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『台湾旅行記・担仔麺と生き人形の夜』のこと。



 台湾料理ってなんですかと台湾の人に尋ねたら、なんだろうねえと首をかしげるので、だったら台湾料理を食べたければどこに行けばいいですかと台北のホテルマンに尋ねたら、この店だと断言された。

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 『好記(ハウチイ)』公式サイト

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 有名な店らしい。
 「五星級便所」と看板に書いてある。
 便所……うーん、日本人の感覚では、くいもんやにその称号はなんだかだが、同じく中文でホテルは「飯店」と書くように、きっと宿屋はメシ屋でメシ屋は便所ってことなんだろう即物的だなあ、と感心していましたら、実は本当にトイレが五つ星級の店だった。

 で、看板には、もっと大きく別の称号も書かれていた。

 「毎天賣出2000椀的鮮湯擔仔麵 只賣35元」 

 擔仔麵(表示されていますか? 日本語表記だと「担仔麺」と書く)というのは、台湾だとターアーミーと呼ぶようだが、日本でも名古屋あたりで台湾ラーメンなどと呼ばれる同種のスープ麺が存在するらしい。エビ出汁、肉そぼろと、もやしのトッピング、味噌味でピリ辛。あっさり風味の担々麺的な細茹で麺の椀である。
 ちなみに台湾の露天で「$」とか「元」とか書いてあるのは、ぜんぶ同じ単位で「ニュー台湾ドル(TWD)」のこと。本日08年エイプリルフールのレートでは、日本円3.79円がTWD1$なので、ターアーミー1杯が、今日は約140円で食べられることになる。

 と、いうわけで、様々な国からやってきた貧乏バックパッカーどもが、台湾料理の代表的名店なのになんてリーズナブルと集まってくるのだろう。餃子一日100まんこのノリで、そこまでうたうなら今日も2000杯作らせようじゃないか、私も食べようじゃないかと、ターアーミーをお約束として注文したら。
 やたら早口のおばちゃんが、突然にカタコトの日本語を喋った。

「ちっちゃいよターアーミー、ちっちゃいね」

 この店、道路に面して思い切りオープンな造りで、店に入る前に店頭でプラモデルの料理見本を指さして一通りの注文を済ませてから席に案内される。きっとおばちゃん、台湾ラーメンの名店にやってきた日本人がそれだけ頼んで席に着き、運ばれてきた椀の小ささを見て激昂するのに、何度もつきあわされてきたのに違いない。
 心配するな、私は喰うよ。
 というのも、夜市に行ったはよいものの、台湾の屋台ときたら恐ろしく杏仁豆腐の甘ったるい匂いに満ちていて、やたらイノシシ肉と血のカタマリみたいな料理(?)が多く、日本人目当てなのか、驚くことに屋台で生魚のにぎり寿司まで売っていた。
 はっきり言って、屋台でなにか食う気にはなれないのである。
 そもそも、生水にも気をつけろという国だ。
 胃腸のデリケートな日本人には見るからにキツそうだったもので、めっきり歩き疲れるばかりで非常に空腹なのだった。
(それでも、肉まん的なまんじゅうをいくつか食べたんだが……きちんと包装されていない肉汁これでもかな小籠包を歩きながら食うと、どうなるか。帰国後、三回洗濯したが、お気に入りのTシャツには肉汁油染みが残ったままである。いかにもぶしゅう、と胸にたらしましたという染みなので、とうてい着ることができん。たいていの油染みは60度のお湯で洗うと溶けると言われるが、イノシシ肉汁は強敵だ)

 で、腹を空かせていた私がおもむろに数皿選び出すと、また日本語の単語を連発。

「これ、これ、同じ、ノー」
「なに? いや、これと、これ。ぜんぜん違う料理やん」
「これ、これ、同じ」
「ノー、これ、これ」
「同じ、トリ」

 ……なんなんだよ。
 鶏肉好きなんだよ。
 強行に注文を通してやった。
 わかってる、お気遣いありがとう、ちゃんとそちら自慢の海鮮も食べますよ、とアピールして見せたら、またまくし立てる。

「やさい、やさい」

 ……きみはボクのおばあちゃんか。
 野菜料理も一皿頼めということらしい。
 とはいえ、生野菜のサラダなんかはない。
 台湾のどこの店に行ってもこれでもかと出てくる、ほうれん草のニンニク炒めをおばちゃんは指さしている。
 んじゃまあそれで。
 ていうか、このほうれん草炒めが実は台湾の代表的料理なのではないだろうか。
 昼に食った小籠包の店でも、小籠包しか頼んでいないのにつきあわせで出てきた。
 実際、美味いので良いのですが。

 ようやく注文を終えて席に着き、ビールを頼む。
 これもどこに行ってもビール頼めば聞き返されもせずに出てくる、台湾ビール。
 台湾ビールには、ゴールドタイプもあると聞くが、いつも訊ねられもせずにこれが出てくるので、わざわざこっちじゃなくてと言いなおすこともせずに、結局こればかり飲んでいた。
 油っこい料理に最適な、発泡酒のようにライトなビールです。
 これ自体を味わって飲むようなものではなく、まさしく水代わり。

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 まったくアルコールがダメな妻がソフトドリンクを欲しいと言う。水は出てこない。出されても、水道水は避けたほうが良いと言われる国で、素直に出されたグラスの水を飲むこともできないし。さっきのおばちゃんをつかまえて、ドリンクのメニューを見せろと言うと、おばちゃんは長文になると日本語がわからないようで、しかも英語はもっとわからないため、意思の疎通が、はかれない……きっと、ここで諦めて喉渇きながらもなにも頼めず食う人も多いのだろうなと思っていたら、なんだか店の奥、あの五つ星便所のほうから、小綺麗なスーツ姿の女性が現れた。

「もうしわけありません、なにかご入り用ですか?」

 完璧な日本語である。
 あれ、この人どこかで……
 ああ、店の柱にべたべたと貼ってある写真のなかで、いろんなヒトに肩を抱かれている女性ではないですか。
 冒頭リンクの公式サイトでも
「トップページ > 好記圖庫 > 日本明星」
 で、この店を訪れた日本の明星たちの写真を見ることができます。が……いまはいずこの細木数子以外の明星たちがだれなのか、かいもくもってわかりません(笑)。
 ともあれ、このお方はこちらの巨大店のエライ人に間違いない。

 なるほどねえ、こうやって毎日店に顔を出して、気さくに客に話しかけるからこそ、香港スターたちとも並んで写真が撮れるのですな。じきじきにソフトドリンクの注文を受けてくれた。接客は笑顔だ。
 余談だが、台湾の店員はどこ行っても無愛想である。
 料理屋にいたっては、なにか訊くたびに「あ?」とまんまるく口を開けて返される。外国人向けに萌えウェイトレス衣装を着けさせられたカフェの店員までそうなのだ。日本のメディアにこれだけ触れていて(ホテルのケーブルテレビでは獣神サンダーライガーとケンドー・カ・シンが闘っていた。朝はNHKを見られるし、夜はバリバリバリューを見た)、なぜとりあえず笑顔のタレント性が身につかないのか、実に不思議。

 さて肝心の料理ですが、まったくもって美味し。
 料理の写真は公式サイトのほうで見ていただくとして(と書いてからサイトをチェックしてみて気づいたが、これ、プラモデルを撮ってるな……なに考えているんだ、実際の料理はやけどするほどアツアツで、湯気もうもうです。なんてセンスのない公式サイトだろう…….twのウェブ文化、まだまだ.jpには追いついていませんね、どこのページも妙に重いし。魅力がつたわらない)、なんのかんの言って肉や魚が美味ければどうやったって美味いのだ。台湾料理と言われて、現地人が首をかしげるのもよくわかる。基本、石焼きであり、鉄板炒めであり、蒸すだけ。素材ありきの中華の基本なのである。名店においてさえ、屋台料理の延長線上にある。でもやっぱりガイドブックにちゃんと載っている店のほうがいい。

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 向こうの屋台が日本の屋台となにが違うといって、発電機のうるさい爆音が皆無ですから。素材が命だが、屋台で冷蔵庫を使うという発想はない。時節柄、呼び込みの兄ちゃんたちが、

「ここ台湾ね、中国ちがう毒餃子ないねー」

 と笑顔で連発しているわけだが、その屋台には普通に殺虫剤の缶が置いてあるのだな、これが(笑)。
 担仔麺は事実、これでおなかいっぱいになろうと思えば十杯は喰えるという感じです。名物料理だというけれど、ほとんど、ごはんのついでに出てくる味噌汁感覚。ほぼ全員が一杯は喰うから、そりゃ2000杯もダテではない。

 現地に駐在している外国人たちは、カバンからミネラルウォーター出したりしていました。店の人も別になにも言わない。経営方針も屋台の延長なのだな。
 そんななかに、日本人の現地ビジネスマンらしき一団がいて。
 聞き耳を立てていると、接待相手を店の奥まった、あの五つ星便所のほうに連れて行っては、カメラのフラッシュを光らせている。なにあのふしぎ行動? と見ていたら、なにやら戻ってきた人たちが妙に神妙な顔。
 この店、どんなガイドブックを開いても間違いなく載っている有名店なのだけれど、なんらかのアトラクションが行われているというような記述はいっさい目にしない。まさか、あの五つ星便所になんらかの秘密が……もしかして、北米のハードボイルド小説ではよく記述される、バーのトイレにコイン数枚で「処理」してくれる美女がいるとかそういうような……ふあ! まさか「五星便所」とはそういう隠語なのか、戦後の日本がそうであったような闇歴史がいまここに……で、五つ星便所に、実際的なビールの飲み過ぎで足を運びつつ、彼らがなにを取り囲んでいるのか覗き込んでみますと……ふあ!!

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 なんなんだろう、彼は。
 完全に、現地ではこの店の象徴のようにみなが写真を撮っては手を合わせているのだけれど、どのガイドブックでもまったく言及されていない、店側もまったく目立たない場所に隠すように置いている、だけれどもあまりにインパクトのありすぎる、この生き人形は……

 守護天使、か。
 どれほど位の高い僧なのかしらないが、モデラーも、こんなじいさんの毛穴まで再現する仕事をよくもやったものだ……体長20センチ、ガラスケースで堅牢に守られている。どのガイドブックも触れないのは、目の前にしてもまったくこれがなんであるのか不明であり、そのくせ、あきらかな超絶技巧によって製作されているという事実から、ひとつの言葉が頭に浮かぶからだろう。
 触らぬ神にたたりなし。

 というわけでホテルに帰り、寄り道したコンビニで買ったウイスキーのつまみのビーフジャーキーのつもりだったものが、じつはこれもイノシシ肉であったことに気づきながら、駄菓子屋のあんず味の本当に肉なのか疑わしいながらもタンツー麺の二倍以上の値段がするジャンクフードを咀嚼しつつ。

Taiwan9

 料理よりも、生き人形の無表情が頭に残っていた。
 目を閉じた姿なら神々しいのに。
 なぜ見る者を凝視する、そんなホラーな造形にしたのかが、まったくもって謎。
 それはともかく教訓。
 Tシャツは汚れてもいいものを着ること。
 夜市の肉汁染みに続き、石焼きエビの蒸気、担仔麺の赤い飛沫……
 洗うのも面倒くさい。
 捨てられるシャツ着てくりゃよかったと、本気で思った夜なのでした。
 台湾の厨房で働くのって、痩せるだろうなあ……
 台湾人はある意味、蒸気で動いているのですね。
 髪の毛までエビの匂いがする。
 新婚旅行には向かない国だな……

 おみやげに、からすみとXO醤を買ったから、
みんなこんどウチに遊びに来たときに食いませい。
  

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