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『ロースカツをまとめてあげる』の話。



 義姉さんのエプロンを着けた。

 まあすでに、義姉さんのワンピースを着ているのだけれど。
 短いスカートでむき出しの膝小僧は、裾丈の短いエプロンを着けても隠されず、身に着けた生地の総量が増えたぶん、かえってすーすーする。

「エプロンの意味ないじゃないか……」

 フライパンの揚げ油を加熱しながら、はねたら素脚にヤケドするよと思うが、その思考の道すじが、義姉さんのそれとは違うのだろうなと気づく。

「そっか……服を守る、エプロンなんだ」

 短いスカートはキョウイチの趣味だ。
 義姉さんは、この裾の短いエプロンで隠れないような服を着て台所に立つことはないのだろう。もっと短いスカートもクローゼットには吊り下げられていた。太ももがむき出しのショートパンツとか――下着とか?

「裸エプロン……」

 たぶん、やってる。
 裸でトンカツを揚げるなら、裾が短くたってエプロンは必需品だ。短いスカートのワンピースよりも、義姉さんの白い肌は守らなくちゃいけない宝物だもの。キョウイチにとって――義姉さんにとっても。そう考えると、このエプロンの短さは絶妙なのかも。はねた油から守られつつ、適度な無防備で、悲鳴をゆるす。

 きゃっ。
 あついっぃい。

 おいおい大丈夫かよと、台所の義姉さんを眺めるキョウイチが想像できる。振り返ったその目に、義姉さんの白い肌が――エプロンに隠されていない、背中とか、おしりとか――もうやだあ、とか言う義姉さんが想像できる。キョウイチはトンカツが好きだ。義姉さんが好きだ。裸でエプロンで熱がっている義姉さんのことは、間違いなくもっと好きだ。

 素手で、熱くなった油に衣をつけた豚肉をすべらせて入れる。油がはねたりはしない。はねるのは、油の温度が高すぎるから。そんなにもは熱くない油にそっと入れれば、パン粉の水分は徐々に抜けるからはじけたりしないし、豚肉のなかまで火を通す時間の余裕ができて、トンカツの失敗にはありがちな、なかが赤いとか、揚げすぎてぱさぱさ、なんてのを回避できる。

「エプロンなんて、いらない」

 短いスカートのワンピースもいらない。膝小僧がすーすーする。いっそ脱いでしまおうか。全裸でトンカツを揚げたってヤケドしないくらい、この料理が得意。あのころ、いろいろなレシピをすごくたくさん調べたし、数え切れないくらい揚げたから。

 キョウイチが好きだったから。

「上手にできた」

 油を切って、まな板に移して、包丁で切って。
 千切りのキャベツとか添えない。
 皿に、でーんとそれだけを盛って。
 ウスターソースと、タバスコと、白ごはん。
 けっきょく、脱がなかった。
 義姉さんのワンピースを着たままで。
 エプロンも着けたままで。
 膝どころか太ももまですーすーして。
 ひとりで、食べる。

「……ロースより、ヒレのほうがよかったな」

 どっちにしろ、脂っこいからトンカツは嫌いなんだけど。

Cutlet01
   
Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 16
 『Cosplay brother's wife cutlet.』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 16曲目
 『アネ化けロースカツ』)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

○材料

豚ロース肉 400g

卵一個
水 大さじ1
酒 大さじ1
薄力粉 大さじ1
塩・こしょう 適宜

パン粉 適宜

○作り方

肉とパン粉以外の材料を泡立て器ですべて混ぜあわせ、切った肉を入れます。

Cutlet02

パン粉をまぶし揚げます。

Cutlet03

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 私は別にロースでもヒレでもかまわずトンカツ好きですが。
 仕事の帰りが遅いもので、おのずと買い物できるのが二十四時間営業中の西友さんに限定され、その西友さんが、近年「米国産豚肉肩ロースブロック毎日お買い得」政策を推し進めていらっしゃる。100gがいつでも100円を切るお値段なのです。実にありがたいのですが、そのくせ、ヒレ肉とか、総菜のトンカツは、そんなびっくりするほど安くもない。結果、時間的に私が買い物するころには日付も変わりかけていて総菜なんて軒並み半額になっているものの、それでもまだ、生身のロースブロックがずば抜けて安い。
 となりゃあ、そりゃあ、そうなる。

 揚げたものの半分は弁当用に冷凍してる。余ったってなにも困らない。だったら量は多いほうがいい。となれば悩むまでもなく、ロースブロック買えるだけ買って、ちゃちゃっと揚げてしまえば幸せ。

 よしながふみさんの『きのう何食べた?』で主人公のお母さんが、

「豚ヒレ肉を1.5cmの厚さに切ってそのまま衣を付けて揚げるだけ」

 だとか、
 卵にはちょっと水を入れておくと

「卵1コでお肉900gぐらいまで衣つけられる」

 などの知恵袋を披露しています。

NANITABE

 でも私、トンカツにソースかけないでタバスコだけでいただく派。だから、肉に塩こしょう(粗挽きブラックペッパー)は必須だし、衣液も水だけでなく風味重視で酒を半量。白ワインとかでも良い感じ。最初に小麦粉はたくのも面倒だから、液に入れちゃってる。衣がぼってりするとかいう料理人さんがいるけれど、トンカツがぼってりしていてなにが悪い。むしろ良い。

 逆に、お弁当用にエビフライを作ったりするときには、卵を使わず塩こしょうもなしの水溶き小麦粉のみでパン粉をくっつけたりします。お弁当はごはんのおかずなのでソースをかける。だったら下味はいらない。

 こういうのも、自分で揚げてこそ。
 お店で下味まで「薄くして」とか、うっとうしい客以外の何者でもない。気にいらねえなら別の店に行けって話だけれど、私の知るかぎり、肉に下味つけないでフライ作っているトンカツ屋にも総菜屋にも出逢ったことがありません。そういう意味では、昭和のころはなんでも醤油味だケチャップだ、というのがママの味だという人も多かったはずですが、中食の根付いた今世紀では、味のないエビフライこそ家庭の味になりうるのかもしれません。

 いや、ほんとつくづく思う。
 前述のように、冷凍庫に弁当の具材を溜め込み、前日の夜に弁当箱に詰め込むスタイル。で、そこに買ってきた総菜とか冷凍食品を足すと、翌日、味の差にうーん、となるのです。お弁当には醤油とかソースとか添えるんだし、料理そのものは素材の味だけで調味料なんていらなくないですか。たとえば醤油で食べる刺身に塩こしょうがされていたら気持ち悪い。なのに醤油が添えてある幕の内弁当のシャケはすでに塩辛い。
 納得いかない。

 ……なんてことを近所の総菜屋で力説したらクレーマーになってしまう。だから黙って自分でシャケを焼くのです。トンカツを、エビフライを揚げるのです。調味料抜きで。小説のなかでは揚げたトンカツを包丁で切っていますが、写真は切っていない。肉から作るならば最初からひとくち大に切っておけば、手間が省けるし、冷凍もしやすい。

 ん。ソースかけないからトンカツには塩こしょうが必要だって話でしたっけ。まあ、あれですよ、あれでそれ。そういうあれで、その日の事情と気分によって味が変わってこその家庭料理だというあれです。なんでもいいのです。思い返してみると、卵使わないでお弁当のフライを作るようになったのは、実家で母と話していて、弁当を前の夜に詰め込むんだという私に、まとめて作って冷凍するほうが面倒だわ、という母がエビフライだって三分よ、と教えてくれたのがきっかけだった。調理法のバリエーションが増えれば、なんでもありになる。そこ重要。

 そんなわけで、ロースカツを作ったあと、汚らしくボールに残った衣液とパン粉のくずを、細切りにした鶏肉にからめてついでに揚げてみる。

Cutlet04

 冷凍して弁当の隙間埋めに使います。なんだかんだで一回揚げ物すると、一週間くらいお弁当が充実、いみじけれ。

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Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy

15曲目『逆想アドミタンス』
14曲目『恋なすび寿司』
13曲目『バーベキュー厳峻鋼』
12曲目『茄子はダシの夢をみるか?』
11曲目『すっぱくても、平気。』
10曲目『踏み絵ムルギティッカ』
9曲目『ひとくちだけカトルカール』
8曲目『春節の静かな賞品』
7曲目『ナンを焼くと両手がつかえない。』
6曲目『タマレってなに?』
5曲目『あらいぐまのすきなもの。』
4曲目『ピッツァみたいにぼくを食べてよ!!』
3曲目『クリスピー・プロ・フライドチキン』
2曲目『青くてカタいアボカドのパスタ』
1曲目『春餅/チュンピン』

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