最近の記事

スポンサードリンク

月別アーカイブ

『台湾旅行記・非情なるジブリの町』のこと。


Taiwan10

 学名: Ficus microcarpa L.f.
 通称: India Laurel Fig

 現地の漢字表記では「榕樹」。
 しかし日本人には、こちらの名のほうが通りがよいだろう。

「ガジュマルの木」

 真っ赤なカラダの少年の姿をした精霊、キジムナーが棲むと言われる霊木である。
 写真を撮ったのが夕暮れなので、台北市樹木保護自治条例によって保護された長い年月によって育まれし巨体の、のしかかってくるような巨大さは感じられても、細部は見にくいかもしれない。この樹木の最大の特徴は、近づいてみればよくわかる。

 気根、だ。
 日本語でも、気根。
 読んで字のごとく、大気に向かって生える根っ子のことである。
 土の中ではない、水の中でもない。
 大気のなかに大きく育ったその幹から、なぜか根が伸びる。
 そしてその根がみずからに巻きつき、からまり、年月を重ねて巨大化したその複雑怪奇な形状には、神々しいまでの自然のわけのわからなさが顕れて、太古の人がそこに精霊が宿っていると思いこんでも、なんら不思議はないと納得できる。

 ところで、空中に根の生える、まるで宙に育っているかのような巨大樹の姿に、この映画を連想する人は多いだろう。

taiwan

 『天空の城 ラピュタ』
 言わずと知れたスタジオジブリの傑作。
 実際、あの城を破壊するほどに巨大な樹木がガジュマルではないかという疑問はジブリ関係者に向けられたらしいが、そこは夢紡人たちよ、彼らはそのモデルがなんであるのか、明言は避けている。
 さすがは世界のジブリ。
 世界のディズニーも、プーさんはあくまでぬいぐるみであって本物のクマではないから、本当はハチミツさえ食べる必要はなくて、ほかの生き物(特にヒト)を捕食したりはしないのだと世界の子供たちを安心させているが、きっとジブリサイドも台湾の子供たちがいつかガジュマルが気根をのばし台北の高層ビル群を崩壊させてしまうのではないかと、怖れないように言葉を濁したのに違いない。

 そんな気ぃつかい……もとい気配り上手なジブリでさえ、その階段にかんしては、そこがモデルだとはっきり認めたという……
「九份」。
 台湾読みではジウフェン(Jiufen)だが、現地のみやげもの屋のヒトも「キューフン」と言っていたので、そっちでいいんだと思う。だいたいにして、その街そのものが、観光客を中心にしてまわっている。観光客に日本人が多く、その日本人がそこをキューフンと呼ぶのなら、彼らの街の名はキューフンなのだ。

 なぜ日本人が多いか。
 それはその町並みが、はっきりとジブリの認めた『千と千尋の神隠し』のモデルだからである。ていうか、別にジブリが認めなくても、トレースしたように同じ風景が出てくるので、映画を観た記憶の残っている人なら、訪れればすぐにわかる。

taiwan

 風景の写真などは、もうどこを撮ってもなんだか赤みがかった写真からもあったかいようなすっぱい匂いが漂ってくるようなものに勝手になってしまって、被写体の持つ力が撮影者の意図を凌駕してしまうため、だれが撮っても「これぞ九份」というものになる。
 というわけでWikipedia『九份』を読んで、その写真と文章から受けた印象が、まさにそのまま九份の町そのものです。

 ちゃんと店構えがあるのに、屋台街のよう。
 でも郵便局がある。
 そこは人の住む町なのである。

 寂れた金鉱という、あまりにもありがちな事情によって廃墟となりかけた、山の斜面を切り崩して作られた階段と坂しかない町が、二十世紀も終わりかけたころになって、土産物屋だけで構成される稀代の観光名所として息を吹き返したのには、映画の力があった。
 むろん、その後の『千と千尋』の貢献も大きい。
 けれどやはり九份は、『悲情城市』の町である。
 いや、こう言っていいだろう。
 トニー・レオンの町である。
 あの寂しげな瞳のアジアの綺羅星の町だ。
 いまでも、その町には『千と千尋』ではなく『悲情城市』のポスターがそこらじゅうに貼ってある。
 町の人々にとって、それは、九份を救った、いまの九份を作った、創造主ともいえる作品なのだ。

 しかし、観光客のほとんどが、もう『悲情城市』のことを知らない。
 その日も、多くの観光客が九份を訪れていたし、私も頼まれて何組かのカップルが、並んだ姿にシャッターを押した。山の斜面に急勾配の町……景色はいい。笑顔の恋人たちが、台湾の広大で雄大な山々の前で、並んで笑ってた。
 いまでは、タマゴとヒヨコが逆転している。
 映画を観て、集まった人々のために、廃墟を改装して次々に店を開いたのが、いまでは映画を観たことのない観光客に、他で類を見ない密集した土産物屋町としてたのしまれている。

 いや、私も『悲情城市』の公開当時は十代もなかばだった。
 台湾の政治になど興味はないし、その後観た『悲情城市』についても、内容をはっきり理解できたわけではない。そもそもがわかりにくい映画だし、日本に占領されていた地の人々が自分たちの国である中華民国を立ち上げるという内容は、血の気の多いガキが、神妙に見つめておもしろいものではない。だいたいにおいてその当時、映画に出てくる日本人は、総じて悪役になりつつあった。フィクションでさえそうなのに、そのうえ、ヒールとしての歴史的事実を、自ら好んで摂取したがるほど、私も鈍感ではなかった。
 けれども、私は『悲情城市』を観たことを忘れなかった。
 そしてそののちも、いくどか観た。
 
 ヴェネチア国際映画祭、金獅子賞の受賞作である。
 暗い映画だ。
 立ち上がって拍手したくなる内容ではない。
 でも、観た夜に、想い出すのだ。
 トニー・レオンを。

 私も、そうだった。
 香港映画のトニー・レオンを追って『悲情城市』を観たのである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 『人々は恋に落ちる』の話。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして、スタイリッシュな映画のなかにはいない、彼を見た。
 ただ魅力的なのとは違う、演技という専門技術で、観客の心をねじり回す……それも瞳の表情ひとつで……役者としての、力量の高さを見せつけられ、魅せられた。
 アジアの気高さ。
 アジアの美しさ。
 土産物屋の建ち並ぶ、偽たまごっちや、パチもんのプリキュアグッズや、つくね団子汁の湯気と、メイドインチャイナと刻印された台湾土産たちの洪水なのに、なぜだか、うら寂しい。
 抱きしめたくなる愛くるしさが、九份にはある。
 けばけばしいのは、哀しみを隠すための化粧。
 とてもとても小さな町。
 すこしだけ町の中心をはずれたら、自然だけがある。
 『千と千尋』も、その世界観にのっかったんだろう。
 そこには強烈な色とキャラクターが詰まっているのに、そこは「人々が訪れる場所」で、郵便局はあるけれど、ホテルはない。午後のひとときを、歩いて、なんかつぶつぶのはいった杏仁豆腐の味のドリンクを飲まされたり、十年くらい売れていない大人のオモチャなのか健全なヴァイブレータなのかわからない電動装置が試用した観光客の手垢にまみれていよいよ売れるはずのない姿になっているのを見たり、魚丸という名のそこら中で売っているつくね団子を食ったり、そういうことをしながら迷子にならないように手をつないでおこうとおじいちゃんとおばあちゃんがい歩きにくい石畳に苦戦していたりするのをこっちも手をつなぎながら眺めて微笑ましくなったりする、そういう場所だ。
 そういうだけの場所。
 そこからの広がりはない、観光地の最果て。
 町のふもとの、道路に面した食堂は、閑散としていた。
 観光客は歩きながらすべてを食す。
 町の住人は、魚丸汁に飽き飽きしているが、どこかほかの土地に行くこともあきらめて、今日も魚丸をまるめているのだから、食堂になど来ない。
 まさに、それは映画でも撮りたくなる風景だった。

Taiwan11

「コメに謝れ!!」
 と、ガイジンの頭を皿のライスに叩き込みながら叫ぶ『男たちの挽歌2』のチョウ・ユンファが、いますぐこの食堂で暴れて欲しい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 『チョウ・ユンファが好き』のこと。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あの食堂を想い出してしまったのである……ガイジンの世界で、ガイジン相手に商売しながら、自分たちの誇りとはなんであるか、自分たちでもあやふやになってきて、だからふとしたきっかけで、孤独なアジアが叫ぶ姿。
 それでもおれたちはこのおれたちの居場所で生きているのだ、と。
 古びた「魚丸」の看板に思う。
 屋台では「牛角」と書かれたクロワッサン(牛の角に似ているからだろうね、信じがたいネーミングセンス)が大流行りであった。でも売れなくたって九份に魚丸は必要で、だれもがもう忘れていても『悲情城市』のポスターが必要なのである。
 それは、叫びなのだから。

Taiwan12

 ……とかいいながら、女性陣のためのお土産に、九份でチャイナ服のカードケースをいくつか買いました……口紅ケースやナプキンケースも同じシリーズであったのだが、あんまり生々しいしねぇ。ていうか、チャイナドレスは台湾で一時期大流行して、それ以来、仕立て屋や、こんな小物にまでデザインが使われるようになったらしいのだけれど。それって独立を叫びながらも文化交流は望んでやまない、いまの台湾の政治そのままだなと思ったり。
 日本のマンガ読んで、中国の服着て、昔ながらの魚丸団子売ってみる。
 台湾の歴史を描いた台湾の映画に出ていた香港のスターのおかげで中国からの観光客で一儲け、それが忘れられたころ、日本のアニメ映画で一儲け。
 そういうしたたかさが、台湾の良いところだと、実に実に。

 台湾行くなら『悲情城市』はぜひ観ておいたほうがいい。
 と、すすめてみよう。

taiwan


 

TRACKBACK http://yoshinogi.blog42.fc2.com/tb.php/189-dce74a79