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『タマレってなに?』のこと。



 世界中を吹き荒れた大不況の嵐のなかで、効率的な生産方法と製品クオリティの極限的な向上を遂げた代表格は、テレビとゲームだった。

 ちなみにその他の産業では、きしまない大型ベッドと大人のオモチャが飛躍的な進化を遂げていたが、暇人の集まる掲示板サイト以外で話題になることはあまりない──おでかけするとクレジットカードの残高が減るからといって、屋内でたのしめる激しいスポーツに再び興味を示しはじめたなどと認めるのは、自分たちが原始の人類にもどってしまったようでたのしくないからかも──しかしもちろん、ほかに娯楽のない貧しい地域でどの家庭も子だくさんなようには、都市部で夜のスポーツが流行しても出生率は上向かない。ひと息吸えばひと晩だけの不妊症になるタバコ型経口剤〝スモート〟のせいでもあるし、最近ではまっすぐ走るスポーツよりも、なにかしらの工夫を凝らした亜流のほうが競技人口を増やす傾向にあることも原因なのかもしれない。

 触れなくても、ひとはひとを愛でることができる。

 それは進化なのか退化なのかよくわからないが、少なくとも昔からあったテレフォンセックスなどというものと比べれば、テレビとゲームの進化は競技の形態に直接的に作用した。設定さえすれば自分のいる位置からちょうど地球の裏側の地域だけを狙って──つまり〝実際には〟ぜったいに出逢わない相手を狙って──今宵の対戦相手を選択し、テレビに呼び出すことができる。そこでプレイされるのは基本的にマスターベーションだが、触れずに愛するそれもまたセックスだと呼べるなら、画面の向こうの相手は確かに〝視て〟いるし、言葉をかけてもくる。

 そういう文化が育っていることは知っていた。

 けれど私はあまり真剣に興味を持ってみたことはなく、家にも〝セックスボックス〟に代表される性娯楽端末を有してはいない。そういえば幼いころにもゲームはオフラインのものばかりを好んで、回線使用量の少なさを親に怒られてばかりだった──彼らの世代は、無差別で不用意に世界中のだれかと知りあいになり、地球が一個の小さな村にでもなれば恒久的な平和の日々がやってくると信じている──おかげでその世代に育てられた私たちは、夢見がちになり、仮想の箱庭でひとり遊びをしたいと願う、根っからのオナニー好きになってしまった。たいていの場合、子供は親に反発して自己を形成し、大きくなってからはそのことを悔やんで、彼らのことを理解しようと無駄な努力をはじめたりする。

 私がそのスツールに座ったのも、迷い込んだ最先端クラブが、辟易もののフェイクな小世界を提供することでサービスした気になっている、ゲーマーくずれたちのたまり場に過ぎないと確信したからだった。早朝シフト明けの時間でも賑やかな店だと同僚に聞いて来たのだが、その賑やかさは私の聴神経線維振動の許容量を超えていた。

「踊り飽きましたか」

 私の前にグラスを置きながらシャム猫が言った。

「そんな気にもならない。果てがない光景にめまいがしてね」

 猫が私に話しかけたのは、あきらかにこの店に満足しておらず、奥まったバーカウンターのスツールへ私が逃げてきたことを〝サービス不足〟だと判断しているからだろう。

「みなさん、最初は、そうおっしゃいます。〝ウォルトロン〟の解像度は肉眼において、ほとんど現実と認識されますから。ええ。ヒトの目では」

 くすり、と猫は笑った。
 ほら、あちらにも逃げてこられた方が──
 コバルトブルーの瞳で彼、もしくは彼女、いやオスかメスか、どうでもいいが猫が見やったほうを私も見て、失望した。そこにも〝ウォルトロン〟があったのだ。こちらのカウンターが透明な壁に突き当たり、向こう側でも同じカウンターがのびている。バースペースは薄暗い店の中でも特に暗いので数メートルの距離しか見通せず、ダンスフロアのように〝ウォルトロン〟の向こうのフロアの奥にまた〝ウォルトロン〟というような、果てのない無限空間が見えているわけではなかったが、それでも孤独を愛したい私には、必要ない他者がそこにはいた。

「ほんとだな。ああ。いい男だ」

 皮肉をつぶやき、グラスをあげる。
 透明な壁は猫の言うとおり、そこにあることさえ言われなければ気づかない超絶解像度で、数歩の距離にあるスツールに座る男を映し出していた。やわらかなスポットに照らされ、闇に浮かび上がっているかのようだ。男も私に気づき、むこうは皮肉を感じさせない微笑みを浮かべた──音のやりとりはないから、向こうの雰囲気はわからないが、男のはだけたシャツの胸には、汗が光っていた。
 彼が持ちあげたのは、ビール瓶。
 彼と同じように汗をかいている。その瓶の口にライムがねじり込まれているのを見て、私はだいたいの見当をつける。カウンターに塩を盛った皿がのっているのは、きっと年中暑い国なのだろう。そんな国のやつなのに、はだけた胸に毛がないな、と思ったのは、偏見かもしれない。
 男のほうも、私をじっと見ていた。
 こんな場所なのにネクタイもゆるめていない私は、彼の側から見れば、情熱のない国の住人と映るに違いない──猫は、逃げてきた、と言ったが、どう見たって逃げているのは私だけで、彼は踊り疲れてほてったカラダを、ビールで冷やしているところだ。

「悪いね、汗だくの美女じゃなくて」

 せっかく地球の裏側と視覚的に交信できるのに、私なんかで。
 ソーダを喉に流しこみながらメニューを開く。せめて食事でもして帰るかと、品揃えの詳細を猫に訊ね、注文してから、ふとまたそちらを見ると、まだ男は私を見ていた──彼の前には、なにか料理が出ている──あざやかなグリーン。食べ物に見えない皿だ。それがすでに供されていることに気づいていないのだろうか、彼はビール瓶を握りしめ、こちらから視線をそらさない。

「なんだよ」

 ちょっと不愉快になって私が言ったのが、言葉は通じなくても雰囲気で伝わったのだろう。男は、目を醒ましたかのように背をのばし、顔をそむけて、向こうのバーテンダー(シマウマだ)になにごとか語っている。おそらくは、見知らぬ国のぱっとしない男にケンカを売られたと訴えているのだ──しかし、おそれることはない──彼が私に触れることは、けっしてできないのだから。
 やがて彼は、興奮した様子で、なにかを持ちあげた。
 コースターだった。
 なにかを殴り書いているのだが、むろん私に読めるわけもない。

「訳しましょうか」

 シャム猫が言う。私は、直訳では口にできない卑猥なスラングを、猫がどんなふうに意訳するのかが聞いてみたくて、たのむ、と答える。

「あなたの髪の毛と、瞳は、奇跡のように美しい」

 ──しばらく、その意味を考え──
 笑った。

「ホモかよ……」

 私が笑ったことに、なぜか彼も笑い、そしてもういちど、ビール瓶をかかげた。
 乾杯?
 少しだけ躊躇したが、それに応えた。
 彼は、触れられない。
 きっともう一生逢うこともない。
 この店で、私は、はじめて笑った。
 そして正直に言うならば、私は、男のことを好ましく思っていた。あろうことか、汗の匂いが透明な壁のせいで感じられないことに、もどかしささえ感じていた。まあ、だからといって、明日から私がなまめかしくやわらかいケツよりも、ひきしまったかたいケツに目を奪われるというようなことはないのだけれど。そのときだけは、ぶつけて鳴らすことはできないグラスを、持ちあげるだけの二度目の乾杯くらいはしてもいいかと、思ったのである。
 猫に言った。

「さっきの注文を取り消してくれ」
「はい」
「向こうの彼の前にあるアレは、食べ物か?」
「タマレですね」
「タマレ? なんだそれ。こっちでも出せるか?」
「もちろんです」

 正体不明なそれを頼んだのは、彼との時間をもう少し、たのしみたかったから。
 どう見たって食べ物に思えないそれの食しかたを、ぜひ教えてもらおう。
 やつは、よろこぶだろうか。

「奇跡のように、ねえ」

 地球の裏側からの男の視線を、感じつつ。 
 私は自分の前髪をもてあそびながら、また少し笑った。

Tamales

Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 6
 『¿Qué los tamales son?』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 6曲目
 『タマレってなに?』)

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 というわけで。
 タマレってなに?
 ああもうこれ書くと毎回言われるので今回はちゃんとします。
 おはなしはピロートークで。
 さしあたり本番。
 ヨシノギ的、タマレのレシピ。
(ほら、これでレシピだけが欲しい人は読みやすいでしょう。ふんっ。反省したわけじゃないんだからな。あとでちゃんと無駄話だってするんだ)

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○材料

●スープ&具

鶏もも肉 1枚
たまねぎ 1個
にんにく 1個
水 1リットル
塩 小さじ1/2
赤唐辛子 1本
ブラックペッパー 少々
クミン 少々
オレガノ 少々

●タマレ生地

牛乳100CC
バター100CC
塩 小さじ1
砂糖 小さじ1
ベーキングパウダー 小さじ1
コーンフラワー 400グラム
スープ 400CC

オーブンシートとアルミホイルも必要。

○作り方

①肉と野菜を炒めます。あとで包むので小さめに切ったほうがあつかいやすいかな。包みにくくても食感が大事というひとはお好みで。たまねぎとにんにく(一かけじゃないよ、一個だよ)が炒めあがったら水を加え、香辛料をすべてぶち込みます。そして好きなだけ煮てください。炒め具合も煮具合も、すべてはあなたのお好きなように。生地のベースになるので、飲むには少し濃いめか、というチキンスープを目指します。ああもう面倒くさいひとはキャンベルのスープ缶とか買ってきていいですよ。本場のレシピでも、スープは買ってくるっていうの、けっこう見ました。そのさいは、ミンチ炒めとか照り焼きチキンとか、総菜売り場で中の具になりそうなものも買ってくる必要がありますが。ていうかだったらスープ缶と総菜で、もうそれ晩ご飯にしちゃいなさいよあなた。

②スープを濾します。目の大きなザルでいいです。むしろ肉の破片なんかが残ったほうが、生地に味わいが出ます。むろん、濾したあとに残ったものは絞りかすではなく、具です。あなたがスープを本域で煮詰めすぎて、肉も野菜もまったく味が残っていないようでしたら、お好みで好きな味つけを足してください。肉まんと同じく、タマレも具にしっかり味がついていたほうが美味です。材料を見ていただければわかることですが、入れた水は1リットルに対し、生地に使うスープは400ccです。半分以下に煮詰めたとしても、それはあなたが偏執病に侵されているということではなく、告白すれば私もそう。なんにせよ煮るなら半分以下にまでしないと煮たことになんかならないよね。ちなみにキャンベルのスープ缶は300ccほどなので、一缶では足りず二缶では多く……手を抜くからそういうことになるんですよあなた。

③牛乳にバターをぶち込み、素手でくっちゃくっちゃと錬ります。スコーン作ったことあるひとなら勝手がわかると思いますが、バターは牛乳に溶けたりしません。あくまで握りつぶされたバターが牛乳に浮くだけですが、それでよし。そこに粉類と調味料をぜんぶ入れます。錬ります。冷ましたスープをちょっと足します。錬ります。もっと足します。錬ります。スープがすべてなくなるまで繰り返します。手が疲れた? もうタマレ作りはやめちゃいなさいあなた。

④20センチ角くらいに切ったオーブンシートに、錬った生地を100グラムほど落としてのばします。中心に具を置き、それをたたみます。アルミホイルでさらにそれをくるみ、蒸し器に並べます。このあたりのあれやこれやは後述しますが、まあこぼれないように包めば、失敗する要素はありません。この作業こそがタマレがお祭り料理だと言われるゆえん。大人も子供も器用もぶきっちょも、みんなでタマレを巻くのです。さっきやめちゃいなさいと言ったけれど、ごめんよあなた。ぜひ作ってみて。

⑤蒸します。蒸せば蒸すほど生地に具の味が染みて美味になるということらしいので、最低でも三十分は蒸しましょう。肉まん同様、屋台では延々と蒸し器で蒸され続ける販売方法であり、加減とかそういうことは考えないでいいです。ただし、蒸し器の水は切らさないようにね、ぶきっちょなあなた。

⑥できあがりです。コロナとテキーラを買って来いと友人に伝え、ルチャ・リブレのビデオを用意しましょう。

Tamales2

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 メキシコといえばルチャ・リブレ。
 スピードが命のメキシカン・プロレスです。
 近年では『ナチョ・リブレ』のヒットでご存じのかたも多いでしょう。

tamales

 私の好きな日本のプロレス団体が、ルチャの団体と提携していることもあって、よく映像では観るのですが、実際にその地に行ったことはありません。でもあのあたりの土地に憧れはあって、闘牛などのけっこうな量の資料を有していたりするのです。
 そんな私がいちど作ってみたかったタマレ。
 綴りはtamales。
 カタカナ表記ではタマレスとかタマーレなんて書いたりしますが、私はタマレと書きます。発音を聞くと、そう聞こえるので。まああのへんの人がみんな早口ってのもあるんでしょうが(『Halo3』を日本時間の夕刻あたりにプレイしていると、よくメキシコの方と出逢うのですが、ほんと全員が殺されても喋り続けて笑いまくるって感じです。民族性なんだろうなあ)。

 タマレは、お祭りの代名詞みたいなもので、屋台で売っていたりもして、テキーラの入ったビールとタマレのセットなんて、ああもうそれはクリスマスだね新年がやってくるよホリデーだっ、と感じる人も多いらしい。
 そういう話はよく聞くのだけれど、行ったことないし。
 スペインとかメキシコの料理を出す店にも縁がなく。
 ずーっと思っていたんですよね。
 タマレってなに?

 手っとり早いのは作ってみることでしょう。
 というわけで、メキシカンな言語は判読不能なので、英語で書いてあるレシピをいくつか調達し、動画も参考に。
 これなんか役立ちました。
 アップしてくれた人ありがとう!
 お嬢ちゃんたちも可愛いね!



 そんなこんなでまずは材料あつめなのですが。
 粗挽きのトウモロコシ粉というのが、なかなかない。
 ざっくりした料理なので、コーンフラワーも薄力より強力のほうがよい気がします。
 大阪のかたなら梅田の成城石井へ行ってみて。コーンフラワー400g:230円(JAN:4996090562251)がありました。とりあえず作りなので、これくらいの量ではじめますが、それにしても多くのレシピを見てみると、使っているラードの量がハンパない。このトウモロコシ粉のパッケージにも書いてあるが、通常、トルティーヤのタネ(マサという。プロレス好きな日本人は斉藤を思い浮かべるので、この呼び方は使用しません。知らないあなたに説明するなら、マサ斉藤というのは食欲を減退させる見た目のプロレス選手です)には水しか入っていないので、あえて油をたっぷり入れて錬るというのが、中華の小籠包っぽい。
 持ち歩きにくいタコスのかわりに、お弁当として持っていくなら、肉を具に入れカロリーも高めるのがタマレの作法ということでしょう。しかし冷蔵庫にラードなど入っていないので、無塩バターと牛乳(低脂肪)で代用。冷凍保存すればいくらでも保つ、という記述もよく見かけるし、確かにレンジでチンして朝食に二、三本、というのにちょうどいい感じ。

 本来はこれ、トウモロコシの皮で巻くのですけれど(小説の中では緑色と書いていますが、むろんたいていの場合は乾燥させた皮で薄茶色。そのクラブでは合成トウモロコシの皮を使っているので、奇妙に青々しているわけですね。とか。あとづけで考えてみる(笑))、別に皮の匂いをつけるためとかそういうことでもなく、単にメキシコの片田舎で腐るほどあるトウモロコシを粉にして、焼くのも飽きたから蒸すのにちょうどいい感じだったので皮を使った、というだけのことらしい。だったら現代の都市では、トウモロコシの皮よりもオーブンシートのほうが入手しやすいのでそれを使います。トウモロコシの皮で包むときには開かないようにヒモで縛るのですが(きっとむかしはトウモロコシのヒゲを使ったのに違いない)、これも面倒くさいので、アルミホイルで重ねて包むことにします。中に水が溜まってべちゃべちゃになる懸念もありますが、なにかの料理番組でそんな中華の手法を見たような気がするのでとりあえずやってみましょう(大雑把)。

 私の母が米農家の娘で、幼いころの私の夏休みは畑でキツネよりも早く、熟れたトウモロコシをもぐことに費やされていました。なのでよくわかる。トウモロコシの皮くらいのサイズ。オーブンシートを20×15センチほどに切ります。切ってみてわかるが、けっこうデカい。小籠包というよりも、コンビニの肉まんくらいある。包みあがったサイズは15×5。そこで気がつくのだが、ベーキングパウダーの入った生地を蒸すと、肉まんのようにふくれあがるのだとしたら、オーブンシートはかなりふわっとゆとりを持って巻いたほうが正解なのかもしれない。そういえば、現地の言葉が読めないために私には判読不能だったメキシコのレシピサイトで、蒸し器に葉巻型に巻いたタマレをびっしり立てて並べている写真があった。巻いたタマレの天に向けた部分は、閉じずに開いたままにしてあったのだが、ああいう逃げる方向を用意した包み方が理想なのかもしれない。いやまてよ。だったら本当に肉まんのようにむき出しで蒸しちゃいけないのか……と思いがちですが、そこがタマレのタマーレたるところ。作ってみればよくわかります。トウモロコシの粉の甘い匂いに、チキンスープを足していくと、えも言われぬ匂いが漂ってきて、もっとどんどんスープを足せば間違いなくおいしくなるのでもっと入れたいのだけれど、これ以上入れたらゆるゆるな生地になって包むこともできなくなる……という臨界点をさぐるのがタマレ調理なのです。スープを半分にすれば丸めて肉まんのように蒸せて簡単になるのだが、味が落ちる。だったらトウモロコシの葉で一個ずつ包む手間は惜しまない。それが奇跡の蒸留酒テキーラを産んだ国民性というものです。ジンやウォッカは一度の蒸留でできあがるが、テキーラは何度も何度も麻薬を精製するみたいに蒸留するのです。身のまわりにある限られた食材で、極限の味を追い求める。それは、彼らのビバメヒコ! の精神を透かして見せていると思う。もっと肥沃な土地に移ればもっとおいしいものが食べられるはず。でもトウモロコシとニワトリとトマトと、何度も蒸留させれば酒になって飲めないこともない竜舌蘭の育つ痩せた土地を、決して離れる気はない。
 愛だよね。
 タマレは、そういう精神の蒸留された料理なのです。

Tequila

 しかしまあ他人の愛というのは共有しにくいもの。
 今回のレシピで、ちょうど10本ほどのタマレが完成するのですが、実験してみた一本目を食して痛感する。

 ビール。はやくビールをっ。

Corona

 トルティーヤをトウモロコシ粉だけで作るとぱさぱさしてくずれやすいということをよく聞くが、それは油を加えても変わらない。ラードのかわりにバターと牛乳を入れたことからして、それは一種の蒸したスコーンである。もっそもそ。だからこそ中身の肉汁を吸って美味になるのだが、本場ではタマレは屋台料理だということを想い出し、納得した。これは一本でいい。ルチャ・リブレの空飛ぶプロレスラーたちを眺めながら、ちょっと囓ってはビールで流しこむ。それが正しい。ビールも瓶の口にライムの切ったのをねじり込んだコロナである。もしくはきんきんに冷えたソーダで割ったテキーラか。悪と正義のマリアージュ。タマレはその、もそっもそを流し込み、清涼感を与えてくれる酒あってこその料理でありんす。

 半分以上を冷凍しました。
 これは二本で充分。
 スープがたっぷり残ってしまったので、強力粉でトルティーヤを焼いて、サラダとアボカドディップを添えました。で、ビールとテキーラ。幸せ。台所にトウモロコシの良い匂いが充満する料理で、実にあたたかな気持ちになる、真夏に60リットルくらいビールを用意して食べたいタマレスなのですけれど、きっと作らないでしょう。延々と蒸す料理って。春先でも暑かった。夏場なんて地獄だ。 

 メキシコではフレンチドレッシングにシナモンを足すらしいが、まったくもってなんにでも香辛料ですね。それも暑い夏を乗り切る方策だろうが、なんかもうやけになっている感じがなくはない。だいたい、ロシアでウォッカが凍えないための知恵というのはわかるが、メキシコでテキーラというのは……体温は間違いなく上がるので、つまりは酔いつぶれなければ寝られないってことなんだろう。仲田ドラゴンさんも、水に苦労した話していました……おなかぎゅるぎゅるいう状態でキチンシンク(腹に膝を入れて相手を台所のシンクに顔を突っ込んでいるような格好にする技)なんて喰らったらたまらんね。だから日本人はルチャに参戦すると弱いのかもなあ。行きたい、と私が思わないのもそういうところが……とか言ってたら豚インフルエンザの発祥の地なんかになっちゃって……

 やはりタマレは、陽気なプロレスの国を夢見ながら、クーラーの効いた部屋で液晶テレビのプロレス観ながら食べることにこそ悦楽があるのではないかと。ぶっちゃけ、トウモロコシ粉がそんなに美味いものなら、なぜスーパーで小麦粉の隣でふつうに売っていないのか、ということだ。なに作っても、もっそもそになるし。不味くはないんだけど。あえて毎日食べたいものでもない。
  
 現地でも、きっとそうなんだろう。台所にトウモロコシ粉とチキンといういつもの材料しかないのに、お祭りだからとタコスではない別の料理を創造しちゃった過去を想いだし、みんなで食べる料理だよ。
 自分で作って余って冷凍して翌朝蒸しなおして食べたりするもんじゃない。
 だれかに作ってもらっておきながら。
 口もっそもそするよもっそもそ、ビールくれビール!!
 みたいなノリで、想いだす料理だから、屋台であり祭り。
 いつもそこにはあるけれど、毎日食べるわけじゃない。
 タマレを理解しました。
 やっぱり作ってみるのが手っとり早い。

 ジャンバラヤとか、台湾料理とかでも同じこと考えたんだけれど、私ってそういう民族性に好感をもつみたい。スペインの植民地で国交を断絶したこともある。でもみんないまでもスペイン語で話して、占領時代にそれしか食えなかったトウモロコシとチキンを香辛料と唐辛子でごまかした料理を、いまでも食べていて。土地的にはアメリカなんだから、英語話したほうが便利なはずだし、牛肉と小麦粉を主食にだってできるはずなのに。変わらない。それって意固地になってんの? と思うんだけれど、レシピ調べたり、その国の人に会ってみたりすると、わかる。違うんだね。ただ、気にしていないだけなんだ。占領されたことも貧しい思いしたことも史実だし、それを喜ばしいことだなんて思ってはいないけれど、そういうのとは別個の問題として、お祭りにはタマレ。これ食べるとおばあちゃんを思い出すし、トルティーヤとチキンの豆煮、嫌いじゃないし。ハンバーガーだって食べるし、日本食のレストランだってあるらしい。でもタマレ。もっそもそだけど。それがテキーラと合うんだよ、それがわかってこそだぜビバメヒコ。ルチャ・リブレも昨今はずいぶんアメリカン・プロレス的な演出が増えましたが、それでも勧善懲悪なキャラ設定とか、マスクマンの神聖化とか、世界的に見れば時代遅れなエンタメ要素を、大事に守っていて、それが伝統とかそういう意識ではなくて、単にそれこそがやっぱ会場を沸かすからだっていう。
 おやくそくを、よしとする風土というかな。
 いやむしろそれこそが最強だって誇りも持っている。

 とかね。
 なかなか味だけでは理解できないところなのですよ。
 単純なところが、深いのです。
 もっそもそ、も。

(重ね重ね書いておきますが、今回のレシピは「タマレを食べたことのないどころか実物を見たこともない」私が、映像と文献だけを頼りに調理したものなので、現実のタマレとはかけ離れている可能性があります。ご了承を)

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Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy

5曲目『あらいぐまのすきなもの。』
4曲目『ピッツァみたいにぼくを食べてよ!!』
3曲目『クリスピー・プロ・フライドチキン』
2曲目『青くてカタいアボカドのパスタ』
1曲目『春餅/チュンピン』

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