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『善良な男』のこと。

 クーンツ好きの友人からのメールで、某ちゃんねるに「D.R.クーンツについて語ろう」なるスレが立っていると聞きおよんで覗きに行ってみたら、はるかむかしに読んだクーンツ作品を「いま読んでいるがこれは」という人ばかりで、過疎ることもなく盛り上がっていたからうれしいのだけれど、いまさら『ファントム』について熱く語るとかいうのもワタクシ的には正直キツく、そこにいる全員が「古本屋で百円だったから買って読んだらおもしろかった」という流れなのはうれしかなしなことでした。
 新刊定価で買ってそれについて話そうよ、みんな。

 とはいえ、世界的には超売れているので販売権利はバカ高いが、日本ではモトとれるほど売れない、という理由からちいっとも新刊が出なかったこの数年のことを思えば、今年入って三冊目、巨大掲示板でもいまさら二十年前の作品を語られる、いよいよ世界的に超売れている、というその世界に日本も仲間入りする時期がきたのかな、という感じです。

 海外ドラマが視聴率とるようになったのは大きいと思う。
 SFファンが、世界的には超売れているXbox360で洋ゲーに触れて「トム・クランシー」とか日常的に口にするようになったのは大きいと思う。

Tom
Tom

 なによりネットで「世界でなにが売れているか」チェックできるようになった、この状況が十年前とだんぜん違うのが大きい。
 『善良な男』

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 『対決の刻』の話。

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 今年入っての三冊が、ぜんぶ別々の出版社からなので意図的にこうしたラインナップになったとは思えないが、それにしても『チックタック』のあとに『善良な男』はないと思う。構成まったくいっしょなんだもの。それがクーンツスタイルというやつだが、クーンツ自身は「これ書いたら次はこれ」とバランスよくばらけてるのに、波が来ているここで、立て続けにいわゆるジェットコースターミクストジャンルノベルのたぐいを撃つのは……『善良な男』の解説で、『チックタック』を訳したご本人がぼやいています。

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 本書を読み始めて、ぼくは強烈なデジャ・ヴを覚えた。自分で訳出したこともあるのだろうが、九六年刊の『チックタック』(扶桑社ミステリー文庫)を想起したのだ。


 風間賢二 (ディーンクーンツ『善良な男』解説『クーンツの人間観』)

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 いいえ、訳出したその作業が起こしたデジャ・ヴではありません。
 完璧に私も感じた。
 ほんとね、それを立て続けに読んじゃっているから。
 数十枚読んだところで、既視感炸裂。
 キャラまでかぶっているし。
 クーンツ自身は、二作のあいだを十年空けて書いているわけだから、まさかそれが極東の島国では半年のあいだに新刊として自身の棚に並べられようとは夢にも思わなかったでしょう……知ったら、ぜったい「そんなことしたらおれがそんなのしか書けないみたいじゃないか」と言うに決まっています。

 いや、比類なくおもしろいです。
 まさに職人芸。
 『ハズバンド』のときも書きましたが。

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 『ハズバンド』のこと。

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 まさしく私が師とあおぐ、その手腕。
 読んだあとになにひとつ残らない娯楽作。
 完全無欠の読み捨てられるためのペーパーバック。
 私は娯楽の王様はポルノだと思っているので。
 ポルノ出身で世界的ベストセラー作家にのしあがり、いまだその根幹に「くだらなさこそ最強」という自負を持つ、内容まとめたら原稿用紙五枚で書けるところを大長編にしてしまう、そしてそれでジェットコースターだという、読んだらとまらないという、そのスゴさ。
 大ファンの私にさえ「うわああ『善良な男』内容うすううう」とつぶやかせながら一気読みさせる、これこそクーンツ先生の醍醐味です。
 ジャイアント馬場のキックに新人たちがみずから当たりに行くのを「うはあああ馬場もう歩くことさえできねえよお」と思いながら大歓声で見つめていたのをなつかしく思います。

 ポルノ、すなわちヒトの官能に火をつけてナンボのジャンルにおいて、究極的な理想は、ストーリーを消し去っても成立する舞台を作り上げることでしょう。人気AV女優の作品はストーリーが早送りされるものですし、試合そのものに熱狂できるボクサーにマイクパフォーマンスなどいらない。
 クーンツのストーリー展開や物語のオチをうんぬんするのはイキではない。
 粋、大事です。
 読者の側のゆとりこそが求められます。
 ヤジを飛ばさないでください。
 踊り子にはお手を触れないように。
 そこに行けば現実を忘れられる、約束された悦楽がそこにはあるから、だからあたしはプロレスファンなのと精神科医の香山リカさんが言っていましたが、まさにそれこそ大衆のための娯楽の本道なわけで。吠えたぎる新人の意欲作とか、だれも変われと言っていないのに勝手に己の作家性に正直になって作風を変えてしまうベテランとか、涼宮ハルヒクローンとか、とりあえずスプラッターとか。そういうものばかりがあふれかえる娯楽小説の棚を通り過ぎて、縮小気味の翻訳小説の棚にクーンツの新刊があったときの安心感。クレジットカードから残額を減らすのに見合った時間が、確実に過ごせる、それでいて刺激的なお相手。あとくされなし。
 娯楽ってそういうもの。
 そこに酔えるかどうかどうかは、受けとる側の粋ヂカラの問題です。
 プロレスはバカだけが楽しむ娯楽ではない、バカでもたのしめる奥深さを兼ねそなえた最強の娯楽だと、言ったのはたぶん夢枕獏だったと記憶するが出典は定かではない(プロレスとは人生そのものであり、人生とはプロレスのごときものである、というのは確実に夢枕獏先生のお言葉だ。この言葉を想い出すたびに、少し涙ぐんでしまう……獏先生は、プロレスにブック(リング上のシナリオ)のあることを肯定している派。すなわちプロレスとは八百長であり、八百長であるからこそ計算されたドラマなのだから、そこに感動の顕れないはずはないという思想。ということはめぐりめぐってこういうことになる……人生というドラマにも嘘のあるほうが盛り上がる……深い(笑))。

 クーンツ語りだすと、いつもプロレスの話になってしまうんだけれど。
 たぶん、クーンツ好きな読書家って、アメリカンプロレスを許容できる観戦者だと思う。
 衝撃的で派手だけれどわざとらしくてお約束のドラマ。
 毎週決まった時間に開催してテレビ放送。
 声あげてください、ワクワクドキドキしてください。
 ときには怒ったり泣いたりしてください。
 最終的にはヒーローが勝ちますから安心して。
 経過として今週は悪が勝つこともありますが、それもすべて大団円のための布石です。
 今週の新人は元教師。
 来週の新チャンピオンは元いじめられっこ。
 最新作の主役は、善良な男。
 
 酒場で殺し屋と間違われて人生ドラマティック。
 ありえねえ?
 それが娯楽です。
 書いたのは娯楽小説界の生ける伝説と呼ばれる男です。
 安心して。
 あなたが心配していた彼の髪の生え際の後退も、もう心配いりません。
 ヴァンパイアレスラー役の彼の目が紅いのもコンタクトなので心配しないで。

 八百長であるかどうかは重要?
 内容の重厚さなんて必要?
 あなたの感情が揺さぶられる一夜が過ごせればそれが最高では?

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 近頃は誰もが自分の感情を理解しようと躍起になっている──そして結局、本物の感情を見つけることができない。


 ディーン・クーンツ 『善良な男』

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 好きなものは好き。
 理由なんてない。
 嘘でもいい。
 だからフィクションが好き。
 昂ぶらせてくれる小さな説が好き。
 口先だけでだましてほしい。
 だまして気持ちよくさせてみたい。
 この現実世界のほうが虚構に思えるくらいに上手に。
 ディーン・クーンツみたいに。

koontz  

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