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『小橋建太の引退』のこと。



 あした、小橋建太選手がプロレスを引退する。
 大好きな選手だった。

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『小橋建太という答え』の話。

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 残念ながら私は大阪で仕事中。
 テレビ中継もスカパー!さんの独占なのだが我が家には通じておらず、試合後に地上波のニュース番組に出るという小橋が、あした見られるリアルタイム唯一の映像になる。後日のG+さんの録画中継を待ちつつ、ああ、小橋は引退したのだなあと、心のなかで思うだけだ。

 そんな時期なので、連日、プロレス関係の放送局では伝説の小橋建太特集というようなことをやっていて、我が家のクローゼットのどこかにも眠っているVHS録画テープに大量保存されているたぐいの懐かしい試合がノンストップで放送中。小橋建太自身も練習してんのかというくらい、あちらこちらに顔を出していて。いまも私は、これを書きながら小橋建太とスタン・ハンセンの対談を観ている。

StanHansen

 全日本プロレスの象徴、三冠王者を認定するPWF会長職が、スタン・ハンセンから馳浩、そして小橋へと受け継がれることだけを見ても、小橋建太が希有な立ち位置でファンに支持されていることがわかる。三沢光晴が全日本プロレスを離脱してプロレスリングNOAHを立ち上げたとき、その隣にいた小橋建太。あれから時間が経ったとはいえ、もしも三沢が生きていて引退を表明したとして、同じ職に就くと報道されてファンが許すかといえば、否である。
 しかし、小橋には拍手が起こる。

 小橋建太が、良い意味で深く考えていないことを私たちは知っている。

 この引退において、いったんは建太の「建」をデビュー当時の「健」に戻すと話していたが、のちに撤回したのは、実に小橋らしかった。本人はNOAHという新しい団体で新しい自分を「建てる」意味で改名したのだから、引退後の人生のはじまりにあわせて本名に戻す、というだけのつもりだったに違いない。だけれど思いのほか引退後もプロレスに関わることになりそうだ、ファンも変わらぬ小橋を望んでいると察したら、あっさり撤回した。

 そのひとは。

 どうしてそんなに強靱な肉体を作ることができたのかと尋ねられ、どんなに攻撃されても壊れないようにですと真顔で答えていた。結果的に、その筋肉量が膝を壊す原因になっているのはだれが見てもあきらかなのに。多くの選手が、いちどは関節と体重との兼ね合いをはかって意図的に肉体を絞ったりするものだが、小橋は、治療での体重減少以外は、ただひたすらに大きくなり続けてきた。良い悪いはともかく、肉体を売り物にする職業人が、まったく葛藤なく、ひとつの方向性で揺らがず進み続けたというのは、すごいことである。そういえば一時期、金髪にしていたことがあったが、あの時期以外の小橋の髪型はずっと同じだ。試合が終わっても乱れないほど整髪料で固められている。こうと思ったら変わらない。変えない。変えられない。

 そういうひとだから、新しい団体を作るなら俺も行く、膝が壊れたけれど手術したから膝を壊した技をまた出してまた壊れる、十四年もつきあっている彼女がいたのに十四年間ファンから本気でゲイだと思われていた、などの行動のすべてが、深い考えなどないのだと、伝わってくる。

 流される、というのは悪い言葉のようだけれど。
 「小橋、飛んで!!」
 そのファンの声に応えてまた壊れる、そのさまは。
 強さとはなんだろうと考えさせてくれた。

 いま、画面のなかのスタン・ハンセンが「二十三年前の今日、あなたと小橋は初対戦して、あなたが四分で勝ったのですよ」と告げられ、涙ぐんでいる。
 そしてハンセンは言う。
 私も、五秒で負けたことがある。
 でも、きみとも六十分時間切れの試合もあったよね。
 だれもに、そういうことがある。

 なにを想い出しての涙なのだろう。

 プロレスラーは本当に強いのです、という名言がある。
 それは、格闘技でもプロレスラーは勝てるという文脈で発せられたものだったが、セリフが独り歩きして、いま。プロレス・ファンならば、それを別の意味で読める。

 相手に噛みつくために歯を削ってしまったレスラーや、太るために糖尿病を患って手脚を切断したレスラーなどは昭和にもいた。だが、現代のプロレスラーの肉体改造は、それらとは違った「超人類」へと向かう領域へ入っている。あしたの試合で休場していたNOAHの副社長、丸藤直道が復帰するが、そのひとの膝もじん帯が切れたままである。切れたじん帯はつながらないですけどね、まあ自分でいけると思うからいけるでしょう、と言う。その団体を旗揚げした盟主は首で逝き、カリスマである小橋はまともに歩けず、手に感覚が戻らない。そのリングで、三沢や小橋や丸藤が演じた技よりも、もっと激しく打ち高く飛ぶ技が今日も披露されている。
 それを続けたら同じことになるのは子供でもわかるでしょう?
 今年の新人は、三沢が逝き、小橋が引退した歳までプロレスが続けられないよ?
 なのにどうして。

 鍛えたらヒトを超えられるのか。
 そんなことはない。
 事実、壊れるのは骨であり、麻痺するのは神経であり、切れるのはコラーゲン繊維なのだ。鍛えれば鍛えるほど、鍛えられない箇所が傷む。機械化されたロボコップの、人間の部分が悲鳴をあげる図式である。

 トレーニングは進化した。
 だが、毎週試合をするボクサーはいない。一年中土俵に立つ相撲取りもいない。プロレス大国であるアメリカでは、巧妙な脚本で所属選手たちに順番にバカンス休暇が与えられているが、日本では大きな団体になるほど、トップ選手が出ずっぱりになり、決まって壊れる。

 プロレスラーは強い。 
 
 テレビ中継の入る団体の選手でも、兼業でなければ食っていけないプロレス不況。好きでなければ続けられませんよね、などと選手たちは言うけれど、日常生活も送れない肉体になるまで演じるなんてエンターテインメントは、ほかにない。
 それでもやめないの?
 世の中は五月。
 そのあたりのオフィスでは、上司とそりがあわないというだけで五月病を発症して辞める気まんまんのヒトたちがいるというのに、骨が砕け、筋繊維のぶち切れた肉体に、痛み止めを打ってテーピングで固めて、金にならないステージを演じるプロレスラーたち。

 これを強いと言わずしてなんなのか。 

 ……ああ。
 小橋建太の引退にさいし、信奉者のひとりとして、ひとこと書いておきたかっただけなのに、書きはじめてみれば、自分がどう考えているか、よくわかった。

 小橋建太は、強い。
 強すぎて、痛々しい。

 ものすごく、ほっとしている。
 本人は、あらゆるインタビューで「小橋建太のプロレスができなくなったから」辞めるのだと語っている。いま観ている番組でも、スタン・ハンセンと、ファンに完璧な姿を記憶してもらいたいのだという話をしている。 
 その意味では、ものすごく強すぎた。
 もうずいぶんと前から、私は小橋を見るだけで全身に力を込めてしまう。そのひとが、ただ歩くだけでも、全力を必要とするのだとわかってしまうから。

 やっと、私も、肩の力を抜いて小橋を見られるのだ。
 家に帰れば新妻のいる、元プロレスラーとして。

 おつかれさまでした。
 そう声をかけたい以上に。
 こっちもしんどかったです。
 奥さんとか、どんだけかと思う。  
 別に戦わなければ地球が滅ぶなどということもなく、巨万の富が得られるわけでもないというのに、ただちょっとパイプ椅子に座った客をよろこばすためだけに、今日もカラダを壊しに行くとか、どんな地獄か。

 それが好き?
 強すぎます、プロレスラー。
 小橋建太。
 それを支えるすべてのひとたち。

 そこまでやってくれなくたってよかったのに、というくらいまで、やってもらった。
 
 小橋の師であるジャイアント馬場は、
「プロレスラーは怪物であれ」
 と言った。
 怪物同士の戦う非日常を観客は魅に来るのだと。
 だとしたら。
 私は魅た。

 怪物とは、負けることを知らないヒト。
 きつくてきびしすぎるこの地上で、そんなの無理って思うけど。
 世界最速のタイムは毎年ぬりかえられる。
 去年のヒトができたと知ったら、ヒトはその先に行ける。

 小橋建太を魅ちゃったし。
 ヒトは、もっと怪物になれると知ってしまった。
 その強さにあこがれることで生きてきたし、これからもそうです。
 ありがとうございました。

 剛腕絶対王者が引退するというのに、私は冷静だ。

kobashikenta

kobashikenta


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