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『小説ウィングス編集長を憤らせる方法』の話。



 とある信頼筋から仕入れた情報によると、ウィングスの編集長は小説賞への応募作すべてを読んでいるらしい。一次選考で落ちた作品まですべてを編集者が読みます、ということをウリにしている小説賞もあるくらいなのに、編集長自らすべてに目を通していながら、そのことを大々的にはうたわない小説ウィングス。慎ましく奥ゆかしいというか、引っ込み思案な印象さえある(そういう姿勢が「どうせ新人をデビューさせるなら期待作受賞などという肩書きではなく大賞受賞者として」というエンタメ小説賞としては当然のハク付けを自ら封印し、十年以上も大賞受賞者不在という希有な現象を引き起こしているのだと思うのだが)。

 現在の編集長、ウィングス系某大御所作家の後輩にあたる御方らしい。

 ちなみにウィングスの黎明期メンバーは、例外なくコミケで同人誌を販売していた、いわゆるカリスマ同人作家である。「後輩」という言葉がどういうなにを指しているのかは定かではないが、現編集長が筋金入りのヲタである可能性は否定できない。ていうか大半がクソみたいなデキの素人の手によるイタいジュヴナイル小説を数百本読むという行為を宣伝のためではなくやるのは、常人ならば拷問に近い(私も以前、あまりにクソみたいな映画を大量摂取していることを見とがめられ、そういう映画を観るのってしんどくない? と問われたことがあるのだが、でも「ここまでつまらない作品を、監督はなにを思って撮ったのか」を考えながら観ていると、数時間などあっという間に過ぎていくのだ)。

 そこで、ピンと来る。
 小説ウィングスの、誇張ではなく数十年前の黎明期メンバーがいまだに看板を背負っていて、新人は生まれず、かといっていま現役の連載陣の作品を積極的にメディアミックスしていこうという営業方針も感じられない、あまりに保守的と思えるその姿勢も、実は裏返せばこういうことではないのか──

 かつての少女たちの楽園を、編集長は護っている。

 ウィングス小説大賞は、対外的には「中高生の、主に女性を対象とした」読者を想定しているのだが、これがはっきりと明文化されたのは数年前のことで、それ以前は「主に女性を対象とした」という部分がなかった。もともと母体であるウィングスという漫画誌が、少年マンガでも少女マンガでもない新しいジャンルを築くと志し、それを成功させてきた事実があったからである。

 月9ドラマ化されたことで有名な『西洋骨董洋菓子店』。
 今年は『プリプリ』アニメ化

骨董骨董

 しかし、そのことは結果として、ウィングス小説大賞までもがドラマやアニメから入ってきた一攫千金を狙うトレジャーハンターたちの狩り場となる状況を生み──あえて編集長は「女性を対象とした」という一文を加えたのだと思う。このことは、ウィングス小説大賞に向けて作品を書くときに、絶対に忘れてはならない要注意点だ。

 「中高校生の、主に女性」──これを額面通りに受け取ってはならない。なぜなら、小説ウィングスの主要な読者は、いまだに黎明期メンバーのフリークである方々なのだ。彼女らの変わらない楽園こそ小説ウィングスなのだ。つまり、「中高校生の、主に女性」とは言いかえれば「夢見る少女向け」ということであり、拡大解釈ではなく、小説ウィングス読者ならば当たり前に読みかえて「かつて少女だった、いまも夢見る少女な楽園の住人向け」と思い知らなければならないのである。この読みかえができずに書いてしまうと、楽園の番人である編集長に「なにこれ子供向け?」と鼻であしらわれることになる。

 さて、前置きが長くなったが、二年、四回連続で最終選考到達していた『幻追い』シリーズの最新作がひどい成績だった件について語ろう。現ヲタであり夢見る少女連合の門番であるウィングス小説大賞選考者──編集長は、なぜにそんなに気に入ってくれていた私の『幻追い』シリーズが、今回に限って気に入らなかったのか。この視点から『幻追い/少年鎖骨電光掲示板』を読み返すと、思い切り思い当たる節がある。

 場面は、主人公が機械化少女とその姉とその姉の崇拝者であるクローンおかまの弟と全身武装のダンディーの助けによって電光掲示板の鎖骨を持つ少年をカルト教団から救い出した直後。教団に少年をあずけ、自分は敷地内のコンテナハウスに暮らす、少年鎖骨電光掲示板の母が登場するシーン。

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 ドアを開けるとき、淡い期待を持っていた──醜い老人は、美しい少年のことを、その能力を含め好き勝手に利用していただけなのだ──少年を愛する血縁者はここにいて、彼女はきっと美しく、少年がおれに助けてと言ったのは、ぼくとママを、あの醜い老人から救い出して、という意味だったのだろうと。
 不幸ながらも救いのある童話を勝手に創作して、ドアを開けたおれの目に飛び込んできたのは、一目でわかる楽園(パラダイス)だった。
「…………あんた、が?」
 思わず呟いたおれに、その肉の塊は、振り向いて言った。
「なによ、まだなんかあんの、もうほっといてよ教祖サマ捕まっちゃったんでしょ? あたしも捕まるのよね? わかったからもういいじゃない。話すことはぜんぶ話したわ、わかってるわよヒトデナシよあたしは。でもね、あたしにも幸せになる権利があるの、教祖サマがそれを教えてくれたの。もういいでしょう。あたしのこの幸せな日々を、あたしは最後まで楽しむんだから、静かにしてて」
 肉に埋もれた彼女の口らしき器官のまわりには、甘ったるい匂いを部屋に充満させるチョコレート・クリームがべったりとついていて、一気に喋った彼女が垂れた唾液を拭き取ろうと口元を丸太のような手首で拭ったので、その茶色い染みは、彼女の頬にまで広がった。
 彼女は唖然とするおれに向かって笑んだ。
 ついさっき見た笑みだった。
 あの老人が浮かべた笑い顔に、それはそっくりだったのだ。
 達観した者の顔。
 悟りの境地。
 彼女は彼女の真実に到達している──閉じた楼閣の中心に、隔離された固有の真理。
 おれには理解できない。
 しかし、彼女はふたたびおれに背を向けると、フリルとレースに彩られたトレーラーハウスの中心で、極彩色のアニメ映画が流れている画面へと釘付けになる。
 あたしの幸せを、最後の最後までむさぼりつくすために──画面のなかでは、幸せそうな美青年のカップルが、やさしいキスを交わしていた──おれは口元を押さえ、トレーラーハウスを出た。
 吐きそうだったんだ。


 吉秒匠 『幻追い/少年鎖骨電光掲示板』

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 解説の必要はない。
 これが楽園(パラダイス)の門番、小説ウィングス編集長をいきどおらせる方法である。
 真似はするな。

(マジメに受けとらないでください。ネタです。今回の私の作品がひどい成績だったのは、私の書いたものがひどい出来だったから。そんな、問題になるワンシーンがあったがゆえに作品は燃やされたとか、前時代的映画界的な検閲がおこなわれているわけはないし、編集長さまは、たとえカチンときたってヒステリー起こしたりされるわけがない。いつだって冷静に、あなたはダメだと私を蹴ってくださる。理由は私が子供が大人になるくらいの時間をかけながら、まともな作品ひとつ書けないから。毎回、ちゃんと落ちこんでいます。むしろヒス起こしているのは私です。愚かしい。なんて愚かしい。こんな愚痴を書いているくらいなら次の作品を詰めろというのです。本当に、物理的に首がもげるくらいに蹴って欲しい)

 

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