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『台湾旅行記・犬食レストラン』のこと。



taiwan

 かの有名なグァルティエロ・ヤコペッティの『世界残酷物語』に、台北の犬肉レストランというのが出てくる。ヤコペッティの残酷物語シリーズというのも『ジャンク 死と惨劇』同様、ホラーブームのさいに日本でも映画ファンの全員が観た、という作品なのだけれど(で、これも多くがヤラセだったというような事実があるのだが)、思いのほか、猟奇的な興奮をかきたてるものではなく、なんだか観ていてしんみりと考え込んでしまう内容が多いために、ホラーファンのあいだでは、あえて話題にすることはめったにない。

 で、むしろ、料理好きの友人などと話をしていて、中華料理における犬食文化を語るときに、そういえばあの映画に出てきたレストランの光景というのは、中華な人たちも純粋に美味くて犬喰ってるわけじゃないんじゃねえの、という論説の根拠として提示されたりする。

 その光景というのが、檻に入れた犬を、客が指さして選んでは、その場で調理された犬肉料理を喰って談笑する、というものなのですが。

 だって、それが魚ならなんともないわけだし、唐揚げ屋台で足もとをニワトリがかけずり回っていたって、それをおもしろがる人なんていないし、私は母の田舎が広島で、行くと隣の牛舎からモーモーと牛の鳴くのが聞こえているなかで、すき焼きを振る舞われたものだが、幼い頃にも、それを残酷だと思ったことはなかった。

 愛玩物をあえて閉じこめてある。そこが売り。昔の日本の遊郭とかも、いわゆるアメリカンなストリップ・バーで踊り子さんが鳥かごに入って踊っているのも、同じイメージですね、あの方式は欲が増すのです。牢屋の中の遊女。鳥かごの中の裸の美女。檻の中の食用の犬。三大欲ということで考えるなら、眠くてしかたのない人には、すなおに枕をさしだすよりも、鳥かごに入れてさしだせば、興が深いと悦んでいただけるかもしれない。

 わざわざ檻に入れて、そこから選んで、まだ選ばれていないが、もうすぐ喰われるであろう彼らを眺めながら食欲増進させて喰う……その方式は、遊郭もストリップ小屋も非日常であるから娯楽としてたのしめるというのと同じ、日々の三大欲の消化とは違う、日常でそんなバタフライつけた女と布団に入りたくはねえよというような、そういうニュアンスを感じる。わざわざ視覚にうったえる犬レストランなる商売が、真実大盛況だったなら、それは中華料理における犬食というものも、見た目重視のグロ趣味な娯楽要素の強い食文化なのではなかろうかと思ってしまうわけです。

 ……なんの話かともうしますと。
 台湾の犬。
 この黒い犬。

Taiwan20

 どこいってもいる。
 日本ではまったく見ない感じの、黒一色のかわいげのない犬なんですが、道路のまんなかで粗相をするし、通行人にはエサをねだるし、屋台村ではテーブルの下でまるまっていたりする。

 なんなんだ、なんでこんなにこいつらそこかしこにいっぱいいるんだよ、と考えていて、思い出したのです『世界残酷物語』。あの映画のそのシーンがヤラセかどうかは知らないが、檻に入っているのは、どれも、欧米諸国で高級ペット犬として飼われているような品種だった。やせっぽちで骨ばった黒い犬なんて、どこにもいなかった。いまとなっては事実はどうだったのか資料もないのですが、もしも本当に、大人気だったという台湾の犬レストランで、ふわっふわの毛の犬とか、引き締まった競走馬のような栗毛の犬などが、客に毎日のように指さされていたとしたら……

 かわいい子は、ぜんぶ喰われたんじゃないか、と。
 毎日のように、山で、町で、犬狩りがおこなわれていたのだとしたら。
 最後に残るのは、あの黒い犬のような気がする。
 いやむしろ、彼らは選んで進化したのかもしれない……スモッグけむる、コンクリートのジャングルで、白い鳥は淘汰され、黒いカラスが繁栄したように。

 犬食社会で、やつらはその道を選んだのではなかろうか。
 あれだけほかの犬種を圧倒して、どこいってもやつがいる、みたいに繁栄するのは、ぜったいになんらかの理由があると思うのです。

「そうか、お前はだからそんなにマズそうなのか……」

 勝手な自説を脳内で繰り広げて、もう一度ながめたら、本当にやつらはマズそうで、そんなふうに進化せざるをえなかったのかと考えれば、なんだか不憫になってきたのでした。
 いまでは台北に犬レストランはありません。でも、それは2003年に犬や猫を食べるために殺したり売ったりしちゃダメだと動物保護法が改正されたから(台湾のみ。中国にはそんな法はない)。ついこのあいだのことです。法律でわざわざ禁じるということは、やっぱりいまだって厳然と犬も猫も食べられているということ。世界標準の国になろうという馬英九新総統のもとで、おおっぴらな犬肉レストランはなくなったけれど、一般家庭ではこっそり食べられていること確実です。
 そう考えれば、日本におけるクジラ肉料理のように、獲るなと言われたから店が減った、だからといって冷蔵庫カラだからお父さん今日ちょっとクジラ獲ってくるわ、というわけにいかないのとは違い、今日食べるものがないけれど、そこに犬はいるわけで。

 だからやっぱり彼らは、そのマズそうな姿でこれからも繁栄を続けるのでしょう。
 いやまあ、私の勝手な推察なんですけど。

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