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『犬が教えてくれた幸せになるヒント ~Bliss to You~』のこと。



 原題は『Bliss to You: Trixie's Guide to a Happy Life』。
 直訳ならば、『トリクシーが説く幸せな人生』。
 しかし、日本では、

「トリクシーって?」

 となるので、犬、と諸行無常な響きになったのだと思われる。

 残念なのは、クーンツのファンなら迷いなく買えるこの本を、日本のクーンツファンは人に勧めるときに躊躇するだろうということ。エッセンスが詰まった良い本だ。しかし、レストランに行くのをいっかい諦めて買うのなら『オッド・トーマスの霊感』を勧めたい。『犬が教えてくれた幸せになるヒント』の代筆者紹介にも書いてあるように「犬好きなら涙なくして読めない名作として有名」な『ウォッチャーズ』さえ、この国では、「くんつ? うぉっちゃーず?」という認知度なので、だったら千円ちょっとの薄っぺらいトリクシーの本よりも、ブックオフの105円コーナーにたぶんある二十世紀の名作を(あなたが犬好きなら特に)ぜひ読んでいただきたい。

 それでも、これはいい本だ。
 これを聖書のように、何度も読みかえしてしまう人は確実に存在するだろうし、実際に幸せになる人は多いだろう。事実、私はディーン・クーンツ・マニアでなかったら、どんな悪人になっていただろうかと、ときおり考えることがある。

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あなたがいちばん尊敬するのはどんな人?
その人たちのしていることが、あなたがすべきことなのかもしれない。


トリクシー・クーンツ
『犬が教えてくれた幸せになるヒント ~Bliss to You~』

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 私が文章を書くのは、クーンツに出逢ったからだ。
 それで、どうこうしたいわけではない。
 どうこうしたい気持ちも、もちろんあるが、私がクーンツのことを尊敬するのは「書く」という行為によって、あきらかに自身の精神世界を深化させているところ。

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自分には世界を変えることなんてできない、自分がいるすみっこを明るくすることができるだけなんだって、わかるから 


トリクシー・クーンツ
『犬が教えてくれた幸せになるヒント ~Bliss to You~』

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 そういう話は何度もした。

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『サイレント・アイズ』の話。
『対決の刻』の話。
『一年でいちばん暗い夕暮れに』の話。
『オッドトーマスの救済』の話。

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 そうなのだ。
 同じような話、けれど、前とは違う部分。
 多作であり、かつジャンルに囚われず、物語には囚われている。
 もがきながら作品を生みだしていることが如実に伝わってくる、その作家性こそを、私は愛す。

 このトリクシーの本は、だから、長年にわたってクーンツを読んできたものにとって、さまざまなことを思い返し、ああ、これぞクーンツだと肯ける、言葉のスナップ集である。ぱらぱらとめくっているだけで、クーンツ作品に救われた自分の人生さえ振り返ってしまう。

 だから、もし、あなたが、たんに老犬の表紙だとか「幸せになる」とかいう文言に惹かれてこの本を買ったけれど、うーんあんまり、と思ったならば、ちょっと待って。いったんこれは本棚に並べておいて、せっかくあなたの出逢ったディーン・クーンツという小説屋の小説を、何冊かゴミのような値段で買ってきて。幸せになる? 幸せじゃないのですか? だったら、ここにクーンツに人生変えられたとまで言っているのがひとりはいるわけだし、秋の夜長に、グダグダ考えている時間を、慣れない翻訳物の一冊でも読んでみたって、損にはならないと思う。そこは出逢いだから、読んだけれどやっぱりぴんと来ないという可能性はある。でも、それふくめて、触れてみないと。

 私も人見知りなほうだが、別に選ぶ言葉が似ているというわけでもないのに、なんだか妙に馴染むヒトというのに、ときどき出逢う。趣味はあわないんだけれど、嫌いではないヒトというのがいる。友だちとか、恋人とか、夫婦とか、絶対そうだと思うのは、同じものを見て、同じ感想を持たない、その多様性こそが、出逢う意味で、世界を彩る原動力なんだと思う。私のまわりにクーンツファンはいない。読んだことはあっても、私のように、それ無しで生きていけない、という人はいない。本棚に置いておくと、やってきた友だちや、妻も、読んではいるが、ふうん、といって本棚に戻す。ああ、あなたはこういうのが好きなのね。いや、好き、なんて言葉で表現されると、そうじゃないという気になるのだが。聖書が「好き」なんてヒトがいるか? それは、ただ触れて、己の血肉にするためのものだ。

 というあたりで気づく。

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ケーキは食べたらなくなるなんてウソ。あなたの一部になるの。


トリクシー・クーンツ
『犬が教えてくれた幸せになるヒント ~Bliss to You~』

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 クーンツは私の一部。
 それは私の小指のようなものである。
 特徴であり、ああ、あの小指の変わったヒト、と記憶される部分。
 まあ、それでいい。

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匂いだって、ひとりひとりみんな違う。


トリクシー・クーンツ
『犬が教えてくれた幸せになるヒント ~Bliss to You~』

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 というわけで、私は延々と勧め続ける。
 だからといって、あなたがクーンツを読む必要はない。
 トリクシーは死んだ。
 犬だ。
 彼らの書いた本を読み、幸せになれるかといえば、それはあなたが、そもそも幸せになるためのなにかを持っているか、ということであり、無からなにかを生みだせる者はいない。

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インターネットのサイトをあたってもだめ。
これさえ読めば、なんていう本もない。
『富と名声と世界制覇への30日』なんていうタイトルのCDも。
役には立たない。

みんな自分なりの方法を見つけなきゃいけないのよ。
読んだり、調べたり、考えたり、祈ったりして。


トリクシー・クーンツ
『犬が教えてくれた幸せになるヒント ~Bliss to You~』

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 なにもないや、あたしからっぽ。
 という夜にこそ、この本をお薦めしよう。
 け、とツバを吐く部分もあるだろう。
 後半、オッド・トーマス・シリーズを自ら引用する、根っから貧乏性なクーンツにも辟易するだろう。
 しかし、これは。
 一匹の犬と出逢って、人生変えられてしまった男の書いた聖書であり、私は、彼の書いた他の本も追ってきたので、彼にとって、その一匹の犬が、どんなに重要な意味を持っていたかを知っている。私にとっても、これは、本棚になくてはならない一冊なのです。

 『犬が教えてくれた幸せになるヒント』

 その紅い背表紙が、ときどき目にとまり、

「トリクシー。きみのおかげだ」

 と、つぶやく。
 それだけで、この本が私に買われた意味はある。
 生涯で初めての、犬が筆者の本。
 そんなのが手もとにあるだけで、ちょっと幸せです。

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あなたは幸せか不幸かを選ぶことができるし、それは周囲のできごととは無関係。


Trixie Koontz

トリクシー・クーンツ
『犬が教えてくれた幸せになるヒント ~Bliss to You~』


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