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『ダッチオーブンをシーズニングする』の話。


 場末のホームセンター店員のお仕事の。
 一割は電球を選んであげること。
(もうすぐ白熱球はこの世から消え去るらしいね、と話すおじいちゃんに「あなたが生きているうちは大丈夫ですよ」と伝えるのも重要な仕事だったが、東芝は来年で白熱電球から手を引くらしいし、高くてももうこれしかないんですと電球型蛍光灯やLED球の説明をする時間がさらに増えそうです)

E-CORE

 一割は水道のパッキンを選んであげること。
(クランクパッキンで呼ばれる率が非常に高い。クランクという名称がわかりにくいと思うのだ。あのなんていうか混合水栓の両腕みたいなところの途中のパッキンはクランクパッキンです、とメーカーさんもひらがなで書いておいてくれたらいいのに。それにしても、ケレップ(コマパッキン。蛇口の中のもっともありふれた消耗部品)を人生で一度も取り替えたことのない初老の紳士がああも多いのはどういうわけなんだろうか。劣化して水が蛇口から漏れるたびに水道屋さんを呼んで生きてきたのか?)

パッキン

 一割は水性ペンキと油性ペンキの違いを説明すること。
(まあもう上塗りするなら油性を選んでおけば間違いないよ。水性ペンキの利点はあつかいやすい点だが、あつかいやすさを求めるなら、自分で壁を塗ろうとか思いつかないことに尽きる)

油性

 一割は彼氏に頼まれてバイクのオイルを買いに来た彼女に、2サイクルエンジンオイルと彼氏サマご所望の「2ストのやつ」は同じものだということを納得させること。
(思うんだが、どうしてバイク乗りとか職人とか、男っぽい野郎どもは、いかにもなんにも知らなそうなのほほん彼女におつかいを頼むのだろう。「ネイル」買ってきてっていわれたんですけど、とか言われても(ネイルって床材をとめるための機械打ちの釘のことをおもに指す)、種類が無数にあるのですよ。で、困った顔されるのは私なのだ。一種のプレイなのだとしたら、彼女の困った顔を私だけが見ているというのは本末転倒ではないだろうか)

ネイル

 一割はモノ買いにきてんだか喋りにきてんだかというおばあちゃんの、確信犯的なボディタッチをやんわりといさめること。
(散歩コースに入っているんだろうなあ。ほんと毎日来てる人ってのがけっこう多くて、なかでもおばあちゃんは、自分にまったく知識のない商品を持ってきて、一から店員に説明させるというプレイが実にお好き。CDに録画するってどういうことなの、という彼女に二の腕をさわられながら、まずCDとDVDの違いを説明すべきかどうかは悩まなくていい。最終的にはわかろうがわからなかろうが、彼女は神棚に飾るシキミだけを買って帰るのである。邪険にはできないよな)

シキミ

 余談ですが、このあいだアサヒペンの「超強プラスチック障子紙」のPOPをゆずってくれないかというお客さまがいらしたのですが。猫耳のピンクなメイドさんがこの数年はイメージキャラクター。残念ながらアサヒペンさんからは店頭展示分しか送られてこないのでお譲りできません。なかのひとは、
 栃下有沙(とちした ありさ)さんらしい。
 たぶんあのお客さん「調教プラスチック猫耳」な本でも書くつもりだったんだろうけれど、どうやらあの脱力なCM、関西ローカルみたい。ユーチューブも検索したが出てこなかった。彼女は猫耳でこそ美しいのだが……かわりに、ぜんぜん関係ないが覗いたユーチューブで驚愕のヒット数を叩き出していた「リアルセーラームーントランスフォーム」動画を貼っておこう。
 うーん。リアルって怖い。



 で、話もどってあとの五割は(っていうのは嘘だけど。もう書くの疲れた)。
 ダッチオーブンで料理したら錆び臭いと言って返品してくるお客さまに毅然と言いきること。

「シーズニングが足りないのです!!」

 見るからに黒くなっていないじゃない。
 なんでメーカーも簡単に使えることをアピールしたいからなのか、取扱説明書に「まずは空だきする」みたいな簡素な書き方をするのか。輸入品の鋳鉄ダッチオーブンには、簡素な取説さえついていなかったりするし。
 そこは声高に言わなくちゃダメだろう。
 こっちに落ち度はなにひとつなく、古来からダッチオーブンとはそういうものであるにもかかわらず、重量物な使用済み鍋を、捨てるにしろ送り返すにしろ、けっこうな金がかかるのだ。お客さまだって、せっかくダッチオーブンデビューをこころざしたのに「不良品にあたっちまった、もう二度とダッチになんて手を出すもんかっ」と断念してしまったりしては不幸なことこのうえなく、これではだれも幸せになんてなれやしない。

 実際のところ。
 現代の大手小売り店では、レシートさえあれば、理由のいかんを問わず返品をお受けするのが流儀。だから私がサービスカウンターでお客さまに、いえこれはシーズニングが、と食い下がるのも、まったくもってそういうことに尽きるのです。

「手がかかるからこそ可愛いシロモノで、
シンプルであるからこそ万能な
一生の相棒になれる調理器具なのに!」

 なにこれ錆び臭い?
 ちょっと調べてからダッチオーブン買おうと思わなかったんですか。
 いやうちの陳列があまりに魅力的で、いきおいで買ってしまったにしても、作った料理がなんだか知りませんが錆び臭いって時点で、なぜに道具のほうを疑うのです。ステンレス製のダッチオーブンや、テフロン加工されたキャンプ用鍋が出回る近代においても、サビの浮く鉄製鍋がこれほどポピュラーに売られているのは、それこそが古来より愛され現代でも通用する魅力をあふれほとばしらせているからなんですよブラザー。
 シーズニングが足りないだけです。
 でも返品しますか?
 あなたは一生の相棒を、とっつきにくいからって理由で捨てようとしている。
 見るに耐えません。
 ダッチオーブンのないこの先のあなたの人生を想うと、鼻の奥が痛くなります。
 せっかく出逢ったのに!!

 と心では力説するのですが。
 バージン・スープが鉄の匂いになっちゃったお客さまは、なに言おうが、もうダメです。ああ。知識のないばかりに。ダッチオーブンとはそういうものだと、だれか教えてあげていれば、あの肉厚な鉄の鍋で、ほかの調理器具ではぜったいに真似のできない、カリッカリの唐揚げや、鉄分たっぷりでありつつ保温で野菜がほくほくに仕上がるシチューなんかが、生涯の得意メニューになったのに。

 というわけで。
 いつものごとくに長い前置きでしたが。
 ダッチオーブンの扱いについて認知度を上げるためだけに、書きます。
 そんな、むずかしいことじゃない。
 むずかしいことじゃないので、鉄のフライパンとか、タコ焼き器とか、ダッチオーブンとか、年に一個や二個はシーズニングするだれもが、自分のブログで語ったりしないのだろうけれど。場末のホームセンターで、ノリでそれらを買ってしまったヒトビトが、どれだけ知識がないために幸せを逃してしまうかを考えれば、語れるぜんいんが、とりあえず語っておくべきです。

 いきます。まず基本。
 シーズニングとは。
 
「鍋を焼くこと」

 理由は、冷静に考えればわかると思いますが、海外から紙の箱に入った姿で塩の海の上をどんぶらこと揺られてきた鉄製品がなぜにその行程で錆びないのか。錆止めが塗られているからですね。クリアラッカーの場合もあるし、ワックスなこともある。なんにせよ、そんなものが塗られた鍋で、いきなり調理すれば、ひどいことになるのは自明の理。

 そのために焼く。
 錆止めを焼き切ってしまう。
 しかし、そうすると新たな問題が。
 これも当然のことだけれど、錆止めが剥げれば、鉄鍋は、錆びる。
 しかしあの夜店のタコ焼き、タイ焼き、お好み焼きにかすてーら。毎日使うものじゃないのに、その屋台の鉄板が錆びたりしていないのは、なぜか。錆止めを塗っているのか。いやそんな。オフシーズンは、空気に触れさせなければいいのです。極論、布団圧縮袋で真空状態にすれば、錆びはしない。でもそんなの手がかかってしかたない。ギャング映画を観たことありますか? 黒い鉄といえば拳銃。保管はどうするか。油の染みた紙で包むのです。次元大介は、ことあるごとに銃を分解している。それはなぜならば、銃の外にも内にも、たっぷり油を塗るためです。
 中華鍋も、スープばかり作っていると、錆びます。
 中華鍋は、揚げたり炒めたりするから、油が染みて錆びなくなる。

鍋

 さて、本題に入ってからも話が長くなりそうなので、テンポアップしてまいりましょう(笑)。買ってきたダッチオーブンを、十時間ほど強火で焼けば錆止めは煙になるでしょうが、面倒くさいので表面的なものは、中性洗剤で落とします。タワシでがしがし洗います。あ、注意ですが、クリームクレンザーとか使わないように。鉄は目に見えない小さな穴がいっぱいあるので、水で溶けて流れる洗剤でないと粒子が残ります。
(ところで、ジーンズを一部色抜き加工するには、裸で穿いて風呂場に行き、濡れたタワシと石けんでこするのが手っとり早い。青い泡がタイルに飛び散ります。というわけでうちの台所にある亀の子タワシは、その作業にも使うためかなり大きい。シーズニング専用に用意するならば、小さいほうが隅っこまで洗えて作業が早いと思います)

 ひととおりこすったら(残っていても焼けるから、そんな神経質にならずに)。
 乾かして。
 焼く。
 オリーブオイル投入。
 ペーパーナフキンで全体に塗る。
 内側も外側も、もちろんフタも。
 ものすっごい煙が出ます。
 油が焼ける煙です。
 やがて、煙は収まってきますが、そこでまたオリーブオイル。
 裏返したりもしつつ、細かな部分にこそ、塗りたくります。
 映画でも観ながらやるといい。
 あせって、灼熱のダッチオーブンをひっくり返そうとすると、やけどどころか火事にもなりかねないので。あせらず、少し冷めたら裏返してまた焼く、みたいな感じで。間違っても扇風機とか、まして冷水なんかで冷まそうとしてはいけません。鉄は焼き物です。急激な温度変化で、割れることもある。ひっくり返すのに濡れ布巾なんかも厳禁。アウトドアの基本。熱い鉄には革手袋。それがなくても、せめて乾いた厚手の布で。水は一瞬で沸騰するから、濡れ布巾で焼けたダッチオーブンに触れた瞬間……あうっ。想像したくもない。中華の料理人も、意外と薄いフキンで鉄鍋を揺らしたりしていますが、乾いた布は、けっこうな温度にも耐えるものです。

手袋

 ロシアの極寒の地などで、年中ストーブの上にあって、数十年にわたってあらゆる料理に使われた鉄鍋のことを「魔法の黒鍋」と称するという。油が染みては焼かれ、それがあますところなく鍋全体にひろがり、もはや使うたびに油を塗ったりしなくても、決して錆びることなどありえなくなった黒鍋ブラックポットは、魔法のように料理の味をととのえる。
 忙しいお寿司屋さんの、使い込んだ鉄製の卵焼き器は、油を引かなくても卵がくっつくことはない。
 いつかはそんなブラックポットに育てたい。
 その第一歩。
 せめて、見た目に黒く色が変わるくらいには焼いて欲しい。
 私は三時間くらいかけて、業務スーパーで買ってきた安いオリーブオイルを、ボトル半分くらいは塗り込みます。
 そうすれば、もはや鉄の匂いがしたりはしない。
 人によってはこのあと、匂いのきつい野菜を炒めたりするそうですが。
 私は、その炒めた野菜を食べずに捨てることがどうしてもできないので(笑)、揚げ物とカレーで締めます。
 たっぷりの油でフライドチキン
 ポテトとかニンニクとかも揚げちゃって。
 揚げ物で食材に鍋の匂いが移ることなどまずないので、これを最初のメニューにします。

 そして第二夜。
 カレー。
 多少錆び臭くても、カレーなら気にならないしね。
 もちろん、米は炊きません。
 ダッチオーブンの蓋でナンを焼く。

 そのころにはあなたも気づいているはずです。
 あ、ちょっと、これ、魔法。
 あきらかに揚げ物の、煮物の、味が違う。
 そこまで至れば、もう手放せないはず。
 台所に、ダッチオーブン置き場を作ってください。

Dutchoven

 ↑左がタワシでがしがしやったあとで乾かし、オリーブオイルたらしたところ。右がシーズニング後。まだ甘い感じだけれど、このくらいはっきり目に見えて色が黒くなれば、冷めた状態で鼻を近づけても鉄の匂いがすることはない。断言してもいいけれど、どんなメーカーのダッチオーブンであれ、焼いても焼いても匂いがするなんていうのは、物理的にありえない奇跡だから、くさければ、もういちど焼け。その心意気で間違いない。

 とにかく、シーズニングにおける煙のでかたはハンパないので、サンマを焼くのも禁止されているようなマンションにあなたが住んでいるならば、この最初の儀式だけは屋外でやったほうがいいかもしれません。ワンルームなら、ハードディスクも心配です(パソコンに煙は大敵)。外なら、木炭で強火をかけられるし、短時間で鍋が黒く変色していくのが実感できるので、それもまたたのしい。最初の揚げ物を外でやるのは片付けが厄介だから、それは帰ってきてからにする。鍋を空焚きするためだけに、休日の午後、ちょっとどこかの河原にでも。あなたとダッチオーブンの、蜜月のはじまりには、いい感じじゃないですか。

 ついでに購入のポイントも書いておこうか。たぶん前にも書いたけれど、ダッチオーブンを台所で使うことを前提にして買うのなら、チェックすべきはコンロにのせやすかどうかってこと。「脚」がついていないものを選ぶのも大切ですが、意外に見落としがちなのが蓋の取っ手。コンロの形状にもよるけれど、これが大きいと、ゴトクに上手くのらなくて、蓋の裏側をフライパン代わりに使うことができない。蓋でクレープとかナンとかトルティーヤとか焼くのがダッチオーブンの偉大なところだったりするので、そのあたりは吟味すべし。厚手のフライパンでも、ダッチオーブンの蓋に比べれば薄っぺらいものだからね。小麦粉生地を焼くのは、比べてみれば一目瞭然、テフロンのフライパンとかではぜったいに発現しない美麗な焼き色が付く。ホットケーキとかもいい。絵本に出てくるみたいな、こんがり色になるのです。

 

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