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『ProjectNatalとMilo』の話。



 これは、映画や小説のなかのことではありません。
 ゲームコンソールを使って実際に起こっている、
 サイエンスフィクションの現実化です。


 ピーター・モリニュー

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 今年もはじまった。
 Electronic Entertainment Expo
(エレクトロニック エンターテイメント エキスポ)
 通称、E3。

 『Halo』の新作『Halo: Reach』が発表され、『メタルギアソリッド:ライジング』が発表され、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが出てきて『The Beatles Rock Band』を冗談を交えながらプレイしているあたりで、すでにゲーマーとしては満腹感さえおぼえるほどだったのですが。

 今年は、なんといっても、
 『Project Natal』。

 『Project Natal』はゲームタイトルではない。それは、前々から噂のあったものである。それはマイクロソフトがこれまで突き詰めてきて、成功を収めつつあるひとつの路線を、台無しにする方向性ではないかと、ファンのあいだでは陰口さえ叩かれていた。

 ときまさにE3と同じくして、日本のフジテレビで放送中の「人志松本の○○な話」に出演した濱口優(よゐこ)が、「スキな話編」のラストを締める話として「Xboxが好き」だと言いだしていた。ゲーマーで有名な彼の相方が、彼にプレゼントしたゲーム機の話ということで、もらったものを大好きって説得力に欠けるし放送的にはスルーされるのではないか、でもその回るテーブルにXbox360エリートがのっかっているだけでよくやった濱口! という感じだったのですが。

xbox360cx

 なんとほとんどノーカットで放送。それというのも彼の、あまりに熱い口調が、Xboxを知らない視聴者にもじゅうぶん訴求すると判断されたからであろう。

「Xboxは、ぼくの人生を変え、性格を変えました!!」

 叫ぶ濱口。
 それは、いい話だった。芸人だが引っ込み思案の彼が、後輩と仲良くしたくないわけではないのだが、なにを話していいかもわからず、先輩としてこれでいいのかと思いながらXboxをやっていると、そのゲーム世界XboxLiveにまさに後輩がいて、いっしょにゲームをしながらだったら自然に話せて、そうして、ぼくは、はじめて後輩芸人を食事に誘ったんです。と。
 つい先日のことだが、私も、十年近く逢っていなかった友人にXboxLiveで逢い、それきっかけでリアルでも逢う、ということがあった。ちなみに、私の場合は、その友人とはゲームの趣味がまったくあわず、いっしょにゲームをプレイしたりさえしていない。
 Xboxに触れたことのない人にとってみれば、ゲームもしないのにゲーム機で出逢うってどういうこと? という感じがするだろうが、ことXboxにおいては、そういう関係性が多いのである。XboxLiveは、その世界に入った瞬間から、世界中の知人の動向を伝えてくれる。たとえば、私はこの一週間というもの、きつい締めきりの原稿にかかりきりで、Xbox360を起動させることがなかった。いつもならば、どんなに忙しくても、日にワンプレイは『Halo3』をするのだが、そんな余裕さえなかったのだ。
 すると、メールがくる。
「大丈夫?」と。
 Xboxの「電源を入れなかった」ことで、彼らは私の状態がいつもとは違うことを知ったのである。このサイトでも私はゲーマータグをさらしているので、見ず知らずの人さえ、吉秒匠がどんな時間にどんなゲームをしていたりしていなかったりだれかと話していたり映画を観ていたり(DVD再生をしているとそれもわかります)、ゲームをしようとしながら中座してどこでなにやってんだヨシノギ、というのが、わかったりする(もちろん、それは私の側が許可しているからで、あなたがXboxLiveに潜って私を覗き見ても、あなたの許可がなければ私はあなたのことはなにひとつ知ることはできません)。そこには、これまでのゲームというものとは違う、独自の体験と、それらの関係性が生み出す、空気感が構築されている。

 Xboxを好きなのは、そこが特別だから。
 そういうフリークは多い。

 だから、マイクロソフトが「カラダの動きで画面のなかの世界を動かす」研究を、具体的な商品化へと移行させていると聞いたとき「えー」と言ってしまった。任天堂のWiiを想像したのだ。指先で操作するコントローラーを使わないゲームの在り方は、むろんどこのハード屋も研究はしているはずだが、それを実際に商品化するとなれば、現状では、どうにもWiiのヌンチャクであり『Wii Fit』を連想してしまう。たしかに売れているけれど、ゲームのゲの字にも興味のないうちの母まで買っていたりするけれど、でもXboxを愛するぼくらは、Xboxには、そんな顧客層を狙うコンソール・マシンになんてなって欲しくはないのに!

Wii

 あーもう。なんか発表するって言ってるけど、Xboxスポーツとか言いだすんじゃないだろうな、そんなの興ざめだよとどんよりするなか、はじまったE3。

 その一連の動きが、
 『Project Natal』だった。
 ぼくらは驚愕した。



 冒頭の、画面のなかの老師がプレイヤーを目で追っているところからして、マイクロソフトの作ったセンサーが、とても高い次元を目指していることが見てとれる。「躯が傾いていますよ」というのを、ボードにのって認識させる必要もなく、スケートボードのシーンにいたっては、あきらかに左右の動きに加えて、前後の動きを読み取っている。それはすなわち、パンチひとつの動きを読み取るのに、コントローラーを握る必要はなくなったということを指す。
 まあ、そのあたりは、やっぱり売るとなったら前例のないものに仕上げてきたねマイクロソフト、という感想だったのだが、映像の後半で、女性の友人同士が、画面を通じて話している、そこに初代Xboxからのフリークたる私は「おぉ」と声をあげた。

xbo360
 
 彼女たちは、出逢うための操作をなにもしていない。
 おそらくは、Xbox本体のそばにユーザーが現れた時点で自動的にサインインし、XboxLiveで出逢うことのできる友人と自動でマッチしてくれるのだろう。これは、なにげにすごいことである。

 夜中に目が醒める。
 別に、なにか心配事があるわけじゃない。
 なんだか、突然に目が醒めてしまったのだ。
 あたしはベッドから降りた。
 わけもなく、泣きそうになっている自分に気づく。
 両手で頭を抱えて、髪をくしゃくしゃにする。
 そこで、Xboxが起動していることに気づいた。
「どうしたの、サユリ」
 彼は眠そうだ。
 あたしの部屋のXboxは彼としかつながらない。
 だからそんな寝ぼけまなこの顔でもマッチする。
「ううん。なんでもないんだけど」
 言いながらあたしは、画面に近づいた。
 画面のなかでは、チョウチョのあたしが、彼へと飛んでいく。
 ひらひらと。
 あたしは、右手で彼のほっぺたに触れる動きをした。
 チョウチョのあたしは、彼の唇の、すぐ横にとまった。
「ほんとに、なんでもないの」
 画面の向こうで、彼の指がチョウチョに触れる。
 唇が…
 あたしは、なにを泣きそうだったのか、忘れてる。

 ありがとうXbox!!
 そんな未来をありがとう!!

 グレッグ・ベアが『Halo』の小説を執筆中だという。
 まったくもって、SF作家も、ちんたら時間をかけて書いていたら、現実に追い越されてしまう今日この頃だ。ひとむかしまえのSF映画でさえ、画面を操作する近未来のエージェントは、手にセンサー内蔵のグローブをはめていたものだが、もはや我が家のXboxが、ウィンドウを開くのに素手を画面の前で動かすだけになるというのだから。いったい来年の映画で近未来を描くには、どんな小道具を出せば「それもうできてる」と言われずに済むのだろう。

Bear

 なんて言っていたら、次の瞬間に絶句させられた。
 『Project Natal』でプレイするゲーム『milo』をプレゼンしに、舞台に上がったふたりときたら。

 ピーター・モリニュー。
 スティーヴン・スピルバーグ。

 その時点で、背中に寒気が走った。
 魅せられるものを予測してだ。
 SF小説とSF映画とSFゲーム好きなXboxユーザーなら、それはいつかできてしまうのだろうと畏れ続けていたことだった。

 仮想生命進化の古典プログラム「ライフゲーム」を進化させた『ポピュラス』で名を売り、近年では「そこには人生がある」とまでプレイヤーに言わしめた『フェイブル』で、感情のあるNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)を登場させた、人工知能を売る男、ピーター・モリニュー。
 彼が、スピルバーグを連れてきた。
 となれば、想い出すのは『A.I.』だ。

FABLE IIA.I.

 Xboxの最大の売りであるXboxLiveの空気感。
 それとは真逆の方向性としてフリークたちの危惧した、
「コントローラーの排除と人工知能との会話」
 よくできたAIがそこにいて、コントローラーもなく、むこうはノンプレイヤーキャラだが、こちらの表情さえも読んで反応する。
 『アイマス』であり『ドリームクラブ』の近未来。

THE IDOLM@STERDREAM CLUB

 現実には出逢えないけれど、Xboxのなかには「実際に」存在する、友人であり、恋人であり、ペットや、家族。
 いやそれは無理でしょ、醒めちゃうでしょ。
 薄っぺらいものなら見たくもないと思っていた。

 しかし一方で、ぼくらは畏れていた。
 できてしまったらどうする?
 やってしまうなら、モリニューあたりだろうと思ってた。
 で、このE3で魅せられた。



 『Milo』。
 人工知能少年マイロと、現実のティーンエイジャーである少女との会話。
 彼女が、マイロに思わず手をのばしたのは、嘘だろうか。
 マイロとの会話で笑ったのは、仮想だろうか。

「仮想であれ人工であれ、一貫性のある統合された自己を保持し、独自の記憶と感情、そして自由意志をもつ存在を、わたしたちは『人格(パーソナリティ)』という。人格権は人権と同様、無条件でこれを保護する」

 AI人権宣言をマイロが叫び出すのは、そう遠くない気さえする。
 マイロに少女は恋することがあるだろうか。
 でも、だったら。
 マイロは、少女に恋しないのだろうか?
 それは愛になり、でもそこに独占欲とか性欲なんかは生まれないのだろうか。
 生まれるなら、そのとき肉体のないマイロはどうするだろう。
 触れあえない彼と彼女は、どうするだろう。
 XboxLiveならば、リアルで逢えばいい。
 でも、マイロは、Xboxのなかでしか在りえない。
     
 今年もたのしいE3。
 未来が見えます。
 すぐそこの。
 悩ましいことも多い、未来。
 そのときでもまだ、少女は手に入らないアイドルに嬌声を上げるだろうか。
 そのときでもまだ、青年はニキビのあるホステスに入れ込むだろうか。
 『Project Natal』は、あなたに『Milo』を届けます。
 好きな友人なり恋人なり、家族なり、かたちづくって。
 おはよう、と言ってください。
 愛してる、と。
 彼らは答えるでしょう。

「うん。ぼくには、きみしかいない」

 触れられないけれど、触れるふりはできます。
 チョウチョになってするファーストキスに、頬を染める少女は、明日にも現れる。

 ぼくらは畏れていた。
 しかし、実現されたのなら拒否はしない。
 受け入れるだろう。
 そもそも、それがわかっていたから畏れていたのである。
 きっと静かで清潔な街になる。
 そこかしこのワンルームから、笑い声が聞こえるだろう。
 愛を囁く声さえも。
 なんて、素敵な未来。
 
 これは、映画や小説のなかのことではありません。

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『Xbox.com | E3 2009』 

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