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『台湾旅行記・忠烈祠で笑みを見た』のこと。





 旗を振ったかいがあったというものです(笑)。
 馬英九新総統の誕生です。

 中華民国の新総統?
 いや、台湾の新総統とお呼びしたほうがよいのでしょう。
 中国、中華ではなく台湾だというのは、独立思想のようにあつかわれてきたのだけれど、馬英九の言動によって、その思想はなんだかものすごくやわらかなものに変わってしまった。
 中華でなく台湾だけど、だからこそぼくらは自由だ放っておいて。
 台湾は、ますます独自の思想を補強して、他に類を見ない道を歩んでいくことでしょう……日本も、世界に誇る独自路線の平和国と呼ばれる……呼ばれていた。それは、他国に滅ぼされかけた経験を持つ、島国だからこその発想だとも言える。

 隣の強国に、攻め入られれば逃げる場所などない。
 だからといって、広大な土地と多くの国民を有する国々と、真っ向から戦って圧されないだけの軍隊を持とうと思えば、国土のほとんどを軍事基地にでもするか……兵士の体細胞に悪影響のあるビーム兵器を搭載したヒト型ロボを覚悟して操縦するか、地球を死の星に変えられる兵器を持つしかなくなる。

 かつての台湾総統選のさい、中国はあまりに露骨な武力誇示をしてみせた。
 中国からの独立をそんなに大声で叫ぶなら、こっちも黙ってはいないぞよと、脅しをかけたのである。あわや戦争突入かということで日本の軍隊……もとい平和国家の自衛隊も、戦争になっちゃったらどうしようかぼくら戦争したことがないのにと大あわてだったと聞くのですが。
 今回も、日本の自衛隊はウチの近所でなにか起こって巻き込まれて大変とピリピリしていたものの、ふたを開けてみれば、選挙中も終わっても、中国が台湾を威嚇するような出来事はいっさいなく、馬新総統(就任は五月)は、しごく平和に万歳と叫んでいたのでした。

 それもそのはず。
 いまだに国防費を二桁成長させ続ける中国に対し、台湾は、年々、軍隊を縮小させている。いまではもう、あっちが本気になれば、どうやったって勝てやしない腕力の差ができあがっているのですもの。
 小指で倒せる相手がなにを叫んでいたって、強い者は本気になったりしない。
 それは信頼ではなく、勇気の問題。

 日本も、いまだってそうであるはずなんだ。
 戦わない。
 攻められたら滅びる。
 でも軍隊はいらない。
 ミサイル買うお金があったら、この狭い島国でつつましく生きる民衆の、毎日がちょっとでも幸せになることに使うほうがいい。

 馬英九が国民に選ばれた。
 民衆のほとんどは、たぶん彼がカッコイイから選んだのである。
 それでいい気がする。
 台湾も、きっと徴兵制なんてなくなる方向に進むんだろう。
 それを「国が弱くなる」なんていうのは、バカな理屈だ。
 世界が平和でありますように。
 世界中のミサイルをなくすには、どこかの国が。
 軍隊を捨てる勇気を持たなくちゃ。
 
 というわけで。
 台湾に行ったら、これは見とかなければと数年前まで言われていた、でっかい建物は、いまではあんまりおもしろくもない寂れた場所になっていました。

 中正紀念堂。

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 『中正紀念堂(台湾民主紀念館)』公式サイト

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 偉大なる蒋介石の銅像も、以前は衛兵たちが守りをかためていたそうですが、いまでは本当にただの記念館。広い公園のなかの片隅に鎮座まします巨大な銅像……ある意味、大仏像のような神の位に昇華したともとれますが、強制的な徴兵制によって構成される現在の軍が、蒋介石の像を守るのをやめた、というのは台湾のなかでも賛否両論な人物であるのだなあ、と感じさせます。中華民国の祖であり不世出のリーダー……けれど言い方を変えれば独裁者、そこに辿り着くまでにはテロリストとも呼ばれていた。

 旧日本軍の軍人墓地などは、次々に整備されていまでは市民の憩う大公園になっている。台北を歩いていると、一等地にやたらと公園があったり、おそろしく古い民家がそのまま残っていったりするのだけれど、それもぜんぶ、昔は日本の持ち物で、いまは台湾政府の持ち物になったがために、民間企業は手を出せない禁忌の土地。とにかく狭い島国、しかも中央部はぜんぶ山。海に沿ってある平地を有効利用するために、マンションは数十階建てが当たり前。なのに一坪数百万の台北の駅前に、公園とか、だれも住んでいない平屋の民家とかが、ぽつんとあったりする。

 壊され、作りなおされてゆく中正紀念堂を眺めていると。
 そうやって歴史の刺々しさは、まるまっていくのだなあ、と思う。台湾は、まだまだトゲトゲした部分が残っているが、いつか日本のように、残った記憶も失われ、過去のことを知らない世代の国になってゆく。良かれ悪しかれ、すべてのものごとは時間が解決するし、時間でしか解決できないものなんだ。

 ところで、毎日、日本の大工さんたちに資材を売る仕事をしている私の目から見て、国の重要建築物をお色直ししている工事のレベルが低いことには驚いた。中正紀念堂に限らず、街中で行われているビル工事なんかも、総じて足場が歪んで組んであるし、番線の巻きはゆるいし、職人は工具をちゃんと腰に固定していない……なんか国民性なんだろうな……やたらバイクと車の接触事故を目にするのと同じで、ハッカー落として通行人の脳天に穴が開いたら、開いたときに考えるんだろう。
 ま、そうでなくちゃミサイルは捨てられない。
 ビバ、脳天気。

 ところで、中正紀念堂がなんの工事をしているかといえば、2007年5月19日台湾民主紀念館と改名されたことにともなって、いろんなことを変えているのがまだ続いているのであった。ていうか、2007年6月7日には台湾民主紀念館から、再び中正紀念堂の正式名称に戻されているのだが、いまでも看板はかけかえられた台湾民主紀念館であり、公式サイトもこの名称。馬総統の誕生で、たぶん中正の名にはもう戻らないと思われるが、正式名称はやっぱり中正紀念堂なのである。
 ややこしい。
 とはいえ、台湾民主紀念館になったことで、巨大蒋介石が消えたわけではなく、ではなぜ今年のガイドブックでは台湾民主紀念館もしくは中正紀念堂(重ね重ね、ややこしい)がイチオシされていないのかといえば、ひとえに中正時代には毎日おこなわれていたイベントが、いまでは行われていないからである。
 台湾民主紀念館に名称変更したさい、蒋介石像を守る衛兵はいなくなった。
 それゆえ、衛兵交代式も当然、廃止されたのでした。
 門番の交代がなんのイベントだって?

 さて、それではと。
 今年からは台湾で唯一、そのイベントが見られる場所に足を運んだのでした。

 忠烈祠(ツォンレイツー)。

 こちらは銅像も並ぶものの、建前は特定のだれかを悼むような場所ではなく、戦没者供養のための施設。亡くなった兵士たちの位牌が並び、衛兵たちはそれを守っているのです。
 のです、が。
 もちろん、その位牌を奪いに来る何者かがいるわけもなく、ではなんのために門番が必要なのかといえば……なんのためなんでしょう? 観光客向けのショーなんでしょうか。あとで調べてみると、軍隊のなかで、この衛兵に選ばれることがひとつのステータスなのだそうです。身長制限もあり、陸海空のエリートだけが、戦没者たちを守り、観光客と並んで写真を撮られるのです。確かに、毎日のように数百、数千の外国人が、彼らと並んで写真を撮って帰るわけですから、台湾軍隊の広報部としても、ブサイクなのは置いておけないというわけで、積極的に選りすぐりを前に出すという作戦なのだと思います。

 彼らは、一時間、一糸乱れず、立っている。
 動きません。
 隣に行って勝手に写真撮るのはありです。
 でも触ったら怒られます。
 見るからに若い男の子たち……軍のエリートというわりに、プロレスマニアな私の目では、軍服の下の筋肉は、それほど実際的な戦闘筋肉ではありません。どちらかというと頭脳労働のほうが得意そうな、でも背だけは高いエリートくんたちが、身じろぎせずに立ち続けます。まわりには、外人どもが山ほどいる。つまるところ、それはきれいな男の子を選んで受けさせる精神修養なのです。
 なかには、精神力の弱いコもいる。
 キョドって、目が泳いでいるボクがいました。
 日本人も、金髪サンも、黒人も、くすくす笑って、じっとしていなくちゃいけないのにフラフラする彼を凝視してプレッシャーを与えます……つまりそういうイベントなのです(笑)。

Taiwan5

 そして一時間ごとに、大門と大殿の守護が入れ替わる。
 これが噂の交代式です。
 100メートルほどの道のりですが、カラクリ時計のマリオネットのように、エリートくんたちは行進し、場所を入れ替わって、またじっと立つ。でもその交代のさいに、おそるべき儀式が待っているのでした。
 
 バトントワリング。
 しかも、長銃で。
 くるくる回すのです、カードキャプターさくらばりに、回したのを宙に投げて受け取るのです。さくらちゃんの魔法のバトンのように、まっすぐなのではない、でこぼこで重心も不安定な銃を使って、踊る。
 完璧に新人エリートをいじめるためにサディストの才能があるエライ人が考え出した儀式に間違いありません。
(バッキンガム宮殿の近衛騎馬兵交代式のパクりであることは確実なのですが、こっちは笛も太鼓もないのです。緊張感が半端ないなかで、ソロ演技。タチ悪し) 
 台湾で兵役を終えた男子が、口をそろえて言う、そこはいじめられ、いじめ返す場所だったという話……国民の義務なので、自衛隊みたいに給料が出るわけでもなく、そこはただたんに二年間、逃げられない男だけの世界なのです。
 くるくる回す銃を、戦没者の位牌と、数千の観光客の前で落とした日には。
 明日からの、彼の処遇が確定。

 キョドっていた彼に、全員の目が注がれます。
 ところで、彼らの行進を邪魔されないようにガードする黒服の男たちが数名存在するのですが、彼らもむろん軍人で、しかも、あきらかにエリートと呼ばれる衛兵たちよりも、暴力的なカラダをしているのです。見るからに、門番のボディーガード。よくわからん存在ですが、つまりは新人エリートくんたちのお目付役。先輩軍人たちが、黒服で、動くことのできない衛兵くんたちの汗をぬぐってやったり、乱れた髪を整えてやったりする。
 見ようによって、そしてあなたの趣味によっては、身もだえする設定です。
 そして、言わずもがな、バトントワリングする彼らのことも、屈強な黒服の兄貴たちが、守りつつ、失敗はゆるさねえぜやっちまったら今夜どうなるかわかってんだろうなと横目で睨むのでした。

 はたして、キョドってた彼の運命はいかに。
 ……落としませんでしたよ。
 さすが。

 でもね、終わって、また、じっと立つ位置に直ったとき。
 黒服兄貴が、彼のネクタイをなおしてやっていたんですが、私は見ました。
 ネクタイ、まったくゆがんでいなかったのです。
 まぎれもなく、彼は彼の目を覗き込みに近づいたのでした。
 そして、私は見ました。
 表情をまったく変えないターミネーターのような兄貴が、もうひとりの黒服のそばに寄ったとき、なにかを囁いたのを。もうひとりも、含み笑いで返す。
 むろん、なにを言っているのかわからないのですが、一枚、撮っておいた。
 あの場所に行ったことのあるひとなら、彼らが笑顔を見せていること、それ自体が驚きのはず。
 それくらいに緊張した、軍事演習の一環としてのショーなのですから。

Taiwan6

 たぶん、こう言っているのだと思うんです。

「ざんねん、落とさなかったぜ、あいつ」
「まぁ、どっちだろうと可愛がってやるんだがな」

 きっと。
 あわれ新人兵……と思いながらやっぱ、ほくそ笑んでしまう。
 どう見ても彼らの姿って。
 「立たされている」
 罰ゲームにしか見えないんだよね……バッキンガムの金髪門番さんの凛々しさとは、また違う味わいなのです……がんばれ、とエールを送りたくなる。
 味わい深い、華奢な背中。
 アジアの男の子って背中に悲哀ただようのが、良い。
 と、再確認した忠烈祠(ツォンレイツー)なのでした。

Taiwan4


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