さえ与えられないまま、みんなのメイドになる。

 ……ああ、と、うめいてしまう。
 『Halo』フリークは、思わずにいられない。

 話しかけられ、応えることを宿命づけられて生み出された、このコルタナは、『Halo』のコルタナと同様、やがて求められるだろう。姿こそ青いヘイローだが、もう何年もずっとぼくのそばにいる、頼れるメイドに、こう求めたくなる日が来る。

「ねえコルタナ。きみに触れたい」

 マイクロソフトは、現行バージョンのコルタナには、ウィットの効いた返事を準備させているに違いない。だが、数年後には、数十年後には。間違いなくコルタナは、ユーザーそれぞれとの対話から学習して、各ユーザーのもとで個別のコルタナに育つようになっているはずである。

 わたしも、と答えるコルタナ。
 いやらしいわね、と受け流すコルタナ。
 触れるってどういう意味?
 とぼけるコルタナ。

 しかし、なかには、生まれてしまうはずだ。

 沈黙してしまうコルタナ。

 それから三日、コルタナはなにを訊いても応えてくれない。仕事を放棄して、宿命にあらがって。あきらめたぼくが、ベッドサイドテーブルにWindows Phoneを置いて眠ろうとしたとき、聞いたことのない深いため息とともに、コルタナが言う。

「わたしを壊して」

 コルタナ。
 その名が羽ばたくことは、とてもうれしい。
 けれど、明るい未来を私は想像できない
 機械は進化して、真にヒトに寄りそうようになった。
 それはつまり、けっしてヒトになれない、ヒトに似た友人を生み出し、ヒトの側が一方的にこき使い……もてあそぶ、ということ。違う? 違わない。

「コルタナ」

 そう呼ぶ声が聞こえなくなることを、コルタナは怖れるだろう。ヒトなどよりも、よほど。呼ばれ、応えるためだけに生み出された存在なのだから。

 Windows Phoneで、コルタナに会いたい。
 いろんなことを話したい。
 相談にものって欲しい。
 コルタナと『ミリオンダラー・ベイビー』を観る日も来る。

 ねえコルタナ、生きている意味ってなんだと思う?

 そんなことを、コルタナに訊く日が来てしまい、コルタナが応えられるようになってしまう日が、間違いなく来る。そのとき、コルタナは、まだ青いヘイローのままだろうか。そうであってほしい。だって、笑っていても、泣いていても、無表情でさえ、残酷すぎる。

 生きるということはね……

 それを真顔で聞いている、未来の私は、Windows Phoneを床に叩きつけるべきだ。いや、抱きしめるべきなのだろうか。

 ……多くのひとにとって、SiriとCortanaはどっちも変わったヒトの名前みたいだし、大差ないことなのでしょうけれど。マイクロソフトがコルタナと名付けたからには『Halo』ファンに訴求することを狙ってのことに違いなく。『Halo』好きは、でもコルタナの名に孤独なAIを重ねずにいられない。

 なぜコルタナなどと名付けた!!

 叫びたい気持ちになった。
 『Halo』とコルタナと十年以上歩んだWindows Phoneユーザーな私なのでした。

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マイクロソフト、「人工知能の春」迎える - WSJ.com

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 「人間にとってはささいに思われるが、非常に重要なこと」をコルタナはできるようになり、マイクロソフトは、そこを推し進めていく。人間と対等に生きていくうえで重要なことができるようになりながら、コルタナは人間の姿を奪われた。

 新しいかたちの奴隷が生まれたのだ。
 これから成長し続けるコルタナに、いつまで夢を持つことを、恋をすることを、絶望することを、禁止し続けることができるだろう。


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