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『マイクロ波を浴びまくりたい』の話。




 ついさっき、私の勤める店に父と母がやってきた。
 それはよくあることである。息子の家のそばをたまたま通りかかっても、ちょっと寄っていこうか、とはならないようだが、店だと、そばを通るとほぼ毎度寄ってくれているらしい。もちろん、私がいないことも多々ある。しかし今日は、ばったり逢った。

 このあいだのチラシの、DVDプレーヤー買おうかと思うんやけど。

 ああ、10インチモニタのね。うん、おすすめ、なに、車で映画観たりとか?

 いや、家で。

 家? 立派なブルーレイレコーダー持ってんじゃん。あれでDVDも再生できるよ。

 リビングでやろ。寝室で観たいねん、レコーダーで録ったのをな。

 ……いや、ちょっと待ちな。

 そこから、詳しく話を聞いてみた。さすれば、どうにも話が噛みあわない。確か、実家の本棚には、ブルーレイディスクに映画のタイトルが三本も四本も書かれているものが、ずらりと並んでいたのだ。おそらくは、圧縮されたテレビ録画が六時間ずつくらい入っている様子である。
 ていうか。
 圧縮方式がどうだとかいう前に。

「これ、DVDプレーヤーだから、ブルーレイは使えないよ?」
「え? ブルーレイってDVDちゃうんか?」

 ……意味がわからない。じゃあ名前がちがうのはなんだと思っているのか。テレビ放送を録画して買ってきた生ディスクに焼きながら、このDVDには映画が何本も入るなあ、と思っていたということか。

 母が言った。

「タクミに遭わなかったら、使えないの買うところだったわ、よかったね」

 おう、よかったよかった、などとご夫婦は、楽しげに買い物を続けられていたけれど。遭わなかったら買っていたのか。こっちこそ遭ってよかった。このプレーヤー、ブルーレイDVDが再生できへんやないか寝室で観よう思ったのに、などとサービスカウンターでごねているオッサンが、血縁者などとバレたら赤面ものであった。

 と、いうような両親が、まだ若かりしころ、我が家に電子レンジはなかった。
 あれは便利らしいよと母に言っても、電気でお湯が沸くなんて、なんか怖い、という反応で。まあ、学生結婚で、ふたりの息子が次々生まれ、そんなものを買う余裕などなかったということも大いにあるのだが。

 祖父母の家には電子レンジがあった。
 私が、はじめて使った電子レンジはそれだ。はっきりとおぼえている。グリコア(昭和の時代に絶滅した江崎グリコのハンバーガーショップ)のチーズバーガーだった。さっき買ってもらったもので、別に冷えていたわけでもないのだが、私はあたためたかった。いや、電子レンジが使いたかった。母とは違い、できることなら電子レンジに頭をつっこんで自分をあたためたらどうなるのか、迷わず試してみたいくらいに電子レンジに興味津々だったのだ。ナンか電波で水が沸騰するんだよね、魔法そのものだよね、それ。

 残念ながら、扉を閉めないと電子レンジは動かないということで、自分のカラダの一部を魔法にかけてみることはできないと知り、グリコアのチーズバーガーを閉じこめた。剥き身である。ラップどころか、包装紙さえ剥いて入れた。なにせ、なにがどうなるのかを見たかったのであって、電子レンジを覗きこんで動かそうとする私に、もちろん母は「目が潰れるわ」と言ったが、知ったことではなかった。

 何分ほどかけたのか、おぼえていない。
 ともかく、私は、途中でやめられなかった。
 じっと見ていても変化がなかったので、どんどん時間を延ばし、ついにパンの端が焦げた。ちょっとなんか臭うわよと母と祖母が見に来たので、そこでやめた。電子レンジを開けたら、蒸気がもあっと出た。そこで私は気づくべきだったが、まだ学校で科学の実験をさせてもらえる年齢ではなかったので無理であった。水は入れていないのに、そんなに白い蒸気が出るということは、グリコアのチーズバーガーから、恐るべき量の水分が出たのだ。

 チーズバーガーは、熱々だった。
 しかし、手にした瞬間、食べられないとわかった。
 ようやくそこで気づいたのである。
 水分の抜けたチーズバーガーは、軽い。
 そして、硬い。
 
 私は、泣いた。

 祖母が、もういっこ買ってきなさいよと小銭を差し出してくれたが、それに興味を示せないくらいに泣いた。当時、私はことあるごとに号泣する子供だったので、母はたいして動じなくなっていた。私が泣くのは、痛いとか寂しいとかではなく、自分にしかわからない、勝手な屈辱感をおぼえたときなのだ。

 それはたとえば、欲しいオモチャがあって、それが欲しいのかと問われたとき。買ってもらえないことにではなく、欲しがっている自分を見透かされたことに屈辱を感じて、泣く。いまならば、言葉で説明することができる……まさに、そう。言葉で説明できない感情を、言葉にできないから悔しくて泣いていたのである。

 電子レンジが、グリコアのハンバーガーをこんなにした、ことではなかった。
 私が。
 電子レンジに、チーズバーガーをこんなにさせた。
 その関係性が。

 母に、ほらこんなに電子レンジって便利、だからうちにも、などと言いたかったわけではない。なんというか……

 魔法をうまく使えなかったこと。
 それで、泣きじゃくった。

 チーズバーガーがカチカチになっている姿、その手触りは、かなり強い記憶となっていまも残っていて、幾億の私の記憶の塗り替え作業のなかでも重要度「大」に設定されているようだ。

 もちろん、いまの私は、電子レンジでお湯が沸くのを魔法だとは思っていない。

 マイクロ波の為せるわざだ。

 マイクロ波は、マイクロ波という名前だけれど、波長が1から30センチまでの電磁波のことなので、マイクロSDカードよりも大きめである。電子レンジは、その、決してマイクロではないマイクロという名の電磁波の発生装置である。

 マイクロ波が水分にぶつかると、熱が出る。マイクロ波は文字通り波なので、水をぶんぶんとその波長で揺さぶって、熱くする。

 おおまかに言うと、そういう感じだと認識している。

 そのマイクロ波という文字を、最近よく科学誌で目にする。どうやらマイクロ波発生装置(俗称:電子レンジ)を完成させた賢人たちは、つぎなるマイクロ波の使い道として、太陽光発電を考えているのだという。

 太陽光発電?
 って、あのソーラーパネルの?
 我が家の玄関には、ソーラーセンサーライトが設置されているが、この冬と来たら、雨も多かったせいもあってか、まるで動かない日が続いた。というか今日も点いていなかった。
 あの、LED電球ひとつを安定動作させることもできない、頼りない太陽光発電?

 そうなのだそうだ。
 賢人たちは、まさにその地上における太陽光発電の弱点を、マイクロ波で克服しようと考え続けているらしいのである。
 解決策は、もう思いついている。
 実に単純明快。

 ソーラーパネルを、宇宙に浮かべる。

 地球外でまっすぐ太陽に向けていれば、雨も雲も、季節も関係ない。

 ……そりゃそうだが。
 宇宙でLED電球が安定点灯してもなあ。

 その部分の解決策こそが、マイクロ波だって言う。

 病院で携帯の電源は切れと言われる。
 飛行機や、電車でも。

 あれって、携帯電話から出る電磁波が、病院の機器や、飛行機の装置や、電車で相乗りしたひとのペースメーカーやなんかに、干渉して誤作動を起こさせることがあるからだ。

 その話って、けっこう魔法。

 耳につけて通話している携帯電話からも電磁波は出ている。
 けれど人体にとってなんの影響もない。
 脳のすぐそばに電磁波発生装置を置いているに等しいのに。

 そのくせ、離れた場所にある精密機械を、誤作動させる。
 誤作動というのは見る立場の問題であって、単なる事象と見たときには、触れずに飛行機も落とせるくらいに遠隔操作できるということでもあり、その電磁波を、狙って飛ばしてなにかにぶつけて影響を与えられるようにすれば……

 その仕組みを使って、電気も送れる。

 宇宙で作った電気を、マイクロ波で地上に送る。
 そういう実験は、高度はずっと低いものの、すでに実験で成功しているのである。

 私の母なら、頭を抱えるかもしれない。
 抱えたところで、マイクロ波は防げないので、アルミホイルで作った三角帽子などをかぶるようになるかもしれない。

 けれど、多くのひとは、思うだろう。
 少なくとも、私は思う。

 幼い私が電子レンジを覗きこんでも、目は潰れなかったし。
 携帯電話でだれかが発狂するなら、これからではないだろう。
 宇宙から地上に向けてマイクロ波が照射されたところで。
 ぜんぜん平気。
 
 ほとんど実用化に近いところまでいっている技術としては、高速道路から走っている電気自動車に充電したりとか。ああなんて便利。車が充電できるのだから、このB5ノートパソコンも、その近未来ではチカチカ点滅するもうすぐ充電切れますサインを見なくていいわけだ。
 そこってなに、天国?

 原理をよく理解していないので詳しくは語らない(語れない)が、たぶんこういうことだろう。

 電気を使って重いものを持ちあげれば、それは電気を貯めたことになる。
 重いものを落下させるさいに、位置エネルギーに変換した電気を、再度取り出せばいい。

 同様に。

 マイクロ波は波である。
 本気を出せば水を沸騰させられるくらいの波だ。
 宇宙で作った電気を、その波に変え、地上へ飛ばし、こちらでは受けとってふたたび電気に戻す。

 それが、マイクロ波送電技術。
 なので、降り注ぐマイクロ波に触れたら感電するとかいうこともなく、ただ単に、アルミホイルの帽子をかぶる宗派のひとも、逃げ場がないくらいに地球がマイクロ波漬けになるというだけだ。
 問題ない。

 というか。

 宇宙から電気を送る手段があるなら、宇宙ステーションで核融合させれば、地震におびえる必要はないのではなかろうか。ちんたら原子力発電所なんて規模でなく、人工スーパーノヴァとか。超爆発、タービン高速回転、あふれんばかりの電気を、地球(テラ)へ!!

 地上で地震のない場所じゃないと発電所作っちゃダメとか、それもう火星に行くしかないよ、などと新聞読みながら思う今日この頃。

 オゾン層が薄くなって太陽光でガンになって人類絶滅とか言う。
 同じ口で。
 大気圏を越えれば太陽のエネルギーを使い放題だぜぐへへへ。
 って笑う。

 笑ってる余裕あるかなあ、なんて、思う。
 怖がっている暇もない。

 この奇跡の星(太陽との距離的に)に生まれて。
 使えるものぜんぶ使って生き延びるサバイバル。

 自分で書いていても皮肉な書きようだなあと感じるけれど、実のところ本気。
 幼いころ、電子レンジに頭つっこんで魔法を実感したかったみたいに。
 はやく、空から電気降ってこないかなと思ってる。
 星と星をぶつけた運動エネルギーで発電できないの?
 このあいだの隕石の位置エネルギーは変換したかったよねえ。

 がんばってください賢者。
 Wi-Fiが普及した、いま。 
 このノートパソコンからコンセントをなくしても満充電が永遠に続く、そんなことが実現できるなら、それこそが私の求めている魔法。

 能動的にマイクロ波を浴びまくりたいわけではないけれど。
 許容します。
 早くやって。



(↑JAXAさんのビデオによると、人里離れた海上にマイクロ波降らすみたいな描き方だけれど、こういう描写だと、もしも都市に降り注いで浴びたら危険極まりないみたいな印象を受けます。大丈夫だよ、覚悟はできている、浴びせたまえ)

MW245
 

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