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『新しい靴』のこと。


Mouse

マウスの調子が悪くなった。
もう何年も使っているマウス。
マイクロソフト製のワイヤレスなマウスである。
もとは高級感あふれる人工皮革張りだった。
しかし、ユニクロのネオレザーとか、
注意書きがあるように、
人工皮革というやつは、
ほんの数年で劣化してべたついてくる。
さわるとネチャッとする。
回復するすべはない。
新しいものに買い替える潮時だ。
でも……イヤだった。
イヤだから、分解して、
パーツをひとつひとつ、研磨剤で磨いた。
ネチャッとするのをぜんぶ剥がしたのである。
なんか、ぱっとしない外観になった。
けれどもさ。こいつは。
わたしの手に馴染んでいるのだもの。
壊れてもいないのに買い替えられない。
……そんな日々を乗り越え……
ついに先日。
クリックしても、反応がニブい、という状況に。
いくら手に馴染んでいようが、
それはマウスとして致命的である。
外観はともかく、機能が衰えては困る。
ぎゅっ、と押すと、反応する。
また分解してみた。
徹底的な清掃をこころみる。
けれども、だめ。
内部のクリックスイッチを爪で押してみると、
ふつうに反応する。
カバーをかぶせると、ニブい。
うーん。うううううーん。
ついに別れのときが……
しかし、決定的に使えないわけではない、
その感じが、またイヤだったのである。
というわけで。
マウス内部のスイッチ部を押すパーツに、
パテ代わりにも使える樹脂系の接着剤を盛ってみた。
物理的に長さをのばしたわけです。
乾くとゴム状の接着剤なので、
むぎゅっ、という感じで、イヤらしく押してくれよう。
はたしてカバーを戻し、それから一ヶ月。
わたしはまだ、そのマウスを愛用しているのだった。
この写真を撮ったとき、
わたしは確かに、祈っていた。
新しいマウスを買うのが惜しくてではない。
これで、なおれ、と。
間違いなく漢字で書けば「治れ」と。
祈っていた。
人類の歴史のなかで、靴という道具が愛されたように。
マウスも、もう、愛されていい肉体の一部だと思う。
きみの、ボロいところさえ愛しはじめている。
いけるところまで、行こう。
次の画面へ、光速でクリック。
もうちょっとだけでもいいから、いっしょに。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ある年代のかたに偏っている印象があることに、よく、

「これ瞬間接着剤でだいじょうぶ?」

 と訊かれることがある。
 そして、そういう訊きかたをされる場合、えてして大丈夫でないことが多い。
 なんか、手に表札とか持っていたりして。

「コンクリートの壁に金属の表札を瞬間接着剤で!?」

 What? と、耳に手を当てて訊き返したいくらいですが、そこは私もギャラもらっているあいだは品行方正な店員です。やさしく告げてさしあげます。

「無理です。マドモアゼル」

 こっちが上品に返しても、大阪のおばちゃんは「あかんの? なんでっ」というのをデフォルトで返してくるので、ちっとも雰囲気が盛り上がらないのですけれど。

 ていうか、なぜに瞬間接着剤。
 それ、最初に選択するところでは絶対ない。まして、コンクリートとか、吸い込みの激しいところでは、ほとんど無力ですよそいつは、接着できる素材であっても、屋外で雨風にさらすなんて、一ヶ月も保たない。
 なにか、すりこみがあるのでしょう。
 かの祖、アロンアルファの歴史的登場に、おおぐれいと、と叫んだ世代の人たちなのでしょうか。どうも、過剰で妄信的なまでに、瞬間接着剤の能力を高く買っている。きっと、買う前に店員に相談するのなんてほんの一部で、頑固なおとうさんとか「もう、瞬間接着剤でつけとけ」となんでもそれで直しては、やっぱりまた壊れて、という繰り返しで、つかいかけの瞬間接着剤が、家にいっぱいありそうな気がします。まあ、売っているほうは、それはそれで喜ばしい経済循環ではあるわけですが。

 一家にひとつ、接着剤の強力なのを常備するのなら、私は、だんぜんに、こやつをオススメいたします。

XG

 いわゆる弾性接着剤というやつ。
 瞬間でくっついたりはしませんが、使いこなせば、間違いなく、瞬間接着剤よりも日常生活のなかで活躍することでしょう。表札も、壁に投げつけてガラスの壊れた目覚まし時計も、プラモデルも、マウスのクリックが効かなくなったときも、これで大丈夫。パテ状に使えるということでの利点として、これそのもので穴埋めをすることが可能だという点があげられる。私は、暴風が吹くたびに破れるバイクのカバーを、そのたびにこれで補修しています。いや、よく考えてみれば、朽ちたゴム部品のひび割れもこれで埋めていますし、剥がれたエンブレムもこれでくっつけた。そう、車外部品だってこれでくっつけて雨風のなか高速走行で飛んでいったりしないのです(危険なので、大きな部品はボルト穴を開けて留めましょうね)。なんと、庭木に開いた虫の巣穴までこれで埋める。ああそうだ、すだれを下げているフックも、外壁にこれで留めた。なんてはたらきもの、こやつなくして私の生活は成り立ちません!!

 技術の進歩です。
 ふと気づけば、うちにも瞬間接着剤はたくさんあるのですが、ほとんどのケースで、弾性接着剤のほうを使っている。だって、瞬間にくっつくって、そんな、冒険野郎マクガイバーじゃないんですから、手近なもので急いで武器を作らなくちゃならない状況なんて、そうそうないし。だったら、仕上がりもきれいで、加工もできる、じっくり補修できるそっちを使うのは、自明の理。

 安全、とされていますが、食べ物に触れる部分に、接着剤を使用しないのは基本の基本。でも、いま思い出したけれど、自己責任で、私、割れた土鍋のフタを、これでくっつけて使ってます。すっかり忘れていたが、もう何年も。

 と、なんだか、セメダインさんの回し者みたいになっていますが(笑)。
 実際、私は新人に、接着剤で迷ったらこれ勧めておけ、と教えていますから、あなたも、迷ったら、頼りない店員に訊ねるよりも、これ買っておいて間違いないと思われます。

 あとね、表札なら、近ごろの両面テープもなかなか侮りがたしですよ。
 インターホンの親機だって、それでつけちゃってたぶん大丈夫、というのは、店では言ってしまうとまずいので言わないのですが、我が家の玄関子機が両面テープでまったく問題なくついている。

ROCO KD-55-B

(これもよく訊かれるのだけれど、カメラ付きインターホンも、使う電線はピンポーンと鳴るだけのチャイムとか音声なしインターホンと同じもの。そして壁への取りつけは接着剤で、となれば(室内に何台も受話器があるというケースはまた別として)、いったいだれが高い金を払って工事を頼むのかと思うところですが、なかなか電気関係は敷居が高いのでしょうか、工事依頼が多い。たまに、ひとり暮らしをはじめてお金がなくて、でもプラモデルも作ったことなさそうなお嬢さんが、自分で取りつける作法についてメモ帳片手に質問してくれたりすることがあって、そういうのは本当にうれしくて、懇切丁寧に説明してしまいます。電気工事士法の解釈にもよりますが、通信線のみの配線作業は、メーカーからも「自分でとりつけてみよう」なんていう販促物も届くくらいで、やってみて損のない夏休み工作ではないかと。あ、賃貸でひとり暮らしなら、壁に接着剤はダメですよ。そのあたりの工夫も、ぜひ近所の店の暇そうな店員と雑談してみてください)

 えーと。
 なんかどうでもいい話になっちゃいました。
 ああ、そうだ。ユニクロのネオレザーで想い出したが、くだんの接着剤で、私は靴も直す、という話をついでにしておきましょうか。

 いわゆる、オーソドックスなコンバースタイプというか、こういうスニーカー。

CONVERSE

 履かない。

 というか、靴のほうが保たなくて。
 私の足は、小指が出っぱっている。
 それはもう幼いころからなので、両足の小指の外側は、豆になってつぶれるを繰り返したあげくの、カチカチの凶器になっているのです。中学生のころすでに、上履き(あれはまさにコンバースタイプだ)の、小指の部分、ゴムと布の境目が、裂けているのが通常装備だった。

ASAHI

 買い直しても、どうせ裂けるし、そこに余裕を持たせようと選ぶと、パカパカ鳴らしながら歩くしかないサイズになってしまうため、裂けていても気にせず履き続けた。高校では上履きがゴムスリッパだったので(と書くと、大阪出身ならばどこの高校だかわかってしまうヒトも多いでしょう)、その悩みからは解放され、その後、私は、プライベートも仕事の場でもリーガルの革靴を愛用していたのですが、この数年は、制服がスニーカーという職場勤めでして。

 なるべく、小指のあたりが堅牢そうなものを選ぶものの、ひどいと一ヶ月ほどで裂けてきて、そこを接着剤で直して履き続けて寿命を倍にしたところで数ヶ月。半年をまず越えることがないので、高価なメーカーからは遠ざかり、叩き売られている運動靴を買っては潰すの繰り返し。

 で、とある休日。

 近所にユニクロの廉価版店GOVリテイリングの『g.u.』がある。
 そこのジーンズが990円なんだけれど、股下が最初から何種類か選べるようになっている、そのうちのひとつが、まさに私がいつも裾上げしてもらう長さと同じで。ということは990円ぽっきり(g.u.は通販サイトもあります。が、そちらは裾上げ必須なので、店舗で買ったほうが安いのである)、待ち時間なし。そんなわけで寄ったらつい一本買ってしまっていた、その店で。

 靴売り場が目にとまる。
 ユニクロの靴。
 
 『ユニクロ:シューズ』

 ジーンズと同じ、990円で、いわゆるオーソドックスなコンバースタイプというか、そういうスニーカーが、たくさんつり下げられている。

 じっと見る。

 いかにも、小指のところが破れるに違いない。
 それはもう仕方がないとして。
 五千円くらいの靴が半年保たないという状況を考えるに、計算上、破れるにしたって、一ヶ月保てば、それでいいわけだ。という目で見てみると、さすがに数日で破れることはないのではないかと。中国製は、意外にちゃんとしている。輸入品を日々あつかっているから知っている。どこの国とは言わないが、高確率でダンボールの裏側に落書きがしてあったり、そういう「ああ、この国の工場は荒れているのだろうなあ」というのが、中国製にはない。むしろ、ガチガチに管理されて低賃金で働かされて、彼らの生活は大丈夫だろうかと天を仰ぎ見てしまうくらいに、それなりのものを、ちゃんと作ってくる。

 一足、買ってみた。

 まだ履いていない。
 カラダなんて、利己的な遺伝子の乗り物にすぎなくて、でも、私は、あした、そして、数ヶ月後の、歩く自分のカラダを想像して、そんな短いサイクルのなかで、私よりも先に、靴が壊れるなどということがあっては、まさにそれは悲劇だと嘆いている。私は、どこにも行けずに太陽に焼かれて、干からびて遺伝しさえ白い灰になる。
 ジョナサン・キャロル氏の、あの名文を想い出す。

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靴を買うのは、
恋に落ちるのの次に、楽観的な行為。
新しく靴を買うのは、恋に落ちるのと同じで、
明日もこの世にいる予定だと断言すること。


ジョナサン・キャロル 『犬博物館の外で』

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『薪の結婚』の話。

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 余談ですが、キャロル氏のツイッターは、私に新たな毎日をくれました。

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http://twitter.com/JSCarroll

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 すごい。一日中、やっぱりそういうこと考えているんですね、先生(笑)。身が引きしまります。楽観的にこの世の悲観すべき部分を見続けている、その視線は、神みたい。

 キャロル先生のおかげで、それなりにまとまった感。
 残暑厳しいですが、みなさまお元気で。
 私は新しい靴で、たぶん明日もこの世にいる予定。
 楽観的に。

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