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『ハロウィンとは銃殺の日』の話。



 ハロウィンが終わりまして、あの世とこの世をつなぐ扉も閉じたところで、カレンダーをめくれば、もう年の瀬。予定通りならば、今年の暮れは、もう三年あまり飢餓状態の続いているトレッキーどもにとってはたまらないスタートレック復活祭になるはずだったのが、昨年暮れからのハリウッド脚本家ストライキのおかげで映画『スタートレック11』が来年夏公開に延期。進化をこそ望む真のトレッキーにとって、TOS(日本でいう『宇宙大作戦』。耳の尖った有名人スポックの出てくる初期シリーズ)への回帰なんて、愚の骨頂のようにしか思われないのですが……スタートレックのテレビシリーズがコアなファン層を獲得したのは、その後のシリーズにおいて一話完結をかなぐり捨て、人間関係(種族関係)が理解できていないと混乱しきりの『ER』ばり大河スペースオペレッタと化してからのことなのですけれど、ドラマ視聴を前提とした映画作品は確かに数字をとれず、新シリーズにいっさい興味なく『宇宙大戦争』を懐かしむために劇場を訪れたグランマたちは「カーク様は? スポックのいないスタートレックって?」と金返せの大合唱。そして原点回帰をうたったテレビシリーズ『エンタープライズ』はどっちつかずに終わり(個人的な見解を言わせてもらえば、あのシリーズがスタートレックをダメにしたと思っています。未来を描かないスタートレックってなんだ?)、それ以降、テレビシリーズは凍結。

 これでは映画がヒットしたって、また新キャストで古いシリーズをトレースするだけになる。
 未来などどこにあるのか!
 スタートレックが描いたものは実現するという神話も今は昔。
 私たちは行きついてしまったのだろうか。
 過去をくり返せばファンが減少する一方だとなぜ気づかない。
 目先の動員数を追いかけるためにSF界の大物が先進性を失うなど。
 大物のはずなのにヒットが出なくなって過去の遺産を恥も外聞もなく叩き売りするどこかの音楽プロデューサーと同列です。

 いや。
 ダメになっていくスタートレックの話がしたいのではないのでした。

 ハロウィン。

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『ハロウィンとは?』のこと。

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 こういう、伝統ある行事なのだけれど。
 今年も、また、過去をトレースしたような、同種の事件が起こった。

 米南部サウスカロライナ州。

 そこにはひとりの男が住んでいた。
 22歳。
 クエンティン・パトリック。
 運の悪いことに、彼は昨年、押し入り強盗に襲われて、拳銃を突きつけられたあげくに撃たれている。その日からクエンティンは音に敏感になった。床をゴキブリが這う、かすかな音に反応して自動小銃を手に取ったことさえある……そう、クエンティンは、あの日から旧ソ連製の名器とマニアのあいだでも評価の高い自動小銃AK-47を自宅の、すぐ手に取れる場所に置きっぱなしにしている。ちなみにAK-47は、数秒の間に数百発を目標に叩き込み、戦車の装甲さえ破壊することのできる銃である。クエンティンは思っていた。

 おれの人生で、二度と撃たれることはない。
 なぜなら、おれがさきに撃つから。

 アメリカという国の、誇るべき国民性である。数万人死んだ。大量破壊兵器はなかった。でももしもあったなら大変なことになっていたのだから、先制攻撃は正しかった。これは虐殺ではない。それは虐殺ではない。クエンティンもこの戦争をそう思っただろうか。クエンティンはハロウィンの夜、自宅を訪ねてきた近所の12歳の少年ダリソーを撃った。ゴキブリの足音でさえ銃を構える彼である。なんであれ、人間の形をしたモノがあきらかにまっすぐに自宅に向かって近づいてくるのを、異界とこの世界とをつなぐ門から現れた、昨年自分を撃った悪魔の新しい一軍の先兵だと信じても、だれが非難できよう。12歳の少年は確かに、地獄の悪魔にしては小柄だし、イタズラかゴチソウかなどと叫んだりする悪魔というのも珍しいだろうが、昨年以来、曜日の感覚もなく、物音がするたびにAK-47を手に取っていたクエンティンが、のんきにハロウィンを祝おうとみじんでも考えていたとは思えず、だとすれば一年の緊張の果て、ついに振り返ればそこにゴキブリではない悪なるモノ……小さいにせよなんにせよ拳銃の引き金を引くための手と、クエンティンに近づいてくる両脚がある……

 クエンティンが、人影に30発ほど鉛玉を喰らわせたのは、虐殺ではない。
 クエンティンは、家のなかから撃った。
 自宅の窓ガラスも壁も、こっぱみじんになるが気にせずに。
 そんな場合ではなかったのだ。
 自宅に近づいてくる現実の悪魔がそこにいたのだから。
 あろうことか、悪魔はドアをノックさえしたのである。
 その手にさげているのがキャンディ・ポットであるなどとクエンティンが思うはずはない、そこには、未知の凶悪な兵器が握られているに決まっているのである。彼は引き金を引き、マニアのあいだで噂される、空腹でめまいを覚えているはずの旧ソ連兵が驚異の抵抗を見せたというその証左、AK-47は狙って撃つ一発は当たりづらくとも、窓ガラス越しに怯えたクエンティンが撃ってさえ、見事な弾丸ばらまき性能を具現し、数十発のうちの一発は12歳の少年ダリソーの頭部に着弾した。

 ばらまかれた弾丸の数発は、ダリソー少年の遠く背後にいた、父親と9歳の弟にも命中した。

 父親と弟は死ななかったが、ダリソー少年は逝った。
 おそらく最後にダリソー少年の聞いた言葉はこれだっただろう。

「さあ。ダリソー、クエンティン兄ちゃんにキャンディをもらいに行くんだ。いつもならこんな夜更けに他人の家を訪れるのはマナー違反だが、よくおぼえておくんだぞダリソー、これは、太古の昔から続く伝統的なお祭りなんだ。ハロウィンという、今夜は神聖な夜なんだよ。ほら、行っておいで」

 逝かなければ、ダリソーもまた、自分の子供たちに神聖なるハロウィンの行事を伝えたかも知れない。
 しかし、困ったことに、この世界の「他人の宇宙は計り知れない度」は、近年加速度的に増しているのである。
 私の知るハロウィンは、こうだ。

 1992年。
 米ルイジアナ州の高校に留学していた日本人16歳の少年ハットリが仮装パーティーに参加しようとして訪問先を間違え撃たれて死んだ。
 2000年
 39歳の俳優アンソニー・リーが、華やかな仮装パーティー会場で浮かれて、パトロール中の警官におもちゃの銃を向け、その場で射殺された。
 2008年
 米サウスカロライナ州サムター。
 12歳のダリソーが旧ソ連製の自動小銃で窓越しに三十発撃たれて死んだ。

 ハロウィンというのは、8年も経てばヒトは過去を忘れるという確認の日だ。
 日本人だから、有名俳優だから、子供だから。
 油断してはいけない。
 あなたは祝っていても、相手は怯えているのである。
 どんな神聖なお祭りでも浄化できない心の闇がこの世にはある。
 いまにも引き金にかけた指先が痙攣する。

 痛ましいことだ。
 そういえばアンソニー・リーが射殺された当時、日本の某女子アナが、知ったかな知識をひけらかし「あのドラマERに出ていた人ですよねえ」とコメントしたために、この国の『ER』フリークたちのあいだでは、だれなんだ? 黒人? だったらまさかベントン先生? いま死んだらシリーズ終わっちゃうじゃん! と恐慌状態に陥ったことが思い返される(実際には、アンソニー・リーは、米本国でもまだ未放送だった回の患者役としてキャスティングされていた)。
 あれから8年。

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『対戦オブリビオン』のこと。

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 またハロウィンで人が撃たれて死んだというニュースとともに、『ER』製作総指揮マイクル・クライトンの訃報も同時に流れたのは、ファンにとってやるせないことである。SF界の巨匠でもあったクライトン。公式サイトは接続エラーが頻発するほどアクセス集中。今年も終わっていく。いろんなヒトが死んだ。それを残された者が慰めあう行事のなかで、また人が人を撃って殺す。

 ハロウィンという行事は無くさないでほしい。
 死を愛でるなんてとても素敵なことだと思う。
 そして、今度こそ、だれも撃たれずに8回目のハロウィンを終えてほしい。
 そういう私だって、8年経って、だれかがまた撃たれたから思い出したんだ。
 まぬけなイキモノだ。
 どうにかして、もすこしお利口さんになれませんかね。

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「『ER』は、私がそこで働いていたとき、実際に私に起こったこと、もしくは私が見た、まさしく真実のエピソード群でした。 ただそれだけです……報告しただけ」


 マイクル・クライトン
マイクル・クライトン公式サイト

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 その物語に触れ、どれだけの人が正義や、自己犠牲や、愛、といったものについて考えたか。
 真実を、真実のままに、他人の心にすべり込ませた、それこそが作家の偉業。
 『アンドロメダ病原体』はいまやSFではない。
 彼の経験が描いた未来が、いまの真実だ。
 さあ、つぎを見よう。
 マイクル・クライトンのように。
 真実を真実のままに。
 予想される未来から目をそらさず。
 そこでもヒトは、ヒトを救うことはあっても撃つことはない。
 信じて描けば、それは真実になる。

 とりあえず、引き金から指を引きはがせ。
 たまたま昨年強盗にあった精神衰弱した男がハロウィンに近所の子の影に怯えてしまっただけだ。
 特別な、例外的な、事故だからニュースになる。
 だれもあなたを撃ったりはしないよ。
 不安が世界をおかしなほうに転がすのである。
 安心して。
 まず、なんじの隣人を愛せよ。

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クロムハーツ 通販  クロムハーツ 通販  2013/10/23 04:19
『とかげの月/徒然』 『ハロウィンとは銃殺の日』の話。