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『たけのこの水煮をつくろう』のこと。



 なんでだか、あらいぐまの着ぐるみを着せられて、かかとでおなかをぐりぐりやられて、それがどうしてそうなったのかわからないけれどルーファンは ぼくの喉の奥へといっぱい放って、それからもういちどぼくを抱きしめたらあらいぐまの裏地のポリエステルが肌にくすぐったくて、笑った顔をしたらルーファンはぼくがうれしいと思ったのかルーファンも笑ってぼくの鼻の頭にキスをした。そのうえ鼻をかじった。本物のぼくの鼻だったので、痛かった。あらいぐまの鼻と両目は、まんまるくはみ出たぼくの顔のうえにあるから、そのときのぼくは鼻がふたつで目がよっつのモンスターみたいに見えたかもしれないけれど、ルーファンがキスをしたのはぼくの本物の鼻だったから、考えてみればぼくは大きなあらいぐまの口のなかにいままさに飲み込まれそうになっている男の子みたいに見えるのかもしれなかった。だったらルーファンのいまのキスはさよならのキスだろうかと思ってぼくが泣きはじめると、ルーファンはぼくの目を舐めた。ぼくは、あらいぐまの目じゃなくてぼくの目にキスしてくれたことに感謝して、ルーファンに抱きついたけれどあらいぐまの着ぐるみがほわほわで、ぜんぜんぎゅーっと抱きしめたりできなくて、なんだかとおいよルーファンとつぶやいたら、こんなに近いじゃないかとルーファンがぼくの唇を噛み、ベロをつっこんできた。そうするとぼくはおなかの奥のあたりがきゅーとなる感じ、からだの奥からなんかじゃーって漏れてく感じがしてそれはおしっこみたいだけれどおしっこだったら困るし、あらいぐまも濡れてしまうんだけどそれはおしっこじゃなくて、なんか愛みたいなものだった。
 ルーファンが、ぼくをあらいぐまのなかから救い出す。ぼくがあらいぐまなのか、あらいぐまがぼくを食べているのかよくわかんなかったけど、やっぱりぼくはあらいぐまから引きずり出されて、はだかでポリエステルがくすぐったくなくて、ルーファンにくっついていられるのが好きで、好き好きと言っていたら、なんか言っていることが違ってきて変な声が漏れて、ああやっぱりぼくから漏れ出しているのはおしっこじゃなくて愛なんだと思ったらルーファンが入ってきて、あとはよくわかんなくなっちゃったのはいつものこと。ちょっとして起きたら、ぼくは、またあらいぐまだった。

「ルーファぁン」
「うっせえ。いつまで寝てる」
「なにしてんの」
「タケノコの水煮」
「タケノコって?」
「あらいぐまのくせにタケノコもしらねえのか。好物だろうが」

 それはパンダだし、きっとササだけど、ぼくは黙ってた。ぼくだってタケノコくらい知ってる。訊いたのは、なんでタケノコをいじってんのってことだったんだけど。きっとまただれかにもらったんだろう。ルーファンは野菜の種を売っているお店で働いていて、お店ではいつも笑っていて、帰ってきたお客さんに着ぐるみを着せていきなり口にイチモツをつっこんだりしないし、みんなに好かれている。まあ、つっこまれているぼくも好きなんだけど。ということは世界じゅうのみんながルーファンのことを好きなので、ルーファンはよろこんでいい気がするんだけど、いつも怒っているのはふしぎなことだと思う。

「煮てるの?」
「きのう煮たのを冷ました」
「きのう?」

 時計を見た。ほんとだ。あしたになってる。はだかのぼくの気が遠くなってルーファンが退屈してタケノコを煮て、それが冷めたくらいのあしたになっているんだから、そりゃぼくもまたあらいぐまの着ぐるみを着ているはずだ。タケノコが冷めるあいだ、ルーファンはたぶん寝てるぼくになんかした。どうりで口のなかがまたべたべたすると思ったよ。

「タケノコ、どうするの?」
「チクゼンニ」
「うえええええ」
「泣くんじゃねえよ、あらいぐまが」
「あらいぐま、シイタケきらい」
「あのなあ、そういう言いかたすると、あたかもてめえがニンジンは食べられるかのようだ。訂正しろ」
「食べらんないのになんで入れるのー」
「チクゼンニからシイタケとニンジン抜いたらチキンしか残らねえ」
「フライドチキンがいいよぉ」
「タケノコの水煮つくったって言ってんだろ、ケンカ売ってんのか」
「ねえ、ルーファぁン」

 ぼくはあらいぐまだからよつんばいでキッチンのルーファンに近づいていって、素肌にジーンズだけをはいているルーファンの、膝の裏のあたりを両手でマッサージした。あらいぐまだからあらってあげる。ルーファンのいじわるなところが、とくにチクゼンニにシイタケとニンジンを入れるところが、あらいながされてきれいになったらいいと思って。ほわほわのあらいぐまの手は、おねだりマッサージにはちょうどいい。はだかのルーファンの背中に、鳥肌がたつのが見えたもん。もう少し。ぼくは、芸達者なあらいぐまだから後ろ足で立ってルーファンの背骨を舐めた。

「……テンプラにするか」
「テンプラってなに? フライドチキンに似てる?」
「おふくろを想い出すから、あんま好きじゃねえんだ」
「ぼくと食べたら好きになるかも」

 言ったら。ルーファンは振り返って、まじまじとぼくを見た。ルーファンの着せたあらいぐまの着ぐるみに、いまぼくは食べられそうには見えていないんだと、黙ったルーファンの顔を見たらわかった。なんでだかしらないけど、ルーファンはいま、あらいぐまのぼくがだいすきなんだ。
 ぼくは、にって笑った。
 ルーファンが、ため息をついた。
 ぼくは、両手をひろげて見せた。
 ほわほわ。
 ジーンズのホックなんてはずせないから、ルーファンは自分でやった。
 テンプラ。シイタケとニンジンは入っていないみたいだけど、できればナスビも入っていなきゃいいなと、ぼくは思いながら。キッチンにただよう匂いが、なんかとろーんとした白い色に思えて、タケノコをなにで煮たのか、あとでルーファンに訊こうとか。
 考えていたんだ。

Bambooshoot0

Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy
 Song 5
 『Raccoon's favorite thing.』

(吉秒匠
 BL料理哀歌
 5曲目
 『あらいぐまのすきなもの。』)

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Bambooshoot1

梅雨に入ろうというころ。
タケノコをもらった。
Bambooshoot。
英語で書くと○いっぱい。
もうとっちゃわないと限界だと思ってね。
と言ってビニール袋に入れてくれた。
もう日も暮れていた。
ごていねいにも、帰ったらすぐ水煮にしてよ、などと言う。
日頃から種だの苗だの売っていて、
おすすめのフライパンをすすめて、
梅酒の漬け方などレクチャーして、
バイクにオイルまで入れてあげたら話もはずみ、
めざとい農家のおばちゃんは、
薬指に指輪があるのに、毎日、晩ご飯を作っているらしい、
うちの旦那とは大違いな店員だと、私のことを認識していて、
なんの説明もなくタケノコとか、
帰って茹でろ、とくれるのだけれど。
そんなもん茹でたことねえよ、
などとは口が裂けても言えない。
ごめんね米ぬか持ってくるの忘れたけど。
そのセリフから推測するに、
どうやらタケノコ茹でるのにはぬかがいるらしい。
まるで私がぬか漬けも当たり前に作っているように、
おばちゃんは言うけれど、そんなものはうちにない。
持ってきてくれないと、帰っても茹でられないんじゃないの?
そこ大問題なんじゃないの?
もうスーパーも閉まる時間だよ?
思いつつ。
ありがとうと頭を下げて、
持って帰って調べようと心に決める。
こうやってタケノコの水煮が、
私のレパートリーに加わるわけだ。
ありがたいね。
それにしてもでかいなタケノコ。
もう育ちすぎじゃないのかと、
思いながら帰ってウェブ開いて。
茹でて皮を剥いたら小さくなった。
いつもながら新鮮な野菜というのはエロい。
白い裸体に毛皮のコートって感じ。
私の書棚にある古い『毛皮を着たヴィーナス』の文庫は、
まさにそういうタケノコな美女が表紙なのだけれど、
近ごろは文庫本の装幀もオシャレにシンプルなのが流行で。
生々しいイラストは減った気がする。
スーパーでパック入りの水煮しか見たことないって。
こういうふうに脱がしたことがないってことなんだ。
土をぬぐい、コートを脱がせ、ほんの小さな、
敏感で繊細な一部だけをいただくのです。
ちなみに、ぬかがなくても、
お米を入れて茹でたらアクは抜けました。
手間かけて食べられないもの食べる自分に恍惚する、
その知恵ってマゾッホの精神だよなと。
そういうこと感じたと、おばちゃんには報告できませんが。
愛でました。おいしかった。
天ぷらにしたんだ。
脱がしてまた着せてむしゃぶりつく。
料理って倒錯。

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 というわけで今回は。
 タケノコのテンプラを水煮から作るレシピ。
 リアルタイムに読んでいる人には季節はずれもはなはだしいですが。
 まあ、いつものことです。
 春が来たら読み返してください。

○材料

たけのこ 手にはいるだけ
白米 水の量にもよるでしょうが100グラムくらいか
赤唐辛子 3本
卵 1個
小麦粉 1カップ
揚げ油 適量

○作り方
 
①たけのこの土を落とし、鍋に入れ、たけのこがたっぷり浸かるくらい水を入れ、米と赤唐辛子を入れ、一時間ほど弱火で煮る。
②竹串が通るようになったら、そのまま一昼夜かけて冷ます。あら熱が取れたら冷蔵庫で。

(赤唐辛子は臭み消しだが、辛さが残ったりはしないので、多めに入れておくとよい。米は生で加えなくても、とぎ汁で充分なのかもしれないが、これも念押しのために現物を投入。むろん、とぎ汁にさらに米を足すのもありでしょう)

③皮を脱がす。白い柔肌になるまで剥ぐのです。たけのこの水煮、完成。

Bambooshoot2

④天ぷらにします。ほぐした生卵+きんきんに冷えた水=200ccにしてよく混ぜ、薄力粉を入れて、泡立て器で五回かき混ぜる。粉が残るくらい。まぜすぎないのがジャングルの掟。掟のなかへ良い感じに切ったたけのこをくぐらせ、180度の油で揚げて完成。

(我が家では鶏肉やじゃがいもを一緒に揚げましたが、シイタケやニンジンや魚介類のほうが和食っぽい感じはします。新鮮なたけのこはめんつゆなどでなく、粗塩と山椒をつけて日本酒でいただきたいものです。私はそれに一味唐辛子も必須なのですが。大根おろしなど添えてもいいですね。小説挿絵の天ぷらタケノコには分量外の大葉を巻いて揚げてあります)

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 料理ってほどの料理でもないが、美味い。
 なぜ天ぷらがほかの国ではなく、和の料理法として確立されたのかがよくわかる。つまるところ、これは料理法としては未完成の手法なのだ。本来、料理とは火を通さなければ食べられないものに火を通したり、それでも臭くて食えないものに香辛料をまぶしたりする、そういう技術なのだが。この国では、魚が目の前の海で獲れるし、野菜は土から引き抜いてすぐにかじれる。生で食えるものを、生で食わずにあえて遊ぶという手法。それが天ぷらであり、和の心であると、ほんと思う。いや、フライドチキンも美味いんだけどね。ほんのりあたたまっただけのタケノコの天ぷらも美味いと思える、この国の子でよかったよ。なんていうか、あえて遊んでみるっていう発想は、エロティックだし、エロにあふれているのは=平和ってことなんだと思う。分厚いコートが普段着の寒い国や、宗教上の理由で肌を出せない国なんかとは違って、この国ではビキニで海岸行っても風邪ひかないし逮捕もされないのに、結婚式場では十二ひとえが人気で新郎もそれに欲情できるなんて。スーツ姿のほうが萌えるとか、ニーソックスとスカートのあいだの絶対領域とか、いっそあらいぐまの着ぐるみなんて着てくれたらもだえ死んじまうかもとか。この国の人ってほとんどだれでも、まっぱなんてストレートすぎていっそ萎えるんだけどって感じじゃない? せめて靴下は残しておいてほしいよね。誇っていいエロ具合だよ、まじで。それとも私だけですか。ああそうですか(笑)。いいさ、私はこの感性を誇りにしているんだ。鎖骨が好きだから鎖骨は隠しておいてほしいんだよな……話が違ってきているな。やめよう。

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Yoshinogi Takumi
 Shonen-ai Cooking Elegy

4曲目『ピッツァみたいにぼくを食べてよ!!』
3曲目『クリスピー・プロ・フライドチキン』
2曲目『青くてカタいアボカドのパスタ』
1曲目『春餅/チュンピン』

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