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『悪魔の魚と舌とファルス』の話。


Angel

 Devilfish。
 というと、タコを指す言葉で、髪の赤いガイジンは食べないんだなんてことが言われますが、ケーブルテレビで外国の料理番組など見ていると、ふつうにマリネとか作っていますから、それはたぶん、大昔に日本へやってきた赤い髪の外人さんなんていうのは何ヶ月とか船に揺られて来るわけで、やっとついた島国でチキンorビーフorフィッシュもしくは活きの良いタコのにぎりなんかもありますが、と訊かれれば、焼いた魚もタコも食い飽きた船上生活の果てに、喰い慣れない生の魚介なんてだれが喰うかよステーキ持ってこい鶏モモ丸焼きで頼むよジャパニーズっ。
 てなことだったのではないかと。

 そもそもはDevilfishとは、ユダヤ教における食べてはいけないとされる禁忌の魚……旧約聖書によれば「ウロコのない魚」全般のことを指し示しているという。というと、嫁の実家が和歌山県、という私にとってみれば、ぴんと来るのはたぶんそういうことだったんだろうという推察。その言葉はタコよりも、エイとかマンタとか、クジラとかイルカとかを指す意味のほうが強かったのではなかろうか。

 イルカなんかの脂肪には水銀が溜まるという通説があるけれど、私がそれよりも気になるのはクジラ肉業者がさかんに言う「クジラ肉にはビタミンAが豊富」というところ。ビタミンAは足りないとお肌カサカサになりますし鳥目になりますが、より問題なのは過剰摂取。特に妊婦におけるビタミンAの過剰摂取が胎児の先天的奇形率を高めるというのは現代では解明されていて、近ごろのビタミン剤にはそういう注意もちゃんと書いてある。

 とはいえ、現代でこそこの日本でニンジンもカボチャもホウレンソウもいっそ節約料理の代表格みたいなことになっていますが、むかしは白身魚の目刺しと米だけで生きていた人々も多かったため、古代日本でビタミンAの過剰症になるなんてことはまずなく、歴史的に見て最初のビタミンA過剰症患者の日本人は、現地民からふるまわれたアザラシのレバーを食べてしまった南極観測隊の隊員である、という先生もいらっしゃいます。本当か嘘かは定かではないものの、そんな国だからこそ、その貴重なビタミンを多く含むウナギだとかクジラだとかに、胃袋が反応してしまうのだというのはもっともな説であるように感じるのです。

 しかしこれが、そもそも血筋が狩人であり、肉食万歳である土地の人々であった場合。アザラシはもちろん、クジラとかイルカとか、そういうものの肉だけならまだしも内臓まで食した日には、ほぼ間違いなくビタミンA過剰症に陥ります。その症状たるや、髪が抜け、皮膚がべろんと剥がれ……それでいて、死には至らない。

 リアルゾンビです。

 奇っ怪なその病気。訊けば、ウロコのない魚を食べたという。
 あっちの家に悪魔の子が生まれた。
 母親が、身ごもりながら、ウロコのない魚を食べたという。

 Devilfish。

 タコを食べてなにかの過剰症になるというのはまずないので、実害のあるウロコのない魚の一群に、見た目のグロいタコもついでに入れられてしまったのではないか、とか。

 そういうことを、きらきら光る天使のオブジェを見つつ。
 天使を見ていると、悪魔のことばかり考えてしまうのです。

 Konjacというと、読んでそのまま、コンニャクの英語表記なのですが、これがなぜだか。

 Devil's tongue
 = 悪魔の舌。

 そういう表記で記されることがある。
 これも聞くからに聖書の教えのうんぬんとか、そういうタワゴトっぽいところに起源を持っていそうだが、調べてみればなんのことはない。というか、英語のコンニャクwikiに乗っていた写真を見れば、文章の説明などいらない。

Konjac - Wikipedia, the free encyclopedia

 コンニャクの花が、悪魔の舌なのだ。
 コンニャク農家の窓から畑を見てみたい。
 羅列する極彩色の悪魔の舌……生子(きご)と呼ばれる苗を植えて五年目には花が咲くとか。外見からして熱帯観葉植物マニアにウケそうなものだけれど、そのあたりの店で見かけることがないのは、育てるのが難しいということなのだろう。

 いまウィキペディア読んで初めて知ったが、現代のコンニャクが灰色で黒いぶつぶつが入っているのは、メイクなんだね。原始人はコンニャク芋を皮ごとすりおろして、それを固める作法も手荒だったから、ぶつぶつの残ったグレーコンニャクになっていた。それが丁寧な作法を身につけた江戸の時代あたりには、まっ白なコンニャクが実現できるようになった……にもかかわらず。

 白いと売れない。

 で、昔ながらのコンニャクらしさを出すために、着色して、ヒジキでぶつぶつも再現したとか……なんという本末転倒。なんという無駄。いや、手先は器用になったが頭は未開の島国人だった江戸の民が「白いコンニャクとか、キショっ」となったのはわからなくもないものの、いま、これみんなにちゃんと是を問うべきではないのかコンニャク屋さん。
 私はまじりっけのない白いコンニャク、食べたいけどなあ。

 そしてこれも、いま読んでわかった。

 コンニャク芋は、そのままではアクが強すぎて食べられない。そして、そもそも英語圏では、コンニャク芋からコンニャクを作り出す習慣も、技術もない。
 それゆえに花が咲くのである。
 考えてみれば、コンニャク農家では花が咲く前に根を収穫するのだから、窓から咲き誇る悪魔の舌なんて見えないという道理。

 ところでコンニャクの英語表記はKonjacだとさっき書いたが、正確な学名だと、

 Amorphophallus konjac

 何語だかよくわからないが、どうも造語っぽい響きであるので、分解して検索してみる。

 [Amorpho]をググると「Amorphousではありませんか?」と問われるので、たぶんそうなのだろうと答えれば意味を教えられる。

 「不定形の」

 じゃあ後半。
 [phallus]をググると。
 ちょっとリンクは貼りたくないサイトがいっぱい出てくる。
 これはあれか、江戸の春画にも登場する人肌にあたためたコンニャクはリアル女性器を越える太古からのオナホールというあれか……

mai

(ひどいといえば、↑こういう商品で「クリスマスの贈り物ですか?」と訊いてくるAmazonのセールスロボも相当ひどい。今なら通常配送で12月24日までにお届けしてくれるらしいが。クリスマスイヴに疑似性器を宅配で贈りつけるとか、ただの放置プレイよりもひどい、どれほどサディスティックな女王様とつきあっているんだという(笑))

 いやしかしまて、コンニャク芋をコンニャクに加工できない英語圏で、コンニャクの学名がエロいサイトの冠になっているというのはおかしくないか。食べないけれど自慰アイテムとしてだけ輸入してまで流通しているのかそんなバカな。

 で、phallusを画像検索してみる

 ……なんのことはない。
 コンニャク学名、Amorphophallus konjac。
 直訳すると、

「カタチのさだまらない男根それがコンニャク」

 ひどい。
 なにを考えてそんな学名を。
 ていうか、不定形チンコという言葉の意味がわからん。
 訳しかたが間違っているのだろうか。
 しかし、日本語でもアモルファスシリコンとか、まんま不規則なっていう意味だしなあ。あ、そっちか。不規則な。

「不規則な男根」

 つまり、  
 Devil's tongue
 = 悪魔の舌。
 が、歪曲表現なのではないか。

 そもそもが、食えないアクの強い芋からニョッキリ生えるパッションピンクの細長く尖ったそれ……荒野に、不規則に、天高くそびえる、悪魔のペニス。

「それがコンニャク」

 あの気色の悪い花はなんなの? と、口説き落としたばかりの金髪旅行者に訊ねられ、日焼けした顔を卑猥に歪ませて、原住民の男は答えるのである。

(でもまて、好き勝手な方向に生えやがるくそったれファルスだなんてことをいま言うわけにはいかねえよな。あれが悪魔のチンコでないなら、そうだな……)

「嘘つきな、悪魔の紅い舌さ」

 そういって男は、自分も舌をつきだして見せた。
 彼女が頬を染めてキュートな鼻頭にシワを寄せたのを、こっちを野蛮なカウボーイだとあきれているわけではなく、好ましいワイルドさだと感じているようだと計算しながら。おれのは、あのコンニャクの花よりでかくて尖ってるぜなんて、口にしなくてよかったとほくそ笑む。まったく、旅行者ってヤツは、変わってるものが大好きだからな。

 ……えっと。

 そうそう。
 悪魔の舌。
 悪魔の魚。
 そこで言う悪とは善の対極ではなく、奇妙さを言い表す言葉が見つからなかったときに使われる、擬人化の手法。

 だからこそ惹かれる部分もある。
 というのは、私が聖書の国で暮らしてきたわけではなく、悪魔についておどろおどろしい洗脳を受けたわけではないからだろうか。

 天使の奏でる音楽よりも、悪魔の鼻唄のほうが聴いてみたい。
 クリスマスが近づいて、部屋のオブジェを光らせると、いつもそういうことを思う。

 除夜の鐘が鳴るのを聴くと、ヒトにはこんなにも多くの煩悩が詰まっているのだなと思い知らされるように、天使も、悪魔を想い出させるために存在している。
 天使は外に、悪魔はいつだって自分の指先に。

 メルクリウスプリティ。

 間違えた。

 メリークリスマス。

 どこでなにやっているか知りませんが。
 あなたの悪魔を可愛がってください。
 光り輝かすべきは、奇妙さなのです。



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