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『白き影と黒きダースベイダーの視る色』の話。


Blackcracker

黒は色ではない。
そう教わった。
白も色ではない。
色ではないのに黒や白の絵の具が売っている。
あれは真実の黒や白ではないのだという。
真実の黒とはいっさいの光が失せた状態であり、
真実の白とは光のみに満ち満ちた状態である。
そのように表現すると黒よりも白がよさげだが……
いや、どっちにしろ、なにもない。
黒や白でなにかが埋めつくされているのではない。
色とは光である。
色とは観察者の抱く感想だ。
きれいな色の光。
地球の夕焼けは赤い。
火星の夕焼けは青い。
しかし、光がゼロ、もしくは光のみ、
そんな状態では、なにも見えない。
見えていることを知覚できない。
感想はないはずだ。
ただ、世界を奪われたと感じる。
なにもない黒か白に、ひとりぼっち。
色どころか、生きる意味もない。
絶望さえしようがない。
なにもない場所には、自分さえない。
自分が黒や白なわけはないので、
世界が黒か白であるということは、
私自身は、いない。
いないのに視ていることになる。
そんなことはありえない。
そう……ありえない。
黒も、白も、ありえない。
絵の具の色は、ありえないものを真似ただけ。
疑似表現。
愛を愛とか、憎しみを憎しみとか、
形にできるはずのない感情を、
言葉に置きかえるのと同じ。
しあわせ、と聞いて、しあわせ、を想う。
それは想像。なにも確たることはわかっていない。
黒や白は、そういうものだと夢見るだけ。

「たくみさん、好きだから」

と、黒いクラッカーをもらった。
確かに私は黒を好む。
黒い食べ物の味が好きなわけではないが、
黒が好きだから黒いのを食べさせてあげる、
という気持ちはうれしい。
食べながら思った。
黒いんだが。黒いから。
ほのかな焼き目に魅入ってしまう。
無を意味する黒なのに舌に落ちる味を感じる。
色とは、あいまいな光のなかにだけあるもの。
黒い背景の絵を好むのは、あいまいな色を、
もっと、激しく目に入れたいからなのかも。
黒い服を着るのは、あいまいな色を……
心を。
あいまいにしたくないからなのかも。
真実ならば、黒に浮かびあがる色などない。
けれど言葉遊びのなかにはそれが許される。
黒いクラッカー。
ぱきっっと囓る。
無を食べている?
ううん。だって、黒なんて色はない。
だから、ある。
疑似の黒に浮かぶ、あいまいなはずの激しい色が。
想像上の、けれど視る者にとっては真実な。
それが好き。
たぶん、きっと、そういうこと。

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 はっきりおぼえていないので銘柄は出さないが、最近売られている「バター風味のマーガリン」の開発チームへのインタビュー記事で、こんな話があった。

「目隠しをしたスタッフに食べさせて、バターと区別がつかなかったんです」

 それでイケると確信しました、みたいな。
 そのインタビュー記事を読みながら、私は某テレビ番組でやっていた実験のことを思い出した。

 高速道路のトンネルの中でメロン味のかき氷を食べるとイチゴ味になる、みたいな。

 言うまでもないが、それは、トンネルに設置された赤色灯が、かき氷を赤く見せるからである。しょせん、かき氷のシロップは作られたフルーツ味。同じ原理で、たとえばイチゴポッキーがミドリ色をしていたら、ほとんどのヒトはそれがイチゴ味だと感覚できないはず。

 暗闇でコース料理を食べるという「クラヤミ食堂」というイベントに参加したかたのブログを読んだことがあるが、見えないと、チキンがチキンであることさえわからないのだという。

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『こどもごころ製作所 クラヤミ食堂』

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 ということを考えると、目隠しして食べて違いがわからないなどというのは、単純にどっちの味もよくわからない状態になっているのではないかと邪推してしまうのだが、日々、バターに近いマーガリンを食べ続けていたヒトなら違うのだろうか。

 これも某バラエティ番組で、彼女が彼氏のカラダの一部でそのひとを判別できるか、というのをやっていて、全身を隠してジーンズの尻だけを出した男十人ほどを、彼女はまじまじと観察していたのだけれど。

 当たらなかった。

 その彼女が言った言葉が、耳に残っている。

「カタチっていうか、肌の色がないとわかんない」

 至言である。
 男だろうが女だろうが、人種さえも関係なく、同じ人類なのだから脂肪のつく場所は似ているし、同じように鍛えれば同じように筋肉がつく。生まれつきの要素が大きい顔のパーツや、指の形などということだって、実は、判別できると思っているだけではないか。

 顔に、ペイントをするプロレスラーがいる。
 塗るだけで、別キャラである。
 観客に別人である錯覚を植えつけたいのなら、マスクをかぶればいいのだが、歴史上、顔面ペイントのみのレスラーというのは多い。それはすなわち、それだけで充分に観客がキャラ変更を納得するからなのだ。

 いまはもう入手できないが、古き良き時代、大ヒットした映画で、黒人の娘に恋をした白人青年が、肌を黒く塗ってアプローチするという物語があった。ハイデフ映像時代のいまなら、観客もさすがに醒めるだろうが、当時のアナログな粒子の粗い画面では、そういうことも可能かもしれないなあと思えた。いまの感覚だと、現実に目の前の恋人が顔を黒く塗っていて「同じ人種の仲間ね」と彼女が信じるという脚本そのものが侮蔑を含んでいることに気づくが、二十世紀では、そこにこそすべての人類は同じ種なのだというメッセージが込められているととらえられ、映画館に詰めこまれた全員が、ふたりの恋の行方に息を飲み、感涙した。

 肌の色の違いを障壁ととらえていたからこそ、世界中のひとがそこにロミオとジュリエット的なものを感じて涙したのであって、まだまだ人種のあいだには溝があったということの逆説的な証でもある……などと言っている二十一世紀でも『アバター』でヒトは泣くのだから、次の世紀で青くて大きな異星人と恋をしていることが当たり前になっている未来人から見れば、私たちなんていまだ心の狭い原始人である。

avater

 しかしまあ、原始人なりに、我々の感性はひとむかし前に比べれば進化しているのだという解釈もできるのであって、食はエロに通じると言った偉人がいたが、肌の色の違いにむしろエロを見る柔軟さをもった今世紀の人類にとって、食もまた同じ。

kokusyoku

 「黒食」という言葉さえある昨今である。
 言われてみれば、黒ゴマや黒豆なんかがカラダに良いというのは昔からの話だし、黒砂糖とは違う白くない茶色系の砂糖は新陳代謝を活発にするとか(こういうことを店のPOPに書くと役所からスーツのヒトがやってきて怒られます。それはしかたないけれど、個人ブログでもグレーだと聞く。でも、医薬品でないものの効果効能をうたってはいけないというのは、徹底しすぎると、あれはなんだかそれに効くらしいという噂話が噂話の域を出ないままに流布され、だれも検証せずに口コミで使用者を増やしていくから、それもまた危険なことだよなあと思ったり。あたしイチゴポッキー食べると肩こり消えるんだよねえ、とか、あえてつぶやくことによって、なにそれ化学的根拠はあるのか調べてみなくては、というオタクどもが動き出して健全さがたもたれるのではないかと)、黒酢を飲めばホルモンバランス改善だとか、なんとなくだけれど、黒っぽいもののほうがカラダに良いというのには説得力がある。

 コピー用紙は、安いものほど白い。
 これがトイレットペーパーになると、最廉価品はリサイクルだと宣伝するくらいで、茶色がかった色をしている。でも、同じようにリサイクルの紙をつかった安いコピー紙は、目が痛くなるくらいに白い。トイレットペーパーは文字を書くためのものではなく、コピー用紙には文字が書かれるからそういうことになる。すべての製品の品質を安定平均化させるためにはコストがかかる。だけれども安いコピー用紙はそこに金をかけられないから、思いきってすべてを漂白する。

 That's All Whiteである。
 白く塗りつぶせ。
 それがいちばん安上がり。
 自然な紙の色は、純白ではない。
 そもそも樹木を粉砕して作るのだ。
 白すぎては不自然だ。
 湖に泳ぐ白鳥も、本当に光学的に純白だったら、私たちは見たとたんに叫ぶだろう。

「合成だ!」

 白は色ではない。
 自然界に完全無欠の無垢なる純白はない。
 だからこそ、ヒトは純白を好む。
 車の買い取り価格は絶えずホワイトが高値だし、黒人もイエローモンキーも、花嫁はクリアホワイトな衣装をまとう。
 純白な都市の映像は、ただそれだけで行きついた未来の都市だと想像させる。

The Island

(『アイランド』、世間的な評価は高くないけれど、私は実にツボにはまった好きな作品です。純白都市の映像のきれいさも忘れがたいけれど、根本的に私、ふたりで逃げるという話が好きみたい。それも愛とか正義とか無関係に、ただ追われるから逃げるってやつが。それこそ人生だ)

 だからこそ、不自然なまでに漂白された世界に来てみれば「この黒っぽい米は玄米っていうんだぜ漂白していないんだ、実は、この米のほうが栄養があってさ」という話に聞く耳を持つようになる。

 余談だが、母の実家が米農家で、送られてきた玄米を私ももらうことがある。半分とって、半分うちのに精米してきてくれる? と頼まれ、私は玄米が主食なのでそのまま自分の家の台所に運び、残りの半分をコイン精米に持っていって、実家まで運んだら、父が怒った。

「上白精米しただろ、これ」

 もったいない、栄養が、というのである。 
 主食が玄米の私にとって、だったら玄米で食えというところだ。私が白米を炊くのは、おもに寿司のためである。さすがに玄米でシャリはない。黒っぽい寿司なんてグロい。すなわち白米とは、栄養を無視しても美しさと食感を楽しむための、嗜好品。
 わざわざ精米するのに、中途半端にヌカを残すなど具の骨頂。

 私の父のように、漂白された生活が当たり前のものになってしまうと、でもちょっとくらい茶色いほうがカラダに良いのでは、とか、そういう発想が出てくるのですな。なにか違う。

 黒いクラッカーには、竹炭がまぜてあるという。
 つまり、もとは白いクラッカーだった。
 炭に味はない。
 栄養はあるらしいが、微々たるものだろう。
 もっぱらその黒は、魅せるためのものである。

 先日、ジョージ・ルーカスの娘、アマンダ・ルーカスが総合格闘技のチャンピオンになった。日本で試合がおこなわれて、私もテレビ中継を観た。むかしから観ている団体なのだが、アマンダのおかげで取材陣も殺到する盛りあがりぶりで、ああ私も会場に行きたかったなあとうらやましく観た。

 観たのだが。
 アマンダの入場で、あの曲がかかった。 
 The Imperial March ( Darth Vader's Theme )。
 だーんだーんだーんだだだーんだだだーんだーだーだーだーだだだだーだー

 ほんで、ダースーベイダー卿、登場。
 観客は固唾をのむ。

 続いて、アマンダ・ルーカスが入場した。
 彼女のテーマ曲にのって。
 会場に失笑が走る。
 ダースベイダーが、立ちつくしている。

 ルーカスの娘だ、ベイダーを出すんだ。
 出した、終わり。

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『ルーカス娘アマンダが無差別級初代女王に/リング/デイリースポーツonline』

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 いかにもとってつけた演出で、でも、ないよりあったほうがよかったのは事実で、嫌がらなかったアマンダにも拍手を送りたいし、なにより、プロレスや格闘技で見慣れた花道で、まったくなんにもできずに立ちつくし失笑さえかっていたのに、ダースベイダーの純黒の姿が、とてつもなくまぶたに焼き残ったということに感動した。
 かっこいいとか悪いとかではない。
 黒いのだ。
 それが目を惹く。
 そして、それで充分なのである。
 バットマンも全身黒だが、彼はマスクマンなので口許が見えている。
 しかしベイダーは。
 ただ黒い。
 スターウォーズを知らなければ、ヒトかロボットかも区別がつかない。
 黒すぎて、唯一無二。
 闇を見て、そこに夢想で描けるキャラクター。
 もはや闇そのもの。
 黒は色ではない。
 黒とは、光のない場所。
 見ている自分さえ、いない無。

 フランスでは、新作の公開にあわせて、黒いダースベイダーバーガーが発売されたと聞く。隣に並んでいるジェダイバーガーが目を惹かないことは明らかだ。ネタならば、魅せるためだけの食品ならば、ジェダイバーガーのほうも目が痛いほどの純白に漂白すべきだった。

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『French Fast Food Chain Offers Dark Side/Light Side Burger | Walyou』

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『ピープルVSジョージ・ルーカス』 公式サイト

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 黒いクラッカーの味はどうでもいい。
 私にくれたあのひとも、めっちゃうまーい、なんていう感想を期待したわけではない。
 私はダースベイダーバーガーが食べたい。
 不健康になってもいい。
 黒いから。
 黒いのが食べたいから。
 その不自然さがエロいから。
 不自然なことをあえてするという行為は、一種のプレイだ。
 栄養を考えれば精米なんて必要ない。
 いまの炊飯機は、玄米もやわらかく炊ける。
 だから精米するならもっと白く、透明になるまで磨くといい。
 それは色ではない。
 黒は。白は。
 現実には存在しない、愛でるための、記号。

 だから私は黒が好きだ。
 祖父が逝く前、真夏に黒ずくめで病室に現れた私に対し、死んだと思って準備してきたのか、と言った。
 笑っていた。

 想像上の、けれど視る者にとっては真実な。
 そういう色は、自分が色を越えたところに立たないと、視えない。
 夜中に闇と同化したころ、眠れない目を凝らせ。
 そのときねっとりゆらゆらとした世界に、気づかなかった鮮烈なスパークがほとばしっていることに気づくかもしれない。
 きっと狂気に近い。
 でもそれが、見たい。
 それは現実に存在する色と呼べるものだろうか。
 それとも、炸裂する感情の白き影にすぎないのか。
 ダースベイダーは、たぶん、見たはず。
 
DARTH VADER
 

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