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『照り焼きナスのにぎり寿司』の話。


「はい。おやつ」

 台所でなにをしているのかと思ったら、食事を用意してくれていたらしい。正直言えば、食べると集中がにぶるタチなのだけれど、集中したところで行き詰まっているのは事実であり、空腹なのもまた事実だ。
 振り返って、見た。
 
「おやつ……なのか、それは」

 そっとサイドテーブルに置かれた丸盆には、湯気を立ちのぼらせる緑茶と……握り寿司? のように見える。

「だって冷凍庫のお肉とか解凍すると、うるさいかなと思って。ちーん、とか、気、散るでしょ」
「それはどうも」
「それに瑠衣、甘いのきらいだし」
「甘くないんだ、それ」

 呼び捨てられたことには、ふれずに返す。
 やつは、得意げに笑む。

「甘辛いの」
「なんの寿司?」
「なすび」

 言われてみれば、ナスである。
 甘辛いということは、テリヤキか。
 テリヤキナスにしろなんにしろ、握り寿司をおやつだと言って出してきた相手は初めてだと……言わなかった。こいつの告白をあいまいなかたちにしろ受諾したことは間違いなく、それで押しかけてきたのを仕事の邪魔だからと追い返さなかったのも許容と受けとめられて仕方がない行為だ。
 だれかと比べるような発言をする気はないし、、邪険にするつもりもない。
 ただし。
 ただでさえ混乱して、仕事に差しさわりさえ出ているというのに、問わなければ理解できないような行動をくり広げるのはやめてもらいたい。

「パスタとか、パンもあっただろう」
「なすびサンド? ああ、いいかも。その発想は出てこなかった。瑠衣って実は料理するひとなんだね、ひとり暮らしの王子の部屋に、みりんとかあるし」
「ひとの家の台所でナスとみりんを見つけて寿司を作ろうと思い立つ、お前がなんなんだという感じだ」
「好きでしょ。お寿司」

 なぜ?
 いや、寿司は好きだが。
 こいつと食べに行ったことなどない。
 知らず、眉根を寄せていたのだろう。

「でも、ガリはきらい?」
「……冷蔵庫か」
「醤油とショウガのパック、いっぱいあるんだもん。ひとりでお寿司買ってきて食べるってことだよね。でも、使わないなら捨てればいいのに」
「食べるさ」
「ガリだけまとめて?」
「お前が見ていないところで」
「えっと……怒ってる?」

 怒ってはいない。
 ペースが狂うだけだ。
 なにがしたいんだ、こいつは?
 邪険にはしない。
 帰らせたいわけでもない。
 しかし言葉は見つからず、手をのばす。

「食うよ。よこせ」
「よかった」

 お茶は熱すぎず、ぬるすぎず。
 良い香りが出ている。
 ほんとなんなんだこいつ。
 寿司に手をのばす。
 炒め焼いたナスを、きんと冷やしてある。
 どうやったのだろう。
 冷凍庫で? 
 寿司飯も、冷えている。

「シャリは人肌だって習わなかったか」
「どこで? 瑠衣は料理学校とか行ったの?」
「常識としてだ」
「パック寿司が好きなら、冷たいシャリが好きなのかもしれないと思って。残念、狙いすぎたかぁ」
「……深いことを考えているんだな」
「えっと……実は。気持ち悪がられるかな、って」
「気持ち悪がる?」
「瑠衣って潔癖っぽいし」
「悪口だぞ、それ」

 手にとった寿司を眺める。
 少し大きめの、手まり寿司といった風情。薄くスライスされた茶色のナスがへばりつくその姿はユーモラスだととらえることもできる。握った? それが、気持ち悪い? そんなことは、思いもしない。
 少し、イラ、とする。

「ごめんなさい。でも大丈夫だよ、ラップあいだにはさんだから、エキス出てないし」
「潔癖でもないし、嫌がってもいない」
「……へへ。じゃあ、エキス浸みさせればよかった」
「その言いかたはやめろ」

 食べた。ナスの皮が噛み切れず、大きめの握りをひとくちで頬ばる。じっと見られているのが気になる。なぜだかこちらが目をそらす。そらしたところで、見つめ続けられているのは変わらないのだけれど。

「おいしい?」
「……料理を出すたびに、それ訊くやつ?」
「あー、ううん。いい、べつに」
「べつにってなんだよ。うまいよ」
「あは。そう? へへ。よかった」

 ふたつめに手をのばす。
 茶もうまい。
 テリヤキナスの握り寿司?
 しかも美味。
 即興でこんなものを作られては、感想も述べにくい。
 しかし視線は延々と突き刺さってきた。
 食べ終わり、飲み終わっても。

「……見すぎだろ」
「変化ない?」
「変化? ……っ!」
「どきどきするとか」
「まさか……なにか入れたのか」

 茶を見る。
 ほとんど、飲み干している。

「お茶じゃないよ。知らないの?」
「な、なにを……」
「聖書にも、出てくるんだよ」
「聖書?」
「なすびはねえ、媚薬なんだ」
「び……やく」
「ねえ、お仕事、ちょっと休んだら?」
「待て。待てって! お前の知識は、浅い!!」
「ん。どういうことかなあ。でもほら、瑠衣、ほっぺた赤いよ」
「なすびふたきれで効果なんてあるわけっ……」
「えー、だけど、ほらぁ」

 聖書に出てくる「恋なすび」とは、土から抜くと悲鳴をあげる呪われた植物マンドラゴラのことで、確かにマンドラゴラはナス科だが、現代の食用ナスに、媚薬とされるマンドラゴラと同種の毒性成分は皆無である。
 もちろん……こいつは、知っているのだろうけれど。
 だったら、このからだがしびれたように動かないのは、なぜだろう。
 なにも入れていないと、こいつは言った。
 いや……「お茶じゃない」と言ったのか。
 だったら握り寿司に……?

「強く願えば、効くんだね」

 自分こそ、目尻をほわりと染めている。
 そんな顔で近寄られたら……
 毒される。

Sushieggplant

Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 14
 『Sushi-Love eggplant as Teriyaki-sweet poison』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 14曲目
 『恋なすび寿司』)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

○材料

ナス 一本
しょうゆ 小さじ1
みりん 小さじ1
酒 小さじ1

シャリ 適宜

○作り方

 スライスした茄子を油を敷いたフライパンに入れ、軽く焦げ目がついたところで調味料を加え、水気がほぼなくなるまで返しながら焼きあげ、冷まして、シャリと握ります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 写真では、皿に二個だけ並べていますけれど、もちろん、実際には大皿に、ほかの具材で作った握りも山のように並べているうちの一品。そんなわけでレシピではシャリ適宜、ナス一本と表記してあります。テリヤキと呼ぶには砂糖も入っていないし調味料の量も少なめ。寿司は醤油つけて食すもの。香りづけ程度です。いや、本当は単なる焼き茄子でもいいんですが、見た目がね。醤油の色のついていないスライスされた焼き茄子は、ちょっとグロい。シャリに関しては下にも書いていますが、寿司酢をおすすめ。できればダシ昆布入れて炊いた米に、ダシ入りの寿司酢をあわせるというのがよいです。レモンとか絞り足すのも味わい変わってたまにはよし。

sushi

 学生のときに和食屋でバイトしていたことがありました。その店はチェーン店で、にぎり寿司なんて出していなかったのですが、ちらし寿司だとか寿司飯を使った海鮮どんぶりなんていうメニューはあって。材料はそろっているわけですから、まかない飯で寿司を握ろうという発想は当然出てきます。で、遊びのレベルで握っていると、レトルトを温めるばかりの和食チェーン店でも、働いているひとは紆余曲折。本職の寿司職人だった、なんて方もいらっしゃったのです。なんでいそれはなってねえなあ。とシゴかれて。ゆえに、お客さまに出したことはないけれど、それなりに私はにぎり寿司が握れるようになり……むしろ、そういう店で学んだからこそ、お子様ランチのハンバーグやミートボール、鍋用の豆腐だって寿司にして食う自由を知ったのですけれども。
 寿司酢の合わせかたは教えてもらいませんでした。
 米にまぜる酢は、本部からペットボトルで送られてくるものです(笑)。

 ネタはなんでもよい。
 魚があれば魚、肉があれば肉、焼きそばがあれば焼きそば、茄子があれば茄子。

 そういうふうにして、いまでは私の晩ご飯の一週間に少なくともいちど、多ければ三度ほどは、ミャンマーの国境線にあるメキシコ人の経営する寿司バーで出てくるような、謎の多国籍料理の一部としての寿司になっている。
 もちろん、ふつうの寿司も好き。
 でも、なかなか冷蔵庫に刺身はない。
 買いに行くなら、別のものを買ってしまうことも多い。
 料理に時間をかけるのは好きだけれど、食べるときに皿が並ぶのはいやだし、片付けるものが多くなるのもいや。プロレスの試合観ながら、ビール飲んで、つまめるものがいい。そう、トランプに夢中でトイレに立つのもいやだったギャンブル中毒者がサンドイッチを発明したように、寿司とは日本の誇る最強のワンディッシュ。いやまあ、醤油の小皿はいるにしても。

 私には家族があるので、ワサビは握るときに入れません。私、手巻き寿司なんかだとチューブワサビを軽く一本は一食で使う舌感覚の持ち主なため、その分量でワサビ入りを握ってしまうと、だれも食べられなくなってしまうし、逆に他人にあわせると、私はけっきょくワサビを一個一個に足すことになる。だったら最初からマイワサビを皿の端に盛ればいい。

 ところで、全日本プロレスで活躍するSUSHI(とは、頭の上ににぎり寿司を二貫のせたプロレスラーである)が先日、タマゴの握りを一貫盗まれて「一貫だと寿司は50%の力しか出ない」というようなことを発言していたのだけれど。現代の世界の潮流である回転寿司では一律料金の店も多いので、確かに二貫をひとつの基準に据えて、高いネタは一貫ひと皿にしたほうが商売はしやすい。そういう意味では、二貫でひと皿が当たり前になったこの世界で、野菜寿司が普及しないのは、どう見ても単価が安いので損した感が否めないから、というところもあると思われる。知名度のせいなのか、どこの回転寿司屋でもカッパ巻きは回っているが、お、かっぱきたっ、なんてテンションが上がっているひとは見たことがないし。逆に、高級なカウンターのお店なんかだと、生の野菜の握りをウリにしてるところもあったりするみたいだが。

 でも、冷蔵庫の在りモノで寿司、というのが習慣付くと、値段は関係ないので、ともかくなにかがのってりゃいいってことになるのです。テリヤキ茄子と、茶碗一杯の白ごはんは一瞬で食べ終われますが、それをにぎり寿司にしてみたらあら不思議。日本酒いきながら、プロレス観ながらだと、同じ量で一時間は保ちます。生活の知恵。
 そんなわけでのおすすめです。

 小説の話も少し。
 言わずもがなですが、ナスビに媚薬としての成分は入っていません。タイトルに使った「恋なすび」というのは、聖書が日本語訳されたときの造語で、原典に「Love eggplant」だとか、そういった淫靡な単語は出てこない。すごいですね、日本語。マンドラゴラを説明するのに恋なすびって。ちょっと可愛いんですけど。

 ファンタジー好きのかたならマンガやゲームで目にしたこともあるでしょうが(映画ハリーポッターにも出てきましたね)、マンドラゴラの根は、いわゆる朝鮮人参みたいな枝分かれしてくねくねしたカタチをしていて、それが手足のある人間のように見えたりもすることから、土から引き抜くと叫ぶ、などというモンスター化が成されています。

 が、考えてもみればですよ。聖書に恋する茄子として出てくる植物なのに、そのファンタジー造形は、ちっとも可愛らしくない。ちなみに、原典の旧約聖書のなかでのマンドラゴラは、不妊が解消し身ごもり子孫も繁栄しましたとさ、という話なので、毒というよりも薬効を推している。それがどうして叫ぶ植物モンスター?

 近年の医薬品業界に泳ぐヒトならよく知るところでしょうが。勉強会なんかで、冗談めかしながらも(役所関係の講習会だったりすると笑顔ながら唇は笑わずに)、みなさんはやろうと思えばできるでしょうけれど、合法ドラッグとかいうのを売ったりはしませんように、なんてことが決まって言われます。医薬品通販と合法ドラッグという単語の出てこない勉強会は、ないってくらい(で、役所関係では、データはいっぱい配られるのですが、こっちとしてはつっこみどころ満載。「実際にこんなものまでネット通販で買えました」という表を配って「昨年よりも状況は悪化しています。こういうわけでみなさんのお店の売り上げが落ちるわけです」とか言う。いや、実際に買って裏とったならお前らが捕まえて減らせ、というツッコミ待ちなのですあきらかに)。

 それくらい、笑いごっちゃなく、それらは蔓延していて、なかでも、ナス科の植物から抽出できる麻薬は、ほとんど麻薬というよりも、毒。

 マンドラゴラが恋なすびと訳されたのは、間違いなく、中世ヨーロッパでの麻薬としての使用事例が、文献としてこの国に流れ着いていたから。そのころ、ナス科の毒は、はっきり媚薬とされていた。実際に効いたのである。
 ただし。

「まさか……なにか入れたのか」 

 瑠衣の発想は正しい。
 それが日本の秋ナスではなく、中世ヨーロッパのマンドラゴラの寿司であったなら、ナス科の毒は、瑠衣にそういう作用をもたらしたはず。

 好きにされる。

 完全にトぶ。けれど、それが麻薬としてよりも毒として有名なのは、さらなる特徴的な状態に陥るから。軽くまる一日は精神錯乱したあと、そのあいだの記憶が消失する。

 これを、媚薬と呼ぶことができる社会とは。
 娼館が立ち並び、そこで働く者たちは、奴隷同然だった。
 膿んだ時代だ。
 買われたのか、売られたのか、さらわれたのか、ともかくカラダを売る意志などないが、商品となってしまった少年少女たちに、ナスビの毒があたえられた。
 即座に本人はバッドトリップ。
 目の前の裸の相手がだれであろうと助けを求めて抱きついてくる。それを別の意味で抱く。客にとっては、無反応よりも少々あばれるくらいのほうがいい。記憶は残らない。客の顔もおぼえていない。苦痛も快楽もなにも残っていない。
 くりかえすうち、記憶のある時間のほうが短くなる。
 自分の人生になにが起こったのかわからないまま、少年少女たちは、娼館で無垢な廃人となり……その先がどう処理されたのかは、考えたくもない。

 そういう、媚薬。
 奪うための、毒。

 娼館の必須アイテムだった、しかも、旧約聖書では不妊の治療薬。
 それらの情報から「恋なすび」と名付けた、はじめて聖書を読んだころの、この国は平和だった。売り買いされた娼婦はこの国にだっていたが、まだ、薬漬けの泡姫なんて存在はなかった。薬屋さんが集まると合法ドラッグの知識を共有しあうようになったいまでは「他人の心を奪う」=「恋」という発想は最初にくるものではない。

「なにか入れたのか」

 お茶に、寿司に?

 かつては手料理も、恋を紡ぐ方法だったけれど、いまでは贈られたクッキーを無防備に頬ばることもできやしない。すすめられた酒やタバコなんて、なにか混じっていると確定してもいい。

 まあ、そういうことを考えますとね。
 逆からよいところをさがしてみるならば。
 手料理は、それだけで淫靡なものになったともいえる。
 まして、にぎり寿司なんてのを、す、と出して。
 平気で食べてもらったなら、媚薬なんていらない。
 もう、彼はあなたを食べて平気だと判断しているってことだもの。 

 それは、襲いませ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy

13曲目『バーベキュー厳峻鋼』
12曲目『茄子はダシの夢をみるか?』
11曲目『すっぱくても、平気。』
10曲目『踏み絵ムルギティッカ』
9曲目『ひとくちだけカトルカール』
8曲目『春節の静かな賞品』
7曲目『ナンを焼くと両手がつかえない。』
6曲目『タマレってなに?』
5曲目『あらいぐまのすきなもの。』
4曲目『ピッツァみたいにぼくを食べてよ!!』
3曲目『クリスピー・プロ・フライドチキン』
2曲目『青くてカタいアボカドのパスタ』
1曲目『春餅/チュンピン』

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クロムハーツ 店舗  クロムハーツ 店舗  2013/10/24 16:51
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