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『ホラーの帝王』の話。

 この作品については五〇ページでも六〇ページでもいくらでも語ることができるが、残念ながらここではスペースがない。ただひとこと、『ローズマリーの赤ちゃん』は、どんなものであれ一般大衆小説を書こうとする者には、絶対の必読の書だと言っておこう。

HOW TO

ディーン・R・クーンツ 『ベストセラー小説の書き方』

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 驚くほど少ない作品でホラーの帝王と呼ばれるまでになった、と賞賛されるレヴィンだが、いまだにDVDが売れ続ける映画版『ローズマリーの赤ちゃん』があまりに認知されすぎていて、小説家としての手腕が褒められることは少ない。

Rosemary

 実際、彼の小説は淡々と場面を切り替えていく劇作家ならではの平面さがあり、それが『ローズマリーの赤ちゃん』では徐々に狂っていく緊張感とマッチしているものの、その他の作品で抜群に成功しているとは言い難いところがある。
 けれど、そんなことはどうでもいいのだ。
 彼はその生きた時代にホラーの潮流を作り上げた。
 帝王が生まれるということは、その時代がその色に染まるということである。
 帝王が生まれねば、その時代は違っていたということなのである。

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「ローズマリー万歳」と、ヘレン・ウィーズが言った。
 他の者がそれに和した。「万歳、ローズマリー」 「万歳、ローズマリー」ミニーも、スタヴロパウロスも、ドクター・サパースタインも。「ローズマリー万歳」と、ガイも言った。
「ローズマリー万歳」と、ローラ・ルイーズも言ったが、唇を動かしただけで、声にはならなかった。


アイラ・レヴィン 『ローズマリーの赤ちゃん』

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 それを読んだ多くの作家が影響を受けた。
 その影響から生まれた作品にまた多くの次代が影響を受ける。

 アイラ・レヴィンが逝った。
 凍えはじめる11月の12日。
 帝王はニューヨークで心臓を止めた。

 この国で言えば、つい最近、西村寿行が逝った。
 私は父親の本棚で彼らの書いたものがほこりをかぶって茶色くなっているのを見つけた世代だが、かび臭いそのページをめくって、私の血肉となったものは多い。
 十代の私にとって西村寿行作品に出てくる、石で自分の男根を鍛えるダークヒーローなどは確かに影響力大だったのだけれど(笑)、やはり数年前に逝ってしまわれた、西村寿行と森村誠一とともに「三村」と呼ばれた男──

 半村良。

 この国でホラーの帝王と呼ばれたその人から受けた影響は大きかった。

 半村良。
 アイラ・レヴィン。

 ホラーを蘇らせたと賞されたふたりは、時間軸のいまから見るならばひとつの起点。
 時代は繰り返すというけれど。
 繰り返しのなかでだけ進化が起こる。

 私の記憶のなかに、悪魔、というイメージが確固としてあるのは、このふたりがいたからだ。
 悪魔。
 その言葉でいま一番にぴんと来るのはクライヴ・バーカーだが、そこに至るホラーの時代を築いたのは、やはり帝王レヴィンであった。
 ゆりかごの中の悪魔。
 自分だけに見える悪魔。
 この地球には裏側がある。
 親切な隣人は自分にサタンの子を産ませたがっているのかも。
 目に見えない場所もあって、悪魔がいるなら神もいるかもしれず、でも神が偉大だとは限らない。

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 神は存在しなければならなかった。おのれを存在させなければならなかったのだ。その為に人を作り、増やそうとした。我々はそのようにして生み出され、無気力に生きる人を憐れんだ。それで知恵を授けた。神は人に叛かれたと思った。造り出した最初の男女がすでに神以外のもののあることを知ったからだ。神は人を追放し、しかも君臨した。人の掟として存在し続けて来たのだ。

jyujin

半村良 『獣人伝説』

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 確かなものなどなにもない。
 ホラーの帝王たちは、忘れるなと書き綴る。
 崇める帝王は、もういない。
 彼らは逝った。
 どこに行ったか知らないが。
 忘れるなと綴った彼らの本は、もう古本屋でしか手に入らない。

 繰り返せ。
 疑うことを忘れるなと叫べ。
 地上は楽園などではないと。
 だからこそ心おどる場所だと。
 恐怖心さえも、遊んでしまえと。
 たのしんでしまえ、と。

 逝ってしまった彼らに習った。
 繰り返そう。
 忘れぬために。
 万歳。

(余談だけれど、私は『デスノート』を最初読んだとき半村良の『獣人伝説』をたびたび思い出した。神の代理人が力に溺れて孤独になってゆく構図と、具体的に存在する悪魔。多くの箇所ではっきりとパクったような描写だと感じたのだが、それがそうでないのだとしたら、やはり半村良のぶちまけたエッセンスがそこかしこで発酵し、時を経てまた一点で凝縮された明確な例であろうと思う……繰り返されているのだ)  

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 さようならアイラ・レヴィン。
 ホラー界には一作でのしあがったすごい帝王がいたと、我々は記憶する。

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