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『ジャンバラヤで喰うケイジャンの魂』の話。



 ジャンバラヤ!!

 季節柄、アウトドア用品の売り場も活気があって。接客だ売り場メンテだと一日中その辺りをうろうろしていると、延々と15分のローテーションを繰り返すDVDの音声が何度も耳に入ってくる。聞いたことのない名前の女性アイドルと、聞いたことも見たこともない薫製の達人とダッチオーブンの達人が料理するビデオ。

 一日に何十回と聴いていると、ナレーションまで暗記してしまう。
 場面は、ダッチオーブンの蓋を開いたところ。手製のスモークベーコンを使って、ダッチオーブンの達人が作り上げたその料理に、聞いたことのない名前の女性アイドルが黄色い声をあげる。すかさずナレーション。

「できたのは、アメリカの家庭料理、ジャンバラヤ!!」

 ジャンバラヤ!!
 ──なに!?
 振り返る私。
 てっきりパエリアを作っているものだと思っていたら、聞き慣れない料理名を叫ばれたので反応してしまう──通りすがりのお客様も振り返る。なかなかによくできた販促ビデオだ。そこでできあがったのがベーコンのパエリアでは振り返る人はいやしないだろう。

 にしても、すっかり暗記してしまったレシピの内容と、料理名のリングコールが噛み合わない印象なのだった。「アメリカの家庭料理?」──なんだかビデオではソフィスティケイトされた調理法になっているようだが、それでもたっぷりのスパイスが投入されたスパイシーな炊き込みご飯である。

「おいしいねママンっ」

 と、幼子の笑顔が思い浮かぶような料理ではない。使ったブラックペッパーの量だけでR指定の料理に思えるのだが。

 そんなこんなで、やっぱりダッチオーブン売る販売員として、自分で一回は作ってみないといけないだろう、とレシピを検索。ジャンバラヤってなんなのでしょうねと学習する夜更け──ググってわかったのは、ジャンバラヤとは決まったレシピなどない料理だということ。そして哀しく重たい料理だということ。

 ジャンバラヤ!!

 ジャンバラヤは、ケイジャン料理の代表格だ。

 ケイジャン(Cajun)とはAcadianの訛りで、カナダのアカディアと呼ばれる地域に暮らしていたフランス語を話す人たちの総称。彼らは敬虔なカソリック信者だったが、18世紀の初めにイギリスがアカディアの支配権を握るにさいし、イギリス国王に対する忠誠表明──すなわちプロテスタント信者への改宗──を拒否したため、アカディアの大地を強制追放されることとなった。
 追放され、行き場を失った彼らの多くは、フランス植民地でスペイン領となったルイジアナに分散して移住したという。
 その当時、ルイジアナ州のニューオリンズに定着したアカディアンが、ケイジャンと現代では呼ばれている。

 ──というわけで、ジャンバラヤの基本形はスペイン料理であるパエリアですが、そのレシピの最大の特徴は大量の唐辛子とスパイスにある。
 追放された彼らの、ようやくたどり着いた安住の地は、想像に難くないことだけれど、その当時、人が住むには過酷すぎる土地だったのでした。ミシシッピ川を下ってその地にやってきた彼らの生活は、人と家畜の命を奪う川沿い湿地帯の、うだる熱さと湿気、当時大流行していた感染病の存在と切り離せないものだった。

 以下、吉秒的、フライパンで作るジャンバラヤ・レシピ。
 ベースはパエリア。しかしパエリアでは当然使われる魚介類が、ジャンバラヤにはいっさい入りません。彼らのそばに海はなく、手元には、病に冒されたニワトリや、ブタたちしかいない。大量の香辛料と唐辛子は、殺菌のため、そして熱さと湿気で気を失いそうになるカラダに活を入れるため。ジャンバラヤのレシピにとって一番必要なのは、その時代背景と、彼らの心意気をトレースすることです。その辛さは、死なないための知恵。唐辛子抜きなんてのは不可。

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●材料
 鶏肉200グラム(適当に切れ)、ソーセージ100グラム(これも)、タマネギ200グラム(中玉一個みじん切り)、ニンニク3片(みじん切り)、ホールトマト100グラム(缶入りから実の部分を抜き出して粗みじん切り)、米2カップ(400cc。2合ではない)、チキンスープ300cc(ブイヨンを溶かしたのでいいや)、白ワイン100cc、オリーブオイル大さじ3。

 ↑基本の材料がこれですが、別分量でトッピング用の野菜を用意します。今回は、ピーマンとキノコを用意いたしました。

 味つけ用の香辛料は、各自で模索して頂きたいところですが、ちなみに今回使用の分量は、タイム粉末小さじ2、赤唐辛子粉末小さじ1、タバスコ小さじ1、こしょう少々。チリパウダーが手元にあったのでそれを大さじ1(チリパウダーの内容は、カイエンペッパー、クミン、オレガノ、食塩、ガーリック)。オレガノ、クミンは省いても平気ですが、カイエンペッパー(チリペッパー)とタイムは必須です。唐辛子は二種類以上をブレンドしたほうが味わい深く、これが味のかなめになります。さらにディープな味がお好みなら、ターメリックも加えると良し(今回は加えました)。今回、塩はチリパウダー、タバスコ、ブイヨンに含まれているのであえて加えませんでした。

●作り方
1 フライパン(私は28CMテフロン加工のものを愛用)を強火で30秒加熱。
2 オリーブオイルを入れて10秒後、ニンニクを入れ10秒炒め、香りが立ったところでタマネギを加え、1分炒める。
3 鶏肉、ソーセージを加え、鶏肉の色がまんべんなく変わるまで炒める。
4 スパイス各種、ホールトマト、白ワインを加え、30秒炒めてからチキンスープを加える。

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※この段階で、できあがりが不安になるほどの真紅の地獄絵図がフライパン上で展開され、目も鼻も痛くてやってられませんが、病に冒されたトリもブタも浄化されるほどのスパイシーさが必要なのだと自分を納得させましょう。

5 沸騰したら中火にし、米を加え、底からはがすように1分かき混ぜる。
6 中火のまま、トッピング用の野菜を米の上にのせ、フタをして5分炊く。
7 フタを閉じたまま、火加減を弱火に調整、15分炊く。
8 火を止め、3分蒸らす。

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※一緒に食べる人がまだ帰ってこない。もしくは炊き込みご飯は焦げが必須、という場合には、食す直前に強火に1分ほどかけると良し。ざく切りのレモンかライムを添えて、タバスコ常備でいただきましょう。

 できあがり。真紅の地獄も、米が入るとがぜん、食べ物らしくなりますね。偉大なり、米。この植物が、人類の歴史上、どれだけの飢え虐げられた人々の命を支える救いの宝石となってきたかを想うと、鼻の奥がジンとします。私の祖父は戦争体験者だし、祖母は被爆者手帳を持っている。幼い頃からあの時代にいかに飢えたかは聞かされて育ったので、いまここに私がいるのも、荒れ果てた地でも育って食べられてくれた米のおかげだと強く想う。

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 できれば、フロックコートを着たポニーテールの美青年を二人用意して、スクイーズボックス(アコーディオン)とフィドル(民族バイオリン)でフランス語ニューオリンズ・フォーク、ケイジャン・ミュージックでも奏でさせながら「人生なんて」と楽天的に汗かきつつ黒ビールで喰い、気分がのってきたら踊る、というのが理想であるが。まあ、その辺りはお好みで。
 やはり鉄製ダッチオーブンで作るのがお焦げも良い感じで雰囲気。

Coleman

 ↑(こういう、足のないタイプがご家庭の台所でも使いやすくて便利です。ちなみに10インチは約25センチ。これくらいのサイズが家でも使うって向きには最適)

 蒸し暑い大地でも、米と香辛料とトマトは穫れて、移民と奴隷は過酷な肉体労働を、音楽と肉と米で癒す。
 混沌としたアメリカの黎明。
 ジャンバラヤを喰いながら、たかだか日本の夏に休みのない仕事に熱いだの疲れただのボヤく己の貧弱さを噛みしめるのも、またこの料理の妙味といえるでしょう。

 お試しあれ。
 汗をかき、喉を渇かせ、浴びるように水分を摂って、身のうちのくだらない細々としたものを洗い流してしまうためにも。最適です。
 米料理なのに酒のアテになるというのが、また偉大。

 余ったトマトホール缶の中身は、ローリエを入れて三分の二ほどに煮詰め、パセリ、オリーブオイルを加えて塩コショウ。二回分のピザ・ソースにするのがうちの流儀。冷凍庫にストックしましょう。ピザのレシピは、また次回。

 では、ごきげんよう。
 ジャンバラヤ!!



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ジャンバラヤとかつ  昼飯.com  2009/03/26 00:18
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