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『焼かないヒトのためのバーベキューソース』の話。


「テツ、もってろ」

 銀色の時計をはずし、大沢は哲雄に放り投げた。
 お供して行った時計店で、中退した高校の化学の授業のような商品説明を聞き、その大半を哲雄は意味さえ理解できなかったが、店員の言ったいくつかの言葉だけは、おぼえていた。
 “鉄の半分を入れ替えた超合金”
 “傷つかず錆びることもない”
 そのあと、大沢のかわりにクレジットカードの請求額を確認したので、忘れられないのかもしれない。
 大沢は、舎弟たちに割り入って、炭の爆ぜるバーベキューコンロの前に立ち、腕まくりをしている──その身に着けた純白のジャケットも、本人は値段を見ていない。止めようかと思ったが、やめた。飛んだ火の粉で焦げようが、肉汁で染みを作ろうが、大沢は気にしない。いつかホテルで観た古い映画で、中国の極道者が、ニセ札を燃やしてタバコに火をつけるシーンがあった。大沢は、本物の札でそれをする。口説く気もないキャバ嬢に、嬌声をあげさせるためだけに、それができる。
 いまだって。
 肉を焼くために、白いスーツを着替えたりしたならば、あれほど舎弟たちは、はしゃいだりしなかったはずだ。
 あのひとは、だれの心だって、たやすく掴む。

「ほら。おまえのだ」

 差し出された皿を、哲雄は受け取れない。
 銀の時計を、両手で守っていたから。

「んなもん、大事そうに持ってんじゃねえよ」
「だったら、なんではずしたんスか」
「ん? おお。そうだなあ」

 お気に入りの時計なのだ。だから無意識にせよ、汚したくなくて、哲雄にあずけたはずなのに……それなのに、大沢は、そのことを恥じるように、言葉を継いだ。

「おまえに、やる」
「……ぇ」
「欲しそうに見てたじゃねえか。着けてみろ」

 両手に肉ののった皿を持って立つ、大沢を待たせておくことはできずに、哲雄は自分の左手首にそれをはめた。かちりと金具が音を立て、錆びない銀の時計が、冷えた感触でなぐさめたが、哲雄の震えはおさまらなかった。

「似合わねえ。だが、そのうち馴染む」

 笑って、皿を差し出す。
 受け取って、哲雄は、肉と時計を見下ろした。
 震えるほど高価な時計と、脂ののった肉。
 自分の肌だけが、くすんで見える。
 半分だけ……ふと、そう、考えた。
 傷つかない超合金も、半分はそこらに転がるただの鉄だと。

「テツ、食えよ。おれの料理なんて初めてだろ」

 バーベキューソースの酸味ある臭いが鼻をつく。
 あの目玉焼きのことをおぼえていないのだと、少しショックだった。うまい卵をもらったからと、哲雄に焼かせたが気に入らず、自分で焼いて、食わせてくれた。あのときは、うまさに、泣きそうになった。

「おれ、バーベキューってはじめてで」
「キャンプとか行かなかったのか?」

 これだけいっしょにいても、哲雄の孤独を解さない。契りの杯を交わすまで、人生と呼べるような人生を持たなかった哲雄にとって、あの目玉焼きの味は、顔色を盗み見る大沢の様子をふくめてのものだったのだが。
 いま、哲雄は、盗み見る。
 そのひとの瞳が、どこを向いているかを確かめたくて。

「兄貴」
「なんだよ。辛いなこのソース。あの野郎」
「やっぱり、これは……もらえないっス」
「じゃあ捨てろ」
「なんでですか……」
「離れたら、おれには関わりない」

 離れたら、と口にしたとき、なにを連想したのか、大沢は、肉を噛みながら笑った。哲雄は怖くなる。大沢が組を裏切るという噂は、風に乗って、と表現するには大きすぎる音量で、そこかしこから聞こえてきていた。

「兄貴が、投げたんじゃないスか」

 言う気はなかったのに、こぼれ落ちる。
 大沢は、振り返って、肉を噛むのをやめた。
 距離が近い。   

「不満か」
「ずっと、着けてたじゃないスか」
「だから飽きた」
「そんな……」
「傷つかねえってのは、醒める」

 大沢の手が、哲雄の手首ごと、時計を掴む。
 ぎりぎりと握力だけで、締めあげる。

「痛っ……っス」

 超合金の半分は、鉄。
 傷つかず、錆びなくても。
 鉄の部分は残っている。

「テツ、おまえ、おれに惚れてんだろ」
「はい」

 いともたやすく、ためらいもなにもなく。
 答えていた。
 大沢は、刹那だけ笑みを深め、真顔になる。

「だったら、おれと堕ちろ」

 このひとは。
 傷つき、錆びている。
 それがわかった。
 それでも、哲雄は、悦びに気が遠くなりそうで。

「はい」

 首を抱かれ、鼻と鼻をつきあわせる。
 大沢の呼気は、バーベキューソースの酸味にまみれているはずなのに、甘すぎるほどに甘かった。

「醒めさせんな。テツ」

 それは、傷つけ、ということだ。
 手首に食いこむ時計は、肌をやがて裂く。
 大沢は気にしないだろう。
 気にはしないが、見つめるはずだった。
 すぐそばで傷つき錆びるものを。
 醒めないうちは、投げ捨てない。

「はい」
「食え」

 白いスーツの胸元に、赤いソースが飛んで小さな染みをつけていた。それを見つめ、首を抱かれたまま、赤いバーベキューソースに浸された肉を、口に運ぶ。大沢は辛すぎると言ったが、そのソースはやはり、甘さが勝っていた。
 屋敷の庭で、余興に開いたバーベキュー。
 この日を、いつか想い出すだろう。だれかのことを、どう想っているかなんて、はっきり伝えられたこと自体が、生まれて初めてで……哲雄は、気づく。

「おれは、兄貴に惚れてるんス」

 口に出して言えた。
 大沢は、食いながらしゃべるなと言った。
 手首が解放される。
 視線を落とす。
 秒針が動いていた。
 堕ちる。
 傷つき錆びて、砕け散る。
 そこまでの刻を計るように。

 どうすれば白いスーツの赤い染みを、大沢が気づかないように抜けるか、考える。深く赤い色は、血の色に似ている。そういえば、血は錆びた味がする。ぴかぴかに輝いていても、内側は傷つき錆びついていく。視力の良い哲雄には、銀の時計の小さな傷が見えていた。大沢は、気づかなかったようだが。
 歯ごたえのない高級な肉を咀嚼しながら、連想した。
 大沢本人は気づいていない、その身の傷を、錆を、すべて、そっとつまみとって、この口に放りこみ、飲んでしまえたら。
 このひとは、ぴかぴかのまま、堕ちることができる。
 かわりに、この身は、傷と錆だけになる。
 醒めさせない、と誓いながら、飲みこんだ肉は。
 もう、甘くなかった。
 うまい。
 うますぎて、あえぐように声が漏れかける。
 あわてて息を止め、かえって咳きこむ。

「だから言ったろ。辛えんだって」

 はい、と。
 答えて哲雄は、口に残るソースの味をあらためて舌で、さぐった。
 確かに辛さはあるが、必要な味だ。
 これを、このひとは邪魔だと感じる──
 そのことを、おぼえておく。

Bbqsauce

Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 13
 『BBQ STERNNESS STEEL』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 13曲目
 『バーベキュー厳峻鋼』)

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○材料

ホールトマト缶 1缶
赤ワイン 150cc
ジン 30cc
野菜ジュース 100cc
たまねぎ 1/4個
にんにく 4片
はちみつ 大さじ1
タバスコ 小さじ1
ブラックペッパー 適宜

○作り方

 ↓トマト缶の中身と野菜ジュースをフライパンに空け、木べらでトマトを荒く潰しつつ三分の二ほどの量になるまで煮詰めます。

Bbqsauce1

 ↓みじん切りしたにんにくとたまねぎを中火で一分炒め、、その他の材料を投入。アルコールを抜くために沸騰の直前まで弱火で加熱し、火を止めます。

Bbqsauce2

 ↓すべてを混ぜあわせ、容器に移し、あら熱が取れたら冷蔵庫へ。

Bbqsauce3

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 写真では焼いた肉に冷えたソースをかけていて、私はこのスタイルが好きです。むろん、肉を漬け込んで焼いたりしても美味です。家のなかでやると煙いですけど。その場合、たまねぎはすりおろし、分量外の生りんごなどもすりおろして加えてやれば、繊維質が肉に絡んで良い感じにまとわりつきます。

 もちろん、野菜ジュースなど使わずに、生野菜をミキサーにかけたほうが味わい深いソースになるでしょうが、ぶっちゃけ、バーベキューの準備に野菜を買ってきたなら、それも焼いて塩胡椒で食したいので、もっぱら野菜ジュース。食塩無添加のが味の調整もしやすくて良い。

Vegetable juice

 肉をローズマリーといっしょに焼いたり、ソースに生バジルを散らしたり、そういうのも良し。肉以外にも、フライドポテト山盛り揚げてこのソースと、でーんとテーブルに置いておけば、子供味覚な大人たちは、それだけで飲んで食って時間を潰せます。ていうか、たいていの場合、これがテーブルに置いてあると、生野菜もかっぱえびせんも浸して食ってしまい跡形もなくなることが常。大人味覚な人たちのためには、追加のタバスコと練りマスタードと、ブラックペッパーを与えてやれば、だれがいちばん舌がバカかで争いだして盛り上がることでしょう。マスタードは、あらびきではなくて、GTAのホットドッグスタンドで好きなだけかけてもいいよって書かれているようなまっ黄色のやつ推奨。『パーフェクトワールド』でケビンが作っていたマスタードサンドを観て以来、私の人生でもけっこう頻度の高い小腹を満たすメニューになっているので、冷凍庫に薄切りのバゲット、冷蔵庫にはアメリカンなマスタードのボトルは必需品。ちなみに私はそのマスタードサンドにタバスコとブラックペッパーもミルでがりがりかけて食すバカな舌の王である。

Mustard
PERFECTWORLD

 ところで卓上にマヨネーズを置いておくと、混ぜてソースを台無しにする真性バカがいますので気をつけましょう。

 そんなあたりで語ることもなくなったので、料理の話はここまでにいたしまして、雑談を。バーベキューの英語綴りはbarbecueなので、略すならBBCなのに、なぜだか略すとBBQになる。なぜだかって、たぶんBBCびわ湖放送局の設立よりもバーベキューの設立のほうが早いだろうから、びわ湖放送にのちのち訴えられてFederationをEntertainmentに変えざるをえないというような事態を憂慮したわけではなく(わからないコはおとうさんに訊こう)、たんに発音が似ているからである。

 英語の略語というやつは、ほかにも、
 4AOとか、6Y8とか、どうにも品がない。
 ちなみに順にFor Adults Onlyであり、Sexy Boyを指す隠語だが。
 うえへへっへとバーベキュー喰いながら「ビービーキューっぅぅ、なんつて」なんて言っている撃ち殺したくなる酔っぱらいのおっさんの姿が目に浮かぶようである。

 雑談と言いながら本当にどうでもいい話なので、小説についても少し。
 もちろんこれは、前回の「二十世紀のなにを捨ててなにを加えれば二十一世紀の萌え極道は描けるのか」という考察を、せっかくなので忘れないうちに身につけるスパーリング。

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『男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW』(激しくバレ有り)の話。

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 純白のスーツの冷たいアニキ。
 ノンスモーキング、おれはちょっとバカ。
 だから口走る。
 誤解の余地なく口にして、かってに幸せになる。
 きれいなオチは用意しない。
 続きがあることも匂わせない。

 正直、どうも物足りない。
 以前に、フライドチキンのときだったか、プロレスラー同士の場面を描いて、いまいちノレないと思った、それに近いものがある。どうやら、私は、自分の愚かさをわかって生きているやつらに、恋を語らせたくないのだと気づく。あのときも、今回も、タッグチームの絆を深める話なら、兄貴と舎弟がともに死地におもむく話を書けば、のめり込めたに違いない。だが、いちおうBLと銘打っているのでそれっぽさを醸しだそうとすると、なんだか自分で自分に首をかしげてしまうのである。

 よく、焼き肉は性的通過儀礼の済んだカップルで行かないと気まずいことになると言われる。実際のところ、肉を焼いて汁につけて食うなどという行為は、多人数なら祭りになるし、ひとりならのめり込めるものだが、だれかとふたりで向かいあってとなると、観察せずにはいられない。肉を噛みきり、飲みこむ相手の野性的動作に、おれだって、あたしだって、肉なんだ、ということを意識せずにいられるとしたら、かなりの鈍感な神経の持ち主だと断じざるをえない。思想的ベジタリアンでなくても、料理よりも生きている動物に近い、ただ焼いただけの肉を笑顔で頬張るだれかを許容するには、思想を持つ必要がある。

 恋だの愛だの言っても、ヒトも動物だ。
 食欲も性欲も、必要以上(というのは現代のヒトの場合、ほとんどすべて)の部分は、まぎれもなく遊戯である。
 戯れに、他人の肉に溺れることを良しとする。
 その前提がちゃんとしていないと、戯れに焼いただけの動物を食うという遊びを、いっしょにやっていいものだか、距離感をさぐる必要が出てくる。

 そういう意味で。
 あくまで私のなかの基準だが、戦い殴りあう男同士とか、一蓮托生を誓う杯を交わした男同士とか、そういう関係なら、別に性的通過儀礼がなくても、焼き肉だって平気で食えるんではないかと考えてしまうのである。
 そして、そこにハードルがないということは、逆説的に、恋愛感情を抜きにして互いの肉に戯れることだってできてしまうのではないかと、思ってしまうのである。

 そういう男たちに、愛だの恋だの言わせるのが、どうも違う。
 結果、なんだか数十年連れ添った夫婦が、献身と呼ぶよりももっと反射的な思考で相手の転ばぬ先の杖になってしまうようなことになる。つまりはそれが、萌え極道の本質であり、完全に惚れ抜いているのだとしても、そこに動物的生殖遊戯の香りが立ちのぼらないからこそ、私たちはなんて彼らは不器用だ男臭いんだ、もどかしいぜと、萌えるのではなかろうか。

 エロに夢中のプロレスラー同士とか、義兄弟とか、濃いようでいて、その描写自体が、とっても醒める。

 というわけで。
 なにが、というわけなのか、という話ですが。
 バーベキューソースも、そういうものだと感じます。
 なにもない場所に行って、炭火のコンロをレンガで組んで、持ちよった肉をあぶって食うのなら、そんなもん。塩と、せいぜい胡椒があれば、それがいちばんに決まっている。それを、各種野菜と調味料を混ぜあわせたソースを瓶に詰めて持っていくとか、あまつさえ数日前から肉を漬けてあるとか。
 遊びすぎ。

 せっかくの嬉し恥ずかし初めてのヒトとだと頬も染めずにはいられない焼き肉ってやつを、皿に盛ってパンも添えて、ヘタをすれば清潔感さえ漂う「料理」にしてしまう。

 動物としては、邪道なこと。
 良い獲物が狩れて、良い肉が手に入ったなら、遊ばず本気で焼くことをススメます。
 一子相伝の秘伝のBBQソースのレシピをめぐって殺人まで起きるような国っていうのは、広いからそんなことになるのであって、ソースをつけた肉を焼くなんて煙地獄な行為は、いまや日本では川原でさえ禁止される行為です。
 なので、こんなレシピ。
 あっさり野菜ジュースに、甘みと辛み。
 煮詰めたトマトで、とろり。
 冒頭ではからめて焼いてもよしなんて書きましたが、前言撤回。
 かけて食ってください。焼かないで。
 多めのニンニクが無理って向きもありましょうが。
 だったら別のもの、つまみに飲んでれば。
 やがて夜更けすぎに距離感も縮まることでしょう。
 縮まれば、たいていの匂いって気にならない。
 あー。焼肉の距離感って、そこも大きいですよね。
 ニンニクいけるヒト? アルコールは?
 私は、ポテチにつけて食す軽めのお手軽バーベキューソースであっても、におってくれなくちゃイヤです。ビールをとりあえず、そのあとにはもう少し度数高めのアルコールが出てこないとイヤです。テレビではアクション映画かプロレスの試合が映っていて欲しいです。
 もちろん、近くに肉があれば最高です。
 
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Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy

12曲目『茄子はダシの夢をみるか?』
11曲目『すっぱくても、平気。』
10曲目『踏み絵ムルギティッカ』
9曲目『ひとくちだけカトルカール』
8曲目『春節の静かな賞品』
7曲目『ナンを焼くと両手がつかえない。』
6曲目『タマレってなに?』
5曲目『あらいぐまのすきなもの。』
4曲目『ピッツァみたいにぼくを食べてよ!!』
3曲目『クリスピー・プロ・フライドチキン』
2曲目『青くてカタいアボカドのパスタ』
1曲目『春餅/チュンピン』

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クロムハーツ  クロムハーツ  2013/10/23 14:03
『とかげの月/徒然』 『焼かないヒトのためのバーベキューソース』の話。