最近の記事

スポンサードリンク

月別アーカイブ

『台湾旅行記・奇天烈マスクをさがして』のこと。



 キテレツとは、
 ♪奇妙奇天烈摩訶不思議奇想天外四捨五入出前迅速落書無用の略だが、
 それはさておき、
 ♪矛盾の中で生きてる 、というような風景だったわけで。

 バイク仲間とメールで話していて、なんかこの季節になると走っていて空飛んでいる気になることがない? と問われたのだけれど、私にはそれがあまりぴんと来なくて、そうしたら彼女が、ほら背中から羽が生えたみたいな、と言うので、ますます私のなかでは違う感じになってしまった。
 私の書いた小説のなかに、背中に自分が殺したクリーチャー猛禽類の羽根を移植して天使になりきる少女、というキャラが出てくる。好戦的で、とても壊れていて、書いているうちに私は、その少女の羽根をもぎとることにした……どんなに願っても、ヒト型生命体では、背中にどれほど大きな羽根をつけたって、飛べはしない……だったら、その少女が真の意味で「飛ぶ」ためには、羽根をつけて飛んだ気になっているだけではダメなのだ。その羽根をなくしたとき、彼女は初めてなにか意味のある思考を見つけるだろう、見習い天使の世界から追い出された、絶望感のそのうちに。
 どうも私にとっては、背中の羽根というのは飛べない理由のように思えてしまう。
 と返信を書いたら、彼女が言った。

 そうね羽根というよりもナウシカの空飛ぶ機械みたいな感じ?

taiwan

 それには私も、激しく同意できた。
 世の中には、車に乗ると口が悪くなる人がいる。
 バイクに乗ると、公道でレースしたがる人がいる。
 かくいう私も、高速道路ではヘッドライトがミサイル発射装置になって、もしも私の妄想が現実化したなら、私の通ったあとは大破した車の残骸が転がる焼け野原だけが広がっているであろう、そういうドライバーだ。
 エンジンは、外部筋肉になりうる。
 ハインライン先生が描いたように、パワードスーツはヒトに力を与えると同時に、狂わせる。本当に強い人は優しい、という理屈は、自らで自らの肉体を鍛えあげたボクサーはその力がどんなに特別で強大なものかをわかっているから他人を破壊さえできるその力をみだりに発揮したりはしなくなる、ということであって。パワードスーツも、破壊兵器も、ウィルスも、一朝一夕に手に入れてしまった力では、ヒトは狂うだけだ。
 戦争をとめるための力がまた戦争を生む泥沼。

taiwan

 台湾は矛盾に満ちている。
 象徴的なことに、台湾にはバイクが多い。
 それも大型、中型の類はまったく見ない。
 総じて原動機付き自転車。
 正確には、小型自動車でなくエンジン付き自転車。
 本当に、自転車感覚の量である。
 けれど、走るのは車道なのだ。
 どういうことになるのかは、あきらかである。
 まともに車は走れない。
 地図を見ればわかるが、台湾はひとつの巨大な山であり、そのふもとの限られた平地で高度な都市が建造されている──限られた土地なので、ビルは高層化し、都市部の地価は跳ね上がる。その結果、なにが起こるかもあきらかである。

 台湾の都市に、駐車場はない。
 本当にない。
 ホテルにまで、ない。
 駐車場は、割に合わないのです。
 でも、人々には生活がある。
 現代都市で、徒歩の生活はつらい。
 あげく、どうなってしまったかといえば、駐車場所を取らない原動機自転車がおもな交通手段となり、子供から老人までバイク乗りになったのだった。
 とはいえ、バイクだって駐輪場所はいる。
 駐車場でさえ割に合わない都市で、駐輪場なんて当然だが、ない。
 で、どうなるか。

 台湾の半分は2サイクルエンジンでできている。

Taiwan14

 誇張でなく。
 すべての歩道の半分以上は、駐輪場所になっている。
 バイク乗りとしては信じられないことに、みんな、そのあたりに原付を停めては、ちょっとした買い物に行ったりする。カギをかけずに。まさに自転車感覚。もはやそれはひとり一台以上の当たり前の道具であり、それを盗むやからも存在しない。
 バイク天国だ。

 と、言えないことは、これもあきらかなことで。
 高層ビルが乱立する都市に、風はない。
 そこで走っているスクーターたちは、現代の日本で主流となっているような、燃焼効率の良い4サイクルエンジンを積んでいたりはしない。昭和の時代に主流だった、農機具の延長線上にある、黒煙ばらまく2サイクルエンジンである。
 台湾の都市に、空はない。 
 アトピーだのなんだの、神経質になった日本人には想像もできない、排気ガスの霧に覆われた車道を、黒煙まき散らしながら、途切れることのない原動機付き自転車の群れ。毎日の通学、通勤、買い物、生活のすべてがそれで動いている。
 今度のオリンピックで大気汚染のために中国に行きたがらない選手が大勢いるそうで、中国政府はオリンピック期間中の大規模な工事を全面停止すると発表したが、あの国も、台湾も(という書き方は政治的に微妙だが……)、あきらかに大気を汚しているのは工事よりも多すぎるヒトであり、彼らの消費する移動機械で油の燃えた結果だ。
 まして、台湾の都市は狭い。
 空なんてどこかへ消えてしまった。
 さすがに、肺が痛まないわけがない。

 移動のために普及したスクーターがとめどない渋滞を起こし、ヒトが生きられない大気を作り出す……でも、人々はそこで生きる。
 矛盾のなかで生きてる。
 矛盾に対抗するために、台湾の人々は、ある秘密兵器を装着している。

Taiwan3

 この『台湾旅行記』の初回で使った写真だが、先頭の男性の顔が黒いことにお気づきだろうか。ちょうど後ろを向いているために写っていないが、前の女性は顔がピンクである。バイクを運転する者にとってのそれは必需品。
 秘密アイテム『奇天烈マスク』!!!
 なにが奇天烈か。
 柄である。
 誇張ではない。
 台湾のバイク乗りの大半が顔に装着しているそのマスクに、白い色はいっさいなかった。
 日本の薬局に売っているような、使い捨てのマスクではないのだ。
 布製である。
 昭和の暴走族が着けていた、あれ。
 なぜだか奇天烈なことに、モノトーンなファッションのオシャレさんであっても、マスクはけばけばしいまでに込み入った柄入りなのである。
 市松模様とか多かった。
 まさに珍走団のおもむき(昭和の時代、奇天烈な格好で奇天烈なバイクを乗り回す暴走行為に従事する者を「珍走団」と呼べば、彼らが自らの珍妙さに気づいて行為を離脱するのではないかという運動が推進されていた。昭和豆知識)。
 一日、台湾で過ごした夜に、私は決意したのだった。

「おみやげに、あの奇天烈マスクを買って帰りたい」

 あくまでお土産に。
 自分で着ける勇気はない(笑)。
 しかしこれが、さがせどもさがせども、ない。
 コンビニにもスーパーにも、ない。
 失望しながら街を歩いていると、とある店が目に入った。

Taiwan13

「バイクショップだ!!」
 喜び勇んで店に入ったのだが、それは勘違いだった。
 その店には、ノートや消しゴムしかなかった。
 それも、サンリオのキャラクターものだったり。
 そう……この店構えで、ファンシーショップ。
 ヘルメットとグローブを前面に押し出す少女のための店。
 どれほどまでに台湾で原付が普及しているかがわかるというものである。
 だったらここに、ハローキティ柄の奇天烈マスクが売っていたかといえば、それはない……そりゃそうだ、正規ライセンスでディズニーや二十世紀フォックスが奇天烈マスクなど作っているわけがない……ひとつの疑念がわきあがる。

「奇天烈マスクは、手作りの品なのではないだろうか?」
 
 小学生の背負うナップサックがだいたいにおいてヘンな柄だったりするのは、子供の洗練されていない要求に、縫う父母が「まあナップサックだし」と受け入れてしまうからだったりする真実の法則にのっとって、台湾では「まあ奇天烈マスクだし」。毎日着けて、汚れたら捨てる品だし、適当に遊んでおこうとだれもが考えた結果、みんながみんな奇天烈な柄を着けることになってしまったのではなかろうかと。
 思ったそれは、たぶん真実。
 それくらい、奇天烈マスクは売っていない。

 でもなあ、ぞうきんだって、ナップサックも、基本は手縫いだけれど、街のどこにも売っていないってものじゃなかろうさ……どこかにあるだろう、どこかに……
 思いつつ、訪れた九份で、ひらめいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『台湾旅行記・非情なるジブリの町』のこと。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 偽たまごっちがあるなら、偽サンリオ商品とかもあるだろう。正規ライセンスではない、勝手に作った奇天烈マスクだってあるに違いない。そしてさがしたのです。しかし、やはりここにも売っていない……なぜ? こんなに道行くだれもが顔に装着している奇天烈マスクが、どこにも売っていないっておかしくない? もしや現地人だけの知る地下ショップや、パスワード必須のウェブ販売とか、そういうシロモノなのか、実はなにかしみこませてあるとか……

(台湾には、アジアの肉体労働者や運転手がむかしから愛用する檳榔(ビンロウ)なるものがある。街の薬局にそっと看板が出ていたりするのだが、台湾の道路にときどき赤い染みがあるのは、これを噛んだときに生じる唾液を愛用者が吐き出した跡だ。発ガン性があり、アルカロイドを含む。むろん依存性がある、噛みタバコのようなもの。台湾のタクシー運転手が、ときおり窓を開けて唾を吐くのは、くちゃくちゃやっているのがガムではなく唾液を飲んだら胃が荒れるビンロウで、その中毒者な証明である。覚醒作用があるので眠気が消えるのですね)

 中略。

 結果としては、夜市のやっぱりファンシーショップで、キャラものをひっそり売っていた。
 それを買って満足しました。
 結婚して新居に移って、ぬいぐるみで寝るところがないとなげく、スヌーピーコレクターの彼女に、だめ押しの、これ。

Taiwan15
 
 この画像いいのかなあ、たぶんダメだろうなあ、といいつつ、訴えられるまで載せておきますが(世界の特にアジアの片隅で知的財産が不法に侵害されている状況を明確に発信するための資料です)……ぜひ、花粉症対策などに使っていただきたいものです。コレクターとしては、どう考えてもパチもんなので、嬉しくないお土産かもしれませんけれど。
 綿100%ですよ、パチのくせに品質はうたっているのが涙ぐましい。

 ちなみにあとで調べて知ったが、台湾に原動機付き自転車の教習所というものは存在せず、原付の運転自体が、役所への個人申告だけなのだとか……独学で運転してんだよみんな……まさに自転車。そういうことなので、申告せずに無免許で乗っている人(多くは十代前半)もいっぱいいる。あれだけの数が走っていては、個別に取り締まることなど不可能だから、無免許も公然の秘密なんだな……四人乗りもとがめられないんだから。100cc越えるバイクがまったく見あたらないはずです、お父さんに教えてもらっただけで原付が乗れるのに、あえてバイクの免許取るやつなんていないよ。だいたい、スクーターで端から端まで走れちゃう島なんだから。
 まあ、日本も、ちょっと前まで、車の免許に大型バイクの免許ついてきていたんだものね。いまでは交通量が増えて、原付はともかくバイクを運転するのに高度な技術が必要となったから、専用の免許になったんだけれど。

 しかし、そう考えると、すでに台湾の都市は、技術なくして走れる交通量ではなくなっていると思うんですが……そのへんがお国柄というか、おおらかさだ。高速道路でのバイク二人乗りは解禁すべきか否か、なんて数年前まで日本ではやっていたわけだけれど、そもそも台湾の議会に、そういう議題自体が提出されることがないんだろう。問題が起きていないなら放置、現状維持。
 ……そうして、車の走れない原付地獄の道路ができあがったんだね。
 私には飽和状態に見えたが、まだまだ問題にはならないレベルってことか。
 
 奇天烈マスクごときで、健康が守れる大気ではないと思うが。
 アスベストは体に悪いとわかったのでいままで使ってきたけれどぜんぶ撤去しましょう、みたいな感じで、肺が痛くなってきたのでスクーターを捨てましょう、といっても、後戻りできないに違いない。
 台湾のその姿は、地球の行く末の縮図に見えた。
 観光が命の島なのに、街は排気ガスで真っ黒って……デリケートなスポーツ選手たちが「大気汚染NO!」とイヤな顔してオリンピックさえ辞退しかねない状況でいるのを見て、ちょっと考えたほうがいいと思います。
 慣れと、無知って怖い。
 デリケートな私の目に、奇天烈マスクは、物陰に隠れたら放射能から逃げられると信じて行動する『風が吹くとき』の老夫婦を想い出させました。
 台湾のほとんどは澄み切った自然なのに、急速に発展した狭い都市部で考えなしに増えていくヒトたちが、もはや樹の呼吸で元に戻せない毒を空にまく。
 空はつながってんだと、子供でも知っていることを。
 大人になると、なぜわかんなくなるんだか。

 いまでは立派な電車も走っているんだから、なにもみんなでバイク通勤することないと思うんだけれど……やっぱり免許はテストして与えるとか、ガソリンをウイスキーなみの値段にするとか、やったほうがいいと思う……みんな奇天烈マスクしてるってことは、ぜったい平気じゃないからなのに。

 手にした力に、滅ぼされてゆく。

taiwan


TRACKBACK http://yoshinogi.blog42.fc2.com/tb.php/190-7a13f4f2