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『ドーナツかく簡素であるべし』の話。



5:27 PM Jun 20th
兵庫陶芸美術館を出発。三田の山の上を目指す。

twitter / Yoshinogi

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 ケーキの話で想い出したのですが、このあいだ、兵庫陶芸美術館のなかにある(が、美術館は無視してそこだけでも入ることは可能な)レストランで、ランチを食べました。そこのランチはメニューがなく、旬の野菜を中心にしたおまかせ一択コース(前菜・パスタ・デザート)1680円なのですけれど、メニューはないが、メニューの細部をいじくることはできて、パスタにアンチョビつけます? とか、ニンジンのケーキもありますけど、なんていうふうな。

『AL Museo 茜 | 丹波篠山 | 陶芸美術館に位置するイタリアンレストラン』

 全面ガラス張りで、目前に超巨大な丹波の山があり、窯元からはなに焼いてんでしょうか、延々と煙が立ちのぼっている。で、カップルで行ったりすると

「ならんで座られてはどうでしょう?」

 と恥ずかしいことを言ってくれたりします。つまり、四人がけのテーブルで、山のほうを見つめて食べたほうが美味しいと思うのです、と。

 たしかに、すごい景色なんですが。なぜに店員さんがそんなにも推してくるかといえば、出てくる料理が徹底して丹波篠山無農薬有機農法で採れた野菜だとかで。ぬお、このパスタの青梗菜とトマトの味の濃さたるやなに? みたいな感動が、やっぱり偉大な丹波山(っていうのが正確なのか知りませんが)を見つめながらだと、おお大地に感謝すべし、という気持ちになって良いものなのです(あれ絶対に規則があるのだと思うのだが、店員さんが、いかにも有機野菜で育ってますっていうスタイルすっらーなおねえさんたちばかりなのもまた、なんか躯にイイことしているような気になります。いや、事実イイんでしょうけれども)。

 ちなみに、野菜がウリの店なため、がっつりサラダとパスタ野菜だらけなのですが、パンのおかわりが自由なので、前菜からがつがつオープンサンドだ、パスタソースも塗りたくれ、パンおかわりおかわりおかわり、というたのしみかたもありで、おなかをすかせたおっきいおにいさんも大満足なのでした。またこのパンがしっかりもっちりどうなってんだこれ、やっぱり小麦の差か? という出来で、まあちょっと自分で真似しようとかそういう気にもならないくらい、徹底してシンプルで、なんというか大騒ぎするおいしさではないんだけれど、忘れがたい野菜の底チカラで、鼻の頭を殴られたような気になることうけあいの店なのです。

 で、なぜにケーキでこの店のことを想い出したかといえば、この店のデザート。アイスとか、ケーキとか、なんかババロアみたいのとか、そういうやつらの、どれにも決まって、小さなドーナツがついてくる。

Donut

 これが好き。

 完全にオマケなんですが、ドーナツ生地をさくっと切って揚げて砂糖まぶしただけ、という。そこにこそ、素材の味を生かすということの、ものすごくわかりやすい一例がある気がして、メインでたのしむべきはずの野菜のデザートよりも、うーむ、とフォークの先でつつきながら、ひとくち囓ってはまた、うーむ……なんだか、食べたおぼえのある味なのです。

 私には、ひとまわり年の離れた弟がいます。

 つまり十二歳、私が中学生のとき、母は臨月を迎えていた。病院のとなりに、ミスタードーナツがあって、病室におみやげだと、父が私にドーナツを選ばせるのですが、小学生時には肥満児だったが、そのころには背が伸びはじめて食べても食べても細長くなっていく状態だった私は、とにかくクリームだとかチョコだとか、カロリー重視でセレクトする結果、けっきょく、病室でだれも手をのばすものはなく、ただひとりで食べまくっていた……

 そのとき、つくづく思ったのです。

「これがドーナツなんだ……」

 私の記憶にある、あれがたぶん、カルチャーショックというものだった。いや、それまでもドーナツを食べたことがないわけはなく、ミスドだって、パン屋さんのドーナツだって、スーパーで売っているザラメがかかったような安っぽいのだって、食べてはいたのだけれども。今日にも生まれるかという、弟だか妹だかの入ったみょうちくりんな姿になってしまっている母を前に、中学男子らしく、学校では妊娠それはセックスの結果、という観点でしかものごとが語られず、そういったこともあり、無口になってしまう私は、ただひたすらに無心でドーナツを食べた結果、食と向き合ったのでした。

 当たり前ですが、肥満児になるというガキは、食べることで太るということをなんとも思ってはいなくて、食べるという行為のエロさにハマってしまった猿なので。四六時中、手当たり次第にスナック菓子など食いながら、しかし、実のところ、その味が好きだったり、おいしさに感動していたりは、まったくしないものなのです。当時好きだったチーズビットやアルファベットクッキーについて、四百字詰めの原稿用紙を埋めろといわれても、なにも書けなかったに違いなく、それらはただ、大袋にいっぱい小さいカケラで入っていて、ひたすらに食べるという行為に没頭できるアイテムでしかなかった……
 だからこそ、大好きだったのです。

Cheese

 そんな私に、料理好きな母は、太るにしたってできるだけ自然なものを食べさせようと考えていたのでしょう。ドーナツが、大きなタッパーに入れて台所においてあったりしたものです。いま思えば、そりゃあチーズビットよりはいいかもしれないけれど、肥満児の手がとどくところに無尽蔵なドーナツって、という感じがしないでもないですが、それはそこ、長男ですからね。若い料理好きな女が、ガツガツ食う肥満児を飼えば、嬉々としてお菓子作りにはげんだりするもので。当時、スラリとしていた父が、体重を無駄に増量していったこともあわせて考えれば、あれはなんの計算もない、食べてくれるから作る、という母の純粋な趣味の形態だったのだとも思われます。

 ともあれ、しょっちゅう作られるから、私もドーナツの作り方をおぼえてしまった。

 母のレシピは、なにか凝った外国のお菓子本をベースにしたもので、ドーナツメーカーなんかをつかって作る、ふんわりタイプではない。それは、クッキーに近いものでした。

 たぶん、これくらいのレシピ。
(年の離れた男三人兄弟を生むと、だんだん子育てに飽きてくるのか、末の弟はお菓子とか作った記憶がないらしく、もはや正確なレシピは母本人もおぼえていないので、私の記憶による分量)

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○材料

薄力粉 300g
はちみつ 大さじ1
卵 2個
ベーキングパウダー 大さじ1
牛乳 大さじ2
粉砂糖 適宜

(溶かしバター大さじ1とか、バニラエッセンが入ったりもしていたときがあるような。そのあたりお好みです。はちみつも、単純に砂糖のときもあったように思う。粉砂糖のかわりにグラニュー糖や、シナモン、ココアなんかをまぶしたりもよいですね)

○作り方

材料をまぜあわせ(粉はふるうとなおよし)、
こね、
冷蔵庫で冷やし(30分)
打ち粉(薄力粉)をふった台で麺棒でのばし、
型で抜く。
揚げて粉砂糖まぶしてできあがり。

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 ちなみに、こういう計量カップと、ウイスキーのキャップで、我が家ではドーナツの型抜きをしていました。計量カップだから、注ぎ口のところに、小さいツノができちゃうんだけど(笑)。

cup

 いまは、こういうただ砂糖の味しかしないドーナツなんて、まったく作りませんし、食べません。ホットケーキを焼くなら砂糖抜きで、野菜とソーセージ添えて食べたい大人に私はなってしまいました。甘いものを積極的に摂ることがなくなったので、だれかに出されたり、レストランでコースについてくる、というのが、限定されたスイーツ摂取になっているいま、そういう状況では、なんだか凝ったケーキが出てくることが多く、だからこそ、でしょう。

 アル・ミュゼオ茜さんは、なにげに添えただけの、小さなドーナツ。
 でも、私の記憶には、それが残ってしまった。
 あの店に行かなければ、あのドーナツがなければ、私は母と作った計量カップのツノの生えたドーナツのことを、忘れ去っていたかもしれない。

 ミスドのんとは違う、冷えたらかたくてぱさぱさした、でも大好きでほおばっていた、あのドーナツ。

 料理って、そういうもの。
 記憶が、おいしさのかなめだから、食べる側が心になにもっているかが、味の一部になる。そしておうおうにして、そういう記憶の掘り起こしは、シンプルな料理によってなされるものです。

 ところで、かの店では、コーヒーや紅茶がランチにくっついていなくて別料金。そこがまた私の気に入っているのでした。コーヒー、ふだん飲まないんですよね、でも、紅茶かコーヒーかといわれれば、コーヒーをブラックで飲む。で、いつも思うんです。

 コーヒーで、料理の味消えちゃう……
  
 脂っこさをすすいだりする、それが目的なんでしょうけれど、茜さんは有機野菜が売りだから、アレルギーないですか? と事前に訊かれたり、そういう店なので、カフェイン飲料もオプションにしているのは常連様を気遣っての措置なのだと思われますが。私、どこの店でもこれやってくれれば、毎回即答します。

 食後のコーヒーはいりません!!

 コーヒーの味消すのに、ガム噛んだりするんです。
 決して、コーヒーが嫌いなわけじゃない。
 いやむしろ好きだから、とりあえずコーヒーとか、なんか違うんです……むしろ茶室みたいなところで、作法にのっとって飲むべき嗜好品ではないかと。厳格な喫茶店とか、そういうのも違う。全裸で、手動のミルでごりごり豆擦って、素焼きの茶碗に布で絞って入れる、みたいな、コーヒー茶道、どこかでやってませんかねえ。どんどん高級品になっていく、タバコなんかも、薄暗い部屋でぷかぷかやる葉巻バーみたいのではなく、もっと剥き出しの命と命がせめぎあう、そういう「道」として確立していくべきだと思うのですが。

 いや、蛇足でした。
 ふつうにパスタ美味しいので、ぜひ。
 陶芸美術館は、焼き物展示場ではないので、物語があってたのしいです。土焼いて麦焼いて喰って寝てまぐわって、ヒトなんてそういうものであるべきです。ガラスのように薄っぺらい高級陶磁器で薄いコーヒーを飲みてんこ盛りの砂糖漬けフルーツにきゃっきゃというようなのは、過剰です。なんにせよ、シンプルな料理を、涙して食らう。それにまさる求道はないなと、野菜はがりがり食うべきだな、スイーツはさくっと作った簡素なドーナツがいいなと、小洒落た有機野菜レストランで無駄に考えていた、私は、やっぱり考えすぎなのです。

 ああ、もう、語るほどに蛇足なので、やめます(笑)。

(ところで、このブログ投稿しましたよのツイートを英語で書きながら、ドーナツの英語綴りは、donutなのかdoughnutなのかで悩んだあげく、どうやら近ごろのオシャレ系行列のできるドーナツ店なんかの看板はdoughnutで、私が、これがドーナツかと開眼したミスドでさえdonutなので、懐かしさを含むと綴りが短くなるのだろうという結論に達し、だったらうちの母のドーナツなんかはDNTでいいやと思ったのでそう書きました。深い意味などありません。想い出の味DNT、略すとなにか意味があるような気になるのは不思議です)

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