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『蝉の美味しい食べかた』の話。



Semi

蝉は熱帯の昆虫である。
世界的に見ればメジャーな種族とはいえない。
それなりの体長があって毒も持たないので、
ヒトを含め、ジャングルをさまよい、
こやつを食したおかげで生き延びた、
という生物は多いはずだ。
揚げるとバリバリしていて美味しい。
イソップ童話の「アリとキリギリス」は、
もともと「アリとセミ」だったものが、
世界に広まる過程で改変されたという。
改変されたものがアジアでも広がっているけれど、
蝉を季語と称するこの国などではとくに、
原典通りのセミのほうがキリギリスよりも、
心にうったえかけそうなものだが。
物語さえ与えられてしまった敗戦国。
とはいえ。
ギリシア原典のイソップ童話も、
蝉について勘違いをしているのは否めない。
冬のために夏のあいだ働き続ける、蟻。
いっぽう、ひと夏を歌ってすごし逝く、蝉。
蝉も、歌っていないで、働き備蓄をすれば。
寒い冬も越えられるかもしれないのにね。
そういうふうに、蝉を見ている。
だけれども。
昆虫の生態研究がすすんだ現在、
わかったことがある。
働き蟻の寿命は一年ほどだ。
その蟻生は、女王を太らせ、家を守るためだけにある。
異性との生殖で増える生物は相手を魅了する必要がある。
働き蟻が歌わないのは、交尾もせずに死ぬからだ。
そこまでして支えた女王蟻も、
己の家では交尾せず、あるとき飛び去っていく。
しかし、蝉は。
数年生きる。
土の中で。
夢を見続ける。
大地の滋養のみを糧に、徐々に育つ。
ある夏、空を目指す。
歌うため。
結ばれるため。
文字通りの愛の歌であり、
うまくいこうがいかなかろうが。
歌ってしまえば、終わる。
それが蝉生のすべてである。
見つけて愛してと、
ひと夏歌うことだけがすべてだと、
生まれ落ちたときには覚悟を決めている。
だから歌える力がつくまでは、
食べることも、眠ることさえせず、
暗闇で夢を見続けていた。
太く、短く、ではない。
働き蟻たちよりもずっと長く生きる。
けれど蝉は、決めているから。
無駄に働く必要などなかったのである。
歌えれば、それでよかったのだから。
きっと蝉が暗闇で見ていた夢は、
歌に、だれかが応えてくれることではない。
とどけと歌うことのみを。
想っていた。
そして、激夏裂光世界。
想像などできるはずもない闇とは違いすぎる場に出でても。
迷うこともなく、戸惑いもせず。
想っていたとおり、歌う。
それはもう、逝っていい、絶頂。
世界なんか知るか。
歌うだけの成長しかしていない。
ゆえに死ぬほど歌う。
本気で死ぬまで歌って逝く。
たまたま、あなた素敵ねとメスなんか寄ってきたって。
それはもう絶頂のあとのおまけにすぎない。
ああ。なんて清らかな蝉生。
己の生きる意味に微塵の迷いなし。
それこそが生き様だと、物語るべき。

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 先日の『探偵!ナイトスクープ』で、日本に嫁いだ中国の女性が、子育てのストレスを癒すために懐かしいふるさとの味であるところの蝉を食べたいのです。という話題をやっていて、実際に捕まえてきた蝉を探偵さんも女性の旦那さんも食しておったのですが。

 以前、中国で山積みになった甘辛く煮た蝉を味見させてもらったことがあるし、行ったことはないけれど、沖縄では炒めた蝉の料理がある、というのは読んで知っていた。でも、そういった蝉料理の共通項は、成虫の羽根をむしって丸ごと調理するというもので、その性質上、味というよりも、食感をたのしむものになっている。

 前にも書いたおぼえがあるが、物の本によると、心を病んだSci-Fi小説好きの大好物たる荒廃した近未来という設定。そこでの食事のありかたを大まじめに研究している人々がいる。で、そういう世界でお手軽にタンパク質補給できる食材として、大本命なのが昆虫だという。ていうか、はっきり書いてしまえばゴキブリである。ヒトが滅びるほどのマッドマックスワールドでも、奴らは生き延びるはずだし、あまつさえ巨大化なんかしてくれた日には、共存共栄どころかヒトがやつらを食い尽くすバラ色の未来になるから安心ですよ、ということだそうだ。

 いちばんおいしい食べかたは、素揚げ。
 黒かった外殻がエビのように赤く変色し、ふわりと揚げ広がった薄羽根が白くかすみ、みごとな紅白。見た目もOK! 食感は、外がカリッと、薄羽根がシャリシャリと、中身はジューシーで一部、エビに似た味のする部分があるという。

 私の食べた蝉の甘辛煮は、煮込まれているだけあって中身のジューシーさなど感じられなかった。沖縄風炒め物も、中華のエビ炒めを思うに、すっかり芯まで火が通る調理法なので、タンパク質は熱によって変質硬化しているはずだ。

 それが。
 ナイトスクープで彼女が、なつかしの味と呼んでいた蝉料理は、見るからにジューシーであった。否、それは料理と称するようなものではなかった。蝉の羽根をむしり、100円ライターで炙る。そして、二つに割る。そのうえで、中身を食うのである。

 エビ、もしくはシャコの丸茹での食しかたである。
 だがしかし、アウトドア好き、特に釣り好きだったりするとご存じだと思うが、ライターで肉を炙るというのは、よくやる行為だ。あ、痛っ。ケガしてしまったよ、でも消毒薬はないよ、そんなとき、傷を軽く炙る。
 名作映画『男たちの挽歌2』で、チョウ・ユンファがライターの火に唇を近づけて吸う有名なシーンがあり、私もかつては真似したことがあったが、ヤケドすることなんていちどもなかった。

(余談だが『男たちの挽歌』においてユンファは楊枝をくわえるようにマッチをくわえていて、それを中国の男の子たちは真似したそうだが、日本でそれを真似してもユンファではなく、木枯らし紋次郎とかドカベン岩鬼を連想されてしまうので真似しがいがない。それに比べ、『2』において前作で死んだ主人公の双子の弟を演じるユンファが、会議の末に決まったのだろうマッチに変わるキーアイテム「ライター」を使って魅せる芸当は、二十一世紀のいまになっても、それを真似すれば『2』のユンファだとわかってもらえる独自性を誇る。なので、なんだか大変なことになっている暴動中国で、取り囲まれたらライターの火を吸ってみるといい。お、こいつユンファのファンだぜ、なに、おまえ英雄本色2を観てネエのかよ中国人のクセに、なんて内輪もめがはじまって、その隙に逃げられるかもしれません)

 使い捨てライターの火力で、なにかに火を通すことなどできない。

 実際、テレビのなかの彼女も、ほんの十秒かそこら、蝉を炙っているだけだった。あれで火が通るわけはない。とすればなんのために炙っているのか。
 考えるまでもない。

 殺菌のためである。

 傷口を炙るのと同じ。
 だとすれば、そこにある物語も見えてくる。

 彼女は、なつかしい、おいしいと、火の通っていない殺菌しただけの蝉の内臓を食べていた。彼女の田舎ではオヤツだったのだろう。しかし、その付近の子供たちが蝉を捕って炙っては食うようになった以上、その親たち、先祖たちも、そうしていたに違いない。

 架空の世紀末において、ヒトがゴキブリを捕っては食うように、彼女の祖先は、オヤツなどという感覚ではなく、もっと切迫した状況で手を出した。過酷な大陸の歴史で、彼らが身のまわりのあらゆるものを食そうと試みたのは、よく知られているところでもある。

 蝉を食った。でも、たぶん、ひどいことが起こった。

 だから、近代の人類の子である彼女が、わざわざ蝉を炙って食うのである。オヤツなのだ。子供なのだ。むかしから食べられていたものだという知識もある。私は学校帰りに道端のヘビイチゴを食べるのに炙ったりはしなかった。それでひどいことが起こった話を聞いたことはなかったからだ。しかし彼女の田舎では……
 子供にまで徹底されるほど。

「蝉はかるく炙らないとこわいよ」

 そういうホラー……いや、体験談が、語り継がれていたのだろう。
 殺菌しない蝉を食って逝ったご先祖様もいたのである。

 前述したように、分布範囲の限られている蝉は、それゆえに、接する者の想い出の昆虫となりやすい。中国ではオヤツで、日本では季語、英語圏では、見つけた蝉の瞳の色を競うコンテストが催されていたりする。
 きっと、そのコンテストのことが、伝言ゲームのうちに変質したのだろう都市伝説もある。

「群青の眼をもつ蝉を捕まえたら一攫千金」

 ディープブルーな眼をした蝉の写真がネット上には流れているが、合成である。青い瞳の蝉というのは実在するが、ヒトを驚嘆させるような群青色の個体は、いまだ都市伝説だ。

 そんな伝説のもとにまでなってしまったコンテストを主宰しているサイトで、もっともアクセス数の多い記事は、やっぱりそれなんだという。

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『蝉マニア / 蝉は安全に食べられますか?』

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 『蝉マニア』の見解としては、犬が食べてもヒトが食べても問題になるとは思えないが、農薬の撒かれている地域では残留物に警戒する必要があるだろう、ということである。
 至極、まともな解答だ。

 ナショナル・ジオグラフィックも、同様に残留農薬には触れながら、それでも汚染された海で獲れる魚より蝉のほうがずっと安全であって、栄養価的には積極的に食したほうが良いとすすめている。

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『National Geographic / 低脂肪高タンパクな蝉は新健康食?』

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 もっとも美味なのは、羽化したてのやわらかいのを生で。成虫ならメスを軽く茹でて。大地の滋味を含み、アスパラガスのような味。ビタミンやミネラルも申し分なし。ピザのトッピングとしてもオススメ。赤でも白でも、ワインによく合います。

 ……絶賛である。
 食べにくいヒトはチョコレートフォンデュにすると食べやすいらしい。それは食べやすいでしょうとも、でも、私は塩味のほうがいいな。ピザかあ、とろーりチーズにしゃきしゃきの蝉。アスパラガス風味……栄養満点。
 窓の外に耳を澄ませてみた。

 んー。
 蝉、もう、鳴いていない。
 いつのまにか夏は終わったようです。
 残念。
 来年。



Hershey

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