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『スズムシ』の話。

「外国の方は鈴虫の音色を雑音だと感じるらしい」

 そういう話をとある方とメールしているなかで知った。その前に私が「外国には肩こりという言葉や概念がないらしい」という話をしたところからふくらんだ話であって、想像に難くないだろうがメールの相手は我が愛し尊敬すべき小説書きどものお一人であらせられる。筋力には自信のある男の私でさえ小説書く作業は念入りなストレッチを必要とするのだが、私の書く作品の傾向からお知り合いになるのは小説や漫画を書く女性のかたというのが多く、話してみるとそのほとんどの人が肩こりと腰痛と頭痛に悩んでいる。彼女に至っては吐き気までもよおすというから、それはもうなぜカラダをそんなにまでして飲むの? というアルカイックへの無駄な忠告と同様で、なぜそうまでして書かなければならないのかというのは、心がそれを求めるからだとカッコヨク答えるしかない。人の心とはかたくななものだ。

 で、鈴虫。勤め先でペットも売っているので、夏秋になるとカブトムシや鈴虫を売るわけで。客は制服さえ着ていればだれだろうと呼び止めて

「鈴虫一匹、急いでるのよっ」


(非常にそういう客は多いが、鈴虫をなぜ急いで買わなければならないのか、その状況は私の想像力ではいくつも思いつかない。あるとすれば……瀕死の息子がまだ生きていたころのおとうさんと一緒に飼っていたスズムシを母と二人暮らしになってから死なせてしまいもう一度買いたいと駄々をこねる息子にしかし母は「スズムシなんて羽根の鳴るゴキブリみたいだもの」気持ち悪いわとダメを出していてけれどいままさに最期のときを迎えようとする息子の「もう一度スズちゃんの声が」というつぶやきに彼が亡くした父との想い出をいかに大事に胸に抱いていたかに気づいて近所のスズムシを売っている店に駆け込み通りがかった店員をつかまえたのだがその男の動きはどうにも愚鈍で思わず声が出た……まあ、そういうことなら許すが)

 なんて。わらわらとそういう昆虫があふれかえっている水槽に「素手」をつっこんで一匹つまんできて紙箱に移すのですけれど……いや、私だってモト男の子ですから、カブトやクワガタはいいですよ。あいつら甲虫だから。いわば外骨格に守られた鎧武者。しかしスズムシは……手をつっこむと、まさしくわらわらと数百匹が群がってくるその感触。頼んだ客さえも「きゃあ、大丈夫なのおにいさんっ」と悲鳴あげていたりして、いや頼んだのはあなたでホラーなことになっているのは私の右腕なんですけれど、と苦笑いするしかなく。しかもやつら跳ねる虫だから。ひと夏に何度かは水槽から数匹が飛び出て店内をパニックにする。力を込めると虫の脚なんて簡単にもげるし。

 きっと広いお庭でガーデニングが当たり前の諸外国の皆様も、藪に手をつっこんでスズムシまみれになったことがあるのですよ。私も数年スズムシ売ったら、あの鳴き声聞くたびに右手に無数の脚が這い回る感触が蘇る体質になってしまいましたから。風流だねえ、なんてとてもとても。眉間にしわが寄ります。はかないから美しい音色……だからこそ、大挙すると本気でホラー。野良猫とか蛇とかの異常繁殖も怖いけれど、もっと小さく弱い、イナゴの大群とかヤドカリの大群とかいう自然現象は、悪寒に似たものを感じさせる怖さがあります。

 そういえば昔、ゴカイが街の道路を埋め尽くすほどあふれかえるというホラー映画があって。当時中学生だった私の釣り仲間が一人、その映画のせいで餌付けができなくなって一生川釣りできないカラダになったことが……愛でるのも心なら、嫌うのも心。

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