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『クライオニクスは失敗する』の話。



 『惑星ソラリス』という名作映画があって、二十一世紀になってからジョージ・クルーニーでリメイクされたのだけれど、なんというか「わびさび」の度合いがオリジナルのほうが勝っているというリメイク作品にありがちなことになってしまって、残念だったなあ、ハードSFを現代の映画界で撮ると大人数でのプロとプロとのぶつかりあいになってしまうから、ああいう個人的な、せつなさ、みたいなものの描写がむずかしくなってくるのかもねえ、なんて思っていたころ。

 『イベント・ホライゾン』がやってきた。

Event Horizon

 ひどかった。遭難した宇宙船を救助に行ったらみんなで幻覚に溺れて殺しあうという、そこかしこでソラリスっぽい物語を、血みどろホラーに仕立てあげたいわゆるB級に類される映画なのだが。宇宙船やステーションの造形はスタートレック激似というか本家を超える出来で、ブラックホールパワーの利用とか、説明なしにそんなもの出したらハードSF読者しかわかんねえよ、というものが平気で出てくる。しかしそれらが逆に、話のスジと関係ないところで近年まれに見る「カッコイー」宇宙開拓感あふれる映像になっているから、話だけを追って「クソ」と断じた人と「でも魅入ったよね」というひとに分かれる迷作でもあった。

 まあ、三本とも観ていないというあなたへは『惑星ソラリス』のチョイスをおすすめする(オリジナルの製品版は数少なく、プレミア価格で出回っていたりするので、レンタル屋さんで見つけたら手にとってみてください)。
Solaris
 それはともかく、迷作『イベント・ホライゾン』は、孤立無援な暗黒宇宙に漂流する宇宙船内部というシチュエーションこそが物語的にも映像的にも要で、そこのところを観客に向けてアピールするために、冒頭からみんな凍っている。

 コールド・スリープと呼ばれる技術である。
 捜索目標の船はワープ航法が可能で、ものすごく遠く……具体的には海王星のそばで発見された。

 このあいだ話していた『Mars-500 project』が、火星まで行って帰って500日だと試算していたが。

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『宇宙になんて行きたくない』の話。

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 それをもとにすると、片道5600万キロが250日らしいので、イベント・ホライゾン号の漂流地点である海王星までの45億キロメートルとちょっとの距離を単純計算すると、片道2万日程度。365日で割ると、約55年。

 宇宙飛行士が二十五歳だとして、ジェットの力で真空世界をびゅーんと飛んで、海王星に着いたら八十歳。傘寿。おめでとう、おじいちゃんおばあちゃん。さあ、イベント・ホライゾン号の救助に取りかかろうか!!

 無重力下で筋力の果たす役割というのは重要ではないし、四半世紀も宇宙船の内部で過ごしてきたのなら、知的生産活動にいそしむしかないので、みんなまだボケちゃいないでしょう。でも、これホラーなんですよね。幻想に襲われて逃げ回る八十歳とか、観客呼べますかね。どうせ逃げまどって血みどろになるなら、ぷりんとしたケツや、むきっとした胸板なんかをスクリーンに描き出すべきなのではないでしょうか?

 というわけで映画『イベント・ホライゾン』ではコールド・スリープ。
 のっけからぴちぴちの男女が下着姿でぬめっとした液体に濡れて登場です。
 掴みはOK。

 コールド・スリープというのを直訳すれば冷凍睡眠となるように、それは、生きた人間を凍らせて時間を止めてしまう技術。最近のSF映画では傑作『エイリアン』シリーズの影響か、コールドといいながら、卑猥な潤滑液っぽい透明なのを満たしたカプセルで眠るのが定番になっている。

 そういえば、もうすぐ新作映画も公開な『新世紀エヴァンゲリオン』のコックピットもそういう液体で満たされていて、あれはL.C.L.(リンク・コネクト・リクウィッド)というらしい。

Evangelion

 エヴァのように、肺を満たすことで呼吸できる液体、というのが実用化されたとき、同時にコールド・スリープの技術もサイファイからリアルへと転換されるかもしれない。

 現時点で、もっともコールド・スリープに近い技術は、クライオニクス(Cryonics)と呼ばれるものだが、これはすでに商売としておこなっている企業がある(代表格である某有名集団は財団と名乗っていて、思想を共有する支持者によって成り立つ非営利団体だそうだが)。クライオニクスも、コールド・スリープと同様に人体を冷凍保存する技術だが、あつかえるのは屍体だけだ。

 現代の医学では寿命と判断されるさまざまな要因によって亡くなった。
 しかし、その寿命の定義は、未来では変わっているかもしれない。
 難病は克服され、新陳代謝は衰えなくなっているかも。

 だが、単純に考えて、それを真剣に信じて金を払うなら、ユーザーは屍体になる前に、せめて一日でもいいから「生きて」いるうちに、冷凍されたほうが得策であるように思える。しろうと考えだが、死んだ人を冷凍して生き返らせるというのは、科学技術の発展を過大評価しすぎな気がする。むろん、しろうとがそう懸念するものを、売る側も買う側も考えないはずはなく、みんなが大金をかけてやりたいのは実は「生きたうち冷凍」すなわちコールド・スリープなのだが。

 残念なことに、政府は科学者たちの言うことを信じた。
 いわく「人を凍らせると、細胞内の水分が膨張して細胞壁を破壊する」。

 つまり、べちゃっとなる。
 L.C.L.に濡れてべちゃっとするのではない。
 生物を凍らせると、肉が煮くずれたように、くったくたになるというのである。

 そんなものは生き返らない。
 だから生きた人を凍らせてはいけない。
 それは殺人である。
 たとえ本人が自身の余命が残り数時間だと認識していて、いまのうちに凍らせてくれと願ったとしても、心電図がフラットになるまでは、やっちゃダメ。

 それが現実。
 いまのところ、どこの国であろうとも、クライオニクス業者は、埋葬業として法的に分類される。冷凍葬ということである。すでに数え切れないほどの人々が世界では冷凍保存されているわけだが、それらの施設を墓地ととらえるならば、これほど未来を楽観視した死者たちが集う墓地もないので、恨んで出る幽霊のたぐいが少なそうだという感はある。

 そうした事実を、SF作品を書く者たちもよく知っているのでL.C.L.。
 髪の毛が白く凍った人がカプセルから出てくるなんてありえないでしょ。
 映画だってリアリティだよ、きみ。
 エヴァ観た? そうつまり、人体のすべての隙間がL.C.L.によって満たされた状態で人が「生きる」ことが可能ならば、そのまま超低温に持っていけば……ほら、簡単な科学。細胞のなかにだけ水分があるから凍って膨張して壁を破ってしまうのであって、なかもそとも同じであるなら、破れるわけがない。

 そういう理屈。

 さて、これがなんの話をしているのかといえば。
 先日話していた、キノコのこと。

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『漢字零点王その後の漢字力』の話。

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 冷凍するとキノコってさあ。
 という愚痴だったんだけれど。

 近所の業務スーパーで、冷凍キノコのパックを見つけた。
 198円だった。

Mushroom1

 ピザにのせて焼いてみた。
 まずくはなかった。
 だけれど、写真に載っている、茶色いのがダメ。
 べちゃっとしてる。

Mushroom3

  あらためて、パックの中身。

Mushroom2

 いろんなのが、まざっているのです。
 そこで初めて気づく。
 この、白いのは、凍らせても変わらない。
 茶色いのが違和感ある。
 で、その茶色をよく見てみれば。

 ……けっきょくのところ。
 シイタケ含む、あのヒダヒダがイケない。
 食感がどうというよりも、まさにそれ。
 旨味が出すぎて、干しシイタケの味になる。
 シイタケピザが食べたいのならともかく、私はそんなものをキノコに望んではいないのである。なくてはならないが、主役を食われては困る。本当によいモブキャラとは、風景の一部にもなれてこそ。特別に目は惹かない。でも、そこの席が空いていると逆に目につくから、埋めておいて。あ、これ、キノコも入っているね、というくらいがちょうど良い。

 冷凍することで栄養そのものが変わるわけがないが、確かに味の成分が増加している。これはすなわち、凍らせることで、椎茸が別のものに変わってしまっているということだ。

 クライオニクスは失敗する。

 マッシュルームや、エリンギなどの、いわゆる胴体の部分がメインのキノコは変化がない。そのことを考えてみても、人間という種の肉体構造の大部分、骨や筋肉や脂肪は、意外と凍らせてもちゃんと解凍できるのではなかろうかと思えなくはないが。

 ヒダヒダな部分がダメだ。
 というわけで、たぶん、臓器でいうと腸の味が変わる。栄養は変化しなくても、旨味成分が増すということは、噛むと簡単に染み出すくらいに細胞壁が破壊されて、別のものになっている。
 べちゃっと。

 生き返っても、あのわらわらと蠕動運動する腸たちがべちゃっと状態では、栄養が吸収できないから食べたって意味がなく。せっかく生き返ったのに点滴で栄養とって、常にお腹はくだっている状態というのは、新人生を謳歌できなさそう。

 そういえば、クライオニクスをあつかう企業では、将来的に記憶と意識を脳から機械的に抜きとる技術も確立されるはずとして、頭部だけを首から切り離して保存する人が八割を越すんだという。処置費用が安いというのもあるだろうが、なにより、不治の病が治せるような未来なら、新しいカラダなんてどこかで調達できるだろうと踏んでいるのか。

 つくづく楽観的なひとたちだ。

 たとえばいま、実は前世紀から冷凍保存してある屍体があって、それを解凍できる技術的めどが立ったのですが、と公告されたとして。それをおこなうのは、だれになるのか。前述の、代表的クライオニクス団体は、財団の資金によってそのめどが立つまで「保管」すると顧客に明言しているが、解凍は契約のなかに入らない。ということは、だれかが大金を積んで、前世紀の冷凍人間を解凍するということになる。

 保存されているのは頭部だけである。
 その脳を、新しいボディに移植する。
 中身は、いまでいえば、文明開化以前、現代人にとってみれば知識の量だけで御すことのできる相手であろうことは想像できる。
 とすれば。
 だれが金を払うって。
 だれであろうと用途は、生きたダッチワイフにロボット以上の反応をさせるため。
 高い金を払って原始人みたいなやつを生き返らせるのである。
 労働力としてなど採算があうわけがない。
 死者の解凍は、その「設定」に嘆美を感じることができて、なおかつ資金力を持つ、高尚な変態さまの手によって成される以外にない。

 ちょっと考えても、わかりそうなものである。
 だからたぶん、凍っている側もわかっている。
 わかっていて、けれど死はそこまできているし。
 金もあるし。
 やれることはやってしまおうじゃないか。

 聞けば、クライオニクス顧客って、ほとんど全員が、自分で自分の冷凍契約を結んでいるのだという。つまり、難病で余命いくばくもない若き花嫁を旦那が冷凍するとか、幼くして運命に見放された我が子を冷凍するとか、そういうケースではなく、本人が本人のために、近くではなくて、ほぼ永遠と呼んでいい未来に向けて、己を凍らせている。

 言いかえれば、クライオニクス愛好家という、資金力のある変態さんたちがすでに数百名、だれも知りあいのいなくなった未来で、だれかが自分を起こしてくれるはずというプレイに興じている。

 ぞくぞくするかい?
 私は、あんまりしない。

 目の前にいくらでも生のキノコがあるのに、わざわざべちゃっとした解凍キノコを愛するなんて、どう考えてもバカげている。技術的に成功するしないという以前のことだ。クライオニクス技術が信頼できるものに進化したとして、金を持った一族が、歴代の死者を順番に冷凍していくとする。それ、どこでだれがなんのために解凍するのでしょう? ホテルに新しいカラダのご先祖様を数十人集めて、おもしろいか? もしもそういう状況であれば、まっさきに思いつくのは「てめえ先祖コラ、お前のヘマで子孫がどんな被害をこうむったと思ってんだっ」とやり場のない憤りを銃弾に込めて狙う先をさがしていた、見も知らぬ数世代先の血気盛んな落伍者の子の存在。

 おじいちゃん、数百年ぶりに生き返って、いたぶられて殺される。

 とか。
 なんにせよ、もてあそぶために解凍するのが自然。

 なんか、話がずれてしまったが。
 白くてぴちぴちのエリンギを凍らせておいしくいただくというならまだしも、シワシワでヒダヒダのシイタケを、あえて凍らせることについてこれ以上考える意味がわからない。

 自分が凍らされて、解凍されるところを夢想する。

「なんかやっぱりダメだよね冷凍って」

 いままさに、私はピザを食べながら冷凍シイタケに向かって言い、クライオニクスを試みること自体が失敗だったと嘆息する。

 好きなものは凍らせないで、いま愛したい。 
 単純に、クライオニクスはそうした理由で、不毛なことではないでしょうか。
 おじいちゃんが死んだのに死なずに凍って眠っているというのは、まわりがいい迷惑だ。

 まあ、世の中にはすげえ変態さんたちがいるなあ、というのは、観客としてはたのしいですけれど。

Cryonics

 

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クロムハーツ 通販  クロムハーツ 通販  2013/10/23 04:19
『とかげの月/徒然』 『クライオニクスは失敗する』の話。